野良庭散歩番外編 公園の緑たち
- 更新日: 2024/02/27
10ヶ所の公園を巡り見えてきたもの
野良庭散歩の記事を書き始めて2年余りが経過した。道端に生える野良っぽい園芸植物をメインに、時々住宅地の公園に入ってそこに植えられた草花や雑草の写真を撮ってきた。多くの公園に植えられている人気の草花があることに気付いたり、伸び放題かと思いきや、いつの間にかやりすぎなくらい剪定されている樹木に驚いたりするうちに、植栽の管理について知りたいと思うようになった。
しばらく図書館で探してみたが、自然公園や庭園についての本はあっても街中の公園についてまとめたものは見つからなかった。どうやら教養系の一般書籍にはなりにくいジャンルのようだ。そうなってくるとますます気になる。そもそも公園とは何なのか。
暑さがなかなか落ち着かない初秋のある日、私はとにかく公園を回ってみようと思い立った。以前住んでいた家を起点に半径2キロ圏内の公園を10ヶ所回り、植物の写真を撮った。これは、撮り溜めた写真を見ながら公園について調べ考えた記録である。
※引っ越したとはいえ今でも関わりの深い土地のため公園の名前は全て仮名(番号順に①〜⑩公園)で記すこととする。
まずは「野良庭散歩」始まりの地、Googleマップにも載っていない名もなき公園から紹介する。(仮にここを①公園とする。)伸び放題の藤棚が印象的だ。私が以前住んでいた家の近くにあり「いつ来ても誰もいないから気楽」という理由で幼い娘を連れてよく来ていた。遊具は年季の入ったブランコとシーソーと鉄棒だけで、あまり手入れされていない植栽と雑草がワイルドに絡み合う光景が見られる。
民家の敷地との境目に植えられている低木にヤブガラシが絡みつき、花を咲かせていた。「藪枯らし」の名に恥じない雑草根性を見せつけていた。
ここに通っていたのはもう7年ほど前になる。娘が遊具で遊んでいる間、公園の中をぶらぶらしながら手持ち無沙汰に植物の写真を撮った。ツヤツヤしたツバキの葉をフレームいっぱいに写すと迫力が出ることに気付き、それ以来屋外で見つけた植物を好みの雰囲気に撮れるよう試行錯誤するようになった。
それが私の野良庭探しの始まりだったように思う。サツキの小さな葉も近づいてみるとロゼット状になっていて可愛らしいことを発見する。もっともその頃はサツキとツツジの違いもよくわかっていなかった。
いつしか雑草の名前にも興味を持つようになっていた。草むらのなかに生えていたこのごく小さな白い花はノミノツヅリ。どんなに小さな草花でも名前があり、その由来がある。ひとつひとつ覚えていくことの楽しさを知った。
柵の前にシュロが生えていた。元は花壇だったのだろうか。この荒れ具合からして、他の草花は枯れてシュロだけが生き残ったのではないかと想像してしまう。藤棚の下にある、砂を入れ替えられなくなって久しいであろうカチカチの砂場にも哀愁が漂う。
①公園からほど近い②公園には足を踏み入れたことがなかった。団地の敷地にある公園で、賑わっていることが多かったためだ。藤棚がある点は①公園と共通しているが、比べてみると随分と手入れが行き届いているように感じる。樹木は適度に剪定され、水飲み場や遊具はそれなりに掃除されている。
花壇にはアジサイが植えられていた。花のシーズンはとっくに終わっていたが、葉の色が鮮やかだ。
規則正しく並んだエンジュの丸い葉っぱが可愛らしい。トゲが見当たらないところからしてトゲナシハリエンジュだろうか。ハリエンジュの別名はニセアカシアという。ニセだとかニセじゃないとか、トゲありとかトゲなしとか、そもそもトゲなのかハリなのか、ややこしい名付けだなと思う。
石畳の隙間からチドメグサが生えていた。上から見ると何かの文字のように見えて面白い。
さて、①公園と②公園。同じ市内にある公園だが管理体制にかなりの差があるように思える。公園の管理は誰がどのように行なっているのだろう。
『公園 管理者』と検索してヒットした八王子市のサイトにはこう記載されている。
