【上野】クリムト展・特設ショップでグッズ散歩 - 『グスタフ人形』と歩く
- 更新日: 2019/06/21
東京都美術館『クリムト展』にある展覧会特設ショップ2Fでの「グッズ散歩」が、すんごく楽しい! - あたらしい散歩の提案 in 上野
「上野って、こどもがいるとめっちゃ行くよね」
わが家と同級生のお子さんを持つ親御さん(男性)からそう言われて、上野動物園(パンダ)と国際子ども図書館(めちゃくちゃある絵本)とアメヤ横丁(もっぱらケバブ)しかおもい浮かばなかったのが、2019年正月ごろのわたしだ。
▼上野恩賜公園の動物園と都美に向かう道
もちろん、美術館がいくつかあるのは知っている。
しかし、「夏休みに恐竜がわんさかいるとき」くらいしかアクセスした記憶がないのが正直なところだった。別の土地にある、ファミリー向けの体験型の施設なら、わりと何度も足を運んでいるのに。
▼『クリムト展』開催中の東京都美術館
思わず、知ったかぶりをして「ですよねー!」と答えてしまったわたしだが、現在(2019年6月)は、「ザ・上野」とでも言うべき東京都美術館にある展覧会特設ショップ(2F)で働いている。未知のゾーンをくり返し歩いてみたいという好奇心から、ショップ運営会社の短期アルバイト面接を受けたのだ。
▼『クリムト展』巨大ポスター、光が反射して神々しい!
▼都美の入り口、「京」が古い文字だと近所の人が教えてくれた
いろいろと語る前に、まず「あたらしい散歩の提案」をしよう。『クリムト展』の展覧会特設ショップで気がすむまで<グッズ散歩>していってほしい!
……と。わたしが勤めているのは『クリムト展(ウィーンと日本1900)』の公式グッズを取り扱うお店で、すべての作品群を観たあとに、そのフロアが見えてくる。
「グッズ散歩」とは、ショップ内をぐるぐるとまわることで、あらゆるアイテムを堪能する小さな旅のようなものだ。レジも、1つの旅路。通りきるまで美術館でのワクワクのお手伝いができるとうれしい。
▼表紙の異なる2種類の『クリムト展』図録が並ぶ
もともと美術が好きなかたなら、きっとすでに『クリムト展』のすごさは伝わっていることだろう。わたしはTwitterで「クリムト」「グスタフ」「都美」「稲垣吾郎」検索をする、ある種のエゴサーチマンなので(あっ、引かないで)、「行きたい!」とつぶやいている人がいっぱいいるのは知っていた。
では、それほど美術に興味がない人って、どうなんだろうか? 何も知らずに会期を終えてしまうの? それは、もったいない……!
▼『クリムト展』オリジナルのポストカードが並ぶ
美術の知識に乏しいわたしが、それでもあえてその「すごさ」を伝えるとしたら、こう言う。
「超有名な画家グスタフ・クリムトという人がいた。黄金と彩色に特徴があって、生と死とエロスを丹念に描く。彼の目にうつる風景は、素朴なようで、いつも異次元。どんなふうに世界が見えていたのか、ふしぎになる。この先、日本でこれだけの作品数が一気に展示されることはないかもしれない、というくらい集まっている。もし、峰不二子がいたら確実に、ルパンが予告状を送ってくる。それくらい貴重で、セクシーで、刺激的なものが都美にきている」
ふざけているわけじゃなくて、本当に、これくらいの感覚のほうが「どれどれ」ってなるんじゃないかなと思っている。だって、観ておかなきゃ損かも!という、よっぽどの作品群がここにはあるんだもの。
▼ポストカードは左右の壁対象に飾られている
▼中をひらくと別の世界がみえるクリアファイル
完全に、仕事自慢なんですけど、『クリムト展』展覧会特設ショップ(2F)のグッズ、きんぴかだし凝ってるしきれいだしかわいいし飽きないし、かこまれてるだけでしあわせ。
