終電までのナイトクルージングレポ@新大久保

  • 更新日: 2026/10/15

終電までのナイトクルージングレポ@新大久保のアイキャッチ画像

すっかり忘れていたけれど、この日は眠っていない

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コリアンタウンとして知られ、昼間は特に観光客で賑わうが、実はネパール、ベトナム、中国をはじめとして様々なルーツの人々が暮らす町・新大久保。


2013年のヘイトスピーチの記憶、そして、2026年2月には、外国人経営者向けの在留資格・「経営管理ビザ」の厳格化によるインドカレー店の激減やアジア系の人々によるレストランの多い新大久保の廃墟化を案じるニュースもあったばかり。外国人排斥の声が高まる今、見つめたい風景がこの場所にあると考えていた。



そんな中で思い出されるのは、私の友人である新大久保好きの”黒豹さん”による「新大久保の住宅地を歩いているとカレーの匂いがするんだよ」「道端に、まだ使えるカメラがあったの。それで写真を撮ったりもしたんだ」といった言葉の数々だった。それは一見、何気ない言葉だったが、彼女の町へのまなざしや感受性に、私は深く惹かれた。例えば前者の「カレーの匂い」で言えば、移民の人々に対して「隣人のスパイスの匂いが不快である」のような表現が常套句として用いられることがあるのに対し、彼女の言葉のニュアンスの中には、思い出や温かさを連想させるものが含まれていた。また、後者の「カメラ」については、観光客と移民の多く暮らすこの地域におけるゴミ事情によって落ちていたものと思われる。彼女はどうやら、新大久保をゴミの多い町、と捉えるのではなく、面白いものが沢山落ちている町と感じて見つめていた様で、その結果カメラを発見したのだろう。

彼女は香川県の出身で、大阪の写真専門学校を卒業し、現在はフリーランスで東京に暮らしている。しかし地方へ度々撮影の仕事をしに行ったり、年末はアメ横のとある店の蟹売りの様子を撮影するなどしてそのコミュニティの人々と過ごすなど、様々な場所を渡り歩くようにして生きている。勿論、彼女は一般的な意味での「移民」ではない。しかし、一つの土地に定住するのではなく、場所を移動しながら他者の暮らしに触れ、その土地の空気を身体で受け止める存在として、私は彼女に、一種の「移動する人」の感覚を見た様に思う。だからこそ新大久保という、多様なルーツの人々が行き交い生活を築く町に、彼女はこれほど自然に親しむことができたのかもしれない。

そんな彼女と、さらに助っ人として新宿/大久保をフィールドとする人類学者の神宮寺航一さんを招き、2026年2月27日の19:30に夜が明けるまで新大久保を漂い続ける”ナイトクルージング”の開催をSNSで告知したところ、この日は総勢13名で一緒に歩くこととなった。

クルージングとは本来乗り物に乗って行われる行為だが、フィッシュマンズ1995年のシングル『ナイトクルージング』の様に、夜を彷徨い、漂う時間そのものを歩いて作り出したい。

待ち合わせは東新宿駅A1出口。正面には早速アジアの国々の居酒屋が。この写真の右上のに移りこんだ葉っぱは、フラッシュを受けて天使の羽に見えないだろうかーそう、新大久保には沢山の天使達がいるのである。




少し歩いた先に、一般社団法人JFTD(花キューピット)。天使の羽のついた花束が法人のシンボルマークだ。






私達一行がまず向かったのは、ドン・キホーテ。




チャイナな水槽。この魚達はドン・キホーテがパラオ共和国と「安全な方法で採取を行う」と約束し、自社での管理・運搬されてここまでやって来たのだという。




ドン・キホーテ新宿店は何だかテーマパークの様な入口になっており、駐車場の脇道から中に入る。




これ、意外と盛り上がって皆が立ち止まってジュースを買った自販機だ。




ナイトクルージングにふさわしい星空が広がっていた。




異国情緒。

自己紹介をしたばかりの私達が向かったのは三階にあるプリクラコーナーだ。20時までなので急いで向かう。



ナイトクルージングがしたいという思いだけで集まり、まだ仲もそこそこの10名が小さな枠にぎゅうぎゅう入って写真を撮った。




韓国式プリクラは日本のプリクラと異なり、顔への加工やデコレーションが最低限。でもよく盛れている。
…お気付きだろうか?右下には天使の羽が…。




ドン・キホーテから西大久保公園に続く道に、中国語の新聞が一面に貼られた韓国料理屋の壁があった。最も観光で有名なイケメン通りもすぐ側にあり、飲食店などで賑わうこの付近だが、とあるアパートの売春にまつわる噂も聞いた。実際に、黒い車の中で女性が運ばれて行くのを何度も見かけた。




