喫茶店大好き芸人セキ・ア・ラ・モードのネタづくり散歩【喫茶店『カド』編】

  • 更新日: 2022/08/02

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2023年に閉店する喫茶店『カド』で店主の宮地さんとおしゃべりを堪能してきたぞ~。後半はセキさんが初執筆!


 ピン芸人のセキ・ア・ラ・モードさんと喫茶店を巡りながら「ネタ探し」や「ネタづくり」をしようというこの企画、2回目の散歩は『喫茶店カド』が目的地となった。セキさんが行きたいところを決めて、わたしがくっついていくという、ちょっとしたデートのようなものである。

 喫茶店大好き芸人セキ・ア・ラ・モードさんは、とても律儀な人だ。

 企画会議をするときの喫茶店も、だらだら雑談したいだけの喫茶店も、お連れさまをもてなしたいときの喫茶店も、ネタ探し散歩用の喫茶店も、すべて自分が訪れたことのある場所から適切なところを選んでくれる、「オートマチック喫茶店検索人間」だ。

 「次の散歩、どこ行きましょうかね?」とたずねるだけで、すでに目星をつけているとっておきの店や所在地、最寄り駅から徒歩で何分かかるかという基本情報とともに、①定休日、②空いてる時間帯、③喫煙店か分煙店か禁煙店か(同伴者の好みに合わせる)⑤過去の取材有無(Web媒体のURL添付あり)などを教えてくれる。

 しかも、セキさん自身がネタにしたい喫茶店を選んでくるので、「きっとツッコミどころ満載なのだろうな……」と期待値も高い。ウワーッ!もしも喫茶店大好き芸人と付き合ったら毎日こうなるのか!! と、余計な妄想をしながら「どちらでも構いませんよ、セキさんの好きなところであれば(にっこり)」といつも冷静に返している。情報をきちきち取りにいく芸人セキさんと、どこへ行くにも超ぶらり旅な女のわたし。お互いのスタイルの違いこそが、この散歩の醍醐味であり、楽しさだ。


 押上駅の改札で待ち合わせとなり、わたしは午前中から動けるよう支度していた。この日はとてつもない炎天下で、その証明となる写真をわざわざ撮りに行くのはナンセンスにおもえるほどの暑さだった。うだるような描写は、向かう道をおさめておけば勝手に映り込む。もうそれでいいだろう……と、全身全霊で投げやりになるくらい汗だくになった。いつもなら待ち合わせ時刻より2時間は早く到着してソロ散歩をキメるわたしでも、今日はやめておこうと引き下がってしまったほどだ。
 しか~し!「がっつり予定を決めてくる目的地直行系男子」であるセキさんが、この日、遅刻を3度した。

・先方と連絡がとれません……!とりあえず13時30分でいいでしょうか。
・ライブ用の小道具を忘れました……!取りに戻るので14時にいたしましょう。
・立ちくらみが……!木陰で休んでまいります。14時30分でお願いいたします。

 厳密には連絡ミスと準備ミスと純粋な体調不良であるが、大変そうで笑ってしまった。文面からは恐縮するセキさんが低姿勢でこちらを見ているのが分かる。LINEに「すみません!」の文字がポップするたび、額の汗をぬぐうセキ・ア・ラ・モードスタンプがあればいいのにとおもった。結局、約1時間の余裕ができたので、セキさんの心配をよそに「ラッキー、散策タイムが増えた!」と小躍りしながら押上駅を歩くことにした。予定が狂うのを楽しむわたしと、目的を果たすのを気にしすぎるセキさんの図である。
 なんというか、「実際に歩く」状態がはじまる以前の出来事も含めて「散歩」だなあとおもっちゃうので、やりとりが発生しつつ支度を進めていく段階からすでにたのしい。



