新宿のオアシスはどこ?獅子舞の生息域をMAP化

  • 更新日: 2022/04/07

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オアシスの場所はどこ?

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新宿の街に門付け型の獅子舞が生息したら、それはどのようなルートを通るのか?について考えたい。門付け型の獅子舞とは、以下の写真のように地域の家を一軒一軒回り、玄関先で披露される獅子舞のことである。その家の人は舞ってもらったお礼にご祝儀を包んで渡す。地域の交流やコミュニケーションを促進させていく存在である。この写真は石川県で見た門付けをする獅子舞だ。



それでは、新宿におけるこの門付け型の獅子舞の生息可能性について考えていこう。新宿は言うまでもなく都会だ。人口も建物も過密なので、新宿駅の周辺には獅子舞のような大きな体を持つ生き物が入り込む隙間は基本的に存在しない。

ただし、奉納という形であれば、花園神社の神楽殿で11月の酉の市の時に、獅子舞の披露が行われる。この獅子は江戸の太神楽系の獅子舞で、獅子頭は金に輝き、蚊帳は緑色で渦巻き模様が散りばめられている。観客の頭を噛むなどのサービス精神も旺盛である。ただ、この獅子舞が門付けをしているという話は聞いていない。

しかし、この花園神社に獅子舞が存在する必然性もわかるし、神楽殿のみならずその周辺エリアの家やお店を一軒一軒回るような門付けを実施することも容易であるように思う。新宿駅周辺で唯一可能なエリアと言っても過言ではないだろう。なぜそう感じたのか?について、述べていきたい。


カメラマンとして新宿を訪れオアシスを見つけた

僕はカメラマンをしているため、約2年前に友人のポートフォリオ写真を街頭スナップのような形で撮影するために新宿を訪れた。基本的に人混みばかりで、カメラを構えても人が次から次へと僕らを追い越し邪魔になるだろうという思いもあって、徐々に静かな場所を求めていることに気がついた。

都庁方面に向かえば、オフィス街ばかりで殺風景であるばかりか、人情味を感じなくて、水平垂直の景色が広がっており、どうしても表情が硬くなり撮影に向いていないような気がした。もっとストリート的でごちゃごちゃしていて、建物がごろっと転がっているような街並みを欲していたのだ。そこで必然的に、僕らの足取りは新宿駅の西口ではなく東口方面に向かっていた。浮浪者がダンボールで家を構えている線路の高架をくぐり抜け、歌舞伎町の方に向かっていったのだ。

歌舞伎町の様々なアダルトショップや風俗店が並ぶカオスな雰囲気はポートフォリオ写真を撮影するのにとても刺激的で面白かったが、「おい、なに写真撮ってるんだ?」と路上で勧誘をしている人たちに無駄に絡まれそうな妄想すら浮かび上がってきた。ビクビクしているのは、何か恐怖心でもあるんだろうか。

そこで、僕らは歌舞伎町から安全地帯<オアシス>に避難するために、ゴールデン街に向かった。昼間のゴールデン街はもぬけの殻であり、あまり人は歩いていない。そのくせ電気のコードやら草木の蔓やらが絡まる古びたバーなどが所狭しと立ち並ぶ。重たくて直線的で高い建物はここにはない。むしろ、崩れて倒れてしまいそうで、どこか優しいガラクタのような建物たちがニコニコと微笑んでいるのだ。僕はこの場所で、1日のほとんどのシャッターを切った。ゴールデン街が様々な表情を引き出していった。そして、僕らの新宿におけるポートフォリオ写真はここにて完結した。


記憶を追体験したら「天の川」を発見した

それから2年経って、僕は獅子舞の生息可能性を探るべく、新宿駅に降り立った。さてどこに行こうか?と思ってふらふらと歩いていたら、やはり新宿の東口はどうしても僕を遠ざけた。獅子舞という巨大で非効率でうねうねとした生き物は、高くて効率化された過密空間に居ると息苦しいみたいだ。それでまた東口方面を歩き出してたどり着いたのが、歌舞伎町だった。歌舞伎町はやっぱり刺激的だった。



ただし、2年前は声をかけられなかったのに今回は「ピンサロどうですか?」などと声をかけられた。獅子舞はピンサロなど興味ないだろう。むしろ、ピンサロを食べちゃうような存在なのではないか?などと適当なことを考え、お断りしておいた。路上にはたくさんの勧誘男と勧誘女がそれぞれワイワイとたむろしており、僕の一挙一動を観察されているように思えた。ここは性風俗の楽園であり自由な場所に思えて、どこか監視社会にも通じる雰囲気がある。獅子舞が暴れて扉を少しでも壊すなど厄介なことをしてしまったら、ヤクザにボコボコにされてしまうだろう。




