入谷鬼子母神で本当に「入谷朝顔まつり」はあったのか

  • 更新日: 2018/07/18

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仮設ブースの仄かな香り

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この連載は「せとゲノム」が祭りの翌日に顔を出し、本当に祭りが開催されたのか、どのような祭りだったのかを痕跡から推理します。




おはようございます。せとゲノムです。
ただいま7月9日、月曜日の早朝です。
JR鶯谷駅に来ております。
こちら近辺の入谷鬼子母神(いりやきしもじん)というところで、7月6日から8日にかけて入谷朝顔まつりがあったと聞いて来ました。

でも、本当に祭りなんてあったのでしょうか。

朝顔ってあの植物の朝顔ですよね。
小学校のときに育てた記憶がありますよ。
なんかふにゃふにゃしていて、頼りないなって印象でした。
そんなあいつが、手元の資料によると1992年には3日で延べ100万人を動員したというじゃありませんか。
朝顔がそんな力を持ってますかね。
フィクションじゃなくて?
冴えなかった同級生がネットアイドルになった噂を聞いたときのような不思議な感覚です。

どうも現実感がないので、実際に入谷鬼子母神へ向かって祭りがあったのか見てみたいと思います。
※鬼子母神の「鬼」の本来の表記は、上部のツノがない鬼です。



駅前にあった提灯です。
側面に朝顔の絵が描いてありますが、朝顔の好きな職人さんだったんですかね。
それとも、今回の祭りと何か関係があるんでしょうか。



祭りっぽい電飾コードですね。
提灯用でしょう。
とはいえ、日常的に提灯が飾られているとすればそう不自然でもないです。



道中に落ちていました。
カキ氷のスプーンですね。
まさか祭りが行われていて、露店でも出ていたと言うのでしょうか。



タコの現物です。
この大きさ、切り方はたこ焼きを思わせます。
ふむ、たこ焼きは確かに祭りの定番ではありますが、果たして…。



看板ですね。
何かしらの祭りに誘導しようとしています。
「入谷朝顔祭会場」だとすれば辻褄が合うのですが、どうやっても「顔」より上が見えません。
これだと決定打には成り得ませんね。
「したり顔祭会場」や「すまし顔祭会場」の可能性だってあるわけですからね。



プラスチックパックと串。
付着しているタレの感じから、みたらし団子だったことが想像できます。



太めのしっかりとした串。
餅状の食べ残しが見られます。
串餅でしょうか。



提灯の豊かな街だなあ。



むっ、ゴミ。
右側のお茶のコップをよく見て下さい。
まだ氷が残っています。
これは、前日の夜に飲み食いしたという証拠です。
入谷朝顔まつりは夜23時までやっていたという情報もあるので、あるいは祭りに関連しているかもしれません。



ビニール状のコード。
看板か何かをぶら下げていた形跡でしょうか。

ここまで決定的な証拠が掴めずに鬼子母神近くまで来てしまいました。
あーあ!
本当に祭りなんてあったんでしょうかねえ!!
めちゃくちゃ暑いですし、もう帰りますか。
よし!!帰ります。それでは!!!



すみません、祭りありました。
入谷朝顔まつりは毎年7月に行われているお祭りです。

文化文政時代(1804~1830年)に、植木屋が朝顔を育てていたものに熱烈なファンがついたのが起源とされています。
入谷鬼子母神でも、参拝がてら朝顔の見物をする様子が浮世絵に描かれています。
その後、数次に渡るブームと衰退を繰り返した後、明治初期に成田屋というカリスマ植木師によって「朝顔と言えば入谷」という名声を手にします。

朝顔まつり自体は2018年でちょうど70周年でした。
つまり第一回は、1948年と戦後すぐということになります。
荒廃した都市の中で「入谷朝顔復活期成同盟」という組織が結成され、復興の一環として始まりました。
自然発生というよりは、意図的に起きたお祭りだったんですね。
朝顔市に合わせて美しく咲くように、今でも日々朝顔栽培の技術が更新されています。

それでは引き続き、どんな祭りだったのか見ていきましょう。



境内に入っていきます。



実行委員会のテントらしきものがありました。
朝顔実行委員会と書いてますが、朝顔まつりの実行委員とは違うんですかね。
「朝顔まつり」は実行できるけど、「朝顔」は実行できないでしょ。



因みに、他の路地にも似たような詰所がありました。
表記は微妙に異なりますが、実行委員会と同じ組織なのか気になるところです。
あと、役員なのに境内にいなくていいのか。