▼日本初上陸のオーストリア産ワインとシャンパンが好評
展覧会特設ショップの運営会社は株式会社Eastといって、こういった商品のマーケティングから企画、店舗デザイン、職人発掘、製造、販売までをすべて一貫して自社で行っているところだ。この、「ぜんぶやっている」というのが実は珍しいらしい。しかも、自分たちが作ったアイテムを売る人、一緒にはたらく人に対するこだわりも、かなりある。
▼『クリムト展』販売中のTシャツを着るスタッフたち
面接で、East代表の開 永一郎さんから「こんな人にショップに立ってほしいんです!」と、洗礼を受けたスタッフはみんな、グッズ愛を持っている。
接客ではみずからショップ全体の案内をするが、お客さんから声をかけられて1点1点グッズトークになるのが楽しいと思っている人も多い。どんなアイテムなのかを事前に研修はするが、自発的にさらに深掘りしてトークのネタをふやしてくる人もいる。その習慣がうまく循環して、スタッフ同士で情報交換をしながら接客をしているような毎日だ。
▼お客さんが「えっ、これ何!?」となるグスタフ人形
そして、わたしの激推しグッズは、これだ。
ソフトビニール製の「グスタフ人形」。
もう、これをただただおススメしたくて、恐れ多くもあちこちを飛び回っている開さんのFacebookまで「取材させてください!!」と突撃したくらいだ。開さん、絶対忙しいのに。
▼ガラスケースに飾られているクリムト・グスタフ氏
なぜ、ソフビの『グスタフ人形』を取り上げたいのか。
包み隠さず言うと、お客さんの反応が異常にイイのに、なにか質問されても自分ではうまく答えられないことが、けっこうあったからだ。あえておもてに出していなさそうな部分もあるし、気になってしょうがない。
▼グスタフ人形についての案内板
ショップ店員のわたし、ここ↑に書いてあること以外のひきだしがまったくない。正直、お客さんのほうが「へぇー!」という情報をくださる。
たとえば、
「そもそも自発的に男性を描くことが少なかった上に、自画像を残すこともなかった画家クリムトが、100年以上の時代を越えて日本で立体ソフビ化されているという事実が、なんかすごい」
クリムト通からみれば、「どうしてこんな姿になっちゃったの(笑)?」な状況らしい。「やっぱり猫を抱いているのか」とか、「やっぱり青い衣なのか」とか、「他にポーズはなかったのか」と言うかたもいれば、いろんな感情がこみ上げて売り場で絶句しているかたも見かけたりする。
いまだかつて、画家本人の超作り込んだソフビ人形を販売した公式の展覧会特設ショップって、おそらくないんじゃないか……? そう思うと、
▼案内板の下には大量のグスタフ人形が!
誰が作っているのか、
どうやって作っているのか、
なぜ作ることになったのか、純粋に知りたくなる。
お客さん越しに、わたしの好奇心がむくむくとわきあがってきた……。
実は、青い衣の『グスタフ人形』は、Twitterで3回ほどプチバズっている。だいたい、1,000~5,000リツイート、イイね!はおよそ2倍くらいだっただろうか。やはり、「えっ! こんな公式グッズが都美にあるの?」という衝撃が、少なからずあった証拠だと思われる。
しかし、それってやはり美術好きな人のあいだで共有された情報という印象が強い。どうにかして、絵画クラスタのみなさんではない層まで、このグスタフ人形のかわいらしさをフックにして、われらが展覧会特設ショップの中のおもしろさ、『クリムト展』の特異さを伝えられないだろうか。
▼『クリムト展』のレジ袋(ショッパー)も素敵なデザイン
かなり勝手に盛り上がって、『クリムト展』の展覧会特設ショップを現場でまとめる社員の西口さんに「取材がしたい」と訴えた。いつも通り、にっこり笑って道を教えてくれた。
