横浜
- 更新日: 2022/11/01
色々な顔を持つ街
横浜駅近くの美容室で髪を切った。気がつけばここのにはもう5年も通っている。初めは安く髪を染めてくれる所を探していて、ホットペッパービューティーで見つけたから行ってみただけ。美容師と会話をするのは基本的に好きじゃないのだが、担当してくれた人とは馬が合った。それまで美容院での気まずい時間に困っていた僕にとって、会話が苦にならないという事実は大きい。気がつけば担当してくれている人は昇格して、正直もう安いとは言えない値段になってしまったが、それでも通いたいと思える場所だ。
カットとパーマを終えて横浜駅構内を歩く。面白い景色があったからすかさずカメラを取り出して撮影しようとするのだが、SDカードが入っていなかった。2日前に写真をパソコンに取り込んで以来そのままだ。ショックを受けながらもすかさずスマホのカメラで撮影した。OPPOの安いスマホではあまり上手く景色を切り取れなかった。
駅の外に出ると目の前に崎陽軒の本店があった。これは行くしかないと意気揚々と入ったのだが、中はまるで高級レストランといった面持ち。崎陽軒の歴史とかの展示があるかと思ったのに…… 残念だ。
その後、知り合いとの電話を済ませて、意味もなくコンビニのイートインコーナーでぼーっとしたのちに、自転車を借りて西へ進んだ。今日横浜に来た目的は髪を切ることとの他にもうひとつ、とある景色を見ること。目的地に向かってただただペダルを漕ぐ。日差しは強い。巷では秋が始まっているなんて言うが、まだまだ夏真っ盛りと言っても過言ではないくらいには暑かった。
駅でいうと高島町から桜木町辺りまでの線路沿い、高架下というのかトンネルというのか、いわゆるキューブリック的景色。写真だと伝わりづらいが、進めど進めど同じ形のアーチが続くのは面白かった。もちろん無限に続くことはなく、桜木町の駅付近で普通の歩道に出るのだが。
この辺りは所謂横浜的な煌びやかな港町のオーラはなく、華のない一地方都市という感じ。ただこの線路を超えた向こう側は桜木町で、皆がイメージするTHE・横浜的風景が広がっている。線路1つ跨ぐだけでここまで空気が変わるのだ。もちろんキラキラ観光地的な横浜も好きだが、地味で色のないこちら側の横浜も愛おしい。肩肘張らずにのびのびと歩ける。
僕が横浜が好きな理由がそれ。キラキラした観光地だけじゃなくて様々な顔を持っている。中華街もあるし、工業地帯もあるし、市場もあるし、ドヤ街もあるし、高級住宅街もある。10分歩けば街の雰囲気はガラリと変わる。一言では言い表せないような雑多な感じが好みだ。
やがて僕は日本大通り付近に到着した。ここには横浜地方裁判所がある。僕がかつてしていたアルバイトで、何度も訪れた場所だ。そのバイトはバックレに近い形でやめているので心が落ち着くかと言われるとそうではないが、でも僕はこの裁判所が好きだった。
というよりも裁判所がある街が好きだったのかも。裁判所を出て左に進むと直ぐに海が見える。付近の道路もかなり綺麗に舗装されていて居心地が良かった。時々おじいさんが路肩に座ってキャンパスに絵を描いていたり。
ここ以外にも色んなところへ行けたし、労働条件はとても素敵だった。それでも人は仕事を辞めてしまう。楽なだけではモチーベーションに繋がらないということだ。辛くてもダメ、楽すぎてもダメ、人の心は難しい。
そんなことを考えながら裁判所近辺を後にする。名残惜しくはない。
山手公園や中華街を超えた先にある山下橋の交差点を渡ると、いよいよ煌びやかな観光地とはお別れで、より地方都市としての顔が見えてくる。街の色のようなものがはっきりしていない街。誰かに自慢するためじゃない、リアルな生活が根付いた街だ。少し進んで大きなトンネルを抜けて、軽く坂を登るとそこはこんな景色。
この写真だけ見せられたらどこか片田舎の風景だと勘違いするだろうな。もちろんここは神奈川県横浜市なのだけどね。
写真は撮り忘れたが、本当に本当に傾斜がきつい坂を登りきると、そこには山手の高級住宅街が広がっている。開国してから外国人の居住地として発展し、墓地や教会など今なお当時の面影を残すエリアだ。
まずは港の見える丘公園へ向かった。
展望台からは文字通り横浜の港を一望できる。素晴らしいの一言だ。横浜の様々な顔が一つの景色に収まって見れるのは楽しい。いくらでも見ていたくなるような、そんな場所だ。ちなみに夜にも来たことがあるのだが、言うまでもなく素晴らしいかった。
公園前にある交番。離島は平和だから、交番でお巡りさんがギターの練習をしているなんて聞いたことがあるが、ここも同じように木漏れ日の下で読書をしていて欲しいな。
道中”ブリキのおもちゃ博物館”という看板を見つけた。その言葉にどうしても惹かれてしまい、向かった。
