野良庭散歩3
- 更新日: 2021/08/19
野良庭と夏の花
夏が来ている。目覚めたのは早朝だったが、すでに昼の酷暑を予想させる透明な光が降り注いでいた。空は青く晴れている。外に出てみると意外にも、すぐ嫌気がさすような熱気はまだなかった。私は散歩に出ることにした。
サンダルで踏みしめるアスファルトに濃く長い影が伸びる。まだ朝日の時間帯なのだと改めて思う。生垣の下でかさこそと物音がする。きっとトカゲかなにかだろう。セミが遠くで控えめに鳴く声と、窓を開け放った民家から漏れるテレビの音だけが聞こえる。静かな朝だ。
地を這うように広がっていくスベリヒユ。多肉質の茎と楕円形の葉が可愛らしくて、雑草の中でも気に入っている。地域によっては食用にするらしい。栄養価が高いそうだ。畑沿いの道を歩くと雑に植えられたコスモスの花が目につく。トンボも飛んでいて、毎年ながら夏の性急さを感じてしまう。盛りだと思った頃には過ぎている。
通りがかったマンションの入り口にサルスベリが植えられていた。金網や格子越しの花というのがなんとも言えず好きだ。サルスベリの花をみると、子供の頃着せられた浴衣の兵児帯を思い出す。ふわふわの絞り柄と花の質感が似ていると思う。隣に植えてあったフヨウの白く立派な花はくたびれた様子だった。アリにたかられているのも物悲しい。
樹木の多い場所に来た。激しい蝉時雨が降ってくる。ミンミンゼミの「みんみん」とクマゼミの「しゅわしゅわ」にツクツクボウシの声も混じっている。そんな木々の下に蔓を伸ばしまくり、こんもりと茂ったクズに花が咲いていた。毎年咲いているだろうに見かけたのは初めてだった。形が藤の花に少し似ていてマメ科の植物であることを改めて認識する。蜜があるのか、つやつやしたマメコガネがせっせと花を渡り歩いている。
畑の一角に花を終えたヒマワリがあった。鮮やかな花びらを落とし、種を蓄え、いかにも重そうに頭を垂れている。この時期畑にヒマワリが数本植えてあるのをよく見かける。不思議に思っていたが、どうやら畑にとって有益であるらしい。ヒマワリの太い根が土を耕し、腐った茎や葉が肥料になるという。
オシロイバナが群生している。これは濃いピンク色の花も含めあちこちで見かける。黄色もあるらしいが私は見たことがない。名前の通り、種になると白粉(おしろい)のような粉が取れるそう。花が終わる頃試してみたい。
こうして歩いてみると夏は花の多い季節だなと思う。春にだって花は咲くのだが、小さく可憐なものが多い気がする。夏の花は大きくて派手だ。梅雨の時期に力を蓄え、照りつける日差しの中で咲いている花にはエネルギーがみなぎっている。もちろんそこへ集まる虫たちも。性急で儚い季節を精一杯謳歌する生き物たちを見ていると、私たちも同じ生命なのだと感じる。どうしたって夏は、浮かれたり焦ったりしてしまう。
私が今住んでいる地域に引っ越してきたのも夏だった。都会のはずなのに、周囲には畑が広がっていて小川や林があることが新鮮だった。引越したてでうまく眠れず早朝に外を歩いていたらすれ違うお年寄りみんな挨拶してくれて驚いた。寺や神社もあちこちにあり、石碑やお地蔵様の前にはナスとキュウリでできた馬が置いてある。テレビやアニメでしか知らなかった日本の夏の風景だった。北海道出身の私にとって日本の四季は少し遠い存在で、桜は5月半ばに咲くしキンモクセイは生えていないしとスネていた部分がどこかにあった。この土地に住むことになってようやく仲間に入れてもらえたような気がした。
また樹木の多い場所へ入る。桜の木の股からヤブランが生えているのを見つけた。天然の鉢植えのようで面白い。近くの木では大きなカタツムリがしっかりと殻に閉じこもり、この夏を耐え忍んでいた。
トレニアの群生だ。これはいかにも野良庭という感じ。庭のある家から逃げ出して、敷地外に増えていることが多い。可愛い花だから目を引くけれど、すごい数の花が全部こちらを向いているので少し気後れしてしまう。
だいぶ暑くなってきた。ベンチで麦茶を飲み、しばし小川を眺める。コケとシダが涼しげ、と思っていたらアジアンタムがあるではないか。好きな観葉植物だから嬉しい。家で育てたときは加湿不足ですぐに枯らしてしまったが、ここなら居心地が良さそうだ。
川辺を離れて住宅地へ。薄ピンクのフヨウが恥じらうように咲いている。初めに見た白いフヨウとは違い、まだまだ元気がありそうだ。
空き地でよく見かけるオレンジ色のコスモス。夏前からずっと咲いている。きっと強い種類なんだろう。背も高いし、たくさん咲いていると迫力がある。接写すると花に埋もれるような好みの絵面になる。
茂みの奥にひっそりと残っていた紫陽花。とっくに季節は終わって色も抜けてしまった様子。今年もお疲れ様でした。
駐車場の塀のところに咲いていたはぐれハルシャギク。コスモスに似ているが少し違う。陽気な見た目が夏っぽくて良い感じ。