 押上駅にある『プリントパーク』では、東京スカイツリーを背景にした写真撮影ができる。四方八方の壁に描かれているのがウソっぽい。360度どこからでも建物が見れるといいたいのかな、とおもったが、全部同じ方角からの眺めだったかもしれない。こういうの、その場ではそこまで深く考えていないので後になって「全面撮影しておけばよかった!」とおもう。詰めの甘いのがわたしだよな。





 七夕の数日前で、『東京メトロ七夕飾り2022 ~短冊に願いを込めて~』という掲示物があった。織姫も彦星もタヌキだ。公式マスコットであるメトポンファミリーの父「メトポン」と母「チカポン」だとおもわれる。なお、息子「ポン太」はおそらく「ご参加のみなさまへお願い」という注意書きのほうで登場している。



 ちなみに、「お願い②」のイラストと内容がほとんどマッチしていなくて笑ってしまったので見てほしい。確かに待機サインを目印に並んでいる……ように見えるが、姿勢として間違っていないのは左のタヌキだけで、振りかぶってるタヌキ(真ん中)と、ボールを投げているタヌキ(右)は織姫と彦星に怒られるやつだとおもう。



 織姫チカポンと彦星メトポンの短冊。かわいい。自分の願いごとだけ押上駅の天の川(壁面)に流れていくところを想像し、ひよった挙句なにも書かずにその場を去ってしまった。書いておけばよかった、「予定を入れた日にかぎって豪雨か炎天下になる運から外れたい」と。




 例年ならばこの日は「梅雨」真っ只中のはずだった。「かさのもちかた」についてのポスターが貼られていても、なんら不自然ではない時期のはずだった。異例の梅雨明けにより、駅構内の季節感までもが崩れてしまったことに驚く。もはや雨傘ではなく日傘対応のイラストなのだとおもうしかない(見た感じ違うけど)。




 街中で見かける、やや不本意だけれど悪意のない風景にほっとする。清掃用具のないほうがきれいなのは分かっているが、自分はこのタイミングで歩いていたんだなという「瞬間の記録」がの残るほうに価値を感じてしまうというか。セキさんは、まだ来ない。




 京成線、都営浅草線の改札口にあるホワイトボード。手書きの熱量が好き。鉄道ファンというほど詳しくはないが、こういう『ぬりえ』があったら童心に戻ってちまちま好きに色付けして自分だけの電車をつくってみたい。




 『お客様は、お姫様』。ふっと流れたコマーシャルに目を奪われた。すぐ終わってしまったので、この写真を撮るために数十秒から数分、人の通らないところで嗅シャッターチャンスをうかがっていたが、駅員さんからは「あの人どうしたのかな?」と怪しまれていた気がする。






 押上駅のエレベータマークに添えられた、縦長の緑に白抜きで「g」の小文字。あれ、元々こんな表記あったっけ?地下も地上も同じ。調べてみると、表示されるアルファベットの種類は他にもあるようだ。ははーん、要するに、地上(地下)のどのエレベータがどこの地下(地上)につながっているかをその色と文字でわかるようにしたものらしい。なるほどねえ、わたしにように平面だろうが立体だろうがマップそのものを読むのが苦手な人にはかえって難解になるかもしれないが……。

 押上駅で謎解きをしているうちに、ようやくセキさんから到着の連絡がきた。



 夜にお笑いライブの出演が控えていたセキさんの両腕は、大荷物でぱんぱんだた。困った顔で、「さすがに全部持っていけないのでコインランドリーを探さないと」ときょろきょろしはじめた。「すぐそこ左です」駅じゅうを往復していたわたしには最寄りの預け場所がすぐにわかった。「ワーッ、ありがとうございます!」荷を下ろしたセキさんはまたもや額の汗をぬぐう。