ブリキのおもちゃには特段興味はないが、静かな博物館は好きだった。かつて付き合っていた女性と軽井沢に行った時もおもちゃ博物館に行ったっけな。その時には彼女とはあまり上手くいっていなかったので楽しい旅行とは言いきれなかったが、その博物館の暖かくて柔らかい空気感だけは未だに思い出せる。
静かで人も少なく、柔らかい空気が漂っている場所。それを期待して入ったが、期待通りだった。入口には白くて大きい犬が鎮座していた。入館料として200円を払い中へ。広くない館内には6000種類以上のおもちゃ所狭しと展示されている。平日の昼間というのも相まって客は僕以外に一人だけ。静かで柔らかく暖かい空気が充満していた。正直な話、ブリキのおもちゃ自体の魅力はあまり分からなかったが、熱狂的なファンが好きな物を片っ端から集めたという事実が心地よかった。
入口にいた白くて大きい犬と触れ合う。ロビーくん(書いてて気がついたのだが、入口にいるからロビーくんなのかもしれない……)。11歳、おじいちゃん犬だ。館長曰く、怒ったことがないらしい。その言葉の通り穏やかで愛らしい存在だった。館長は、「自分は怒りっぽいけどロビーを見ていると小さなことでかっかしていてはいけないと思わされる」と言っていた。
たしかにそうだな。何事に対しても大らかな存在でいたいと思うし、同時に彼と触れ合っていると穏やかな気持ちでいられる。ロビーくんに舐められた感覚がまだ手に残っている中、僕はここを後にした。
そして、やっと、やっとのこと本来の目的地へ向かう。
それがここ、元町公園のプールだ。
森の中にぽつんと市営のプールがある。なんて素晴らしい光景なのだろう。ここで物語が始まりそうな、そんな場所。今回僕は入らなかったが、1時間200円で入場できる。珍しく刺青OKということで、多様性を許容する懐の広さを感じる。コロナウイルスが蔓延する前に一度だけ行ったのことがあるのだが、色々な背景を抱えてそうな人々が、互いに干渉することなく自分の時間を過ごしていたのが印象的だ。残念ながら今年は既に営業を終えてしまっているのでもう入ることは出来ないが、ぜひ来年は泳ぎにいきたい。
森の中にあるプール、心が安らぐ思えばこのプールも辞めたバイト中にGoogleマップを見ていたら発見したんだったかな。そう思うとあのバイトで得るものは沢山あったのかもしれない。
横浜、改めて面白い街だ。昼間に髪を切っていたのが遠い昔のように感じられる。同じ街の中に全く違う顔の街がいくつもある。違う顔の街には違う時間が流れている。
帰ろうと思って自転車に乗る。ふと道の端に目をやると、中学生くらいの人間がカバンを置いて野良猫を撫でていた。そんな物語を感じさせる街を後にして、僕は日常へと帰っていく。
カットとパーマを終えて横浜駅構内を歩く。面白い景色があったからすかさずカメラを取り出して撮影しようとするのだが、SDカードが入っていなかった。2日前に写真をパソコンに取り込んで以来そのままだ。ショックを受けながらもすかさずスマホのカメラで撮影した。OPPOの安いスマホではあまり上手く景色を切り取れなかった。
駅の外に出ると目の前に崎陽軒の本店があった。これは行くしかないと意気揚々と入ったのだが、中はまるで高級レストランといった面持ち。崎陽軒の歴史とかの展示があるかと思ったのに…… 残念だ。
その後、知り合いとの電話を済ませて、意味もなくコンビニのイートインコーナーでぼーっとしたのちに、自転車を借りて西へ進んだ。今日横浜に来た目的は髪を切ることとの他にもうひとつ、とある景色を見ること。目的地に向かってただただペダルを漕ぐ。日差しは強い。巷では秋が始まっているなんて言うが、まだまだ夏真っ盛りと言っても過言ではないくらいには暑かった。
駅でいうと高島町から桜木町辺りまでの線路沿い、高架下というのかトンネルというのか、いわゆるキューブリック的景色。写真だと伝わりづらいが、進めど進めど同じ形のアーチが続くのは面白かった。もちろん無限に続くことはなく、桜木町の駅付近で普通の歩道に出るのだが。
この辺りは所謂横浜的な煌びやかな港町のオーラはなく、華のない一地方都市という感じ。ただこの線路を超えた向こう側は桜木町で、皆がイメージするTHE・横浜的風景が広がっている。線路1つ跨ぐだけでここまで空気が変わるのだ。もちろんキラキラ観光地的な横浜も好きだが、地味で色のないこちら側の横浜も愛おしい。肩肘張らずにのびのびと歩ける。
僕が横浜が好きな理由がそれ。キラキラした観光地だけじゃなくて様々な顔を持っている。中華街もあるし、工業地帯もあるし、市場もあるし、ドヤ街もあるし、高級住宅街もある。10分歩けば街の雰囲気はガラリと変わる。一言では言い表せないような雑多な感じが好みだ。