縛りのお店があった。ここではトルソーが縛り付けられていた。それだけではない。虎の頭がぐるぐると紐で巻きつけられていたのだ。縛る苦しみはその反面で快楽をもたらす。西アジアでは古代より家畜を飼い慣らし、それを襲うライオンなどの猛獣を仕留めていたという。猛獣を縛ることによって自らの力を誇示しただろうし、その一方で、猛獣の威を借りることによって自らを発展させてきたとも言える。この猛獣との関わり合いの中に、獅子舞の厄払いという発想が生まれた。

さて、少し息苦しくなったところで、深呼吸したくなって、また僕はなぜかゴールデン街に吸い寄せられてしまった。歌舞伎町の風俗街とゴールデン街の境目は何であろうか?一見、新宿区役所のように思われたが、詳しく見てみると、新宿区役所は風俗街に飲み込まれているようにも思える。行政の中枢が風俗街に飲み込まれているとは面白い。




新宿区役所横の無料駐輪場はパンク状態。何か見えない磁場的な力によって、圧力を受けているようにも感じる。では、はっきりとした境目はどこだろうか?僕が真っ先に見つけたのは「四季の路」という草木溢れる小道だった。例えて言うならば、ここが新宿の天の川である。




天の川の先には、ゴールデン街というオアシスがある。



ゴールデン街の入り口は歌舞伎町の風俗街の方面にはあまり開かれていない。どちらかといえば、花園神社の方にばかり開かれており、そちらの方向がより似たような価値観を持っている人が多いことを示している。つまり、ゴールデン街をオアシスの中枢としてみるならば、花園神社方面はそこと近しい緩衝地帯であり、このエリアには、吉本興業という人を笑わせ楽しませる企業があるほか、地域の人々に慕われているテルマー湯という銭湯、新宿区役所の第二庁舎などがある。こちらの地図を見ていただきたい。



これは、歌舞伎町の風俗街と天の川(四季の路)の向こう側に広がるオレンジ色で示したゴールデン街およびその周辺にある緩衝地帯との位置関係を示したものだ。地図上にある番号は獅子舞を舞うことを想定したらどのような順番でどの場所を回るかを示したものであるが、これに関しては後ほど詳しく解説していくこととする。


無料サービスの違い

獅子舞の生息地について詳しく解説する前に、歌舞伎町の風俗街と天の川の向こう側のゴールデン街およびその周辺にある緩衝地帯の明確な違いについてもう一つ付け加えておこう。それは「無料サービス」の違いである。

どういうことかというと、歌舞伎町の風俗街における無料サービスは風俗店を紹介する「無料案内所」というものであり、wifiや電源が使い放題というところもある。そればかりか、入店するだけで2000円がもらえるという案内所まであるようだ。さて、ここに踏み入れるかどうかドキドキの選択肢である。
歌舞伎町の無料案内所。ここではちょっと変わったお店を紹介してくれるらしい。



とある無料案内所では、トイレやら充電やらが無料と書かれている。江戸時代の日本人からしてみれば「わざわざ書くことないじゃない」と思うかもしれないが、勧誘文化みたいなものが「無料」という言葉を自然と書かせているのかもしれない。




一方で、天の川の向こう側のゴールデン街およびその周辺にある緩衝地帯には、PCR検査を無料で受けられる施設が多数あり、地域住民がそこに集っていた。先ほどの無料案内所がより秘められた場所であるのと比較すると、ここはなんとオープンであることか!



「無料サービス」の違いがエリアの特質をここまで浮き彫りにさせているとは驚くべきことである。PCR検査の営業所は商業的な勧誘のための無料ではなく、公序良俗的な観点から無料であることを強調しておきたい。


なぜ僕はゴールデン街に吸い寄せられたのか?