自治体が設置した公園の植栽の管理はほとんど民間業者に委託しているということらしい。委託業者一覧を見ると公園管理専門の会社が多く、造園業者が請け負うものと思っていたから驚いた。公園によって別々の業者が管理しているとしたら、管理体制や技術力に差が出るのは理解できる。しかしそれにしても①公園の放置っぷりは群を抜いている。そこで私は、隣接するマンション(こちらもGoogleマップには建物名など載っていない。)の住人たちが管理を任されている可能性について考えた。あのマンションも古びていて活気に乏しかったが、昔は若い居住者がたくさんいて管理活動も活発だったのかもしれない。遊具と植栽がしっかりと管理され、賑やかに子どもたちが遊ぶあの公園を想像してみると少し切ない。
サルスベリの木は公園だけでなく道路脇やマンションの植え込みでもよく見かける。「百日紅」と書くように、長く花を楽しめるのが人気の理由なのだろう。
市や区の他、町の自治会が設置する公園もある。こちらの③公園がそれにあたる。滑り台、ジャングルジム、ブランコなど基本的な遊具が置かれ、綺麗というわけではないが管理はしっかりされている印象だ。
この公園は全体が砂っぽい固い地面なのだが、そこから急にクワの若木のようなものが生えていて目を引いた。鳥のフンから育ったのだろうか。付近にはカリンの木があるし、もしかしたら実がなる木として誰かが植えたのかもしれない。
隅の方にシャリンバイらしき若木もあった。こういう木は、勝手に生えてくるものだろうか?自分の好みで公園に木を植えている自治会員がいるのではと勘繰ってしまう。
公園の設置、管理についてはだいたいわかった。では、そもそも公園とはなんだろう。『公園 定義』と入力してネット検索してみると、国土交通省のサイトがヒットした。そこにはこう書かれている。
なるほど、緑があって遊具があって、という多くの人がイメージするような公園は『都市公園』と呼ばれるようだ。さらに細かくみると都市公園の中にも種類があり、私が度々野良庭を探す過程で入っている住宅地にある公園は『住区基幹公園』とされ、その規模によって街区公園<近隣公園<地区公園に分類されるということがわかった。
一番小規模な『街区公園』でも0.25ヘクタール=2500平方メートル程度とされているのだから、都会の住宅地にあるこぢんまりした公園のほとんどがその内に入るだろう。
道路沿いに見つけた④公園の敷地面積は約200平方メートル。一般的なコンビニ程度の広さでベンチとシーソーとスプリング遊具がふたつあるだけの、ごく小さな公園だ。ほとんど空き地のような印象を受ける場所だが、市立の街区公園である。
日陰にはにょきにょきとヒガンバナのつぼみが伸びていた。ヒガンバナは何もないところから急に花茎のみを伸ばしてくるから、わかっていてもギョッとしてしまう。
コンクリートの壁の前にレッドロビンらしき木が生え、その両側に小さな植木鉢が置いてある。土だけが入っていて植物は生えていない。置いた当初は何か植えられていたのだろうか。敷地が狭く、遊具も少ないここはその分穏やかで、ごく近隣に住む乳幼児連れにとってちょうど良い公園なのではないかと思った。
娘の幼稚園時代さんざんお世話になった⑤公園の敷地面積は約12500平方メートル。④公園の60倍以上の規模だが、これでもまだまだ街区公園である。ここの藤棚はとても立派で、棚の下にはベンチとテーブルが置かれている。大型の遊具もたくさんあり、地形の傾斜を利用したロープ上りなどのアスレチックも設置されていて、体力の有り余った幼児を遊ばせるのにぴったりだ。
花壇にはキミガヨランが茂っていてかなりの迫力だ。この公園の管理と放置の加減は、なんとも私好みである。
裏山につながる鬱蒼とした茂みではシダ植物が美しく光っている。この辺りでは雑草の中でもかなり山林寄りの植物を見ることができる。
清潔感に乏しいため座りたいと思ったことはないが、とても絵になるベンチ。毎回つい写真を撮ってしまう。背景の大きく育ったシュロがいい味を出している。
小さな花壇にはニチニチソウとベゴニアが、大きな花壇にはびっしりとサルビアが植えられて真っ赤な花を咲かせていた。ここは桜の名所でもあり、ソメイヨシノの木がたくさん並んでいる。他にはキンモクセイ、タイサンボクなど香ったり大きな花を付ける木が目立つ。
⑥公園はさらに広い。野球場やテニスコートも併設されたこちらの敷地面積は4万平方メートルを超えていて、住区基幹公園の中で一番規模の大きい『地区公園』に分類される。
