フエの天然温泉に行く
- 更新日: 2024/09/03
精神は癒されたがHPは減ったかも
4月30日は南部解放記念日、5月1日はメーデー。
数少ないベトナムの祝日、それも2連続だ。
2月の旧正月休み後は観光客の勢いもあり、忙しく過ごしていた。去年の旧正月明けの繁忙期は階段の登り降りをしすぎたのか膝に水も溜まったし、また水が溜まったらどうしようという不安もあった。1月には足の小指も骨折したし。そんなこんなで私は5月病の先取り?をしていて、何となく元気がなかった。
「何も案じずゆっくりしたいな…」
そんな風に思っていた4月29日、私のアンニュイ気分を察してくれたのか、相方・ゴシーより「明日フエの温泉に行こう」と提案された。
フエには日本の温泉文化を模した施設がコロナ禍後にできていた。
ベトナムにも温泉が湧く地域が全国にあって、フエのミーアン温泉はコロナ禍後に日本式にリノベーションされた。本当に掘っている天然温泉だ。
正直、「ちょっと遠出するの面倒だな…」と感じたが、周りの在ベトナムの日本人からも好評だとプレゼンを受け、この機会を逃したら行かない気がしたので、1泊2日でフエ市(以下フエ)に行くことにした。
フエはベトナム中部にある都市で、かつてグエン朝の王都として発展し、1802〜1945年にかけては首都が置かれていた。そんな古都フエは日本人観光客に説明するときには“ベトナムの京都”と呼ばれることもしばしばある。1802年から1945年まで続いたベトナム最後の王朝のあった都で、分かりやすいから。実際に京都市とパートナーシティ提携もしているそうだ。
またベトナムで最も多く世界遺産に登録されているので、ダナンから観光に寄る人も多い。
私はベトナムに住んで10年目になるがフエとあまり縁がなく、実は一度しかフエに行ったことがない。前職の社員旅行がフエだった時はトラブルでお留守番に、友人の結婚式がフエだった時は前日から高熱を出して欠席になった。
いつも何かが私のフエ行きを妨害する。私はグエン朝の敵なのか。
今回もどうせ何か起こるのだろうと思っていたら普通に出発できた。なんで?
ダナンからフエまでは約100キロメートル離れていて、車や電車で行く人が多いが、今回我々はバイクで行くことにした。
▲距離はこんな感じ
ダナンからフエに行くにはハイヴァン峠を越えなければならない。全長約22km、片道一車線の山道だ。トンネルもあるのだが、車専用でバイクは通行できない。そこで今回はバイクをトラックに積んでもらい、人はバスで運んでもらうチートを使う。
ちなみに2005年に開通したハイヴァントンネルは日本のODAで開通したもので、東南アジア地域で最も長い陸上トンネルとして知られている。
▲オートバイ移送サービスの場所
▲チケット売り場
バイクの大きさによって料金は変わる。人は1人15,000vnd、110cmまでの子供は無料だ。この国では年齢ではなく身長で子供料金を提示されることが多い。乗り物だけでなく、食べ放題のレストランなんかもそうだ。背が高い子供は損をしてしまう。
▲トラックに乗せられるバイク
▲人を乗せるバスの出発場前にはジュースやお菓子が売られている
時刻表などはなく、ある程度バイクと人が集まったら出発だ。10分くらい待ったかしら。
▲みんなで峠を越えました
この小さめのマイクロバスにぎゅうぎゅうに人が乗る時もあるのだが、今日は少なめで余裕があってよかった。地元で通った教習所の送迎車を思い出す。特に知り合いでもないけれど共通の目的のために乗り合わせる感じ。
無事に運ばれ、峠を越えるとフエ省のランコーという町に着く。
▲自分のバイクが降ろされるのを待つ
ランコーはダナンとフエ市のちょうど真ん中くらいにある。省はフエ市と同じ、フエ省。ダナンと比べると規模は小さいが、一応ビーチリゾートだ。
▲ランコーの様子
そこから国道1号線を更に北へ向かう。左に見えるのは潟湖で、この道からは見えないが右手にランコー湾がある。ちなみに「ランコー」という地名はフランス植民地時代にフランス人によって名付けられた説、元々はラン・クーと呼ばれる漁村だった説、かつてコウノトリの群れがたくさんいたためコウノトリ村(ベトナム語でコウノトリ=コン・コー、村=ラン)と呼ばれていのがランコーになった説など諸説ある。
薄々気づいていたが、今日はめちゃくちゃ暑い。
▲トンネルの先はフーヴァン県…
特にランコーとフエ市の間に位置するフーヴァン県に入ってから、暑さが明らかに変わった。吹き抜ける風も熱風、バイクに乗っている足さえも下からジリジリ暑い。なんだこれ。
よく日本でも私の地元・群馬県はめちゃ暑くて、東京はまあまあ暑い、なんて時があるが、この場合群馬はフエ、東京はダナンって感じ。フエは山も温泉もあるから、確かに群馬に似てる…?でも群馬に海はないけど。これが熱帯モンスーン気候の本気か。
そして国道1号線は恐ろしいほど、日陰がない。
稲穂も頭を垂れているが、ヘルメットxサングラスxマスクで防備した私の頭も垂れ気味だ。
急遽ルートを変え、少し遠回りになるが海沿いを行くことに。海なら少し涼しい風が吹いているだろう。
新ルートは広々とした道なのだが、ガゾリンスタンドや民家、ちょっとした商店が点在する国道と比べて殺風景だ。
恐ろしく何もない、人もいない道。大丈夫か…?