そして、『ウィーン・モダン展(大阪)』や『スヌーピーミュージアム展(名古屋)』、『クリムト展(豊田)』の企画などでもろもろ動いている最中のEast代表の開さんに、「協力してほしい」と突撃したのだった。
▼ピンバッチのガチャガチャ1個500円、実はかなり人気
実は、Eastがあまり表舞台に登場しないようにしているのを、面接を受ける前からうすうす感じとっていた。ウェブ検索しても、「開 永一郎」という人物や、「株式会社East」という会社に関する記事がさほど見当たらなかったからだ。そして、面接でむちゃくちゃしゃべる開さんを見て、悟った。あえてそうしているのだろうな、と。開さんは言う。
「展覧会特設ショップは美術作品を観たお客さんが、そのときの感動や高揚感やおもいでを、グッズというお土産のかたちで持ち帰ってもらうためにあるものだと思っているんです。あくまで主役は展覧会。ぼくらが出しゃばる必要なんて、ないでしょう?」
▼罫線のない白紙のノート前はだいたい人だかり
この辺りの感覚が、『グスタフ人形』を誰が作っているか? をわざわざ明かさない理由にも、少しつながってくるようだ。
実はずっと、「日本の職人の手作り」という案内をしながら「アーティストさんとのコラボ作品はすべて名前が出ているのに、なぜ職人さんの名前は出ないのか?」と、疑問だったのだ。しかし、言われて腑に落ちた。
「アーティストの作品は、彼らの想像力やクリエイティブ、創造性が加わって商品ができあがっているでしょう。だから、敬意を込めてどなたとつくっているのかをお伝えしている。けど、職人さんというのは、Eastの企画を、実際にかたちあるものにしてくれる人たちのこと。ソフビだけじゃなくて、ノートやTシャツ、すべて職人さんが作っているものなんだよね。グッズを作っているのが誰かってことは、表舞台に出すハナシではないと思ってこれまでやってきたんだ」
▼スタッフ着用Tシャツを見て「いいね!」というお客さんも
では、なぜソフビを作ろうと思ったのだろう。
これ実は、わたしがお客さんから『グスタフ人形』に関して受ける質問の、第1位でもある。開さんいわく、
「ぼく自身が、ソフビ世代なんだよね。1960~70年代にウルトラマンや仮面ライダーやマジンガーZのソフビで遊んでいて、親近感があった」
開さんが幼い頃は、ソフトビニール人形というと駄菓子屋で誰でも買えるような、手軽なおもちゃだったそうだ。しかし今は、どちらかというとソフビが好きなマニア向けのものも増えてきている。でも今回は、気軽に買えるタイプのソフビがあってもいいかなと思った、と。
「日本で作る、東京で作るクリムト展の展覧会特設ショップだから、ソフビをだしてみたらどうかと思ったんだ」
▼ソフビとセットで購入されやすい刺繍タオル
聞いてびっくりしたのだけど、Eastがソフトビニール人形を商品として提案したのは、これが初ではないそうだ。てっきり、ソフビのグッズ自体が、これまでなかったのかと思っていた。具体的には、『長谷川町子 美術館』のグッズ制作を手掛けた時にさかのぼる。
「長谷川町子さんがご存命だった時に、ご自身が企画に携わって、ディレクションしているものがあったんだ。サザエさんとカツオくんの2種類なんだけど、それをずっと復刻したいと思っていて。でも、金型(かながた)がないと、復刻は難しくて……」
この金型を探しだしてくれたのが、今回の『グスタフ人形』を作っている職人さんなのだそうだ。もともと別の仕事を通して10年来の知人であったところに、行方不明だった金型を発見するサプライズ。さらに、『クリムト展』へとつながるのだから、すっごい、ご縁!
▼ベートーベンフリーズのリーフレットは直輸入のレア商品!