この公園には立派な花壇があり、ジニア、マリーゴールド、センニチコウなど色鮮やかで丈夫な花がたっぷり植えられている。ここには桜がない分、ちょっとした梅園がある。他はケヤキやコナラなど雑木林風のラインナップだ。
梅園のそばにはほんの少しだけバラの花壇があり、ムラサキシキブが和の雰囲気を添えていた。⑤公園が元気に遊ぶ親子向けだとすれば、遊具がなくベンチだけが設置されているこちらは散歩する大人やお年寄り向けといったところであろう。
木々の下にびっしり生えたヤハズソウに落ち葉が降りかかっている。小さくも整った葉の形が面白い。
公園の名前と住所、敷地面積や開設年などはその自治体のホームページにPDFデータなどで公開されている。町の自治会が設置した公園についても同様だ。今回は隣接した3つの市の公園を回り、それぞれの公式サイトから検索したが、どの市でも簡単に閲覧することができた。
そこで改めて確認したのだが、やはりというべきか、自治体の公園一覧に①公園は載っていなかった。つまり、設置したのは区でも市でも町でもないということだ。大規模マンションが敷地内の公園を一般開放する『提供公園』というものもあるようだが、そんな雰囲気でもない。改めてGoogleマップを確認していると公園に面した小さな建物の名前が載っていることに気がついた。そこには「都営〇〇マンション集会所」とあった。それはどう考えても近くのマンションの集会所で、私はようやくあの①公園そばのマンションが都営住宅であることを知った。つまり、東京都が管理するマンションの敷地内の公園だから市のサイトには載っていなかったというわけだ。管理が疎かな理由はわからないままだが、だいぶスッキリした。
数年前まで頻繁に訪れていた⑦公園。ここにも藤棚があり、大きな豆のさやが下がっていた。夏には貴重な日陰となるこの下には、複数のベンチが並べられている。③公園と同じく町の自治会が設置した公園だが、ここには遊具スペースの隣にキャッチボールなどができる小さなグラウンドがある。お盆になるとそこにやぐらが建てられ自治会主催の盆踊り会場へと変貌する。元々イベント利用を考えて作った公園なのかもしれない。
公園にしては物珍しい、アオキの茂み。よく見ると黄色い斑入りの葉も混ざっている。
そしてまたもやシュロ。自生地は日本では九州以南と言われているのに東京の冬を越えこんなにも逞しく生きている。他の草木と混ざり合ってジャングルのような雰囲気を出しているのが面白い。ちなみにここの裏側はクズの葉で覆われている。
公園内に花壇はないが、柵の外側にボタンクサギが植えられていた。アジサイに似た、まったく違う種類の植物で夏から秋にかけて花を咲かせる。
こちらは住宅地の市立街区公園である⑧公園。またしても藤棚だ。今回巡った10ヶ所の公園のうち、5ヶ所に藤棚があり改めてその人気を実感することとなった。藤棚があれば、その下にはたいがいベンチがある。人工と天然の合わさった東屋といったところだろうか。生きている分、木造の東屋より長持ちしたりするのかもしれない。何より緑が目に優しく、時期は短いものの花が美しいのも魅力だ。
藤や桜や椿は公園の植栽において不動の人気を誇る樹木であろう。とはいえ、公園に植える植物はどのような基準で選ばれているのか。
今度は『公園 植栽 基準』と検索窓に入力してみた。色々なページが出てきたが、その中でも札幌市のサイトで公開されている平成31年改訂のPDFデータがわかりやすかったため、引用する。
②だけは雪国特有の事情だろうが、他は全国的に同じような基準なのではないだろうか。藤と椿は①③⑦の要件を満たしていそうだ。桜は毛虫がつきやすいイメージだが、季節を感じさせる意義の方が上回るということだろうか。だいたい、日本人のソメイヨシノに対する愛には並々ならぬものがある。
公園の隅に、ムクゲが茂みを作っていたがこちらはどうだろう。以下、撮影した植物について手持ちの書籍『改訂版 散歩で見かける街路樹 公園樹 庭木図鑑』と『改訂版 散歩で見かける草花・雑草図鑑』から植栽に選ばれた理由と思われる特徴を引用してみる。
ムクゲは夏に咲く爽やかな花というイメージがあるが、こうして秋まで花を咲かすし、生垣となって公園と街との境目を作ってくれる、というわけだ。
こちらはアベリアの生垣。アベリアの花は蜜が多いのか蝶たちに大人気である。セセリやアゲハが集まっているのをよく見かける。