意外にも、この辺りの掲示板には福祉や支援にまつわるものが多く、外国人に向けたサポート内容を含むものも。(2026/2/17撮影)




長興寺の墓地に、歌舞伎町タワーをバックに立つ北向観音菩薩像。(2026/3/9、楓君が撮影)




お供物は毎日変わる。




墓地の前にある鍼灸専門学校の人々とばったり出会い、しばしの間だけ一緒に歩く。錘をつけたり、目隠しをして高齢者になる体験ワークショップを行っているのだと言う。




その先の高架下の壁の落書きの中に天使を見つける。

JR新大久保駅の改札口の横を通り過ぎ、細い路地の先にあったのは「THE 100 STORES」。この店は2026年3月に閉店。2月当時は閉店セールの真っ最中だった。多くの住民に愛された店舗は品数が少なくなっても人足が絶えない様子だった。



店先には鮮やかな造花達が売られており、いつもこの明るさに出迎えられる。黒豹さんは造花の中に桜や梅などの日本の花が多いと指摘する。実際町を散歩すると、人々の住居や料理店などで造花がよく飾られている様にも思う。フォトグラファーの蜷川実花の初期作に、どこか遠くて暑い国のお墓の写真のがあった様な記憶がある。その地域では厳しい気候で生花が枯れてしまうために、永遠に美しい造花をお供えするのだという。その花のあまりの鮮やかさに魅せられ(つまりそれは生と死だ)、蜷川はその後もあのビビッドな色彩の作品を撮影しているのだと、学生時代に授業で聞いた。




店内の天井の青空に、星が見える。




そして、世界中の子供達の笑顔。




ひかるちゃんが天使のオブジェを見つけて、私にプレゼントしてくれた。
そして造花も皆買いがち。




店に売られていた天使の羽の風船を皆で膨らませ、Neo君が天使になった。羽にきらめくのは店で売られていた皆で貼った星と月のシール。




100均の前に停まっていた素敵な風景のトラック。「アラビアンフードトラック」と書かれている。




その横にあるのは日本一のハラル食品店を掲げるグリーンナスコ。向かいにも魅力的な「新宿八百屋」が24時間営業し、通りには活気がある。




この奥の雑居ビルにはモスクがあるという。外観は細く縦長なビルだが、看板には荘厳なモスクのイメージが表現されている。




その奥の魚屋で流れる曲をShazamしてみたところベトナムのポップスだった。売り場にいるのは中国語を話す人々。
そしてなんと、天使が泣いているジャケット...!




ないの




ナスコの倉庫の裏にある路地から先は住宅街のようだ。松本君が水溜まりの跡の中にだけ花びらがあることに、ふと気づいた。




天使に見間違える




こっちは天使か




セキュリティの高さに皆びっくり。




謎のパイプが飛び出している。軒先に物が積まれている様子も度々見ることができる。しかしよく見ると不要となった椅子を置いて寛げるようにしているなど、独自のゴミ事情が伺えて面白い。




トルソーなどがベランダに並ぶ外観が気になった。住宅地のアパートの一角で営まれるネパールの伝統衣装屋さん「BPASNA NEPAL PASA」だ。”BPASNA”は店主のお子さんの名前で、家族愛が伝わってくる。黒豹さんは装飾の施された室内履きに惹かれている様だった。




町の中で見かける、フリーペーパー形式の韓国語の新聞。発行する事務所はどうやらこの辺りだと神宮寺さん。新聞には大型冷蔵庫の宣伝など、新大久保でビジネスをするにあたっての貴重な情報が掲載されていた。




そのすぐ先にあるのはムスリム系中華料理店で、しかしお酒が無いとかあるとか。店先にいた常連客と思わしき人々から、「Angel!」と祝福を受けた。




裏道から大通りに戻り、ネパール料理・サモサのお店MIRA FOODで思い思いにオーダーし、休憩する。サモサの種類は豊富なので、シェアもおすすめ。温かいチャイは何と100円。黒豹さんがその美味しさの秘密を尋ねるも、「ただ粉入れて混ぜるだけだよ」と言われる。




寒い夜の路地で温まる




造花も一休み




あ。天使だ!