「本当に、いろんな縁とタイミングが重なったという感じ。すべてを計算づくでやっているわけではないんだよね。ぼくみたいにソフビが好きで、このグッズを喜んでくれる人は、きっといるだろうなと思って企画したものなんだ」
『グスタフ人形』は、1体1,500円(税抜き)。
1つの人形を完成させるのに、何工程も職人が手作業で仕上げていく。
展覧会特設ショップのスタッフの多くは、作業現場のようすを動画で見せてもらったことがある。これがすごかった。『グスタフ人形』がどんなふうに作られていくか? を生々しく眺めたあとは、よりいっそう愛着がわいた。
「6体×2コ=12体」ぶんのソフビを作る金型があって、1つずつ穴(金型)に液体を流し込み、熱でかためていく。そこから皮一枚ぶんだけを型からひっぱり出すのは、さすが職人さんの技。素材はやわらかい樹脂で、ある程度の弾力性があるものだが、素人がいきなりやろうとしても破れてしまうだろう。開さんが言うには、
▼グスタフ人形を下から見ると、穴があいているのが分かる
「足のほうから樹脂をひっぱるわけだから、たとえば、なるべく精巧な顔立ちにするために顔のアゴが強くひっ込んでいるような金型を作ると、ふつうならそこで切れやすくなっちゃうでしょ。そこを、ぎりぎりのところでエイッと抜け切れるようにカーブを調整しておく必要がある。そして、きれいにひっこ抜くのも職人の技なんだよね」
なるほど……。わたしがやったらクリムトの青い衣がミニスカートになってしまいそう。
ソフビとしてのリアルさを追求するなら、金型を複数使って組み合わせていく方法もある。ただ、工程が増えれば1体当たりのお値段も上がってしまう。それは避けたいので、「指人形型」という、1つの型で全身を作る製法を採用したそうだ。
▼グスタフ人形の顔を見てみると塗装が細かい!
「どう見たって青い衣のほうが面積あるのに、顔の肌の色が樹脂のベースになってるの、なぜだか分かる?」
あれ? なんでだろう。
『グスタフ人形』って、実際は11回以上もの塗装(マスキング)工程があると聞いた。3名の職人が手作業で色を吹き付けていって完成するのだが、確かに、もともとの樹脂が青ければ塗装も楽になるのではないか……?
「なぜかというと、クリムトのチャーミングな顔を、台無しにはしたくなかったんだよね。青い樹脂に肌の色をかぶせようとすると、どうしても下地の青を感じてしまう」
えーっ、そんなこだわりがあったとは。
そして、わたし自身がものすごく勘違いしていたことなのだが、塗装(マスキング)というのは決して筆で1つずつ塗っているものではないそうだ。色をつけたい部分だけ型取りされているマスクがあり、そのマスクをあてながら、スプレーで色を吹き付けていく。てっきり、ぺたぺたぬりぬりしているのかと思い込んでいた、はずかしい。でも、そんな細かな作業を1体あたり11回以上も? 本当に、手が込んでいる……。
▼展覧会特設ショップのあとに楽しめる『女の3世代』フォトスポット
「ソフビに詳しい人っているでしょう。彼らが手にとった時に、あれ!? ってちょっと驚いてもらえるくらいのクオリティを保てたら、きっと、他のお客さんにとってもうれしいことだと思うんだ」
……これは……!
ソフトビニール人形に詳しいかた、マニアのかた、『クリムト展』にお越しの際はこちらを見ていただき、その知識をぜひスタッフにご教授くださいっ! こういった遊びのあるグッズは、一緒に語れるかたがいると盛り上がるはず(もちろん接客をサボりたいわけではない)。
「やっぱり、クリムトは実在する人だったのだから、ソフビの顔も、見ていてなんだかうれしくなるようなものじゃないとね」
ここで気になったのが、『グスタフ人形』に対する、開さんのまわりにいる人々からの反響はどうなのか? だ。お客さんのリアクションは日々見ているけれど、Eastを知るかたの目には、どう映っているのだろう。
「ずっとさわってなかったTwitterをうごかすようになったのもあって、SNSとの相性がいいんだなというのは感じている。みんなとても好意的、Eastがユーモアを大事にしているのも知っているからね」
「ぼくらが理想とするショップってどんなだろう?って、いつも考えてる。売り上げをつくるだけが役割じゃなくて、展覧会に来たどれだけの人が笑顔になって帰ってくださるのかを大切にしたい」
商品を売る場所なのだからレジ打ちするひとは必要だけど、そのスキルさえあればいいってわけじゃないから!と、面接の時にくぎを刺されたことを、ふと思いだした。
わが家と同級生のお子さんを持つ親御さん(男性)からそう言われて、上野動物園(パンダ)と国際子ども図書館(めちゃくちゃある絵本)とアメヤ横丁(もっぱらケバブ)しかおもい浮かばなかったのが、2019年正月ごろのわたしだ。
▼上野恩賜公園の動物園と都美に向かう道
もちろん、美術館がいくつかあるのは知っている。
しかし、「夏休みに恐竜がわんさかいるとき」くらいしかアクセスした記憶がないのが正直なところだった。別の土地にある、ファミリー向けの体験型の施設なら、わりと何度も足を運んでいるのに。
▼『クリムト展』開催中の東京都美術館
思わず、知ったかぶりをして「ですよねー!」と答えてしまったわたしだが、現在(2019年6月)は、「ザ・上野」とでも言うべき東京都美術館にある展覧会特設ショップ(2F)で働いている。未知のゾーンをくり返し歩いてみたいという好奇心から、ショップ運営会社の短期アルバイト面接を受けたのだ。
▼『クリムト展』巨大ポスター、光が反射して神々しい!