▲恐ろしく何もない、人もいない道
▲ベトナムの祝日は国旗が道路にはためく
ランコーを出発してから1時間半、初めて信号機がある道に出た。やっと人の気配を感じて、異世界に迷い込んでいないことを実感。
▲1時間半ぶりの信号機
内陸部に入ってくると人の気配がある。しかし人3人に対して…
牛何頭いるの…?茶色い塊、全部牛。
先程よりも人も建物も増えてきたが、やっぱり人よりも牛の数の方が多い。
▲おわかりいただけるだろうか
▲水浴びする牛。羨ましい
進行方向から左手には湖(牛がいるところは湖から派生した池)、右手には海のはずだが小高い丘になっていて海は全く見えず。丘が海砂なのと何となく生臭いのでそこは海が近いことが感じられるのだが、丘に沿ってびっしりお墓と小さなお寺が並んでいるのが何とも…確かに寺が多いのは京都っぽくはあるけど、それより墓の数。ホーンテッドマンションより多い。夜通ったら怖そうだ。そして気づいたらフエ市に入っていた。
ベトナムの京都・フエ市には中心から離れたところにビーチもある。
Google先生によると「チュアン・アン・ビーチ」なるものがあるらしい。先ほど寄ったランコービーチのほうが有名だけどフエもビーチリゾートとしても人気…?
だと聞いてたけど、なんかよくわからんな。やってないのか?遠くに凧が上がっているので人はいそうだけど。今回の目的じゃないからまあいいや。
大きな橋を越えしばらくすると、今回の目的地に着いた。
ダナンを出て約3時間半が経っていた。
▲温泉の入り口、ONSEN RESORT HUE!!
突然現れる唐門。
真ん中が盛り上がる、日本の寺などでよく見る門がベトナムにあるの面白い。
ちょっと色合いも二条城みがあるし、さすが古都フエ。
そして虹梁に「ONSEN RESORT HUE」と横文字が書かれている。
ここに横文字が書かれたことは歴史上あるだろうか。二条城にはないよな?
あと、すごく堂々と書かれているけど、聞いていた施設の名前と違う。我々が予約したのは「KAWARA MY AN ONSEN」なんだけど、ここで合ってるのか?合ってるよな…?
硫黄の匂いがすごくて、温泉施設はほかにないから多分合ってるんだけど。
松!
ベトナムでは2017年頃から日本庭園ブームらしい。確かにたまに金持ちベトナム人の家は日本庭園風かも!?
そして植木では松と槙が人気らしい。
ベトナムにおける日本庭園ブームにおいて必須であるニシキゴイ(JETROの情報より)。
にしても鯉の池、めちゃ広い。
▲めちゃ日本風の造り
ルーバー? と大理石の壁で和風に見えるのなんだろう。
メロンと醤油でウニの味みたいなやつかな。
チェックイン時に「ここはKAWARA MY AN ONSENじゃないの?」と聞くと、「最近名前が変わりました!」とのこと。ベトナムあるあるだ。
▲スタッフのユニフォームも作務衣。日本の温泉=千と千尋的なイメージなのだろうか
▲部屋の様子
シンプルだけど広々していていい感じのお部屋。 地元・群馬の伊香保温泉にもありそうな造りに安心する。
バスタブがあるのもポイント高い! と思ったが、水圧をチェックするとお湯を貯めるには絶望的だった。
メインは温泉だし、温泉に期待することに。
▲浴衣もある
とりあえずバルコニーでビールを飲む。やっと一息ついた。ゆっくりしたかっただけなのに、なんかいろいろ大変だった気がする。
眼下のプールが涼しそう。ちょっと入ろうかな?と思ったがこの写真撮影後すぐにベトナム人家族で埋め尽くされ、断念。
鯉の池よりもプールを大きくした方がいいのでは…?