可愛いだけでなく頑丈だなんて素晴らしいではないか。
⑨公園には剪定されて不思議な姿になっているクスノキがあった。
それもそうなのだろうが、私は『となりのトトロ』に登場する巨木のイメージを持っていた。大きくなりすぎないよう剪定されたクスノキがあちこちに植えられていることを知った時は驚いたものだ。
可憐な花と葉が風に揺れるシラハギがこんもりと茂っていた。
なるほど、こちらも日本人の心に訴えかける植物のようだ。
それにしてもこの公園には色々な種類の植物が植えられ、とてもよく手入れされている。
ヤブランの花も咲いていた。傷みながらも逞しく咲いているところはよく見かけるが、ここの花と葉は美しい。
なるほど、その耐陰性からあまり日の当たらない場所に植えられることが多いということか。この公園では日差しを浴びることができて、元気に育っているようだ。
白いヒガンバナを見つけると少し嬉しくなる。④公園で見かけたようにヒガンバナにも耐陰性はあるのだろうが、結局日当たりが良い方が生育が良いのだろう。こちらの花は満開だった。
このように、日本人に愛され、丈夫で、管理しやすい植物が公園の緑として選ばれている。感覚としてわかってはいたが、実際の指針を知ることができた。
いよいよ10ヶ所目。⑩公園には花壇がなく、樹木と遊具だけが配置されている。コナラの木には大量のドングリがなっていた。子供はドングリが好きだから、拾うだけでも楽しいだろう。
こちらはエゴノキ。ぶら下げ型の照明器具のような丸い実がユニーク。春には白い花が、木の実と同じく下を向いてたくさん咲くらしい。
ツバキは低く刈り込まれず大きな木になっていた。花が咲いたら壮観だろう。その頃また見に来たい。こうして、『季節感を感じさせるため花木や紅葉木(あるいは実のなる木)を植える』という公園の植栽の指針にまんまとハマってしまうのだ。
漫然と巡ってみた10ヶ所だったが、改めて公園という場所の不思議さを感じた。入場料はなく、小規模であれば常駐する管理者もおらず、誰も利用していない時間帯も多々ある、誰もが利用して良い場所。植物は植えられて管理されるものと、勝手に生えてくるものとが混じり合う。住居でも営利目的の施設でもない、読んで字のごとく公(おおやけ)の庭。都会の息苦しさを緩和する余白であり、曖昧さを受け入れてくれる場所。公園は存在しているだけで価値があるのだと思う。
今度は都市公園の歴史について知りたくなった。公園の設置された年代と流行の植物の関係など調べても面白いかもしれない。
都会の植栽、あるいは雑草の名前を知ること。それらが生えている公園の定義、管理について知ること。ただ知りたいから知るということが、私にとっては楽しい。当たり前にある身近なものに興味を持てば、リスクなしで人生を豊かにできる。興味の対象と向き合えば自分のことも見えてくるし、さらに深く探れば人との繋がりすら生まれるかもしれない。
こういうことをしていてつくづく思う。毎日が夏休み、というよりも、毎日が自由研究のような人生を送れたらきっと私は幸せなんだろう。
最後までご覧くださりありがとうございました。公園を巡ってから記事にする間に随分時間が経ってしまいました。季節が変わって大雪の日の公園の、シャーベットのような椿をどうぞ。
しばらく図書館で探してみたが、自然公園や庭園についての本はあっても街中の公園についてまとめたものは見つからなかった。どうやら教養系の一般書籍にはなりにくいジャンルのようだ。そうなってくるとますます気になる。そもそも公園とは何なのか。
暑さがなかなか落ち着かない初秋のある日、私はとにかく公園を回ってみようと思い立った。以前住んでいた家を起点に半径2キロ圏内の公園を10ヶ所回り、植物の写真を撮った。これは、撮り溜めた写真を見ながら公園について調べ考えた記録である。
※引っ越したとはいえ今でも関わりの深い土地のため公園の名前は全て仮名(番号順に①〜⑩公園)で記すこととする。
まずは「野良庭散歩」始まりの地、Googleマップにも載っていない名もなき公園から紹介する。(仮にここを①公園とする。)伸び放題の藤棚が印象的だ。私が以前住んでいた家の近くにあり「いつ来ても誰もいないから気楽」という理由で幼い娘を連れてよく来ていた。遊具は年季の入ったブランコとシーソーと鉄棒だけで、あまり手入れされていない植栽と雑草がワイルドに絡み合う光景が見られる。