 すがすがしい青空だが、わたしの口からは愚痴が。「いやセキさんもうダメですこの暑さ」「はい、メルトダウンしかけてます」「果たして我々が迷子にならず健康体のまま到着できるんでしょうか」「正直ぼくは自信ないです。地図の方角的にはあっちっぽいんですが」「2人とも方向音痴なのに目的地を決めるの散歩としては悪手じゃないですか?出たとこ勝負ってのもありですよ」「お気持ち分かります、分かります、本っっ当に分かりますけど今日はカドさんに行くと決めてるので今さら取材場所は変えませんよ」「えー、なんか絶対こっちで合ってる、みたいな目印になるものないんですかあ!?」「行ったことはあるんです、別の駅から」「別ルートの感覚なんてマップ読めないわたしたちには参考にならないじゃん、うける」……と、小競り合いのような会話をしながらのスタート。アッ、めちゃめちゃなかよしです。




 数体のキリンが寄り添っているかのような壁面植物。「くーりーさんああいうのお好きでしょ」「いいですね癒されます。じっくり観察したいところですが住人に怪しまれますよね……」「待ってましょうか(汗をふきつつ)」「いやいいです」……ぱしゃ。




 天国か地獄か、みたいな分かれ道。日かげと日なたで体感温度がまったく違うので、おもわず左を見てしまう。すると、急に立ち止まったセキさんが、真正面にある看板を指して「海抜マイナス0.7メートル地帯!?」呆然としているので「どこかの川が氾濫したらビル2~3階までは浸水しちゃうとか、そういうレベルですよねきっと」と返した。「まじまじと眺めたことなかったですけど、こんな表記もあるんですね」「ですねえ。わたし、相当ひどい台風がきたときとか避難対象になるような地域に住んでいるので、海抜どれくらいかはけっこう目がいくようになりましたよ」お互い、今まさに降りかかっている大変さ(気温の暑さ)とは関係ない話をして気を紛らわせているようだった。




 日焼け対策なのか、雨よけ対策なのか。背景の壁と窓ガラスもあわせて俯瞰すると「顔」のようにも見えてファンシーだが、ブルーシートに焦点をあてると、途端に怖くなる。赤い鳥居をくぐってまで近寄ることができず「行きましょうか……」しばらく無言で歩き続けた。




 喫茶店『カド』に到着。そう、写真中央にある建物、自転車の置いてあることろである。セキさんからは、「外観と内観のギャップが大きい」とだけ聞いていたが、確かに外から見たかんじは質素だなあ。存在を知らなければ向こう側の道路に渡ることなく、素通りしてしまうかもしれない。




 墨田区向島2丁目9、見番(けんばん)通り。セキさんがプライベートで訪れたときはこちらの道を利用したという。どこにつながっているかというと、東京スカイツリー駅だ。ほとんど一本道で楽に到着するようで、今回の押上駅にしたのは「歩いたことのないルートから来てみたかったから」だそうだ。なんと、セキさんに散歩への好奇心が芽生えはじめている……。いいことだ。




 喫茶店『カド』玄関先。セキさんが目をきらきらさせて「見てください、カドという店名よりも季節の生ジュースとかくるみパンっていうおすすめメニューのほうが文字がデカいんです、くくく」言われてみればそうだな。特に「くるみパン」は赤い文字で注目も得やすいし、ああ、くるみパンの店なんだなという印象だ。すごくストレートでイイとおもう。




 セキさん、いつもの怪しすぎるスマイルで余裕そうに写っているが、「お笑いのネタにする」前提の取材なので実は質問事項をめちゃくちゃメモってきている。わたしは何の前情報もなく素のまま初訪問しているが、セキさんは他のウェブ媒体で取り上げられたときの記事にしっかり目を通してきている。この男、用意周到だ。



 正直に言おう。喫茶店『カド』のご主人・宮地さんが話上手でひきこまれてしまい、わたしがメモっていたのはごくわずかなことだけだと。もしかしたら他媒体でもおんなじことが書かれてはいないだろうか(たぶんいない)……。ただ、1点だけ確実にお伝えしたいことがある。それは、次のことである。