その向こうには田園が広がっている。
そう、この施設は田んぼの中に突然できた感じの立地で、周辺には何もない。
実は到着前に何か買い出ししておこうとGoogleマップで調べた。そしてホテルそばの”ミニマート"と書かれた場所に行ったのだが、完全なる民家で絶望した。
そうなってくると困るのが今夜の夕食だ。どうしよう。
▲ミニマートはないけど川はある。ホテル目の前の川では若者がカヌーやってた
刻一刻と夕闇が近づく。どうするごはん。
そんなときホテルのスタッフが「今夜はジャパニーズビュッフェやるよ!鮭も解体するよ!」と言う。それだ。しかも鮭の解体。鮪の解体は見たことあるけど鮭は初かも。
ちなみに寿司や刺身でもベトナム人に人気なのは鮭だ。鮪より臭みがなくて食べやすいらしい。
部屋で休んでビュッフェに行ったら、友人のベトナム人がいた。
「タムちゃん!」
▲鮭の解体って、タムちゃんがやるんかい
タムちゃんとは私がダナンに来たばかりの頃からの付き合いだ。知人の日本食店で就業&修行していて、師匠である知人が坊主なことからタムちゃんも坊主になったくらい真面目な男だ。コロナ禍後に独立して、今は日本食店のプロデュースとか今回みたいに出張シェフもしているみたい。
▲ビュッフェの様子
お寿司はまあまあの日本…!
炙り系や白身系が多いから、ベトナム人向けの日本って感じ。
手前の緑の山はワサビです。色が鮮やかすぎるが、ベトナムでは割とメジャーな粉ワサビはこれ。
他のコーナーは焼きそば、お好み焼き、唐揚げなんかがあった。縁日みたいな感じのラインナップ。
マグロ食べたい、とタムちゃんに言ったらわざわざ持ってきてくれた…「キハダしかなくてごめん」とのことだったが嬉しい。
周りを見回すと、どうやら宿泊者はベトナム人ばかりのようだ。
チェックインの時から日本風庭園で自撮りするベトナム人の若者や家族連れにたくさん遭遇した。まあ、海外からの旅行客がわざわざベトナムで日本風の温泉施設に泊まる理由もないのかもしれない。
▲ベトナム人の子供に大人気ですぐなくなってたたい焼きコーナー
ビュッフェでたい焼きって初めて見たかも。やはり日本の縁日風チョイスなのだろうか。
たい焼きコーナーではあんこ・クリーム・チーズの3つの味が楽しめる。
横にあるソースはメイプルシロップ、いちご、チョコレートで、味変アイテムも充実。
フエにいながら日本式の温泉施設と食事が楽しめるのがベトナム人に人気なのかもしれない。
▲夜の日本式庭園もいい感じ
そしていよいよメインの温泉だ。
このためにはるばる来たのだ。
温泉内は撮影及びスマホ禁止なので写真はないが、一言で言えば広い。まず脱衣所がめちゃくちゃ広い。そして私1人にスタッフ1人がついてロッカーに案内された。
いざ裸になって脱衣場から大浴場に入ると、先程のスタッフからマンツーマンで温泉についての説明を受ける。「温泉は裸で入ってください」「タオルは入れないでください」「温泉に入る前に体を洗ってください」日本人だから知ってる。知ってるんだけど、この案内はかなり有効だと思う。できれば裸になる前に案内して欲しかったけど。
以前他の日本式大浴場をベトナムで利用した時に、自前のパンツを履いたまま入っているベトナム人を何度か見たことがある。帰りのパンツはあるのか心配になった。
温泉エリアも広い。日本の田舎のスーパー銭湯よりも広い。露天風呂なんて3段式になっている。100人くらい一気に入れるのではないだろうか。
▲温泉の参考写真 公式サイトより
ところで、ほかのベトナム人が全く入ってこない。ずっと私一人だった。みんないつ風呂に入ったのだろう。
だだっ広い露天風呂に一人で浸かっていると、何だかお金持ちの家の庭池に勝手に入ってしまった人、みたいになっている気がする。
ちなみにお湯の温度もちょうどいい。かなり癒される。
せっかくなので3段の露天風呂全部に入ってみたが一番上の段が一番熱い。下へ流れていくことで少しずつぬるくなっているんだろうか。私の好みは2段目だった。ちなみにここの温泉の効能は、高血圧や関節炎の治療、美肌効果とのこと。昨年膝に水が溜まったり、今年の正月に足の小指を骨折した私にもありがたい。
