『野良庭散歩13』八王子駅周辺で野良庭を探す

  • 更新日: 2024/07/18

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八王子駅周辺で野良庭を探す

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 子供の頃から散歩をするのが好きだった。平日昼間の住宅地は静かで、人の気配はあってもすれ違うことがほとんどない。他人の家と庭しかない地域を通るとき、私は「よそもの」だと思う。この辺りに住む人は私のことを知らない。それだけで、ささやかな冒険だった。
 大人になっても私はうろうろと散歩を続けた。やがて、庭からはみ出た園芸植物や路上に生える野草の写真を撮るようになった。生命力を感じさせつつもどこか均整のとれた植物たち。そういう植物がある場所を『野良庭』と呼ぶことにした。




八王子駅にやってきた。新宿から電車で45分ほどの大きな駅だ。複合商業施設がいくつもあって、生活に必要なものは何でも揃いそうである。八王子市は東京都の中で一番人口の多い市らしい。都心から離れていて家が多い街というのは野良庭探しに良さそうな気がする。




駅前のロータリーを越えて、南へ歩く。道路沿いのタチアオイが花を咲かせている。もうそんな季節なのか。夏が迫っていることを実感する。




街路樹のイチョウが受ける日差しも初夏だ。今年は梅雨入りが大幅に遅れている。もう夕方と言える時間帯だが夏至が近いこともあり、とても明るい。そして暑い。




どこへ行っても水辺には心惹かれる。私は、住宅地の中を流れる山田川沿いを歩くことにした。看板によると、山田川は一級河川。一級河川は国土交通省大臣が、二級河川は市区町村長が指定するものらしい。




一級と言うくらいだから雄大な川を思い浮かべるかもしれないが、実際はとても浅い。管理されきっていて、川というより大きな溝、という感じがする。




川沿いの民家の生垣に、羽が美しいトンボを見つけた。サナエトンボの仲間だろうか。じっと動かなかったから、羽化したてなのかもしれない。




ナンテンの卵形のつぼみが可愛らしい。この時期にあちこちの庭で見かける。冬になれば赤い実をたくさんつけることだろう。




キキョウソウの可憐な花が咲いていた。キキョウというには星型の切れ込みが深すぎるのでは、と思っていたがおしべとめしべの雰囲気がよく似ている。そもそも同じ科の植物らしい。




野良庭ではおなじみのカタバミが溢れ出している。これは花の中が濃い色をしているから、イモカタバミだろう。似た花であるムラサキカタバミは花の中が白っぽいのだ。




イヌホオズキが実をつけている。熟すと黒くなって小さな丸いナスのような雰囲気になるのだが、毒性があって食べられない。だからバカナスと呼ばれたりもするらしい。ひどい呼び名だが、もし自分が食べ物が足りない時代に生まれていたら、と想像すると、食べれそうで食べれないものを憎く思う気持ちもわからないでもない。
そもそも「イヌ」とつく植物はたいがい人間の役に立たない。犬に対して失礼すぎるのは置いておいて、生きる知恵として「役に立つ」「役に立たない」で分けるのは真っ当だと思う。便宜上、というやつだ。ただしこの世に生きているのは人間だけではない。直接的に人間の役に立たないある種の植物が絶滅したとして、その植物に依存している虫や獣がいた場合、その生き物たちも絶滅してしまうかもしれない。その虫は人間が食べる農作物の受粉に必要かもしれないし、獣は食べ物を求めて人里に下り誰かを怪我させるかもしれない。こんな風に簡単に説明できれば良い方で、もっと複雑に網の目のように繋がりあっているのが生態系なのだと私は認識している。役に立たないものを呼び分けるのはただの知恵であり、その生き物を見下して良いわけではないということを、忘れないでいたい。

こういう風にどんなことでも複数の視点で見ることを、子供の頃から癖のように繰り返してきた気がする。例えば腐敗と発酵はどちらも微生物の分解によって起こるが、人間の役に立つかどうかで呼び分けると知った時はハッとした。腐敗を起こす菌は悪で発酵を起こす菌は善というわけではないし、同じ菌でも分解する物によって役に立つ・立たないは変わる。毒と薬も似たようなものではないだろうか。体質によって、投与する量によって、薬が毒になることもあるし、逆もあり得る。立場によって真逆のものに変わること。人種や正義について思いを馳せてしまう。ひとつの考えに固執することを私はいつも恐れている。

雑草は、人間が意図しない場所に生える鑑賞価値の低い植物である。園芸植物は人間が手間をかけ決まったところに植えた植物だが、その場所から逃げ出し勝手に広がり名前すら忘れられたら、きっと雑草と呼ばれるだろう。