▼都美の入り口、「京」が古い文字だと近所の人が教えてくれた
いろいろと語る前に、まず「あたらしい散歩の提案」をしよう。『クリムト展』の展覧会特設ショップで気がすむまで<グッズ散歩>していってほしい!
……と。わたしが勤めているのは『クリムト展(ウィーンと日本1900)』の公式グッズを取り扱うお店で、すべての作品群を観たあとに、そのフロアが見えてくる。
「グッズ散歩」とは、ショップ内をぐるぐるとまわることで、あらゆるアイテムを堪能する小さな旅のようなものだ。レジも、1つの旅路。通りきるまで美術館でのワクワクのお手伝いができるとうれしい。
▼表紙の異なる2種類の『クリムト展』図録が並ぶ
もともと美術が好きなかたなら、きっとすでに『クリムト展』のすごさは伝わっていることだろう。わたしはTwitterで「クリムト」「グスタフ」「都美」「稲垣吾郎」検索をする、ある種のエゴサーチマンなので(あっ、引かないで)、「行きたい!」とつぶやいている人がいっぱいいるのは知っていた。
では、それほど美術に興味がない人って、どうなんだろうか? 何も知らずに会期を終えてしまうの? それは、もったいない……!
▼『クリムト展』オリジナルのポストカードが並ぶ
美術の知識に乏しいわたしが、それでもあえてその「すごさ」を伝えるとしたら、こう言う。
「超有名な画家グスタフ・クリムトという人がいた。黄金と彩色に特徴があって、生と死とエロスを丹念に描く。彼の目にうつる風景は、素朴なようで、いつも異次元。どんなふうに世界が見えていたのか、ふしぎになる。この先、日本でこれだけの作品数が一気に展示されることはないかもしれない、というくらい集まっている。もし、峰不二子がいたら確実に、ルパンが予告状を送ってくる。それくらい貴重で、セクシーで、刺激的なものが都美にきている」
ふざけているわけじゃなくて、本当に、これくらいの感覚のほうが「どれどれ」ってなるんじゃないかなと思っている。だって、観ておかなきゃ損かも!という、よっぽどの作品群がここにはあるんだもの。
▼ポストカードは左右の壁対象に飾られている
▼中をひらくと別の世界がみえるクリアファイル
完全に、仕事自慢なんですけど、『クリムト展』展覧会特設ショップ(2F)のグッズ、きんぴかだし凝ってるしきれいだしかわいいし飽きないし、かこまれてるだけでしあわせ。
▼日本初上陸のオーストリア産ワインとシャンパンが好評
展覧会特設ショップの運営会社は株式会社Eastといって、こういった商品のマーケティングから企画、店舗デザイン、職人発掘、製造、販売までをすべて一貫して自社で行っているところだ。この、「ぜんぶやっている」というのが実は珍しいらしい。しかも、自分たちが作ったアイテムを売る人、一緒にはたらく人に対するこだわりも、かなりある。
▼『クリムト展』販売中のTシャツを着るスタッフたち
面接で、East代表の開 永一郎さんから「こんな人にショップに立ってほしいんです!」と、洗礼を受けたスタッフはみんな、グッズ愛を持っている。
接客ではみずからショップ全体の案内をするが、お客さんから声をかけられて1点1点グッズトークになるのが楽しいと思っている人も多い。どんなアイテムなのかを事前に研修はするが、自発的にさらに深掘りしてトークのネタをふやしてくる人もいる。その習慣がうまく循環して、スタッフ同士で情報交換をしながら接客をしているような毎日だ。
▼お客さんが「えっ、これ何!?」となるグスタフ人形
そして、わたしの激推しグッズは、これだ。
ソフトビニール製の「グスタフ人形」。
もう、これをただただおススメしたくて、恐れ多くもあちこちを飛び回っている開さんのFacebookまで「取材させてください!!」と突撃したくらいだ。開さん、絶対忙しいのに。
▼ガラスケースに飾られているクリムト・グスタフ氏
なぜ、ソフビの『グスタフ人形』を取り上げたいのか。