 【重要情報】2023年には、建物の老朽化のため店をいったん閉じることが決定しているので、閉店間際で混雑する前に一度訪れてほしい。写真撮影も、まだ空いている今のうち。移転後は店の内装が変わってしまうから雰囲気を見収めにきてほしい。あと、ご主人の宮地さんがめっちゃしゃべるからたのしいぞ!【重要情報】



 話していてすごく共感できたのが、他のカフェ(喫茶店)には入りたくない理由についてだ。宮地さんが言うには、「喫茶店はもちろん好きですよ。でも、他の店にあまり入ろうとしないのは、自分の店を予定調和でつくりたくない気持ちがあるから。よその雰囲気に引きずられながら自分の店を作りたくないんです。芸人さんだって、今すでに売れている芸人のマーケティングをしてネタを作るってことはないんじゃないですか?だって、オリジナリティのない芸人が売れるはずないから。自分だけのネタを作るならば、まったく違う世界を覗きにいくほうがいいでしょう。それが個性や刺激になる」と。

 これには、芸人セ・キ・ア・ラ・モードさんも「うんうん、おっしゃっていることはよくわかります」と、深く頷いていた。



 宮地さんにとって喫茶店とは、「なんでもかんでも包める風呂敷みたいなもの」だという。あくまでも自分のやり方でそうあり続けたいというおもいがある、と。経営面について伺うと、少し考えてからこんなことを述べていた。

 「喫茶店って、そもそも自分が食っていけりゃいいんじゃないの?という気持ちがあって。古本屋もそうなんじゃないかな。ささやかでも生活ができて、あとは自分の時間をだいじにして生きていけたらいい。効率主義や成果主義とは真逆の世界じゃないかと思うんです。大きな店をかまえて、人を雇って、豊富なメニューで迎えられたら儲かるのは分かってますよ。でも、うちはそれをしないですね。人を使うのもイヤですし、ましてや使われるのはもっとイヤ。いつでも自由でいたいんです。まわりからは、お店やるの向いてないとおもわれそうだけど、長年ちゃんとやってるから大丈夫なんだよ(笑)」



 メニューの名付け方について伺ったところ、「活性生ジュースってうちの親父が付けたんだけど、正直言ってださい名前なんだよね。でも、覚えちゃう。ベタなセンスなんだけどウケるし、ずれたセンスだけどもっていく、みたい感覚はすごかったよ」と、お父様とのおもいでを語ってくれた。

 「生野菜をあまり食べない時代に、ジュースにすればいいんじゃないか?ってアイデアをおもいついたのが親父で。なぜかというと、二日酔いになった芸者さんやお客さんが、夕方4時くらいに青い顔をしてやってくるんですよ。これを一杯飲んで、アルコールを飛ばしてまたお座敷にあがったり、飲みに行ったりするんです。当時はユンケルみたいな栄養ドリンクもなかったから、それのさきがけみたいな飲み物でさ。いわば元祖スムージーだよね。味もなめらかになるよう調整してましたね」



 喫茶店『カド』の玄関には、「読書目的の方 長居ご勘弁を」という貼り紙がある。昨今ではカフェというとお客さんが自前の本やパソコンを持って自由にくつろぐ姿が散見されるものだが、『カド』の営業姿勢はどのようなものだろうか。

 宮地さん「うちはデートをするお客さんのために店をしているんだよ。だからそういう目的の人にきてほしいな。といっても若いカップル、既婚者、老夫婦、父と娘、母と息子、かたちはさまざまだけどね。僕が独身だから、よその子の成長をみていろんな節目をかんじるんだよなあ。愛しあっている人々がくるのがいちばんいいよ。本命の彼女と会うためにわざわざ下見で来る男性もいる。デートコースを練り上げて彼女に喜んでほしいんだろうね。若いカップルをみているのがたのしいかなあ。アラフォーの婚活カップルを見ていると、お互いにラストチャンスが近いかんじが伝わってくるから、本当にうまくいってほしいなあと思って丁寧に接客しているよ。いずれにせよ関係のいい人と一緒にきてほしい。何を食べたかより、誰と食べたかが大切だとおもうから」