さて、僕が2回もゴールデン街に吸い寄せられた理由に関して、「新宿区」というマクロ的な視点からも補足しておこう。この地図をご覧いただきたい。



新宿駅を起点として考えると、西側にはまずオフィス街が広がっており、獅子舞が存在するためには雰囲気がやや堅すぎる上に建物が高い。一方北側には、獅子舞が舞えそうな低層住宅街があり空間的には素晴らしい場所もあるが、新宿区の中心街と外れてしまい、どうしても盛り場が少ない。新宿駅の東側を見ると、「建物が大きすぎる商業地」や「建物が大きすぎる住宅街」が並んでおり、人も建物も過密で獅子舞にとっては少し息苦しくなってしまう。その間にあるのが、歌舞伎町という性風俗の楽園とゴールデン街のオアシスであり、ゴールデン街のオアシスこそが獅子舞の舞場でもあるというわけだ。


門付け型の獅子舞ルートを巡ってみる

それでは、天の川の向こう側のゴールデン街およびその周辺にある緩衝地帯のとりわけどこに獅子舞が生息しうるかについて見ていきたい。こちらが先ほどの獅子舞の生息地を示した地図である。ここに書かれた数字の順番に回っていきたい。



まず、門付け獅子舞は神社への奉納に始まり神社への奉納に終わるという形を基本とする。そう考えると、ゴールデン街から最も近く実際に神楽殿では獅子舞の演舞が行われている花園神社がこの獅子舞の拠点になるのは間違いない。



花園神社の境内は明るく広々としており、獅子舞が舞う場所としてそのスペースは十分にあるように思われる。




花園神社は災害時の一時避難場所にもなっている。この地図をよくみる限り、天の川の向こう側のゴールデン街およびその周辺にある緩衝地帯における一時避難場所は、この花園神社のみである。つまり、ここは地域の人々が集う場所とみなされており、それに見合った空間が十分存在するという行政側のお墨付きがあるとも言える。

また、注意してみるべきこととしては、新宿駅の西口方面がピンク色に染められているということ。これは「地区内残留地区」であることを示しており、木造の建物が少なくビルなどが多いため火災による延焼が少ないと想定される地域のようだ。つまり、基本的には災害時に避難場所に移動しなくても良い場所とされる。逆に避難場所が存在する場所こそ、獅子舞が生息しやすい場所とも言えるんだろうなと思いながら、この地図を眺めた。




また、花園神社の境内にはもう1つ非常に興味深いものがあった。それが大鳥居建立にあたって奉納を行った者の芳名が石碑に刻まれていたのだ。これによれば、最も高い金額を出したのが「金壱阡万円(一千万円)」の帝国警備保障さんである。こちらは豊島区にある会社さんなので今回の門付けルートに入れるのは難しいが、とても太っ腹である。鳥居も神社を守護するセキュリティと捉えて良いかもしれない。また、非常に興味深いのが、次に多い額を出したのが「金弍百万円(二百万円)」の(株)伊勢丹であるということだ。確かに、花園神社の道路を挟んで反対側に2店舗伊勢丹があるが、これほどまでに地域貢献する企業であったとは知らなかった!今回の獅子舞ルートには、ぜひ伊勢丹を入れておきたい。「金壱百万円(百万円)」の花園万頭に関しては、花園神社の鳥居の脇にあるので、ここも神社との関わりが深いのだろう。獅子舞の舞場となる可能性は高い。

それでは、神社の階段をおりて、神社の次に回るべき新宿のオアシス、ゴールデン街へと進んでいきたい。



見ての通り、建物の密集度は半端ない。しかし、人間よりも大きい獅子舞が生息することはできるだろう。なぜなら、まず車が通らないし、建物の高さが低いからだ。それゆえ、建物の賃貸や所有に関わる人が少なくかつ明確であり、これは獅子舞に対するご祝儀を払う人がはっきりしているということでもある。

また、ゴールデン街は商店の集まりであるため、獅子舞をひとたび始めれば、確実に関心を持ってもらえるような場所だ。地域のお客さんによって支えられているようなお店は、地域の行事である獅子舞にも興味を持ってくれて、ご祝儀も出していただける可能性が高いからである。




ゴールデン街のお店を色々見て歩こう。ここのお店は「110番と声かけ」を大事にしているようだ。シールをペタペタとたくさん貼っている。




「人見知りの人見知りによる人見知り克服養成所」なるものを発見した。まずはここに行けば、ゴールデン街のノリを学べるだろうか。怪しさも感じるが、とにかくオープンで気さくな印象が醸し出されている。




招き猫も発見した。招き猫を見るとふっと気が和らぐ。




狛犬のような招き猫もいた。




郵便受けがないのか、ドアには手提げがかかっている。近所のおばちゃんが大根とか持ってきて入れてくれそうなノリを感じる。




店先に洗濯物がかかっている。こういう光景がゆるい路地裏を作っているのだろう。




店先に置かれた水道の蛇口、手洗い場だろうか。誰でも使って良いような感じで置かれているようにも見える。




お酒を運ぶ業者が台車を置くようなスペースは確保できるらしい。狭い路地とはいえ、人間が歩くスペースに加えて、空間的な余剰は存在するわけである。

さて、それではゴールデン街を堪能したところで、次なる舞場、吉本興業のオフィスを見てみよう。



獅子舞に吉本のお笑いセンスが加わったらどんなことになるだろう?たむらけんじが登場しちゃうというのもありだ。お笑いのプロにエンタメを仕掛けるというのは恐れ多いことだが、獅子舞を受け入れ理解してくれる可能性は高いだろう。警備員が常に立っているのはちょっと怖いが、獅子舞が舞っているときに通行人を誘導してくれる可能性もある。




