野良庭散歩11

  • 更新日: 2022/11/08

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秋らしい気温と湿度。空は晴れ渡っている。体調もいい。こんな日はありふれているようでいてとても貴重だ。降り注ぐ朝の日差しの元、私は散歩に出ることにした。
時折吹く風は涼しく、秋の虫たちとヤマバトの鳴き声が心地よく混ざり合っている。散歩好きにとって最高の気候と言えるだろう。昂る気持ちに呼応するようにガビチョウの朗々としたさえずりが聞こえてくる。




この時期はマルバルコウの花がよく目立つ。明るいところへツルを伸ばして目いっぱい日差しを浴びている。花は赤というより朱色のような黄みがかった色味で、習字教室の先生が使っていた朱墨の色を思い出す。




ヨウシュヤマゴボウがブドウのような実をつけている。この実をつぶすと濃い紫の汁が出る。ヨウシュからついワインのようなイメージをしてしまうが、洋種(西洋種)の意味らしい。ゴボウというのは根の長さから連想したそうだ。道理であちこちでよく見かける。切っても深く根が残ってまた生えてくるのだろう。




こちらも繁殖力の強さでおなじみのヤブガラシ。私も家の周りに茂るのに悩まされているが、オレンジ色の小さな花をつけているところだけは可愛らしく思える。蜜が出るらしく、ハチやアリが集まっているのをよく見かける。




ほんのりと色づき始めたツバキの実がつやつやしている。これが割れると、ころんとした茶色い種が出てくる。椿油はその種から搾り取るらしい。クッキーのような質感が好きだから、落ちているのを見つけるのが楽しみだ。




ピンクのオシロイバナを見つけたが、どれも花を咲かせていない。不思議に思って調べてみると、夕方に咲いて朝閉じるのだという。私の出身地(北海道)では見かけなかったため、名前と見た目が一致したのはここ数年のことだ。身近な花ということは知っていたから昼間閉じているとは意外だった。




道端にヒオウギが咲いていた。花はもちろん美しいが、葉の形も好きだ。名前の通り、扇を広げたような姿をしている。うっすらと白っぽい葉の色も良い。




商社の門前のあまり手入れをされていない花壇にいろんな種類のアサガオが咲いていた。今年は真夏より秋になってからの方がよく見かける気がする。アサガオといえば夏の象徴だが、かれらにとってももう日本の夏は暑すぎるのかも知れない。




置き去りのコンクリートブロックからシダがひょっこり生えていた。野良庭(造語。野良っぽい植物の生えているところ)らしい風情があって可愛らしい。




地を這うようにして門からはみ出たサルスベリ。百日紅と書くだけあって、花期が長い。大抵夏前から秋まで咲いている。健気なことだ。




コミカンソウの群生だ。よく見る雑草の中で一番気に入っていると言っても過言ではない。葉の色や形が可愛いうえにミカンのようなオレンジの小さな実がつくところがたまらない。タイでは大型のコミカンソウの果実を市場で買うことができると聞いたことがある。いつか食べてみたいと思う。