ブロック塀を覆うようにツタの若い葉がたくさん出てきている。ナツヅタと呼ばれるだけあって、本格的な夏を前にやる気に満ちている感じだ。




公園に向かって歩いていたつもりが川沿いに逆方向へ進んでいた。私は地図が読めない。再び駅前の大きい通りに戻り、道路を渡ると今度は白のタチアオイが植えられていた。花の中に星が見える。




飲食店の脇にハゼランが生えていた。マンホールのふちからひょろりと伸びる姿が健気だ。




と思ったら入り口付近にしっかりと茂っていた。こちらにはたくましい印象を受ける。




これはタマサンゴだろうか。実が黄色いがこれから赤くなるのだろう。こんなに目立つ実をつける園芸植物なのに路上で時々見かけるから不思議だ。タフな植物なのだと思う。




紫外線はプラスチックを分解する。風化したプランターがコケで覆われ、苔玉のようになっていた。苔の上に伸びているのはユウゲショウのようだ。花が咲いたらもっと趣が出るだろう。




植え込みのキンシバイがたくさん花を咲かせていた。黄色い花は良い。明るい気持ちになる。




コンクリートブロックや室外機がいい味を出している花壇。植物の組み合わせがとても大胆で小気味よい。バラとアジサイとシュロが並んでいる。




こちらも定番、はみ出しオボロヅキ。太陽をいっぱいに浴びてみっちりと生育し、花まで咲かせている。メキシコから来て、日本の都会の環境に適応した屈強な多肉植物だ。




公園に続く緑道の地面が歪んでいる。これは何由来の歪みなのだろう。経年劣化か、木の根だろうか。時々道路のアスファルトが街路樹の根によって波打っていることがあるが、あれを見ると少しぞっとする。私たちが抑え込んで管理しようとしているものは何なのか、考えてしまう。この歩きやすい平らな地面の下は元は土で、生き物がうじゃうじゃいたはずなのだ。




川も土も植物も私たちは管理して手懐けようとする。私は便利で快適な暮らしのことが大好きだ。この風景だって涼しげで良いなと感じる。だからこそ心が揺れる。




子安公園に着いた。木陰で少し涼んで行こう。家から持ってきた水筒で麦茶を飲む。




公園内にあった終わりかけのサツキ。地面と同化してどことなくトリックアートのようだ。




公園の出口。小鳥のモチーフが可愛らしい。




公園を出て住宅地を歩く。民家の塀際に色々な植物が生えている。庭のこぼれ種や雑草が入り混じり、葉の形や色の多様性を感じることができる。こういう場所を見つけると嬉しくなる。




時々見かける葉っぱがフワフワのナデシコ。調べてみるとリクニス・コロナリアという品種のようだ。ナデシコ科ではある。和名はスイセンノウでこの葉の特徴からフランネルソウとも呼ばれるらしい。プランターからはみ出す勢いで元気に伸び上がっている。




よく見るドクダミも、薄暗いところに大量に生えていさえいなければ花が可愛らしいことに気付ける。しかしこれは一体どこから生えているのだろう。劣化したブロック塀の継ぎ目だろうか。




通りがかった工事現場に背の高い可憐な花が咲いていた。ヤナギハナガサというらしい。園芸植物としてよく見かけるバーベナの仲間だという。こんないかにも外国から来たという雰囲気の花が帰化植物になっているのは意外だ。実際、南米原産とのこと。




野良庭には関係ないが、趣のある駐車禁止の文字を見つけた。マスキングシートにスプレーした文字だろうか。味わい深い。




慣れない暑さに、体力の限界が近付いている。そろそろ散歩を終えようかと思っていると自動販売機の上に花が見えて驚いた。




赤い花のタチアオイだ。覗いてみると、裏が小さな庭になっているようだった。自販機は壁沿いに設置されていることが多いから、少し意外に感じた。この後カフェに入ってゆっくり過ごしたが、軽い熱中症にかかっていたのか終始頭がぼんやりしていた。暑さに体が慣れていない時期、日陰のない場所を歩くときは気をつけなければならないとわかっているのに、観察に夢中になってしまったようだ。私にとって野良庭散歩はそのぐらい楽しい。




最後までご覧下さりありがとうございました。民家の際で見つけたムラサキカタバミの群生をどうぞ。よかったら、前半に載せたイモカタバミの花と見比べてみて下さい。
これからは湿度と気温が上がる一方ですね。皆様もお身体に気をつけて。私はまたどこかの街で野良庭を探します。








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末埼鳩

少し奇妙な物語やエッセイを書きます。庭を逃れた野良植物の写真を撮るのが好きです。

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