横浜のワッフルを味わう

  • 更新日: 2021/06/03

横浜のワッフルを味わうのアイキャッチ画像

横浜の街は、ワッフルによって守られている

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地元の人にとっては、なんてことのない風景でも、他所の人から見たら、珍しく見えたり、奇妙に映ったりすることがある。そういう体験を求めて、人は旅をするのかもしれないし、散歩ですら、そんな体験をすることがある。
私事だが、一年余り前に、埼玉から東京の南端に引っ越し、かつては遠かった横浜が近くなった。けれども、横浜というとオシャレなイメージであったり、人生を謳歌してそうな人が歩いていて怖い・・・という勝手な思い込みから、自分には関係のない街だと思っていた。ところが、何度か恐る恐る行ってみると、興味深い街であることに気づいた。そうだ、横浜にはワッフルがあるのだ!
横浜に対する、苦手意識のようなものが、徐々に氷解してきた。何事も食わず嫌いは良くない。
さて、画面の前で、”戻る”ボタンを押しそうになっている人の姿が気になり始めたので、「ワッフルってなんやねん」という方々へ、説明しようと思う。



これがワッフルです


横浜は、丘陵を切り開き、住宅街が造成された所が多い。これまで、坂道などがない、真っ平らな地域にばかり住んできた身としては、起伏のある地形に家が建ち並ぶ光景は新鮮だ。そして、住宅の建ち並ぶ丘陵地の中に、突如、ワッフルが姿を現す。コンクリートで出来たワッフルだ。斜面に、ドラえもんの道具のタイムふろしきのような物で、魔法を掛けたかのように、何かのバグが発生したかのように、四角い奇妙な造形がある。
予期せぬところで、彼らはでーんと姿を現す。私としては、不思議な景色に見えて仕方がない。
思わずワッフルを見つけ、興奮気味に写真を撮る私と、冷めた目つきで足早に通る地元の方々。
生活圏内に、こんな奇妙なオブジェクトがあるなんて。それを平然と素通りできるなんて。慣れとはそういうことなんだろう。
私はワッフルが気になる。



変幻自在なワッフル



どこにワッフルがあるだろう?

国土地理院の地図は面白い。地図に、土地の高低差や、どういう地盤か、といった情報を、自由にオーバーレイすることができる。これらの機能を使って、どの辺りにワッフルがあるか目星を付けられないだろうか。もちろん、航空写真やストリートビューで確認すれば、すぐに答え合わせができるが、自分で予想してみてから、現地に行ってみて確かめてみるのが面白いだろう。
ちなみに一枚目のワッフルは、根岸駅近くで見かけた。地図で見ると、こんな感じだ。これは、高低差が分かりやすいように、陰影起伏図という機能で、土地の凹凸には、陰影が出来るようになっている。このワッフルがある場所は、かなりの高低差なので、陰が濃く出ている。これをヒントにしていこう。


(地理院タイルを加工)


陰影起伏図は、北西から光を当ててみて、その影で土地の凸凹を表現しているようだ。なので、北西に面して高低差がある場合には、影が反映されないという短所がある。そこで、方向に関係なく凹凸が赤色で表される、赤色立体地図も併用しつつ、横浜市中心部をメインに、ワッフルがありそうなスポットを探してみた。横浜の地形は興味深い。高台と谷が入り組み、迷路のような街並みだ。
予想したワッフルがありそうな地点を挙げていきたい。

1. 京急・南太田駅
ホームのすぐそばまで、斜面が迫っている感じだ。ワッフルがありそうな気配。赤い電車とワッフルのツーショットを押さえたい。


(地理院タイルを加工)


2. 根岸米軍住宅の下
駅でいうと、地下鉄ブルーライン・吉野町駅の南側。堀割川に並行して、高低差が壁のように続いている。きっと崖になっており、ワッフルがあると予想。それにしても、こんな市街地に米軍関連の施設があるとは(現在は退去済みらしい)。これも横浜の街の一面を感じさせる。


(地理院タイル、アジア航測株式会社の赤色立体地図を加工)

記事作成中に気づいたが点線矢印の箇所もワッフルがあるのかも?


3. JR磯子駅近く
陰影の色が濃いので、かなりの絶壁となっているのでは。ワッフルの期待大。隣の根岸駅といい、JR根岸線界隈はワッフルの宝庫なのか?


(地理院タイルを加工)


4. 京急・神奈川駅の近く
横浜駅の隣駅である、京急・神奈川駅のあたり。京急とJR、そして国道1号線が並走する交通の要所にワッフルがあるかも?


