野良庭散歩14 【日暮里駅周辺で野良庭を探す】
- 更新日: 2026/02/12

日暮里駅周辺で野良庭を探す
子供の頃から散歩をするのが好きだった。平日昼間の住宅地は静かで、人の気配はあってもすれ違うことがほとんどない。他人の家と庭しかない地域を通るとき、私は「よそもの」だと思う。この辺りに住む人は私のことを知らない。それだけで、ささやかな冒険だった。
大人になっても私はうろうろと散歩を続けた。やがて、庭からはみ出た園芸植物や路上に生える野草の写真を撮るようになった。生命力を感じさせつつもどこか均整のとれた植物たち。そういう植物がある場所を『野良庭』と呼ぶことにした。

12月のよく晴れた日の、午後2時ごろに日暮里駅に着いた。猫で有名な街だからか、駅名の看板も猫をイメージした可愛らしいロゴになっている。

駅を出てすぐの石垣を見上げると、金網と緑が目に入った。安定の組み合わせに、野良庭への期待が高まる。眩しい西日に照らされながら私は歩き出した。

石垣の上へと続く階段を登って行くと、さっそく良いものを発見した。右から左へ読む横書き文、旧字体に年代を感じる。そしてそのフタの上にある緑。

セダムとカタバミの盛り合わせだ。鉢の浅さと可愛らしい雰囲気からして、最初は多肉植物の寄せ植えだったのかもしれない。セダム(ツルマンネングサ?)には、小さな黄色い花がひとつだけ咲いていた。

こちらも野良化した鉢植え。元々植えられていた植物はほとんど残っていない様子。左から2番目の鉢にはセダムと、逃げ出そうとしている多肉っぽい何かと、クンシランの茎っぽいものが見える。他の鉢も勝手に生えてきたであろう植物のオンパレード。

桜の名所として有名な谷中霊園の敷地に入り、中を歩いてみる。赤い花の咲いた椿の木にメジロが忙しなく跳ね回っている。開けた場所からはスカイツリーが見えた。

墓地にはススキがよく似合う。散歩している人やお参りしている人はぽつぽついるのだがとても静かで、どこも適度に整えられている。とても心地良い場所だ。

後ろ髪を引かれながらも霊園を出て住宅地を歩く。サボテンとマンリョウ(おそらく。赤い実がひとつだけ見える)の寄せ植えとは珍しい。

何が植えられていたのかわからない寄せ鉢たちと年季の入った室外機が良い雰囲気を出している。右端の鉢はカタバミに乗っ取られている。その横にはどこから生えているのかわからないアロエ。日光を求めて必死に伸びている様子がうかがえる。

ヒメツルソバの群生に出会った。金平糖のようなピンクと白の花が入り交じっている。違う種類というわけではなく、ピンクから白に変わる性質らしい。背景のトタンに趣を感じる。

菊のような黄色い花がプランターから大幅に飛び出していて驚いた。よく見ると茎が木質化しているではないか。不思議に思い調べてみると、ユリオプスデージーというキク科の低木らしいことがわかった。原産は南アフリカとのことで、日本の菊とまた違う雰囲気で面白い。

とても素敵な寄せ鉢を見つけた。丁寧に管理されているのだろう、野外に置いてあるのに雑草がひとつも見当たらない。私はもちろん、このような路上園芸も好きではあるのだが、何故だか「野良庭」と呼ぶ気にはならない。最近になってようやく、野良庭の定義や分類について深く考えるようになってきた。
私の思う野良庭は、大きく分けて二種類あるようだ。それは「庭が野良化した野良庭」と「野良が庭化した野良庭」である。前者が、元々庭に植えられていた園芸植物が逃げ出して野良化し、路上など思わぬところで逞しく生きているような場所。後者は、雑草と呼ばれるような、鑑賞価値が低いとされる野草が人為的な庭に引けを取らない美しさを見せている場所だ。
園芸用の低木が道路脇の側溝から伸びて鮮やかな実をつけていたり、元々園芸植物が植えられていた鉢に雑草が茂り、可愛らしい花を咲かせているというような状況が私はとても好きなのだ。それは人為の範疇を超えたものであり、都会で出会える自然の神秘なのである。

草が、効率的に日光を浴びるため放射状に広がっていく。それがロゼットと呼ばれ、私たちはその花束のような形状に美しさを感じる。誰が植えたわけでもなく、望まれてもいない植物が、管理された庭のように人の心を癒すこともあるはずだ。

