野良庭散歩4
- 更新日: 2021/09/30
野良庭と野生
窓を開けるとキンモクセイの匂いがした。今年の秋は本当に早い。8月が終わった途端、切って落とすように季節が変わった。続いていた雨が上がって、清々しい朝だ。私は散歩に出ることにした。
通りがかった家の屋根の上にスズメたちが遊び、軒下には真っ赤なヒガンバナが咲いている。夏を諦めきれないのか、ツクツクボウシがまだやかましく鳴いている。
電車の高架を見上げると終わりかけのノウゼンカズラが下がっていた。空は青いが半袖では少し肌寒い。リュックに入れた上着を羽織るか迷いながら歩く。民家の庭先に高さ2メートルはありそうなコスモスが植えられていて、それらは紐で束ねられている。倒れないようになのか、広がらないようになのか。そもそもあんなに伸びるものなのかと驚く。
大きめの公園に入ってみる。遊具のあるゾーンを抜けると雑木林のような場所で、元はきれいに管理されていたであろう池や生垣が半ば放置されている。落ち葉やゴミの掃除などはなされているが清潔感にはほど遠い、薄暗く湿り気のある空間だ。こういう場所にはそれなりの良さがある。例えば人気がなく静かであること。日陰を好む植物が元気に育っていること。生垣を覆うシダ植物の淡い緑が美しい。
秋の虫の音が響く茂みを観察してみると、大振りな白い花がたくさん咲いていた。見慣れない花だな、と調べてみるとセンニンソウというらしい。茎や葉を切った時に出る汁や花粉には毒があり、触れるだけで炎症を起こす、とある。気軽に触れてみなくてよかった。近くに子供が遊ぶ場所があるのに放っておいてよいものだろうか?と少し気になる。危険はなんでも排除すれば良いというものでもないが。
私の好きな草のひとつ。コミカンソウ!こちらで連載を始めてから雑草の名前を調べる癖がつき、この可愛い植物の名前も知った。名前の通り、小さなミカンのような実が葉っぱの裏に規則正しく並んでいる。キュートすぎる。この時は緑っぽい色だったがだんだん赤くなるはずだ。帰化種のブラジルコミカンソウというのもよく見かけるのだがこの周囲には生えていなかった。きっと棲み分けがなされているのだろう。
ヤブミョウガ。ミョウガとは葉が似ているだけで関係はないらしい。花が終わると藍色の丸い実がつく。実際その周辺に実をつけたものもたくさんあった。他にはピンクのごく小さな花を咲かせるハゼラン、さらに小さな紅白の花をつけるミズヒキ、緑のフサの上に薄紫の花が点々と咲くキツネノマゴなど、小さな花にも目がいく。可愛い植物は身近にいくらでもあって、そのどれもに名前がついている。そのことに、しみじみと感動する。
(実はこの散歩のあと、ネット検索では飽き足らず、とうとう雑草図鑑を買ってしまった。)
シダの裏側にちらちらと茶色が見えていたから思い切って裏返してみる。予想していた点々ではなくびっしりと茶色い胞子嚢がついていて、あまりゾッとしなかった。残念。集合体恐怖症でない人は「シダ 裏側」などで検索してみて下さい。面白いので。
しばらく下生えの草ばかり見ていたが、ふと見上げると木の葉と影が美しかった。日光を透かす葉や、木漏れ日が私は好きだ。きっと多くの人が心地よく感じると思う。でもそれは何故なんだろう。幼い頃の穏やかな記憶や、それよりもっともっと古い、自分ではない生き物の感じた心地よさを追体験しているのかもなんて考える。外を歩いて植物や虫や鳥を見ることは本当に楽しい。自然は、季節どころか毎日、毎分毎秒変わっていく。その一瞬を切り取って見つめる・触れる・匂いをかぐ・名前を知る。そういうことをしていると、自分自身も自然の一部で、今生きているんだということがわかる。こんなにシンプルな充足感を味わえることって他になかなかない。自然のものに関心があるだけで、生きているのが楽しくなるなんて得だなあと私は思う。
しばらく野性味の強い植物ばかりを見てきたし、そろそろ野良庭を探す散歩に戻ろうと公園を出る。しばらく行くと、コミカンソウの群生を発見!これは在来種のコミカンソウではなく、例のブラジルコミカンソウ。一枚一枚の葉の上に小さな実がついている。この律儀さがなんとも健気で可愛くてしょうがない。細い枝の先に実がつくことから、ナガエコミカンソウという別名もあるらしい。
伸び放題の生垣に惹かれ、吸い込まれるようにしてごく小さな公園に入る。予想通り手入れされていないらしく、早速草のはみ出たベンチが出迎えてくれた。『野良庭散歩2』で紹介した「風化しつつある公園」の類である。それにしてもヤブガラシは強い。私の庭でもどんどん伸びて猛威を振るっている。
3時の形に生えた草。公園の地面は全体が砂地だった。ブランコやシーソーの他、砂場も一応あるのだが、砂は固まっていて遊べるような状態ではない。錆びた鉄棒の下には枯れたイネ科の雑草たちがふわふわと綿のように密集し、隅の方には背の高い屈強な雰囲気の草が茂っている。
公園のそばにあるマンションの庭。小さな雑草たちを従えて、アロエが暴れまわっている。立て札には全く違う植物の名前が書かれていた。アロエは少なくとも、バラ科ではない。
帰り道に見つけた、野良庭のドライフラワー。退色したアジサイと白い葉の観葉植物の組み合わせが素敵。何故だか涼しくなってくると、部屋にドライフラワーを飾りたくなる。