包み隠さず言うと、お客さんの反応が異常にイイのに、なにか質問されても自分ではうまく答えられないことが、けっこうあったからだ。あえておもてに出していなさそうな部分もあるし、気になってしょうがない。
▼グスタフ人形についての案内板
ショップ店員のわたし、ここ↑に書いてあること以外のひきだしがまったくない。正直、お客さんのほうが「へぇー!」という情報をくださる。
たとえば、
「そもそも自発的に男性を描くことが少なかった上に、自画像を残すこともなかった画家クリムトが、100年以上の時代を越えて日本で立体ソフビ化されているという事実が、なんかすごい」
クリムト通からみれば、「どうしてこんな姿になっちゃったの(笑)?」な状況らしい。「やっぱり猫を抱いているのか」とか、「やっぱり青い衣なのか」とか、「他にポーズはなかったのか」と言うかたもいれば、いろんな感情がこみ上げて売り場で絶句しているかたも見かけたりする。
いまだかつて、画家本人の超作り込んだソフビ人形を販売した公式の展覧会特設ショップって、おそらくないんじゃないか……? そう思うと、
▼案内板の下には大量のグスタフ人形が!
誰が作っているのか、
どうやって作っているのか、
なぜ作ることになったのか、純粋に知りたくなる。
お客さん越しに、わたしの好奇心がむくむくとわきあがってきた……。
実は、青い衣の『グスタフ人形』は、Twitterで3回ほどプチバズっている。だいたい、1,000~5,000リツイート、イイね!はおよそ2倍くらいだっただろうか。やはり、「えっ! こんな公式グッズが都美にあるの?」という衝撃が、少なからずあった証拠だと思われる。
しかし、それってやはり美術好きな人のあいだで共有された情報という印象が強い。どうにかして、絵画クラスタのみなさんではない層まで、このグスタフ人形のかわいらしさをフックにして、われらが展覧会特設ショップの中のおもしろさ、『クリムト展』の特異さを伝えられないだろうか。
▼『クリムト展』のレジ袋(ショッパー)も素敵なデザイン
かなり勝手に盛り上がって、『クリムト展』の展覧会特設ショップを現場でまとめる社員の西口さんに「取材がしたい」と訴えた。いつも通り、にっこり笑って道を教えてくれた。
そして、『ウィーン・モダン展(大阪)』や『スヌーピーミュージアム展(名古屋)』、『クリムト展(豊田)』の企画などでもろもろ動いている最中のEast代表の開さんに、「協力してほしい」と突撃したのだった。
▼ピンバッチのガチャガチャ1個500円、実はかなり人気
実は、Eastがあまり表舞台に登場しないようにしているのを、面接を受ける前からうすうす感じとっていた。ウェブ検索しても、「開 永一郎」という人物や、「株式会社East」という会社に関する記事がさほど見当たらなかったからだ。そして、面接でむちゃくちゃしゃべる開さんを見て、悟った。あえてそうしているのだろうな、と。開さんは言う。
「展覧会特設ショップは美術作品を観たお客さんが、そのときの感動や高揚感やおもいでを、グッズというお土産のかたちで持ち帰ってもらうためにあるものだと思っているんです。あくまで主役は展覧会。ぼくらが出しゃばる必要なんて、ないでしょう?」
▼罫線のない白紙のノート前はだいたい人だかり
この辺りの感覚が、『グスタフ人形』を誰が作っているか? をわざわざ明かさない理由にも、少しつながってくるようだ。
実はずっと、「日本の職人の手作り」という案内をしながら「アーティストさんとのコラボ作品はすべて名前が出ているのに、なぜ職人さんの名前は出ないのか?」と、疑問だったのだ。しかし、言われて腑に落ちた。