お寺が密集した不思議な道を歩いていると、立派な木に出会った。しめ縄まで巻かれたヒマラヤスギは台東区の保護樹木(平成18年〜)であり、景観重要樹木(平成30年〜)にも指定されているらしい。ヒマラヤと付くくらいだからもちろん自生していたわけではなく、一般の人が植えたものだそう。樹齢は百年を越えているとか。

見上げてみると、電柱よりもずっと大きかった。青い空によく映える。

とてもいい感じの坂道に出た。柳の葉を西陽が透かしてきらきらしている。小さな白い犬と散歩しているおばあさんの後ろ姿も映画のワンシーンのように美しかった。

石垣の隙間からアジアンタムが生えている。人の庭から脱走したのかもしれないし、元々自生しているのかもしれない。アジアンタムは人気の観葉植物だが、南日本の在来種であるホウライシダと同じものらしい。

マンションの植え込みにいろんな草が生えていた。おそらく元々植えられていたのは黄色からピンクへと色を変える花が咲く低木のランタナ(左側)のみ。奥に茂るの斑入りの黒っぽい葉はヒメツルソバ、真ん中あたりにしぼんでいるピンクの花はハナカタバミ、つるを伸ばしている豆科っぽい小さな草はレンゲソウ、ぎざぎざした葉っぱはヤブニンジンか。全部勝手に生えてきたのだろう。様々な緑がモザイクのようで面白い。

別のマンションの植え込みに私の好きなコミカンソウが大量に生えていた。丸くて可愛い葉っぱが並び、その裏にミカンのような小さな実をつける。暗い緑色の葉に白い星形の花を咲かせているのは多分イヌホオズキ。

コミカンソウとイヌホオズキの茂みの奥にひっそりとアロエの姿が。寒さに耐えるため、葉を赤く染めているのが健気だ。

今度の石垣にはイノモトソウらしきシダが生えていた。石垣はシダにとって生きやすい環境なのだろうか。たしかに、見た目は自然の岩壁に似ている。だが、山の中に比べて圧倒的に乾燥していることは想像に難くない。

路地にアジアンタム(左)が群生していた。ここにはそれなりの湿気がありそうだ。右側には2種のカタバミが生え、お互いに領土拡大を狙っている。

撒水栓とコンクリートの隙間でイヌタデとカタバミが競い合うようにして育っている。よく見るとひび割れに苔も生えている。どの植物も、本当にたくましい。

立派な柵のあるマンションの植え込みを覗いてみる。ここもカタバミとアジアンタムだ。はみ出しているのはトラノオシダかな、などと考えていると異質な植物が目に入った。

多肉植物の「十二の巻」だ。これはきっと管理人が植えたのだろう。植え込みの端一列に大量のしましまのとげとげが並んで、ひっそりと存在感を放っていた。多肉植物にはこのように雅な和名が多い。ちなみに私は長年「霜の朝」という青みがかった葉に白く粉をふく美しい多肉植物を育てている。

そろそろ日が暮れてきた。来た道とは別ルートで駅方面へ歩き出し、少し行ったところで私は立ち止まった。なんと、タチアオイだ!梅雨時から夏にかけて咲くことでおなじみのこの花が12月に咲いている。気候変動の影響なのだろうか。ぎょっとしてしまった。

その先の坂道で見つけた、例年通り咲いている冬咲きの菊たち。放置されて久しいのだろうが、どこか前衛的な美しさを感じる。

最後にワイルドでかっこいい鉢植えを見つけた。サツキの木(多分)とリュウノヒゲという組み合わせも良い。リュウノヒゲはランナーを伸ばして脱走を試みているらしく、鉢の外側の地面にも広がっている。しかし、そもそもこれは植木鉢なのだろうか?私には、スカイブルー色の漬物樽のような気がしてならない。
私は日暮里駅周辺の、古さと清潔さの共存した、まったりとした雰囲気がとても好きだ。今度は桜が咲く頃に、また霊園を歩きたい。

ここまでご覧頂きありがとうございました。前回の散歩からだいぶ時が経ってしまいましたが、今年は積極的に野良庭を探していく所存です。次回は野良庭の定義や探し方についての記事を書く予定でいますので、何卒よろしくお願いします。最後に、道路に溢れ出しそうな勢いの、ランタナの咲く生垣をどうぞ。