 感動したセキさんが「そうですねえ、僕も関係のいい方とここに来られて本当によかったです」とにこにこしていたが、帰り際にわたしから「めっちゃ遅刻されましたけどね、うふふふふ」と皮肉をぼやかれたのは言うもでもない。




 さて。ここからは喫茶店大好き芸人セキ・ア・ラ・モードさんの初執筆の枠である。第2回目にして突然こうなったのは、セキさんがどうしても執筆に加わりたいと懇願したからだ。彼がどんな視点で、どんな考えをもって臨んでいるか、ぜひ読んでみてほしい。なお、ここに書くことのどれかは実際にお笑いライブでネタとして抽出されることになっている。


【喫茶店大好き芸人セキ・ア・ラ・モードの視点】

 カドさんは、1958年創業。2022年時点では、64年となる老舗喫茶です。僕が喫茶店巡りで参考にさせて頂いている、東京喫茶店研究所2代目所長・難波里奈さんの著書で知りました。ずっと行きたかったお店の1つです。実は、取材の前週にプライベートで行きました。入店した瞬間まるで映画のセットに飛び込んだような感覚に陥ったことを、今でも鮮明に覚えています。



 デザインを手掛けたのは、作家・志賀直哉さんの弟さんである、建築家・志賀直三さん。

 ゴージャスな店内に見惚れていると、今度はマスターである宮地さんの淀みない話術に惹かれていきます。無意識のうちに僕は「もっと、宮地さんの話が聞きたい!」と思っていました。気が付けば、お会計のときには「来週、取材させて頂けませんか?」と声を掛けていたのです。突然なのに快く引き受けて下さって、本当に有難う御座います。

 僕の方では、カドさんのメニューや内装について触れつつ、マスターの宮地さん、そして先代のお父様にもフォーカスし、個人的に印象深かったお話を書いていきます。取材当日の入店するまでに起こった出来事については、プロのライターであるくーりーさんが面白おかしく、ご冗談を交えながら書いて下さっているはずなので、どんな散歩だったかは割愛します。

~メニューについて~

■昔は、季節の生ジュースとくるみパンだけじゃなかった



 店名よりも、メニュー名の方が大きく書かれた店頭のロゴがチャーミングなカドさん。代表メニューのくるみパンは、テイクアウトでの販売もしています。





 平日でも夕方には売り切れてしまうこともあるくらい人気です。中でも1番人気は『くるみブルーベリーパンのなすモッツァレラサンド』です。



 くるみパンのサンドイッチは、しっかりとした食感とボリュームで食べ応え十分。お腹を空かせて行くのがオススメです。これまた宮地さんの味付けが絶妙で、食も進むんですよね。個人的には『くるみパンのコロッケサンド』も、中のコロッケとソースが素朴で大好きです。そんなカドさんはなんと昔、パスタも作っていたそうなんです。しかも、マスターである宮地さんの手打ち麺。そういえば手打ち麺のパスタを出す喫茶店というのは、あまり聞いたことがありません。このことは、相席していた常連さんも知らなかったようです。今はやっていませんが、是非とも食べてみたかったですね。

■カドさんは、いろんな先駆けだった



 カドさんのくるみパンに欠かせない飲み物といえば、季節の果物や野菜を使った生ジュース。名物は、7種類の野菜と果物が入った『活性生ジュース』です。もう50年以上も続くロングセラー。野菜特有の風味を感じることなく、お子様でもゴクゴクと飲めます。スムージーの先駆けと申しても、過言ではありません。ふと口に出して言いたくなる、独特なネーミングセンスも素敵ですよね。こちらを開発されたのは、先代のお父様。当時は土地柄(向島は料亭街として栄えていた)お肉を好んで召し上がる方が多く、生野菜は避けられがちだったそうです。そんな中でも『活性生ジュース』は、今でいう栄養ドリンクのようなイメージで作られたといいます。もしもカドさんが僕の自宅から徒歩圏内にあったら、最寄りの自販機でエナジードリンクを買うというモーニングルーティンはスパッと辞めて、毎朝1杯は『活性生ジュース』を飲みに通っているでしょう。ちなみに夏の暑い日は『レモンスカッシュ』もオススメです。