室内にもお風呂がある。ジャグジーや炭酸風呂もあって楽しい。
このあたりで、ちょこちょこ私以外の人が入浴しているのを見かけた。良かった、という謎の安心感があったが、みんなすぐ居なくなってしまう。ベトナム人はおそろしく風呂が短い。長時間お風呂を楽しむ文化は無いのかもしれない。
極めつけには、スタッフが私の様子を何回か見にきた。なかなか出てこないから心配だったのかもしれない。何も道に外れたことはしていないんだけど。
1時間ほど楽しんで、脱衣所に入る前に小さいタオルで体を拭いていたらスタッフが大きいタオルで包んでくれた。入浴前の案内で裸体も晒していたこともあり、気兼ねなく湯上がりの子供の気分に。いいサービスではないかしら。
そういえば、久しぶりに湯に浸かった。
というのも、ベトナムのアパートにはバスタブが付いている家は少ない。付いていてもお湯が貯まるのに時間がかかったり、湯を貯めているうちに湯の温度がさがっていったりなど、なかなか当たりのバスタブ付き物件に出会うのは難しい。
かくいう私の家にもバスタブはない。普段シャワーだけでも別に気にせず過ごしているが、やはり湯に浸かるのは大事だと実感した。
その夜は湯に浸かったからか、かなりよく眠れた! フエに来て良かった。
◆
翌朝朝食会場に行くと、ものすごい人だった。
なぜ昨日の風呂はあんなに空いていたんだ。みんな温泉にはあまり興味がないのだろうか。
二度寝をして、あっという間にチェックアウトの時間になってしまった。帰りたくない。
帰りたくないというのは、もっと居たいというのもあるし、ここまでの道のりを思い起こすとしんどい、というのもある。今日の体感温度も47度だ。
▲館内の鯉に餌をあげる少女
▲池の中に消防車落ちてた 。君は鯉じゃない
温泉を後にし、 せっかくなのでフエの王宮あたりまで足を伸ばすことにした。
しかしながら暑い…!
▲王宮の外壁を通るとフエにきた感じがする
王宮の外壁、「ガン門」。
王宮への入口である「ガン門」は王宮の外堀から宮殿敷地に入る門です。
温泉の唐門とは全く別の荘厳さがありますね、やっぱり。
にしても暑い。
▲王宮横のカフェで休憩するも扇風機から流れてくる風さえ暑い
フエ名物の一つでもある、しじみのバインミーを買ってダナンに戻ろうと思ったが、祝日で休みだった。残念。
とにかく何処にいても暑く、このままだと温泉の効能が全てパァになりそうだ。
大人しくダナンに戻ることに。
方向的に帰りは国道1号線を行くしかない。行きに避けたあの暑いやつ。
▲日陰がない国道1号線
途中休憩を交えながらなんとかランコーまでたどり着く。
ランコーにきたら暑さが幾分か楽になって元気になった。
なんでフエ市はあんなに暑いんだ。相方ゴシーは「フエはベトナム戦争時の激戦区だったから、色んなものが滞っているのでは」とスピリチュアルな見解。
それにしても、風が気持ち良くないバイクってバイクの意味…!
元気になったので帰りはチート移動を使わず、ハイヴァン峠をバイクで登ることに。
▲ハイヴァン峠の入り口
以前までボロボロだったハイヴァン峠の道が綺麗になっていた。走りやすくて助かる。
▲道が綺麗!
余談だがハイヴァン峠の頂上にダナン・クアンナム省とフエ省の境界があるのだが、以前はダナン側は道が綺麗で、フエ側に入った途端ボロボロの山道だったのだ。「フエ省には金がないからね!」なんてベトナム人の友人から聞いたこともあるが、金が入ったのだろうか。いずれにせよ、道が綺麗なのはありがたい。
▲ここがフエとダナンの境目の塔「Hải Vân Quan」は逆に工事中
峠の途中、ダナンが一望できるカフェで休むことに。
カフェと言ってもタリーズやスタバではない。ベトナムでは飲み物を出す商店をカフェと呼ぶ。プラスチックの椅子でもあれば御の字だ。
店内を自由にうろつく犬と猫もいて癒される。ここまで来れば、家まではあともう少し。
▲写真映えスポットもあるよ!