民家の敷地との境目に植えられている低木にヤブガラシが絡みつき、花を咲かせていた。「藪枯らし」の名に恥じない雑草根性を見せつけていた。
ここに通っていたのはもう7年ほど前になる。娘が遊具で遊んでいる間、公園の中をぶらぶらしながら手持ち無沙汰に植物の写真を撮った。ツヤツヤしたツバキの葉をフレームいっぱいに写すと迫力が出ることに気付き、それ以来屋外で見つけた植物を好みの雰囲気に撮れるよう試行錯誤するようになった。
それが私の野良庭探しの始まりだったように思う。サツキの小さな葉も近づいてみるとロゼット状になっていて可愛らしいことを発見する。もっともその頃はサツキとツツジの違いもよくわかっていなかった。
いつしか雑草の名前にも興味を持つようになっていた。草むらのなかに生えていたこのごく小さな白い花はノミノツヅリ。どんなに小さな草花でも名前があり、その由来がある。ひとつひとつ覚えていくことの楽しさを知った。
柵の前にシュロが生えていた。元は花壇だったのだろうか。この荒れ具合からして、他の草花は枯れてシュロだけが生き残ったのではないかと想像してしまう。藤棚の下にある、砂を入れ替えられなくなって久しいであろうカチカチの砂場にも哀愁が漂う。
①公園からほど近い②公園には足を踏み入れたことがなかった。団地の敷地にある公園で、賑わっていることが多かったためだ。藤棚がある点は①公園と共通しているが、比べてみると随分と手入れが行き届いているように感じる。樹木は適度に剪定され、水飲み場や遊具はそれなりに掃除されている。
花壇にはアジサイが植えられていた。花のシーズンはとっくに終わっていたが、葉の色が鮮やかだ。
規則正しく並んだエンジュの丸い葉っぱが可愛らしい。トゲが見当たらないところからしてトゲナシハリエンジュだろうか。ハリエンジュの別名はニセアカシアという。ニセだとかニセじゃないとか、トゲありとかトゲなしとか、そもそもトゲなのかハリなのか、ややこしい名付けだなと思う。
石畳の隙間からチドメグサが生えていた。上から見ると何かの文字のように見えて面白い。
さて、①公園と②公園。同じ市内にある公園だが管理体制にかなりの差があるように思える。公園の管理は誰がどのように行なっているのだろう。
『公園 管理者』と検索してヒットした八王子市のサイトにはこう記載されている。
市内の大部分の公園緑地は、指定管理者が管理を行っています。八王子市 公園の指定管理者はこちら より引用
指定管理者制度とは、地方公共団体が設置する公園や市民会館などの公の施設の管理運営について民間事業者等への包括的な委任を可能とする地方自治法上の制度です。
(中略)
公園緑地に関する大部分の管理業務を担います。
・公園の維持管理に関する業務
樹木の剪定伐採、草刈、清掃、施設の修繕など
・施設利用に関する業務
利用申し込み、予約、使用料の収納など
・その他の業務
利用促進や地域活動、公園アドプト団体の支援など
自治体が設置した公園の植栽の管理はほとんど民間業者に委託しているということらしい。委託業者一覧を見ると公園管理専門の会社が多く、造園業者が請け負うものと思っていたから驚いた。公園によって別々の業者が管理しているとしたら、管理体制や技術力に差が出るのは理解できる。しかしそれにしても①公園の放置っぷりは群を抜いている。そこで私は、隣接するマンション(こちらもGoogleマップには建物名など載っていない。)の住人たちが管理を任されている可能性について考えた。あのマンションも古びていて活気に乏しかったが、昔は若い居住者がたくさんいて管理活動も活発だったのかもしれない。遊具と植栽がしっかりと管理され、賑やかに子どもたちが遊ぶあの公園を想像してみると少し切ない。
サルスベリの木は公園だけでなく道路脇やマンションの植え込みでもよく見かける。「百日紅」と書くように、長く花を楽しめるのが人気の理由なのだろう。
市や区の他、町の自治会が設置する公園もある。こちらの③公園がそれにあたる。滑り台、ジャングルジム、ブランコなど基本的な遊具が置かれ、綺麗というわけではないが管理はしっかりされている印象だ。
この公園は全体が砂っぽい固い地面なのだが、そこから急にクワの若木のようなものが生えていて目を引いた。鳥のフンから育ったのだろうか。付近にはカリンの木があるし、もしかしたら実がなる木として誰かが植えたのかもしれない。