 レモン果汁をガツンと感じられる生搾りの、にごり系スカッシュ。たまりません。常連さんは『いちごジュース』を飲んでいらっしゃって美味しそうだったので、僕も頼みました。こちらも絶品です。



 ジュース類に、プラス150円でウォッカを混ぜることも出来ます。今でこそウォッカベースの果実系チューハイは当たり前のように販売されていますが、実はカドさんが物凄く早い段階で出されていたんですよね。もしかしたら何処かのメーカーさんも、こっそりカドさんの味や製法を研究しに来たことがあったりして。

 それから、これはメニューの話ではないのですが、ここ2年ほどで定着しつつある喫茶店の禁煙も、カドさんは2000年代前半から実施されていたそうです。利用されるお客様の7割が女性で、かつデートスポットとしても頻繁に使われることを配慮しての対応。カドさんは、お店づくりにあたって常に時代を先駆けているように感じました。


~内装について~

■様々な撮影で使われているカドさん、意外な業界からオファーも



 なんと、特別に僕をカウンターへ通してくださいました!なんだか、従業員になれた気がして嬉しいです!いつか売れたら警察の1日署長みたいに、喫茶店で1日マスターをやってみたいですね。不器用でポンコツだから、終日クレーム対応に追われそうですが。

 壁には、お父様がコレクトされていた絵画が綺麗な状態で飾られています。トータル100枚近くはあるそうで、まるで美術館のようです。これらは作品が日焼けなどしないよう、年に1回はラインナップを入れ替えていらっしゃいます。ヴィクトリアン様式の趣ある内装は多くの人を魅了し、InstagramなどのSNSで頻繁に見かけるのは勿論、テレビや雑誌をはじめとした様々なメディアにも取り上げられています。特に『嵐にしやがれ』や『有吉くんの正直さんぽ』は、放送後の反響が大きかったといいます。二宮和也さんがロケでいらしたということで、聖地巡礼に多くのファンが訪れたそうです。僕も、いつか訪ねた喫茶店をファンの方々に聖地巡礼して貰えるほどビッグな存在になりたい。果たして何回、転生したら叶うか分かりませんが。そもそも、僕のお笑いライブに来て貰えるファンを作らないといけませんね。今、これを書いている時点では1人も居ません。精進します。

 これは余談ですが、前に週刊誌から「ヌード撮影のロケ地として使わせて貰えませんか?」というオファーが来たといいます。これは流石に、お断りしたとのこと。


~マスター・宮地さんについて~

■他の喫茶店へ行かない

 僕は取材で必ず「マスターオススメの喫茶店を教えてください!」と質問するのですが、宮地さんは喫茶店へ行かないそうなんです。その理由について、こう仰っていました。

 「影響されるのが、嫌なのかもしれない。マーケティングしないようにしているね。予定調和で(お店を)作るのは楽だけど、面白くないでしょう?」

 あくまで僕の考えなのですが、個人経営の喫茶店というのは、マスターの価値観を表現する場でもあると思っています。宮地さんの中に強い芯があるからこそ、しっかりとした世界観の喫茶店が60年以上も続くんだな、と勝手ながら納得しました。そして、こうも仰っていました。

 「それならば(=他の喫茶店をマーケティングするならば)違うフィールドの人と付き合った方が、ネタも広がる気がするんだよね。」

 これは、お笑い芸人として活動している僕にとっても刺さる言葉でした。ふと「お笑い養成所時代の同期とばかり飲んでいる場合じゃないぞ!」と思いましたが、そもそも僕と飲んでくれるような仲の良い同期は1人も居ませんでした。全く記事とは関係ない情報ですよね、失礼しました。