夜にだけ咲く変わった形の花として有名なカラスウリの花がまだ残っていた。民家の境目の壁で妖しい雰囲気を醸し出している。思わず身を乗り出して撮影してしまった。




丸い穴のあるお洒落なブロック塀の下から逃げ出したらしい、元気なローズマリーたち。細かな砂利と細かい葉の雰囲気が相まって水槽に生える水草のようだ。




団地を見つけると中を通ってみたくなる。花壇のアベリアの花にクロアゲハが来ていた。忙しなく羽ばたいて移動しながら蜜を吸っている。




団地を出たところに生えていたのはボタンクサギ。一見アジサイのようだが全然違う植物らしい。
このように、特定できそうな植物に関しては毎回調べて記すようにしているが、この連載を始めてしばらくは「いちいち調べるなんて野暮」とすら思っていた。私が野良庭の写真を撮り始めた頃は「そこに在る」という魅力が全てで、名前も生態も詳しく知る必要を感じなかった。その時々の美しさで対象を選び、撮影していけばいいと。しかし好奇心というのは際限がない。いつの間にか私はひとつひとつの植物について調べるようになっていた。Google検索を主に利用し、雑草や庭木の図鑑を買っては知識を増やしている。
例えばこのボタンクサギのことは元々知らなかった。アジサイにしては花期が遅いし、葉の雰囲気が違う。おそらくこれはアジサイではないと思い、まずは「アジサイ・似ている」というワードで検索した。その時点ではそれらしいものが現れなかったため「画像」のリンクを選択しスクロールしていく。アジサイに似た白い花のオオデマリが次々出てくるが花と葉の形が全く違うのでスルーして、ピンクの花に暗緑色の葉を持つ植物を探す。画像を見つけ、クリックしてみるとボタンクサギと書いてある。そのページを流し読みし、今度は検索窓に「ボタンクサギ」と入力してみる。画像一覧で見ても同種のようだし、信頼できる植物情報サイトをいくつか開いてみて間違いなさそうであれば特定とする。最初の検索で引っかからなかった場合は、花の色や咲いている季節、葉の形、生えている場所(日陰、水辺など)で絞っていく。1年以上そういうことを繰り返しているが、未だに知らない植物だらけだ。道端の植物がこんなにも多様性に富んでいる国は珍しい、という話を聞いたことがある。だとしたら私はなんて幸運なんだろう。一度名前を確認するようになってしまうと、もうやめられない。




側溝の格子から湧き出る植物。こういう、汚らしさと紙一重の生命力や瑞々しさに、私は魅力を感じる。人の手さえ入らなければ、いずれ全てを緑で覆い尽くしてくれるという、安心感と畏怖によるものだ。




秋になるとこんな風に美しいグラデーションに出会うことが増えてくる。植物の紅葉は、寒さや虫害への備えなのだろうが私たちにはただきれいに見える。




季節外れのクチナシ。妙な気候が続くとこういうことも増えるのだろうか。つぼみもいくつかあるようだから、きっとまだまだ咲くのだろう。




良い室外機(とその周辺)に出会った。年季の入ったガスメーターもいい味を出している。鉢植えの植物と同じような葉が下にも大量に茂っているのは何故だろう。こぼれ種で増えたのだろうか。花も実もないから特定できないが、ノシランかヤブランかもしれない。




住宅地から商店街に入る。自治体が設置したと思われる大きな鉢植えにはルリマツリとムラサキゴテンが植えられていた。ムラサキゴテンは驚くような葉の色をしているがツユクサの仲間らしい。鉢からはみ出るように勢いよく伸びていて好感が持てる。




真っ赤なゼラニウムが理髪店の脇から背伸びするように咲いている。ひらひらした特徴的な葉が可愛らしい。後ろにはウキツリボクの膨らんだ赤いガクが見え隠れしていた。




センニンソウがこんなところに。林や藪でしか見たことがなかったが道端に生えることもあるという事例。十字の白い花が清廉な印象を与える。背景のブロック塀が赤くなっているのが少し不気味で面白い。




金属フェンスのパンチ穴から洩れる光が、つる植物の葉に水玉模様をつけている。まるで現代アートのよう。こういうものを見つけると嬉しくなる。




こちらはハゴロモルコウソウ。最初に見つけたマルバルコウソウとは葉の形で見分けられる。ちなみに無印のルコウソウというのもあり、そちらの葉は細い糸状で涼し気な見た目をしている。近い種類をコンプリートできたりすると楽しい。前述のコミカンソウにも在来種のものと、ナガエコミカンソウという外来種のものがあったりする。植物の名前を覚えてみるというのも、散歩に奥行きを与える一つの方法であると私は思う。




最後までご覧下さりありがとうございました。随分日が短くなりましたね。少しずつ寒さと乾燥に備えをしていきましょう。商店街の脇道で見つけたとっても素敵な路上園芸をどうぞ。









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末埼鳩

少し奇妙な物語やエッセイを書きます。庭を逃れた野良植物の写真を撮るのが好きです。

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