最後までご覧下さりありがとうございました。この世にはいろいろな心配事がありますが夏の花たちに元気を分けてもらって生き延びたいと思います。写真や文面から、おすそわけできたなら幸いです。
サンダルで踏みしめるアスファルトに濃く長い影が伸びる。まだ朝日の時間帯なのだと改めて思う。生垣の下でかさこそと物音がする。きっとトカゲかなにかだろう。セミが遠くで控えめに鳴く声と、窓を開け放った民家から漏れるテレビの音だけが聞こえる。静かな朝だ。
地を這うように広がっていくスベリヒユ。多肉質の茎と楕円形の葉が可愛らしくて、雑草の中でも気に入っている。地域によっては食用にするらしい。栄養価が高いそうだ。畑沿いの道を歩くと雑に植えられたコスモスの花が目につく。トンボも飛んでいて、毎年ながら夏の性急さを感じてしまう。盛りだと思った頃には過ぎている。
通りがかったマンションの入り口にサルスベリが植えられていた。金網や格子越しの花というのがなんとも言えず好きだ。サルスベリの花をみると、子供の頃着せられた浴衣の兵児帯を思い出す。ふわふわの絞り柄と花の質感が似ていると思う。隣に植えてあったフヨウの白く立派な花はくたびれた様子だった。アリにたかられているのも物悲しい。
樹木の多い場所に来た。激しい蝉時雨が降ってくる。ミンミンゼミの「みんみん」とクマゼミの「しゅわしゅわ」にツクツクボウシの声も混じっている。そんな木々の下に蔓を伸ばしまくり、こんもりと茂ったクズに花が咲いていた。毎年咲いているだろうに見かけたのは初めてだった。形が藤の花に少し似ていてマメ科の植物であることを改めて認識する。蜜があるのか、つやつやしたマメコガネがせっせと花を渡り歩いている。
畑の一角に花を終えたヒマワリがあった。鮮やかな花びらを落とし、種を蓄え、いかにも重そうに頭を垂れている。この時期畑にヒマワリが数本植えてあるのをよく見かける。不思議に思っていたが、どうやら畑にとって有益であるらしい。ヒマワリの太い根が土を耕し、腐った茎や葉が肥料になるという。
オシロイバナが群生している。これは濃いピンク色の花も含めあちこちで見かける。黄色もあるらしいが私は見たことがない。名前の通り、種になると白粉(おしろい)のような粉が取れるそう。花が終わる頃試してみたい。
こうして歩いてみると夏は花の多い季節だなと思う。春にだって花は咲くのだが、小さく可憐なものが多い気がする。夏の花は大きくて派手だ。梅雨の時期に力を蓄え、照りつける日差しの中で咲いている花にはエネルギーがみなぎっている。もちろんそこへ集まる虫たちも。性急で儚い季節を精一杯謳歌する生き物たちを見ていると、私たちも同じ生命なのだと感じる。どうしたって夏は、浮かれたり焦ったりしてしまう。
私が今住んでいる地域に引っ越してきたのも夏だった。都会のはずなのに、周囲には畑が広がっていて小川や林があることが新鮮だった。引越したてでうまく眠れず早朝に外を歩いていたらすれ違うお年寄りみんな挨拶してくれて驚いた。寺や神社もあちこちにあり、石碑やお地蔵様の前にはナスとキュウリでできた馬が置いてある。テレビやアニメでしか知らなかった日本の夏の風景だった。北海道出身の私にとって日本の四季は少し遠い存在で、桜は5月半ばに咲くしキンモクセイは生えていないしとスネていた部分がどこかにあった。この土地に住むことになってようやく仲間に入れてもらえたような気がした。
また樹木の多い場所へ入る。桜の木の股からヤブランが生えているのを見つけた。天然の鉢植えのようで面白い。近くの木では大きなカタツムリがしっかりと殻に閉じこもり、この夏を耐え忍んでいた。
トレニアの群生だ。これはいかにも野良庭という感じ。庭のある家から逃げ出して、敷地外に増えていることが多い。可愛い花だから目を引くけれど、すごい数の花が全部こちらを向いているので少し気後れしてしまう。
だいぶ暑くなってきた。ベンチで麦茶を飲み、しばし小川を眺める。コケとシダが涼しげ、と思っていたらアジアンタムがあるではないか。好きな観葉植物だから嬉しい。家で育てたときは加湿不足ですぐに枯らしてしまったが、ここなら居心地が良さそうだ。
川辺を離れて住宅地へ。薄ピンクのフヨウが恥じらうように咲いている。初めに見た白いフヨウとは違い、まだまだ元気がありそうだ。
空き地でよく見かけるオレンジ色のコスモス。夏前からずっと咲いている。きっと強い種類なんだろう。背も高いし、たくさん咲いていると迫力がある。接写すると花に埋もれるような好みの絵面になる。
茂みの奥にひっそりと残っていた紫陽花。とっくに季節は終わって色も抜けてしまった様子。今年もお疲れ様でした。
駐車場の塀のところに咲いていたはぐれハルシャギク。コスモスに似ているが少し違う。陽気な見た目が夏っぽくて良い感じ。
最後までご覧下さりありがとうございました。この世にはいろいろな心配事がありますが夏の花たちに元気を分けてもらって生き延びたいと思います。写真や文面から、おすそわけできたなら幸いです。