最後までご覧下さりありがとうございました。日毎にも昼夜にも、寒暖差が大きい時期で疲れますね。無骨なガレージの前に咲く可憐なアサガオをどうぞ。
通りがかった家の屋根の上にスズメたちが遊び、軒下には真っ赤なヒガンバナが咲いている。夏を諦めきれないのか、ツクツクボウシがまだやかましく鳴いている。
電車の高架を見上げると終わりかけのノウゼンカズラが下がっていた。空は青いが半袖では少し肌寒い。リュックに入れた上着を羽織るか迷いながら歩く。民家の庭先に高さ2メートルはありそうなコスモスが植えられていて、それらは紐で束ねられている。倒れないようになのか、広がらないようになのか。そもそもあんなに伸びるものなのかと驚く。
大きめの公園に入ってみる。遊具のあるゾーンを抜けると雑木林のような場所で、元はきれいに管理されていたであろう池や生垣が半ば放置されている。落ち葉やゴミの掃除などはなされているが清潔感にはほど遠い、薄暗く湿り気のある空間だ。こういう場所にはそれなりの良さがある。例えば人気がなく静かであること。日陰を好む植物が元気に育っていること。生垣を覆うシダ植物の淡い緑が美しい。
秋の虫の音が響く茂みを観察してみると、大振りな白い花がたくさん咲いていた。見慣れない花だな、と調べてみるとセンニンソウというらしい。茎や葉を切った時に出る汁や花粉には毒があり、触れるだけで炎症を起こす、とある。気軽に触れてみなくてよかった。近くに子供が遊ぶ場所があるのに放っておいてよいものだろうか?と少し気になる。危険はなんでも排除すれば良いというものでもないが。
私の好きな草のひとつ。コミカンソウ!こちらで連載を始めてから雑草の名前を調べる癖がつき、この可愛い植物の名前も知った。名前の通り、小さなミカンのような実が葉っぱの裏に規則正しく並んでいる。キュートすぎる。この時は緑っぽい色だったがだんだん赤くなるはずだ。帰化種のブラジルコミカンソウというのもよく見かけるのだがこの周囲には生えていなかった。きっと棲み分けがなされているのだろう。
ヤブミョウガ。ミョウガとは葉が似ているだけで関係はないらしい。花が終わると藍色の丸い実がつく。実際その周辺に実をつけたものもたくさんあった。他にはピンクのごく小さな花を咲かせるハゼラン、さらに小さな紅白の花をつけるミズヒキ、緑のフサの上に薄紫の花が点々と咲くキツネノマゴなど、小さな花にも目がいく。可愛い植物は身近にいくらでもあって、そのどれもに名前がついている。そのことに、しみじみと感動する。
(実はこの散歩のあと、ネット検索では飽き足らず、とうとう雑草図鑑を買ってしまった。)
シダの裏側にちらちらと茶色が見えていたから思い切って裏返してみる。予想していた点々ではなくびっしりと茶色い胞子嚢がついていて、あまりゾッとしなかった。残念。集合体恐怖症でない人は「シダ 裏側」などで検索してみて下さい。面白いので。
しばらく下生えの草ばかり見ていたが、ふと見上げると木の葉と影が美しかった。日光を透かす葉や、木漏れ日が私は好きだ。きっと多くの人が心地よく感じると思う。でもそれは何故なんだろう。幼い頃の穏やかな記憶や、それよりもっともっと古い、自分ではない生き物の感じた心地よさを追体験しているのかもなんて考える。外を歩いて植物や虫や鳥を見ることは本当に楽しい。自然は、季節どころか毎日、毎分毎秒変わっていく。その一瞬を切り取って見つめる・触れる・匂いをかぐ・名前を知る。そういうことをしていると、自分自身も自然の一部で、今生きているんだということがわかる。こんなにシンプルな充足感を味わえることって他になかなかない。自然のものに関心があるだけで、生きているのが楽しくなるなんて得だなあと私は思う。
しばらく野性味の強い植物ばかりを見てきたし、そろそろ野良庭を探す散歩に戻ろうと公園を出る。しばらく行くと、コミカンソウの群生を発見!これは在来種のコミカンソウではなく、例のブラジルコミカンソウ。一枚一枚の葉の上に小さな実がついている。この律儀さがなんとも健気で可愛くてしょうがない。細い枝の先に実がつくことから、ナガエコミカンソウという別名もあるらしい。
伸び放題の生垣に惹かれ、吸い込まれるようにしてごく小さな公園に入る。予想通り手入れされていないらしく、早速草のはみ出たベンチが出迎えてくれた。『野良庭散歩2』で紹介した「風化しつつある公園」の類である。それにしてもヤブガラシは強い。私の庭でもどんどん伸びて猛威を振るっている。
3時の形に生えた草。公園の地面は全体が砂地だった。ブランコやシーソーの他、砂場も一応あるのだが、砂は固まっていて遊べるような状態ではない。錆びた鉄棒の下には枯れたイネ科の雑草たちがふわふわと綿のように密集し、隅の方には背の高い屈強な雰囲気の草が茂っている。
公園のそばにあるマンションの庭。小さな雑草たちを従えて、アロエが暴れまわっている。立て札には全く違う植物の名前が書かれていた。アロエは少なくとも、バラ科ではない。
帰り道に見つけた、野良庭のドライフラワー。退色したアジサイと白い葉の観葉植物の組み合わせが素敵。何故だか涼しくなってくると、部屋にドライフラワーを飾りたくなる。
最後までご覧下さりありがとうございました。日毎にも昼夜にも、寒暖差が大きい時期で疲れますね。無骨なガレージの前に咲く可憐なアサガオをどうぞ。