▲カフェはこんな感じでハイヴァン峠の道のくねりに沿って点在している
なかなかハードな温泉旅行だったが、充実した祝日だった。
しかしながらこの時期のフエは暑すぎて、温泉に行く前と帰ってきた後で、精神的なリフレッシュは出来たものの?身体的な疲労感は温泉前に戻っていた。
そしてダナンに帰ってから思い出したのだが、以前フエに行った時も4月30日と5月1日の祝日で、その時も「フエは暑すぎる!この時期には来たらダメだ!」と一緒に行った大学時代の友人に宣言していたのを思い出した。まんまと同じ時期に行っている。
次こそちょっと涼しいくらいのフエを体験したい。
数少ないベトナムの祝日、それも2連続だ。
2月の旧正月休み後は観光客の勢いもあり、忙しく過ごしていた。去年の旧正月明けの繁忙期は階段の登り降りをしすぎたのか膝に水も溜まったし、また水が溜まったらどうしようという不安もあった。1月には足の小指も骨折したし。そんなこんなで私は5月病の先取り?をしていて、何となく元気がなかった。
「何も案じずゆっくりしたいな…」
そんな風に思っていた4月29日、私のアンニュイ気分を察してくれたのか、相方・ゴシーより「明日フエの温泉に行こう」と提案された。
フエには日本の温泉文化を模した施設がコロナ禍後にできていた。
ベトナムにも温泉が湧く地域が全国にあって、フエのミーアン温泉はコロナ禍後に日本式にリノベーションされた。本当に掘っている天然温泉だ。
正直、「ちょっと遠出するの面倒だな…」と感じたが、周りの在ベトナムの日本人からも好評だとプレゼンを受け、この機会を逃したら行かない気がしたので、1泊2日でフエ市(以下フエ)に行くことにした。
フエはベトナム中部にある都市で、かつてグエン朝の王都として発展し、1802〜1945年にかけては首都が置かれていた。そんな古都フエは日本人観光客に説明するときには“ベトナムの京都”と呼ばれることもしばしばある。1802年から1945年まで続いたベトナム最後の王朝のあった都で、分かりやすいから。実際に京都市とパートナーシティ提携もしているそうだ。
またベトナムで最も多く世界遺産に登録されているので、ダナンから観光に寄る人も多い。
私はベトナムに住んで10年目になるがフエとあまり縁がなく、実は一度しかフエに行ったことがない。前職の社員旅行がフエだった時はトラブルでお留守番に、友人の結婚式がフエだった時は前日から高熱を出して欠席になった。
いつも何かが私のフエ行きを妨害する。私はグエン朝の敵なのか。
今回もどうせ何か起こるのだろうと思っていたら普通に出発できた。なんで?
ダナンからフエまでは約100キロメートル離れていて、車や電車で行く人が多いが、今回我々はバイクで行くことにした。
▲距離はこんな感じ
ダナンからフエに行くにはハイヴァン峠を越えなければならない。全長約22km、片道一車線の山道だ。トンネルもあるのだが、車専用でバイクは通行できない。そこで今回はバイクをトラックに積んでもらい、人はバスで運んでもらうチートを使う。
ちなみに2005年に開通したハイヴァントンネルは日本のODAで開通したもので、東南アジア地域で最も長い陸上トンネルとして知られている。
▲オートバイ移送サービスの場所
▲チケット売り場
バイクの大きさによって料金は変わる。人は1人15,000vnd、110cmまでの子供は無料だ。この国では年齢ではなく身長で子供料金を提示されることが多い。乗り物だけでなく、食べ放題のレストランなんかもそうだ。背が高い子供は損をしてしまう。
▲トラックに乗せられるバイク
▲人を乗せるバスの出発場前にはジュースやお菓子が売られている
時刻表などはなく、ある程度バイクと人が集まったら出発だ。10分くらい待ったかしら。
▲みんなで峠を越えました
この小さめのマイクロバスにぎゅうぎゅうに人が乗る時もあるのだが、今日は少なめで余裕があってよかった。地元で通った教習所の送迎車を思い出す。特に知り合いでもないけれど共通の目的のために乗り合わせる感じ。
無事に運ばれ、峠を越えるとフエ省のランコーという町に着く。
▲自分のバイクが降ろされるのを待つ
ランコーはダナンとフエ市のちょうど真ん中くらいにある。省はフエ市と同じ、フエ省。ダナンと比べると規模は小さいが、一応ビーチリゾートだ。
▲ランコーの様子
そこから国道1号線を更に北へ向かう。左に見えるのは潟湖で、この道からは見えないが右手にランコー湾がある。ちなみに「ランコー」という地名はフランス植民地時代にフランス人によって名付けられた説、元々はラン・クーと呼ばれる漁村だった説、かつてコウノトリの群れがたくさんいたためコウノトリ村(ベトナム語でコウノトリ=コン・コー、村=ラン)と呼ばれていのがランコーになった説など諸説ある。
薄々気づいていたが、今日はめちゃくちゃ暑い。
▲トンネルの先はフーヴァン県…
特にランコーとフエ市の間に位置するフーヴァン県に入ってから、暑さが明らかに変わった。吹き抜ける風も熱風、バイクに乗っている足さえも下からジリジリ暑い。なんだこれ。
よく日本でも私の地元・群馬県はめちゃ暑くて、東京はまあまあ暑い、なんて時があるが、この場合群馬はフエ、東京はダナンって感じ。フエは山も温泉もあるから、確かに群馬に似てる…?でも群馬に海はないけど。これが熱帯モンスーン気候の本気か。
そして国道1号線は恐ろしいほど、日陰がない。
稲穂も頭を垂れているが、ヘルメットxサングラスxマスクで防備した私の頭も垂れ気味だ。
急遽ルートを変え、少し遠回りになるが海沿いを行くことに。海なら少し涼しい風が吹いているだろう。
新ルートは広々とした道なのだが、ガゾリンスタンドや民家、ちょっとした商店が点在する国道と比べて殺風景だ。
恐ろしく何もない、人もいない道。大丈夫か…?