隅の方にシャリンバイらしき若木もあった。こういう木は、勝手に生えてくるものだろうか?自分の好みで公園に木を植えている自治会員がいるのではと勘繰ってしまう。
公園の設置、管理についてはだいたいわかった。では、そもそも公園とはなんだろう。『公園 定義』と入力してネット検索してみると、国土交通省のサイトがヒットした。そこにはこう書かれている。
公園を設置する目的は、人々のレクリエーションの空間、良好な都市景観の形成、都市環境の改善、都市の防災性の向上、生物多様性の確保、豊かな地域づくりに資する交流の空間の提供である。国土交通省関東地方整備局 国営公園とは?都市公園とは?より引用
我が国において、一般に「公園」と呼ばれているものは都市公園に代表される営造物公園と、国立公園等自然公園に代表される地域制公園とに大別されます。
国営公園は国が維持管理を行う都市公園として、国土交通大臣が設置するものです。
都市公園とは、国営公園及び地方公共団体が設置する公園および緑地です。
なるほど、緑があって遊具があって、という多くの人がイメージするような公園は『都市公園』と呼ばれるようだ。さらに細かくみると都市公園の中にも種類があり、私が度々野良庭を探す過程で入っている住宅地にある公園は『住区基幹公園』とされ、その規模によって街区公園<近隣公園<地区公園に分類されるということがわかった。
一番小規模な『街区公園』でも0.25ヘクタール=2500平方メートル程度とされているのだから、都会の住宅地にあるこぢんまりした公園のほとんどがその内に入るだろう。
道路沿いに見つけた④公園の敷地面積は約200平方メートル。一般的なコンビニ程度の広さでベンチとシーソーとスプリング遊具がふたつあるだけの、ごく小さな公園だ。ほとんど空き地のような印象を受ける場所だが、市立の街区公園である。
日陰にはにょきにょきとヒガンバナのつぼみが伸びていた。ヒガンバナは何もないところから急に花茎のみを伸ばしてくるから、わかっていてもギョッとしてしまう。
コンクリートの壁の前にレッドロビンらしき木が生え、その両側に小さな植木鉢が置いてある。土だけが入っていて植物は生えていない。置いた当初は何か植えられていたのだろうか。敷地が狭く、遊具も少ないここはその分穏やかで、ごく近隣に住む乳幼児連れにとってちょうど良い公園なのではないかと思った。
娘の幼稚園時代さんざんお世話になった⑤公園の敷地面積は約12500平方メートル。④公園の60倍以上の規模だが、これでもまだまだ街区公園である。ここの藤棚はとても立派で、棚の下にはベンチとテーブルが置かれている。大型の遊具もたくさんあり、地形の傾斜を利用したロープ上りなどのアスレチックも設置されていて、体力の有り余った幼児を遊ばせるのにぴったりだ。
花壇にはキミガヨランが茂っていてかなりの迫力だ。この公園の管理と放置の加減は、なんとも私好みである。
裏山につながる鬱蒼とした茂みではシダ植物が美しく光っている。この辺りでは雑草の中でもかなり山林寄りの植物を見ることができる。
清潔感に乏しいため座りたいと思ったことはないが、とても絵になるベンチ。毎回つい写真を撮ってしまう。背景の大きく育ったシュロがいい味を出している。
小さな花壇にはニチニチソウとベゴニアが、大きな花壇にはびっしりとサルビアが植えられて真っ赤な花を咲かせていた。ここは桜の名所でもあり、ソメイヨシノの木がたくさん並んでいる。他にはキンモクセイ、タイサンボクなど香ったり大きな花を付ける木が目立つ。
⑥公園はさらに広い。野球場やテニスコートも併設されたこちらの敷地面積は4万平方メートルを超えていて、住区基幹公園の中で一番規模の大きい『地区公園』に分類される。
この公園には立派な花壇があり、ジニア、マリーゴールド、センニチコウなど色鮮やかで丈夫な花がたっぷり植えられている。ここには桜がない分、ちょっとした梅園がある。他はケヤキやコナラなど雑木林風のラインナップだ。
梅園のそばにはほんの少しだけバラの花壇があり、ムラサキシキブが和の雰囲気を添えていた。⑤公園が元気に遊ぶ親子向けだとすれば、遊具がなくベンチだけが設置されているこちらは散歩する大人やお年寄り向けといったところであろう。