「アーティストの作品は、彼らの想像力やクリエイティブ、創造性が加わって商品ができあがっているでしょう。だから、敬意を込めてどなたとつくっているのかをお伝えしている。けど、職人さんというのは、Eastの企画を、実際にかたちあるものにしてくれる人たちのこと。ソフビだけじゃなくて、ノートやTシャツ、すべて職人さんが作っているものなんだよね。グッズを作っているのが誰かってことは、表舞台に出すハナシではないと思ってこれまでやってきたんだ」
▼スタッフ着用Tシャツを見て「いいね!」というお客さんも
では、なぜソフビを作ろうと思ったのだろう。
これ実は、わたしがお客さんから『グスタフ人形』に関して受ける質問の、第1位でもある。開さんいわく、
「ぼく自身が、ソフビ世代なんだよね。1960~70年代にウルトラマンや仮面ライダーやマジンガーZのソフビで遊んでいて、親近感があった」
開さんが幼い頃は、ソフトビニール人形というと駄菓子屋で誰でも買えるような、手軽なおもちゃだったそうだ。しかし今は、どちらかというとソフビが好きなマニア向けのものも増えてきている。でも今回は、気軽に買えるタイプのソフビがあってもいいかなと思った、と。
「日本で作る、東京で作るクリムト展の展覧会特設ショップだから、ソフビをだしてみたらどうかと思ったんだ」
▼ソフビとセットで購入されやすい刺繍タオル
聞いてびっくりしたのだけど、Eastがソフトビニール人形を商品として提案したのは、これが初ではないそうだ。てっきり、ソフビのグッズ自体が、これまでなかったのかと思っていた。具体的には、『長谷川町子 美術館』のグッズ制作を手掛けた時にさかのぼる。
「長谷川町子さんがご存命だった時に、ご自身が企画に携わって、ディレクションしているものがあったんだ。サザエさんとカツオくんの2種類なんだけど、それをずっと復刻したいと思っていて。でも、金型(かながた)がないと、復刻は難しくて……」
この金型を探しだしてくれたのが、今回の『グスタフ人形』を作っている職人さんなのだそうだ。もともと別の仕事を通して10年来の知人であったところに、行方不明だった金型を発見するサプライズ。さらに、『クリムト展』へとつながるのだから、すっごい、ご縁!
▼ベートーベンフリーズのリーフレットは直輸入のレア商品!
「本当に、いろんな縁とタイミングが重なったという感じ。すべてを計算づくでやっているわけではないんだよね。ぼくみたいにソフビが好きで、このグッズを喜んでくれる人は、きっといるだろうなと思って企画したものなんだ」
『グスタフ人形』は、1体1,500円(税抜き)。
1つの人形を完成させるのに、何工程も職人が手作業で仕上げていく。
展覧会特設ショップのスタッフの多くは、作業現場のようすを動画で見せてもらったことがある。これがすごかった。『グスタフ人形』がどんなふうに作られていくか? を生々しく眺めたあとは、よりいっそう愛着がわいた。
「6体×2コ=12体」ぶんのソフビを作る金型があって、1つずつ穴(金型)に液体を流し込み、熱でかためていく。そこから皮一枚ぶんだけを型からひっぱり出すのは、さすが職人さんの技。素材はやわらかい樹脂で、ある程度の弾力性があるものだが、素人がいきなりやろうとしても破れてしまうだろう。開さんが言うには、
▼グスタフ人形を下から見ると、穴があいているのが分かる
「足のほうから樹脂をひっぱるわけだから、たとえば、なるべく精巧な顔立ちにするために顔のアゴが強くひっ込んでいるような金型を作ると、ふつうならそこで切れやすくなっちゃうでしょ。そこを、ぎりぎりのところでエイッと抜け切れるようにカーブを調整しておく必要がある。そして、きれいにひっこ抜くのも職人の技なんだよね」
なるほど……。わたしがやったらクリムトの青い衣がミニスカートになってしまいそう。
ソフビとしてのリアルさを追求するなら、金型を複数使って組み合わせていく方法もある。ただ、工程が増えれば1体当たりのお値段も上がってしまう。それは避けたいので、「指人形型」という、1つの型で全身を作る製法を採用したそうだ。
▼グスタフ人形の顔を見てみると塗装が細かい!