やがて僕は日本大通り付近に到着した。ここには横浜地方裁判所がある。僕がかつてしていたアルバイトで、何度も訪れた場所だ。そのバイトはバックレに近い形でやめているので心が落ち着くかと言われるとそうではないが、でも僕はこの裁判所が好きだった。
というよりも裁判所がある街が好きだったのかも。裁判所を出て左に進むと直ぐに海が見える。付近の道路もかなり綺麗に舗装されていて居心地が良かった。時々おじいさんが路肩に座ってキャンパスに絵を描いていたり。
ここ以外にも色んなところへ行けたし、労働条件はとても素敵だった。それでも人は仕事を辞めてしまう。楽なだけではモチーベーションに繋がらないということだ。辛くてもダメ、楽すぎてもダメ、人の心は難しい。
そんなことを考えながら裁判所近辺を後にする。名残惜しくはない。
山手公園や中華街を超えた先にある山下橋の交差点を渡ると、いよいよ煌びやかな観光地とはお別れで、より地方都市としての顔が見えてくる。街の色のようなものがはっきりしていない街。誰かに自慢するためじゃない、リアルな生活が根付いた街だ。少し進んで大きなトンネルを抜けて、軽く坂を登るとそこはこんな景色。
この写真だけ見せられたらどこか片田舎の風景だと勘違いするだろうな。もちろんここは神奈川県横浜市なのだけどね。
写真は撮り忘れたが、本当に本当に傾斜がきつい坂を登りきると、そこには山手の高級住宅街が広がっている。開国してから外国人の居住地として発展し、墓地や教会など今なお当時の面影を残すエリアだ。
まずは港の見える丘公園へ向かった。
展望台からは文字通り横浜の港を一望できる。素晴らしいの一言だ。横浜の様々な顔が一つの景色に収まって見れるのは楽しい。いくらでも見ていたくなるような、そんな場所だ。ちなみに夜にも来たことがあるのだが、言うまでもなく素晴らしいかった。
公園前にある交番。離島は平和だから、交番でお巡りさんがギターの練習をしているなんて聞いたことがあるが、ここも同じように木漏れ日の下で読書をしていて欲しいな。
道中”ブリキのおもちゃ博物館”という看板を見つけた。その言葉にどうしても惹かれてしまい、向かった。
ブリキのおもちゃには特段興味はないが、静かな博物館は好きだった。かつて付き合っていた女性と軽井沢に行った時もおもちゃ博物館に行ったっけな。その時には彼女とはあまり上手くいっていなかったので楽しい旅行とは言いきれなかったが、その博物館の暖かくて柔らかい空気感だけは未だに思い出せる。
静かで人も少なく、柔らかい空気が漂っている場所。それを期待して入ったが、期待通りだった。入口には白くて大きい犬が鎮座していた。入館料として200円を払い中へ。広くない館内には6000種類以上のおもちゃ所狭しと展示されている。平日の昼間というのも相まって客は僕以外に一人だけ。静かで柔らかく暖かい空気が充満していた。正直な話、ブリキのおもちゃ自体の魅力はあまり分からなかったが、熱狂的なファンが好きな物を片っ端から集めたという事実が心地よかった。
入口にいた白くて大きい犬と触れ合う。ロビーくん(書いてて気がついたのだが、入口にいるからロビーくんなのかもしれない……)。11歳、おじいちゃん犬だ。館長曰く、怒ったことがないらしい。その言葉の通り穏やかで愛らしい存在だった。館長は、「自分は怒りっぽいけどロビーを見ていると小さなことでかっかしていてはいけないと思わされる」と言っていた。
たしかにそうだな。何事に対しても大らかな存在でいたいと思うし、同時に彼と触れ合っていると穏やかな気持ちでいられる。ロビーくんに舐められた感覚がまだ手に残っている中、僕はここを後にした。
そして、やっと、やっとのこと本来の目的地へ向かう。
それがここ、元町公園のプールだ。
森の中にぽつんと市営のプールがある。なんて素晴らしい光景なのだろう。ここで物語が始まりそうな、そんな場所。今回僕は入らなかったが、1時間200円で入場できる。珍しく刺青OKということで、多様性を許容する懐の広さを感じる。コロナウイルスが蔓延する前に一度だけ行ったのことがあるのだが、色々な背景を抱えてそうな人々が、互いに干渉することなく自分の時間を過ごしていたのが印象的だ。残念ながら今年は既に営業を終えてしまっているのでもう入ることは出来ないが、ぜひ来年は泳ぎにいきたい。
森の中にあるプール、心が安らぐ思えばこのプールも辞めたバイト中にGoogleマップを見ていたら発見したんだったかな。そう思うとあのバイトで得るものは沢山あったのかもしれない。
横浜、改めて面白い街だ。昼間に髪を切っていたのが遠い昔のように感じられる。同じ街の中に全く違う顔の街がいくつもある。違う顔の街には違う時間が流れている。
帰ろうと思って自転車に乗る。ふと道の端に目をやると、中学生くらいの人間がカバンを置いて野良猫を撫でていた。そんな物語を感じさせる街を後にして、僕は日常へと帰っていく。