木々の下にびっしり生えたヤハズソウに落ち葉が降りかかっている。小さくも整った葉の形が面白い。
公園の名前と住所、敷地面積や開設年などはその自治体のホームページにPDFデータなどで公開されている。町の自治会が設置した公園についても同様だ。今回は隣接した3つの市の公園を回り、それぞれの公式サイトから検索したが、どの市でも簡単に閲覧することができた。
そこで改めて確認したのだが、やはりというべきか、自治体の公園一覧に①公園は載っていなかった。つまり、設置したのは区でも市でも町でもないということだ。大規模マンションが敷地内の公園を一般開放する『提供公園』というものもあるようだが、そんな雰囲気でもない。改めてGoogleマップを確認していると公園に面した小さな建物の名前が載っていることに気がついた。そこには「都営〇〇マンション集会所」とあった。それはどう考えても近くのマンションの集会所で、私はようやくあの①公園そばのマンションが都営住宅であることを知った。つまり、東京都が管理するマンションの敷地内の公園だから市のサイトには載っていなかったというわけだ。管理が疎かな理由はわからないままだが、だいぶスッキリした。
数年前まで頻繁に訪れていた⑦公園。ここにも藤棚があり、大きな豆のさやが下がっていた。夏には貴重な日陰となるこの下には、複数のベンチが並べられている。③公園と同じく町の自治会が設置した公園だが、ここには遊具スペースの隣にキャッチボールなどができる小さなグラウンドがある。お盆になるとそこにやぐらが建てられ自治会主催の盆踊り会場へと変貌する。元々イベント利用を考えて作った公園なのかもしれない。
公園にしては物珍しい、アオキの茂み。よく見ると黄色い斑入りの葉も混ざっている。
そしてまたもやシュロ。自生地は日本では九州以南と言われているのに東京の冬を越えこんなにも逞しく生きている。他の草木と混ざり合ってジャングルのような雰囲気を出しているのが面白い。ちなみにここの裏側はクズの葉で覆われている。
公園内に花壇はないが、柵の外側にボタンクサギが植えられていた。アジサイに似た、まったく違う種類の植物で夏から秋にかけて花を咲かせる。
こちらは住宅地の市立街区公園である⑧公園。またしても藤棚だ。今回巡った10ヶ所の公園のうち、5ヶ所に藤棚があり改めてその人気を実感することとなった。藤棚があれば、その下にはたいがいベンチがある。人工と天然の合わさった東屋といったところだろうか。生きている分、木造の東屋より長持ちしたりするのかもしれない。何より緑が目に優しく、時期は短いものの花が美しいのも魅力だ。
藤や桜や椿は公園の植栽において不動の人気を誇る樹木であろう。とはいえ、公園に植える植物はどのような基準で選ばれているのか。
今度は『公園 植栽 基準』と検索窓に入力してみた。色々なページが出てきたが、その中でも札幌市のサイトで公開されている平成31年改訂のPDFデータがわかりやすかったため、引用する。
身近な公園における緑に求められる姿を整理すると次のような点を挙げることができる。札幌市 身近な公園における樹木の取扱い指針より引用
①在来種を中心に選定し、道外移入種や外来種はアクセントとして用いるようにする。特に理由がない限り早生樹種は新規植栽しないことを基本とする。
②冬季の緑の確保のために、常緑針葉樹をポイント的に植栽する。
③季節感を感じさせるために単調な植栽を避け、花木や紅葉木を植栽する。
④密植を避け、植物が健全に生長ができる空間を確保する。
⑤隣接地へ越境する可能性がある場所への植栽には十分注意する。
⑥道路建築限界や高圧線などの施設への影響がないよう、配植には十分注意する。
⑦花粉、綿毛、アブラムシの排泄物及び日照障害等、近隣への迷惑要素がある樹種は極力避けることが望ましい。
⑧防犯の観点からは、死角や暗がりができないような配植を行う。
⑨維持管理コストに負担がかからないような樹種選定や配植とする。
②だけは雪国特有の事情だろうが、他は全国的に同じような基準なのではないだろうか。藤と椿は①③⑦の要件を満たしていそうだ。桜は毛虫がつきやすいイメージだが、季節を感じさせる意義の方が上回るということだろうか。だいたい、日本人のソメイヨシノに対する愛には並々ならぬものがある。