ちょっと逸れましたが、鬼子母神内に戻ります。



鉄パイプですね。
足場を組んだような面影があります。
これを棚のようにして朝顔を飾ったのでしょうか。



仮設ブースにあった朝顔らしきオブジェ。
ビニール傘をバキバキに折っているわけではないです。



完売御礼の札。
こちらで朝顔を売っていたようです。
やっぱり愛好家も多いんでしょうね。



蚊取り線香がありました。
夏で、茂みもあったので、さぞかし蚊が飛んでいたことでしょう。
かつて緑であっただろう本体が、今は真っ白な灰に。
妙な情緒を感じます。



あれっ、完売は?
鉢、残ってますけど。
私が詳しくないだけで、あれは朝顔とは違うんですかね。
それとも、あそこにあるのは売り物じゃなくて、来年の種馬と言うか、品種が絶えないようにいくつか取ってあるんでしょうか。
にしては置き方が適当ですが。



再び路地に出ます。



さっそく朝顔を見かけました。
鬼子母神参拝記念という札があるので、境内で買ったのでしょう。
プチトマトと並べてある生活感がいい。



輪ゴムです。
右のは焼きそばなどのパックを閉じるにしてはやや直径が小さいので、わたがしの袋の入り口を縛る用でしょうか。



こんなのわざわざ建てなくても、誰も発祥は疑わないでしょう。
「入谷」って地名まで入っているんですから。
讃岐うどんだって、素直に讃岐が発祥なんだろうなって思ってますよ私は。

にしても、朝顔をすごい推してくる街だな。



パネルもあるし。



便乗セールの値引き率もすごい。



太いストロー。
タピオカを吸うためのやつですね。
台湾では禁止になりかけているらしいです。



カキ氷の本体とスプーンです。
今さら褒めるのもあれですが、ストローとスプーンを一体化させるなんてド天才ですね。



毛笛も落ちていました。
本来は先端に風船がついていて、膨らませたりしぼませたりできるんです。
しぼむときの音がやたら無神経で面白く、長年に渡って子供からの人気を集めています。
吹くところがピンポイントで潰れているので、噛み癖のある子供だということが分かります。



仮設トイレも何箇所かありました。
来訪者が多いだけあってしっかりしています。



今回の氷です。
この規模のお祭りなら、本当はもっと大量にあるはずだ。
どこに隠した!



朝顔せんべいは名物らしいです。
あさりせんべいの感覚で朝顔がプレスされているのを想像しましたが、形が朝顔っぽいせんべいでした。



歴史が長いからか、役所の用意もいいですね。
1年や2年でこんな看板はできませんよ。



朝顔音頭ですって。
「蔓が伸びれば寿命も延びる」「地域に花を咲かせましょう」みたいなフレーズあるんだろうなあと茶化していましたが、調べたらすごい力入れて作っていました。

1952年にキングレコード専属の作詞家、作曲家、歌手を動員して誕生していました。
特に作詞家の方は、実際に入谷の地に足を運んで、祭りのメンバーと会談したりしてイメージを膨らませていたようです。
音頭の振付は、坂東流(ばんどうりゅう。日本舞踊の一派)の家元に依頼しています。



殴りたくなる顔の地球。



天空のトイレ。
誰っぽいとかではないんですが、「天空トイレ」って小説ありそうじゃないですか。
ないか。



朝顔の手入れ方法について書いてありますね。
「日照の最中、葉のぐったりした時に充分水をやって下さい」とあります。
え、対処療法?ぐったりしてからで大丈夫なんですかね。
人間の熱中症なんかは、弱る前に水分を取りましょうみたいな感じですが、植物の感覚はまた違うんでしょうか。



入谷中央商店街の朝顔直売所がありました。
鬼子母神にあった観光連盟の販売所とは別みたいですね。



あっ、盆踊りの櫓だ。
ここで朝顔音頭を踊ったんですね。あの朝顔音頭を。

まとめ

以上です。
街を上げて祭りを盛り立てているだけあって、広範囲で祭りの残り香を確認することができました。
朝顔、見直したぜ。
地域の人の真面目さがすごく、早朝にも関わらず既に掃除が始まっていたのも印象的でした。

ではまた。

参考資料
『入谷朝顔市と共に』1979 入谷中央商店街振興組合
『入谷朝顔市にむけた行灯アサガオ生産の技術改善および購入後管理方法』2004 田旗裕也 東京農試研報32 pp.41-61
『どうわのとびらシリーズ 花のお江戸の朝顔連』2009 岩崎恭子 堀田あきお 佼成出版社
『東京お祭り!大事典』2009 井上一馬 ミシマ社




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