(地理院タイルを加工)


5. 浅間神社のあたり
高台に建つ神社の下に、ワッフルがある?


(地理院タイルを加工)


6. 新山下
デートスポットである、港の見える丘公園はワッフルが支えているはず。


(地理院タイル、アジア航測株式会社の赤色立体地図を加工)


散歩してみよう

1. 京急・南太田駅

まず向かったのは、京浜急行の南太田駅。結論から言うと、ワッフルはなかったです。次、行きましょう。



ホームに停車中の電車が発車するのを待つ・・・





電車が過ぎ去った後にはワッフルが・・・ありませんでした


南太田駅は初めて降りたが、駅前の高架下の佇まいが良かった。ここだけ開発から取り残されたように、木製の電柱に裸電球・・・。映画のセットみたいだ。今でも夜は灯るのだろうか。DonDonと書かれたアーチがあった。ドムドムバーガーかと思った。








2. 根岸米軍住宅の下

次は、米軍住宅の高台の下だ。地下鉄吉野町駅方面から進むと、高台へと通じる坂道が目に入る。これは、稲荷坂と呼ばれる坂で、合成かと思えるかのように直線的に坂が伸びている。まるで、ベタ踏み坂を連想させる。坂上は緑が生い茂り、静かな感じがする。交通量はそれほど多くない印象。やはり、米軍住宅が退去し、高台には人が少ないのだろうか。この坂道の中腹まで登ってみたが、やはり、景色は良好。富士山が見えたりもするらしい。



今回は、あくまで、ワッフル散歩だ。体力が全然ないので、ここで使ってしまっては勿体ない。坂道を降りることにした。
堀割川沿いに歩いていくと、教習所があり、崖に向かってコースがあった。
ワッフルがあった!予想が当たって嬉しい。



この教習所の生徒は、ワッフルを見ながら、坂道発進したり、S字カーブを曲がったり、エンストに苦労したりするのだろう。
堀割川沿いには国道16号線が並び、交通量が多いが、崖の方は住宅街になっていて静かだ。高台にある米軍住宅も、物音一つない。無人地帯になっているのだろうか?
猫が寝ていた。



住宅の合間から、ワッフルが見え隠れするが、形状が違う物もある。十字が壁いっぱいに貼り付いている。これは使徒型だ。純ワッフルと使徒型、どのように使い分けられているのだろう。崖はかなり長く、根岸駅近くまで続いている。ワッフルによって隔てられた、住宅地と米軍用地・・・。このワッフルの上と下では、別の世界があり、延々と続く壁のようになっている。上下を行き来する道もなく、ワッフルで分断されている。







歩き疲れ、ちょうど、JR根岸線方面へ向かうバスが来たので、ズルして、次の目的地へ向かうことにした。


3. JR磯子駅近く

続いて、磯子駅に向かった。駅前には、でーんと、巨大な公団住宅が建っていて、思わず、立ち止まって見た。四角い。これはワッフルが期待できそうな街だ。この公団住宅が建ち並ぶ風景から察するに、根岸線が開通した昭和40年代以降に開発された街なのだろう。四角いコンクリートの、柱で囲まれた四角い窓・・・それらの一つ一つに暮らしがある。団地も巨大なワッフルだ。
団地を撮ってたら鳩が乱入してきた。



鳩と団地(UR磯子三丁目団地)。団地内の商店街も渋かった。


さて、ワッフルの予想を立てた高台へ向かおう。駅から徒歩数分で坂が現れる。さっきまでの平坦な街並みが嘘のようだ。登山電車が走っていてもおかしくないような傾斜。高台に住んでいる人は、毎日、この坂道を登り降りして、麓の駅に向かっているのか。



しかし、歩行者は少なかった。坂道に面して、ワッフルはあった。緑化しつつあるワッフル。このワッフルが城壁のように、上に建つマンションの守りを固めているかのようだ。磯子駅前からの高低差は約40メートルになるらしい。かなりのアップダウン。登山だ。







この坂道を息切らしながら登り、振り返ってみると海が見えた。登頂したかのような達成感があり、清々しい。あとから知ったのだが、高台のマンションエリアと、麓を結ぶエレベーターがあるそうだ。道理で、坂道の歩行者が少ないわけだ。もっとも、高台の住民は自動車保有率も高いだろう。坂の上からはみなとみらい方面も見えて、見晴らしが良い。この辺りに住みたい・・・。






4. 京急・神奈川駅の近く

日を改めて、今度は、京急・神奈川駅に向かった。ここは横浜駅にも近く、国道1号線が通り、それに並行して東海道線・京浜東北線・横浜線・京浜急行がひっきりなしに通り、文字通りの大動脈と言ったところだ。
それを見下ろすように、ワッフルがあるはずだ。