公園の隅に、ムクゲが茂みを作っていたがこちらはどうだろう。以下、撮影した植物について手持ちの書籍『改訂版 散歩で見かける街路樹 公園樹 庭木図鑑』と『改訂版 散歩で見かける草花・雑草図鑑』から植栽に選ばれた理由と思われる特徴を引用してみる。
細枝がたくさん出てよく茂るので、生垣に向く。
ムクゲは夏に咲く爽やかな花というイメージがあるが、こうして秋まで花を咲かすし、生垣となって公園と街との境目を作ってくれる、というわけだ。
こちらはアベリアの生垣。アベリアの花は蜜が多いのか蝶たちに大人気である。セセリやアゲハが集まっているのをよく見かける。
可憐な花がたくさんつき、街路樹や公園樹として高い人気を誇る。乾燥や排気ガスにも強いため、高速道路沿いに植えられることも多い。
可愛いだけでなく頑丈だなんて素晴らしいではないか。
⑨公園には剪定されて不思議な姿になっているクスノキがあった。
『古事記』に登場するなど古くから親しまれる。
それもそうなのだろうが、私は『となりのトトロ』に登場する巨木のイメージを持っていた。大きくなりすぎないよう剪定されたクスノキがあちこちに植えられていることを知った時は驚いたものだ。
可憐な花と葉が風に揺れるシラハギがこんもりと茂っていた。
日本人の感性に合う花ということだろう。『万葉集』にはハギの歌が140種以上あり、もっとも多く詠まれた花となっている。
なるほど、こちらも日本人の心に訴えかける植物のようだ。
それにしてもこの公園には色々な種類の植物が植えられ、とてもよく手入れされている。
ヤブランの花も咲いていた。傷みながらも逞しく咲いているところはよく見かけるが、ここの花と葉は美しい。
林の下に自生する常緑の草で日陰にも耐える。
なるほど、その耐陰性からあまり日の当たらない場所に植えられることが多いということか。この公園では日差しを浴びることができて、元気に育っているようだ。
白いヒガンバナを見つけると少し嬉しくなる。④公園で見かけたようにヒガンバナにも耐陰性はあるのだろうが、結局日当たりが良い方が生育が良いのだろう。こちらの花は満開だった。
このように、日本人に愛され、丈夫で、管理しやすい植物が公園の緑として選ばれている。感覚としてわかってはいたが、実際の指針を知ることができた。
いよいよ10ヶ所目。⑩公園には花壇がなく、樹木と遊具だけが配置されている。コナラの木には大量のドングリがなっていた。子供はドングリが好きだから、拾うだけでも楽しいだろう。
こちらはエゴノキ。ぶら下げ型の照明器具のような丸い実がユニーク。春には白い花が、木の実と同じく下を向いてたくさん咲くらしい。
ツバキは低く刈り込まれず大きな木になっていた。花が咲いたら壮観だろう。その頃また見に来たい。こうして、『季節感を感じさせるため花木や紅葉木(あるいは実のなる木)を植える』という公園の植栽の指針にまんまとハマってしまうのだ。
漫然と巡ってみた10ヶ所だったが、改めて公園という場所の不思議さを感じた。入場料はなく、小規模であれば常駐する管理者もおらず、誰も利用していない時間帯も多々ある、誰もが利用して良い場所。植物は植えられて管理されるものと、勝手に生えてくるものとが混じり合う。住居でも営利目的の施設でもない、読んで字のごとく公(おおやけ)の庭。都会の息苦しさを緩和する余白であり、曖昧さを受け入れてくれる場所。公園は存在しているだけで価値があるのだと思う。
今度は都市公園の歴史について知りたくなった。公園の設置された年代と流行の植物の関係など調べても面白いかもしれない。
都会の植栽、あるいは雑草の名前を知ること。それらが生えている公園の定義、管理について知ること。ただ知りたいから知るということが、私にとっては楽しい。当たり前にある身近なものに興味を持てば、リスクなしで人生を豊かにできる。興味の対象と向き合えば自分のことも見えてくるし、さらに深く探れば人との繋がりすら生まれるかもしれない。
こういうことをしていてつくづく思う。毎日が夏休み、というよりも、毎日が自由研究のような人生を送れたらきっと私は幸せなんだろう。
最後までご覧くださりありがとうございました。公園を巡ってから記事にする間に随分時間が経ってしまいました。季節が変わって大雪の日の公園の、シャーベットのような椿をどうぞ。