■なんでも直せるマスター・宮地さんが、直さないもの





 レトロな巨大ラジオの修理から店内の塗装、さらにはお召し物まで、実は宮地さんが全て独学で直されています。とてつもなく器用な方です。ですがメニュー表の紙は創業以来、変えていないそうなんです。



 その理由について「自分は字が得意じゃないからね。」と、冗談混じりに仰るマスター。その直後に「お店自体が、親の形見みたいなもんだから。」と呟かれていたのを、僕は聴き逃しませんでした。

 宮地さんが、お父様の後を継がれて30年以上は経ちます。大学に入った頃には、もうお1人でお店を切り盛りしていたといいます。もしも僕が同じ立場だとしたら、どこかで逃げていたかもしれません。10代のうちからお店を経営していくことになるなんて、想像を絶するほど大変に違いありません。そんな宮地さんが、今もマスターであり続ける理由。その答えは、1時間半のインタビューで端々に表れていました。先代のお父様に対する、深い愛情です。取材していく中で宮地さんは「店を継いで、父と繋がっている面がある。」と仰っていました。おそらく宮地さんにとってカドというお店は、家族のような存在になっているのではないでしょうか。

 先述した『くるみパン』は、宮地さんの代になってから誕生した商品です。



 どんな食べ物がジュースに合うかを考え、行き着いたのが今のラインナップです。お父様が遺してくれた『生ジュース』という名物を、一体どうすれば崩さずに続けていけるか。創業以来メニュー表の紙を変えないのも、お父様への愛情表現であると僕は受け取りました。宮地さんは、カドさんを守り抜くことで家族の絆も感じていたんだと思うと、一喫茶店好きとして胸に来るものがあります。



■人生の節目に立ち会える喫茶店・カドさん

 仕事のやり甲斐について、宮地さんは「デートのお客様が来てくれるのは嬉しいね。」と仰っていました。前にカドさんを利用していたお客様が、いつの間にか奥様とお子さんを連れ「家族が出来ました!」という報告をしに来てくれたこともあるそうです。喫茶店を通じて、人生の変化に立ち会えるなんて素敵すぎます。芸人をやっている身ですが、大変に憧れます。いつか僕も同じエピソードを提供しに行きたいですね。今のところ、その兆しは無いんですけど。また、カドさんとしての目標については、こう仰っていました。「関係の良い人と来てほしいお店を作りたいね。」と。僕は、既にそうなっているのではないかと思います。


~最後に、大切なお知らせ~

■カドさん、移転します

 この記事を読んで下さった方へ、お伝えしたいことがあります。宮地さん曰く、「老朽化による立ち退きのため、来年には向島での店舗がなくなります。」とのことでした。加えて、こうも仰っていました。「ぜひ今のうちに来てください!」と。カドさんファンの方や、この記事を読んで気になって下さった方は、これから訪ねてみてください。僕も、また必ず行きます!





▼季節の生ジュースとくるみパンの店 カド


【 住所 】東京都墨田区向島2-9-9
【 アクセス 】押上駅から徒歩11分、とうきょうスカイツリー駅から徒歩12分、本所吾妻橋駅から徒歩15分ほどに位置している
【 TEL 】03-3622-8247
【 営業時間 】 11:00~20:30
【 定休日 】月曜日
※上記は2022年7月時点での店舗情報です。








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Cooley Gee

ジャンルを問わず好奇心の赴くままにコンテンツへの「突入」「徘徊」「対戦」「攻略」をする人

セキ・ア・ラ・モード

喫茶店大好き芸人です。1993年、宮城県仙台市生まれ。大学卒業後、4年間はスーツ屋さんで働いていました。名前の点(・)は区切らず、なめらかに「セキアラモード」と呼んで貰えたら嬉しいです。

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