▲恐ろしく何もない、人もいない道
▲ベトナムの祝日は国旗が道路にはためく
ランコーを出発してから1時間半、初めて信号機がある道に出た。やっと人の気配を感じて、異世界に迷い込んでいないことを実感。
▲1時間半ぶりの信号機
内陸部に入ってくると人の気配がある。しかし人3人に対して…
牛何頭いるの…?茶色い塊、全部牛。
先程よりも人も建物も増えてきたが、やっぱり人よりも牛の数の方が多い。
▲おわかりいただけるだろうか
▲水浴びする牛。羨ましい
進行方向から左手には湖(牛がいるところは湖から派生した池)、右手には海のはずだが小高い丘になっていて海は全く見えず。丘が海砂なのと何となく生臭いのでそこは海が近いことが感じられるのだが、丘に沿ってびっしりお墓と小さなお寺が並んでいるのが何とも…確かに寺が多いのは京都っぽくはあるけど、それより墓の数。ホーンテッドマンションより多い。夜通ったら怖そうだ。そして気づいたらフエ市に入っていた。
ベトナムの京都・フエ市には中心から離れたところにビーチもある。
Google先生によると「チュアン・アン・ビーチ」なるものがあるらしい。先ほど寄ったランコービーチのほうが有名だけどフエもビーチリゾートとしても人気…?
だと聞いてたけど、なんかよくわからんな。やってないのか?遠くに凧が上がっているので人はいそうだけど。今回の目的じゃないからまあいいや。
大きな橋を越えしばらくすると、今回の目的地に着いた。
ダナンを出て約3時間半が経っていた。
▲温泉の入り口、ONSEN RESORT HUE!!
突然現れる唐門。
真ん中が盛り上がる、日本の寺などでよく見る門がベトナムにあるの面白い。
ちょっと色合いも二条城みがあるし、さすが古都フエ。
そして虹梁に「ONSEN RESORT HUE」と横文字が書かれている。
ここに横文字が書かれたことは歴史上あるだろうか。二条城にはないよな?
あと、すごく堂々と書かれているけど、聞いていた施設の名前と違う。我々が予約したのは「KAWARA MY AN ONSEN」なんだけど、ここで合ってるのか?合ってるよな…?
硫黄の匂いがすごくて、温泉施設はほかにないから多分合ってるんだけど。
松!
ベトナムでは2017年頃から日本庭園ブームらしい。確かにたまに金持ちベトナム人の家は日本庭園風かも!?
そして植木では松と槙が人気らしい。
ベトナムにおける日本庭園ブームにおいて必須であるニシキゴイ(JETROの情報より)。
にしても鯉の池、めちゃ広い。
▲めちゃ日本風の造り
ルーバー? と大理石の壁で和風に見えるのなんだろう。
メロンと醤油でウニの味みたいなやつかな。
チェックイン時に「ここはKAWARA MY AN ONSENじゃないの?」と聞くと、「最近名前が変わりました!」とのこと。ベトナムあるあるだ。
▲スタッフのユニフォームも作務衣。日本の温泉=千と千尋的なイメージなのだろうか
▲部屋の様子
シンプルだけど広々していていい感じのお部屋。 地元・群馬の伊香保温泉にもありそうな造りに安心する。
バスタブがあるのもポイント高い! と思ったが、水圧をチェックするとお湯を貯めるには絶望的だった。
メインは温泉だし、温泉に期待することに。
▲浴衣もある
とりあえずバルコニーでビールを飲む。やっと一息ついた。ゆっくりしたかっただけなのに、なんかいろいろ大変だった気がする。
眼下のプールが涼しそう。ちょっと入ろうかな?と思ったがこの写真撮影後すぐにベトナム人家族で埋め尽くされ、断念。
鯉の池よりもプールを大きくした方がいいのでは…?