と、思ったらその下に「ヘイトスピーチ」にまつわるステッカーが貼られていた。実はこのMIRA FOODの通りを挟んだ向こう側は当時ヘイトスピーチが行われた場所だったのだという。




少し行った先には新大久保駅。時刻は21:45。明日急遽仕事が入ったというひかるちゃんが帰って行く。天使みたいな笑顔だな。

新大久保駅前の方へと大通りを歩いていく。ココナッツジュースを頼むとその場でくり抜いてストローで飲める様にしてくれる八百屋さんなんかがある。




新大久保駅前の壁には絵が描かれている。
そこに沢山の天使たちがいるよ。




この小泉八雲、よく見ると羽が生えていた。



(2026/2/21撮影)

新大久保商店街は「天使のすむまち」を掲げている。地域には教会が多く、それぞれのルーツの人々が異なる宗教を信仰している。さらには無宗教色の強い日本の人々の間でも受け入れられやすい「天使」をイメージキャラクターにすることで、多文化共生を願っているらしい。

この通りをまっすぐ歩く時のオススメの歩き方は、ステッカーに注目することだ。





ステッカーの中にはヘイト的表現を含むものもある。







この辺りで右に曲がる。




ステッカーに紛れて、ヴェロッキオの絵画。天使だ。




いかがわしげな偏見

この先で左に曲がるとまた住宅地になる。先程と異なり、かなりゴミ出しに厳格な印象だ。









この辺りでまた大通りに出た。




皆が見上げているのは





かわいい。

その先に斜めに伸びるラブホテル街を進んで行く。






これはリサーチの際に見つけたこの近辺のコンビニの張り紙なのだけれど、一体どうしてなんだろうか、気になる。




22:26、”ヤクザマンション”前にて、また一人、天使との別れ...




マンションの一階には喫茶マリエール。ヤクザからの銃撃を防ぐために本が積み上げられているのだという。

よく見ると、







この日は残念ながら、人数の多さと閉店時間直前だったことを理由に入店を断られてしまったが、とても素敵なお店だ。




季節毎に着せ替えを楽しんでいるお洒落なペンギンがいる。




この喫茶店の近くに天使がいた記憶があるけど、どこだったか正確な位置を忘れた。(2026/2/21撮影)

郵便局や教会、ホテルもあるような大通りに出て、再び左に曲がる。




不思議な空間




すごい、自転車の積まれ方




その先に、店先の鍋で大きな肉まんを温めている中華料理店がある。

喫煙スペースで、神宮寺さんと松本君が煙草を吸っている。二人のツーショットを撮ってみた。写真はブレていたが、参加者の仲が段々温まり始めているのを感じるやさしい一枚になった。

鼠が走るのを見ながら、肉まんを食べた。私は肉まんを食べ終えることができず、カバンにそれを閉まった。




22:52、天使が素敵な笑顔で帰って行った。




信号待ち






天使の羽の様に真っ白な木




この辺りはよく猫がいて、撫でさせてくれたりもする(2026/2/21撮影)




手紙の様だ

黒豹さんによると、この辺りで庭先に沢山の服などを売る家があったという。その時に撮った一枚の写真を頼りに探し回った。けれど、何度リサーチしてもその家は見つからず“謎バザー”と名付けられた。




これから向かうのは銭湯・万年湯。銭湯のことを「風呂」と表現する黒豹さん。ここでは全身にタトゥーが入っていても、湯に浸かることができる。ふと脱衣所で横を向いたらここで合流する予定のリカコさんだった。彼女の腕に、彼女の好きな花の絵が描かれていた。

風呂上がり、肉まんがあるよ、とリカコさんに差し出したら、食べかけだったから驚き混じりに笑われてしまった。そっか、確かに齧りかけだ…と思っていたらリカコさんはそれを食べてくれた。




私達の夜はまだまだ続く。天使に見守られながら、漂っている。商業的な意味合いの強い昼の観光地としての賑わいはそこにはなく、終電前の新大久保には、ある種の静けさがある。そしてこの日はまだ春を迎える前の寒い冬の日だった。その中で町を歩くと、ヘイトの言葉や監視の視線を見つけると同時に、星空のある百均や服を着せられたペンギン、チャイや肉まん、銭湯…書ききれないほど沢山の、ここにある暮らしとささやかな温もりが、矜持というべきか、確かさを持って感じられるのだった。

写真協力:黒坂ひな、楓、ゆれる木、森君







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ゆれる木

散歩会をあちらこちらで開催しています。ケアとアートを散歩で結んだり解いたりすることが目標。

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