「どう見たって青い衣のほうが面積あるのに、顔の肌の色が樹脂のベースになってるの、なぜだか分かる?」
あれ? なんでだろう。
『グスタフ人形』って、実際は11回以上もの塗装(マスキング)工程があると聞いた。3名の職人が手作業で色を吹き付けていって完成するのだが、確かに、もともとの樹脂が青ければ塗装も楽になるのではないか……?
「なぜかというと、クリムトのチャーミングな顔を、台無しにはしたくなかったんだよね。青い樹脂に肌の色をかぶせようとすると、どうしても下地の青を感じてしまう」
えーっ、そんなこだわりがあったとは。
そして、わたし自身がものすごく勘違いしていたことなのだが、塗装(マスキング)というのは決して筆で1つずつ塗っているものではないそうだ。色をつけたい部分だけ型取りされているマスクがあり、そのマスクをあてながら、スプレーで色を吹き付けていく。てっきり、ぺたぺたぬりぬりしているのかと思い込んでいた、はずかしい。でも、そんな細かな作業を1体あたり11回以上も? 本当に、手が込んでいる……。
▼展覧会特設ショップのあとに楽しめる『女の3世代』フォトスポット
「ソフビに詳しい人っているでしょう。彼らが手にとった時に、あれ!? ってちょっと驚いてもらえるくらいのクオリティを保てたら、きっと、他のお客さんにとってもうれしいことだと思うんだ」
……これは……!
ソフトビニール人形に詳しいかた、マニアのかた、『クリムト展』にお越しの際はこちらを見ていただき、その知識をぜひスタッフにご教授くださいっ! こういった遊びのあるグッズは、一緒に語れるかたがいると盛り上がるはず(もちろん接客をサボりたいわけではない)。
「やっぱり、クリムトは実在する人だったのだから、ソフビの顔も、見ていてなんだかうれしくなるようなものじゃないとね」
ここで気になったのが、『グスタフ人形』に対する、開さんのまわりにいる人々からの反響はどうなのか? だ。お客さんのリアクションは日々見ているけれど、Eastを知るかたの目には、どう映っているのだろう。
「ずっとさわってなかったTwitterをうごかすようになったのもあって、SNSとの相性がいいんだなというのは感じている。みんなとても好意的、Eastがユーモアを大事にしているのも知っているからね」
クリムト展、ウィーン・モダン展両展のショップ共に、弊社が手がけてきた中でも、驚くくらいの、大人気ショップになっています。どちらも巡回があるので、東京での品切れは出来る限り回避したいのだけれど、このペースだと、難易度の高いハナシになりそう。頑張るぞ!
— 株式会社East (@TeamEastest) 2019年5月29日
「ぼくらが理想とするショップってどんなだろう?って、いつも考えてる。売り上げをつくるだけが役割じゃなくて、展覧会に来たどれだけの人が笑顔になって帰ってくださるのかを大切にしたい」
商品を売る場所なのだからレジ打ちするひとは必要だけど、そのスキルさえあればいいってわけじゃないから!と、面接の時にくぎを刺されたことを、ふと思いだした。
【ベートーヴェン・フリーズはこうしてできた!】クリムト展の見どころの一つ、全長34mに及ぶ壁画《ベートーヴェン・フリーズ》の再現展示の様子を特別に公開!
— クリムト展@東京都美術館【公式】 (@klimt2019) 2019年5月29日
重たい壁を一枚ずつ、数人がかりで慎重に持ち上げ展示します。完成した部屋は圧巻の出来栄え。ぜひ体感ください。 pic.twitter.com/hv1fxNRBgV