その向こうには田園が広がっている。
そう、この施設は田んぼの中に突然できた感じの立地で、周辺には何もない。
実は到着前に何か買い出ししておこうとGoogleマップで調べた。そしてホテルそばの”ミニマート"と書かれた場所に行ったのだが、完全なる民家で絶望した。
そうなってくると困るのが今夜の夕食だ。どうしよう。
▲ミニマートはないけど川はある。ホテル目の前の川では若者がカヌーやってた
刻一刻と夕闇が近づく。どうするごはん。
そんなときホテルのスタッフが「今夜はジャパニーズビュッフェやるよ!鮭も解体するよ!」と言う。それだ。しかも鮭の解体。鮪の解体は見たことあるけど鮭は初かも。
ちなみに寿司や刺身でもベトナム人に人気なのは鮭だ。鮪より臭みがなくて食べやすいらしい。
部屋で休んでビュッフェに行ったら、友人のベトナム人がいた。
「タムちゃん!」
▲鮭の解体って、タムちゃんがやるんかい
タムちゃんとは私がダナンに来たばかりの頃からの付き合いだ。知人の日本食店で就業&修行していて、師匠である知人が坊主なことからタムちゃんも坊主になったくらい真面目な男だ。コロナ禍後に独立して、今は日本食店のプロデュースとか今回みたいに出張シェフもしているみたい。
▲ビュッフェの様子
お寿司はまあまあの日本…!
炙り系や白身系が多いから、ベトナム人向けの日本って感じ。
手前の緑の山はワサビです。色が鮮やかすぎるが、ベトナムでは割とメジャーな粉ワサビはこれ。
他のコーナーは焼きそば、お好み焼き、唐揚げなんかがあった。縁日みたいな感じのラインナップ。
マグロ食べたい、とタムちゃんに言ったらわざわざ持ってきてくれた…「キハダしかなくてごめん」とのことだったが嬉しい。
周りを見回すと、どうやら宿泊者はベトナム人ばかりのようだ。
チェックインの時から日本風庭園で自撮りするベトナム人の若者や家族連れにたくさん遭遇した。まあ、海外からの旅行客がわざわざベトナムで日本風の温泉施設に泊まる理由もないのかもしれない。
▲ベトナム人の子供に大人気ですぐなくなってたたい焼きコーナー
ビュッフェでたい焼きって初めて見たかも。やはり日本の縁日風チョイスなのだろうか。
たい焼きコーナーではあんこ・クリーム・チーズの3つの味が楽しめる。
横にあるソースはメイプルシロップ、いちご、チョコレートで、味変アイテムも充実。
フエにいながら日本式の温泉施設と食事が楽しめるのがベトナム人に人気なのかもしれない。
▲夜の日本式庭園もいい感じ
そしていよいよメインの温泉だ。
このためにはるばる来たのだ。
温泉内は撮影及びスマホ禁止なので写真はないが、一言で言えば広い。まず脱衣所がめちゃくちゃ広い。そして私1人にスタッフ1人がついてロッカーに案内された。
いざ裸になって脱衣場から大浴場に入ると、先程のスタッフからマンツーマンで温泉についての説明を受ける。「温泉は裸で入ってください」「タオルは入れないでください」「温泉に入る前に体を洗ってください」日本人だから知ってる。知ってるんだけど、この案内はかなり有効だと思う。できれば裸になる前に案内して欲しかったけど。
以前他の日本式大浴場をベトナムで利用した時に、自前のパンツを履いたまま入っているベトナム人を何度か見たことがある。帰りのパンツはあるのか心配になった。
温泉エリアも広い。日本の田舎のスーパー銭湯よりも広い。露天風呂なんて3段式になっている。100人くらい一気に入れるのではないだろうか。
Japanese Onsen truyền thống Nhật Bản - KOBI Onsen Resort Hue
Khác với những phương pháp ngâm tắm khoáng nóng khác, tắm onsen truyền thống Nhật Bản là phương pháp
ところで、ほかのベトナム人が全く入ってこない。ずっと私一人だった。みんないつ風呂に入ったのだろう。
だだっ広い露天風呂に一人で浸かっていると、何だかお金持ちの家の庭池に勝手に入ってしまった人、みたいになっている気がする。
ちなみにお湯の温度もちょうどいい。かなり癒される。
せっかくなので3段の露天風呂全部に入ってみたが一番上の段が一番熱い。下へ流れていくことで少しずつぬるくなっているんだろうか。私の好みは2段目だった。ちなみにここの温泉の効能は、高血圧や関節炎の治療、美肌効果とのこと。昨年膝に水が溜まったり、今年の正月に足の小指を骨折した私にもありがたい。