けれども、残念ながらワッフルはなかった。そこには、柱で宙に浮いた寺院があった。この寺院、気になる。崖と国道1号線に挟まれた土地に、寺院を建てるにはこの方法しかなかったのだろう。天と地の間にある寺院。天に近い寺院。ありがたや。



そんなことを考えながら、反対に振り返ってみると、予期しない場所にワッフルを発見。線路の向こう側も、丘になっていて、そちらがワッフルになっていた。丘と丘のわずかな空間を、重要な道路や鉄道が通っている。このワッフルは、これらを防護するための重要なワッフルだ。



空中寺院のある方の丘は、高島台という高台で、辺りをぶらついてみると、オシャレなマンションがあった。螺旋階段がゴージャスだし、半円形にくり抜かれた窓は、ヨーロッパの城郭のようだ。甲冑の兵士が、あの窓から矢を射るに違いない。





ぶらぶら歩いていると、急に視界が開けた。高島山公園と呼ばれる公園で、ここには、明治時代に横浜の埋立事業を行い、横浜の父と呼ばれた高島嘉右衛門の別邸があったようだ。さっき迄の喧騒とは打って変わり、静かで、見晴らしが良い。夜景も見てみたい。眼下に広がる街並みを見ていたら、はるか先にワッフルがあった。
高島山公園から坂を降りて、神奈川駅へ戻った。徒歩5分もしないうちに、交通量の多い喧騒になった。高台の静けさが嘘のようだ。








5. 浅間神社のあたり

ワッフル巡りも、なかなか体力がいる。ワッフルを見るだけなら、崖の下から眺めればいいだけのことだが、ついでに、登ってみたくもなるのだ。体力ゲージがみるみるうちに減る。
続いては、横浜駅の北側にある、浅間下という交差点に来た。この交差点名は、付近の浅間神社から取られたものだろう。そして、浅間神社の下には、ワッフルが存在するだろうと予想。
交差点付近の商店街がいい感じだった。店先には、庇が掛けられている。店舗のあるところのみ、飛び飛びで掛けられていて、アーケードというよりは、雁木のようなものだろうか。花屋の店先では、めだかさん(3匹)も売られていて、ほのぼの。





この交差点から、浅間神社へ行くのに、高台に向かえば良いのだろうと思い、地図を確認せず、目の前の坂道を上がることにした。新横浜通りという通りでかなり交通量が多い。バスもひっきりなしに通る。坂の途中に教会があった。残念ながら、教会の脇にある崖はワッフルではなかった。





この坂道にはうねうねと急カーブがあり、アスファルトに描かれたストライプ模様が、目がチカチカしそうだった。ここまで来て、道を間違えたことに気づいた。けれども、この坂道も面白いので、進んでいこう。このうねうね道の途中で、休憩がてら足を止めて、あたりを見渡すと、ワッフルを発見!



全く予期しなかった場所だが、なかなかの規模のワッフルだ。植物が生い茂っているわけでもなく、原型を留めている感じだ。ワッフルの上には団地のような建物が建っている。このワッフルは一部が欠けているので、誰かが齧ったのだろう。



このまま進んでも、浅間神社には着かないので、軌道修正をしよう。住宅街に折れる道があり、その先で下に降りることができるようだ。その道を進んでいくと、そこから先は階段になっていた。階段の途中から、横浜の景色が見渡せ、気持ちが良かった。閑静な住宅街なので、人通りもあまりない。観光スポットでもなんでもないような階段で、穴場を発見した気がして嬉しかった。球体が静かに、横浜の景色を眺めていた。





階段からも、先ほどのワッフルが見えた。ワッフルは見る角度によって、印象がだいぶ変わるように感じた。先ほどはちょっと不気味に感じたが、この角度だと、なんだか美味しそうに感じる。
回り道をしてしまったが、ようやく浅間神社に到着した。ここからの景色も良く、みなとみらいのビル群が見える。木陰には、景色に向かってベンチも置かれていた。満足して、神社を後にした。この神社の下にワッフルがあるか、確認するのをすっかり忘れた(あるようです、ストリートビューで確認)。




6.新山下

横浜のオシャレゾーンの本丸・元町まで来た。
元町・中華街駅のやたら長いエスカレーターに何台も乗って地上に出ると、そこは、港の見える丘公園や山下公園など、キラキラなスポット名が書かれた案内板が目についた。ワッフル目当てで汗だくになっている人はいそうになく、どうも場違いな感じがする。地図を確認し、早歩きで目的地へ行こう。港の見える丘公園の入り口をスルーすると、オシャレゾーンはここで終わりと言わんばかりに、ドン・キホーテの建物が見えた。こんなところに、ドン・キホーテがあるとは意外だった。でも、白を基調とした建物で、そこらのドンキとは違って、オシャレ度数が高い気がする。ドンキの角を右折すると、新山下という地域に入る。