次に向かったのが、テルマー湯。都内最大級の日帰りの天然温泉と言われており、岩盤浴、サウナ、ボディケアなどとかなり充実した施設だ。温泉は見方を変えれば、コミュニケーションの場でもあり、地方の温泉地ではまず湯船に入って気軽なコミュニケーションを大事にするという地域も多い。ここもそういう可能性を秘めていると思う。玄関が段差なく作られており、空間的な余白も大きいので、獅子舞も舞いやすい場所でもある。




空間的な余白といえば、この新宿区役所第二分庁舎もなかなかである。分庁舎ではない方の新宿区役所は風俗街に飲み込まれているものの、ここは花園神社の隣に位置する緩衝地帯の一部だ。広々とした駐車場があり、獅子舞の舞場も十分にある。また行政機関なので、地域を門付け的に巡っていく獅子舞に関心を持つことは必然であり、逆にいえば、地域を巡ることをここに務める方々には理解してもらわねばならないだろう。




次に向かったのが、饅頭屋の花園万頭だ。細長い饅頭である花園万頭、スイートポテトの饅頭、ぬれ甘納豆など、ユニークな饅頭が揃えられている。昔ながらのお店で、先ほどご紹介したように花園神社の鳥居の横に位置しており、鳥居の奉納に100万円を出していることもあって、花園神社を起点に行われる獅子舞があるとしたら関心を示してくださるだろう。




さて、最後はこの伊勢丹である。花園神社の道挟んで向かい側には、伊勢丹のメンズ館と伊勢丹会館という2棟の伊勢丹系列のお店があり、大きく高くそびえている。基本的に建物の高さが高いとなかなか地上で行われている獅子舞などの行事に関心を持ってもらえることは少ない。ただし、先ほどの鳥居の奉納を振りかえればわかるように、伊勢丹はかなり地域貢献度が高い企業である。




伊勢丹の入り口付近の設計を見てみよう。内部のお店の中と、外の公道との間に緩衝地帯がある。この空間がかなり大きいので、獅子舞が舞うとしたらのびのびと動けるだろう。ここからは先ほどの花園神社に戻り、獅子舞の奉納をして1日の獅子舞を締めくくるという流れとなるだろう。


獅子舞ルートMAPを作ってみた

さて、ここまで新宿に門付けの獅子舞がいるとしたらどのようなルートを通るかを実際に順番に回ってみた。花園神社に始まり、ゴールデン街、吉本興業、テルマー湯、新宿区役所第二分庁舎、花園万頭、伊勢丹とまわって、花園神社に帰ってくるという動き方だ。これはあくまでも門付けの主要な場所をあげただけにすぎないので、このエリアは全体的に門付けの獅子舞を受け入れる可能性が高いということを付け加えておきたい。



このエリアは道路の交通量が多いものの、歩道の幅がかなり広いので、獅子舞も安心して歩いたり舞ったりできるだろう。

それではここで、もう一度地図を振り返っておこう。



やはりこのオレンジで塗られたエリアは、新宿におけるオアシス及び緩衝地帯だ。この地理感覚を噛み締めておきたい。

最後に、歌舞伎町の風俗街とオアシス及び緩衝地帯が融和する可能性について話しておきたい。この弁財天を見て欲しい。



この弁財天は歌舞伎町の風俗街のど真ん中にあって、信仰を集める聖地である。もともと沼地だったところを、埋め立てて作られた土地だ。この神社の境内は広く、神社から見て左側に龍、右側に虎が描かれている。神社の狛犬のような発想で、神を守るような獣と捉えたら良いかもしれない。少し空気が張り詰めた場所だけれど、ここで獅子が舞うのは雰囲気的に自然なことにも思えてくる。もしゴールデン街というオアシスを起点とした獅子舞が歌舞伎町の風俗街と融和する時が来るならば、この弁財天という存在は少なからず思い出すべき存在と言えるだろう。








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稲村行真

文章を書きながらも写真のアート作品を製作中。好奇心旺盛でとにかく歩くことが好き。かつてはご飯を毎食3合食べてエネルギーを注入していた。

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