室内にもお風呂がある。ジャグジーや炭酸風呂もあって楽しい。
このあたりで、ちょこちょこ私以外の人が入浴しているのを見かけた。良かった、という謎の安心感があったが、みんなすぐ居なくなってしまう。ベトナム人はおそろしく風呂が短い。長時間お風呂を楽しむ文化は無いのかもしれない。
極めつけには、スタッフが私の様子を何回か見にきた。なかなか出てこないから心配だったのかもしれない。何も道に外れたことはしていないんだけど。
1時間ほど楽しんで、脱衣所に入る前に小さいタオルで体を拭いていたらスタッフが大きいタオルで包んでくれた。入浴前の案内で裸体も晒していたこともあり、気兼ねなく湯上がりの子供の気分に。いいサービスではないかしら。
そういえば、久しぶりに湯に浸かった。
というのも、ベトナムのアパートにはバスタブが付いている家は少ない。付いていてもお湯が貯まるのに時間がかかったり、湯を貯めているうちに湯の温度がさがっていったりなど、なかなか当たりのバスタブ付き物件に出会うのは難しい。
かくいう私の家にもバスタブはない。普段シャワーだけでも別に気にせず過ごしているが、やはり湯に浸かるのは大事だと実感した。
その夜は湯に浸かったからか、かなりよく眠れた! フエに来て良かった。
翌朝朝食会場に行くと、ものすごい人だった。
なぜ昨日の風呂はあんなに空いていたんだ。みんな温泉にはあまり興味がないのだろうか。
二度寝をして、あっという間にチェックアウトの時間になってしまった。帰りたくない。
帰りたくないというのは、もっと居たいというのもあるし、ここまでの道のりを思い起こすとしんどい、というのもある。今日の体感温度も47度だ。
▲館内の鯉に餌をあげる少女
▲池の中に消防車落ちてた 。君は鯉じゃない
温泉を後にし、 せっかくなのでフエの王宮あたりまで足を伸ばすことにした。
しかしながら暑い…!
▲王宮の外壁を通るとフエにきた感じがする
王宮の外壁、「ガン門」。
王宮への入口である「ガン門」は王宮の外堀から宮殿敷地に入る門です。
温泉の唐門とは全く別の荘厳さがありますね、やっぱり。
にしても暑い。
▲王宮横のカフェで休憩するも扇風機から流れてくる風さえ暑い
フエ名物の一つでもある、しじみのバインミーを買ってダナンに戻ろうと思ったが、祝日で休みだった。残念。
とにかく何処にいても暑く、このままだと温泉の効能が全てパァになりそうだ。
大人しくダナンに戻ることに。
方向的に帰りは国道1号線を行くしかない。行きに避けたあの暑いやつ。
▲日陰がない国道1号線
途中休憩を交えながらなんとかランコーまでたどり着く。
ランコーにきたら暑さが幾分か楽になって元気になった。
なんでフエ市はあんなに暑いんだ。相方ゴシーは「フエはベトナム戦争時の激戦区だったから、色んなものが滞っているのでは」とスピリチュアルな見解。
それにしても、風が気持ち良くないバイクってバイクの意味…!
元気になったので帰りはチート移動を使わず、ハイヴァン峠をバイクで登ることに。
▲ハイヴァン峠の入り口
以前までボロボロだったハイヴァン峠の道が綺麗になっていた。走りやすくて助かる。
▲道が綺麗!
余談だがハイヴァン峠の頂上にダナン・クアンナム省とフエ省の境界があるのだが、以前はダナン側は道が綺麗で、フエ側に入った途端ボロボロの山道だったのだ。「フエ省には金がないからね!」なんてベトナム人の友人から聞いたこともあるが、金が入ったのだろうか。いずれにせよ、道が綺麗なのはありがたい。
▲ここがフエとダナンの境目の塔「Hải Vân Quan」は逆に工事中
峠の途中、ダナンが一望できるカフェで休むことに。
カフェと言ってもタリーズやスタバではない。ベトナムでは飲み物を出す商店をカフェと呼ぶ。プラスチックの椅子でもあれば御の字だ。
店内を自由にうろつく犬と猫もいて癒される。ここまで来れば、家まではあともう少し。
▲写真映えスポットもあるよ!
▲カフェはこんな感じでハイヴァン峠の道のくねりに沿って点在している
なかなかハードな温泉旅行だったが、充実した祝日だった。
しかしながらこの時期のフエは暑すぎて、温泉に行く前と帰ってきた後で、精神的なリフレッシュは出来たものの?身体的な疲労感は温泉前に戻っていた。
そしてダナンに帰ってから思い出したのだが、以前フエに行った時も4月30日と5月1日の祝日で、その時も「フエは暑すぎる!この時期には来たらダメだ!」と一緒に行った大学時代の友人に宣言していたのを思い出した。まんまと同じ時期に行っている。
次こそちょっと涼しいくらいのフエを体験したい。