先ほどのドン・キホーテが布石だったのか、街並みが急に変わる。オシャレ成分がいくぶんか減って、庶民的な感じになる。これぐらいが丁度よい。バス通りの両脇には、マンションや町の中華料理屋、病院、倉庫などが並び、生活感が感じられる。



新山下の街並み




ドン・キホーテを境に、街並みが急に変わる・・・(帰りに撮影)


さらに一本、路地裏に入る。港の見える丘公園の下が、ワッフルになっていると予想。路地裏も、下町の住宅街という感じだ。



新山下は、港の見える丘公園と港に挟まれた、細長いエリアだ。住宅のすぐ裏が崖になっている。そして、やはり、ワッフルがあった!
この崖の上には、港の見える丘公園があり、ウキウキと海を眺めている人たちがいるのだろう。けれども、その足元はワッフルが支えているなんて、誰が考えるだろう。





ワッフルの上と下では、異なる時間が流れている。麻雀 平和がある。麻雀が平和かどうかはともかくとして、平和があってこそ麻雀ができるのだ。サボテンがフラダンスをしている。平和の証。





崖いっぱいにワッフルが貼り付いているかと期待したが、草に覆われている箇所も多かった。きっと、この下にはワッフルが埋まっているのかもしれない。自然に還るワッフル。それもいい。



その想像が間違ってなさそうと思えるのは、ぷっくりと膨らんだワッフルが表出している箇所があるからだ。オーブンで焼かれ、膨れているのかもしれない。
団地が並んでいる一角もある。なんだかよく分からないオブジェ。その奥にワッフル・・・いや、これは使徒型だ。








番外編

ひと通り散策した後で、野毛山という、横浜の中心部にある山が気になってきた。野毛山動物園があるということだけは知っている。山というだけに、もしかしたら、ワッフルがあるかもしれない。桜木町駅から野毛山方面に向かうと、飲み屋などが多い通りの一角に、赤い鳥居と、朱色の格子状の建物が見えた。その土台はもしや・・・。





ワッフルだった。成田山横浜別院という寺院だそうだ。繁華街の一角に、このような寺院があるとは。そして、ワッフルから一体的に続くように、朱色の格子状の建物が乗っかっている。これはワッフルを少なからず意識してるのではないか。後で分かったが、2014年の台風18号で、ここで土砂崩れがあり、被害が出たようだ。このワッフルを見つけた時、建物の意匠に思わず見入ってしまったが、ワッフルと一体になった堅牢そうなデザインは、ここでの被害を二度と繰り返さないという強い願いが込められているのかもしれない。


まとめ

何箇所かのワッフルを見てきたが、横浜はワッフルの宝庫であることはきっと間違いないだろう。
そもそも、このワッフルは、何のためなのだろう。そして、何故、こういう形なのだろう。
このワッフルの正式名称は、法枠工(のりわくこう)と呼ばれるもので、目的はもちろん、崖崩れを防ぐための物である。そして、何故このようなワッフルの形状かと言うと、四角い枠の中には鉄筋が入っていて、モルタルが吹き付けられているらしい。四角い枠それぞれが、しっかり手を組み合い、土砂崩れから街を守っている。ワッフル、頼もしい。でも、ワッフルと、十字が並んだ使徒型とをどのように使い分けているのだろう・・・(その辺は、専門的な領域なので分からない)。
今回の散歩で感じたのは、ワッフルは、探してみるとなかなか見つからないということだった。突如として出くわすから、インパクトがあるのだろう。彼らは、存在感をアピールするでもなく、崖下でひっそりと佇んでいる。場合によっては草に覆われていることもある。みなとみらいや元町のように、誰もが、横浜という地名から連想する、華やかなイメージの裏で、光が当たることもなく、名前すらついていない、無数のワッフルたち・・・。しかし、横浜を影で守り、350万人以上が平穏に暮らせるのは、ワッフルたちが今日も寡黙に、佇んでいるからなのだろう。

歩き疲れたので、何か甘いものが食べたい。横浜駅の駅ビルで、ワッフルを買った。ワッフルは美味しい。



野毛山公園からの眺め










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3街区

仕事 <<< 散歩 < 睡眠
という残念なおじさん。
自分探しをするため、今日も蒲田の街をさまよい歩く。

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