思い出の目・初見の目(仙川)
- 更新日: 2026/08/18

仙川とはどういう街なのか
本州最北端の地・青森に生を受け、東京へのあこがれやときめきをだいじに抱えて生きてまいりました。上京は人生において特別なできごとで、最近、友人たちと上京に関する本までつくってしまったほどです。
地方出身者にとっては上京後はじめて住んだ街もまた、あの頃の記憶や感情と絡みあった目でまなざしてしまう特別なもの。しかしそれはそれとして街は今も生き、すこしずつ変わりながら新しい人びとを住まわせています。
そのさまを捉えてみたいとおもい、一緒に本をつくった高校の同級生・Dr.マキダシとともに、彼が上京して住んだ仙川駅周辺を歩きました。仙川、私は降りたことのない駅です。
思い出フィルターと初見フィルターのかかった目で、街の見え方はやはり大きくちがうのか? それとも案外ちがわないのか? ふたりで街を見比べてみたいと思います。
駅前ロータリーの見え方
東京都調布市にあり、京王線が乗り入れている仙川駅。
▲精神科医・ラッパー・怪談師のDr.マキダシと歩きます
マキダシの現在もつ肩書きのひとつが「精神科医」。彼は高校卒業後、地元で一年間、目も当てられないほど怠惰な宅浪生活を送ってしまい、親に「次でダメならあきらめろ」と言われもう後がない二浪目で、東京・渋谷にある医学部専門予備校に入校しました。
その予備校の寮が仙川にあり、彼は自分で選ぶ余地なくここに住むことになったのでした。
仙川駅は久しぶり?
めちゃくちゃ久しぶり。10年くらい降りてないかも。
私は初めてきたんだけど、第一印象は、駅最寄りのファミレスがロイヤルホストでかっこいい! ってこと。ガストあたりが相場じゃない?

▲しかも大きいロイヤルホストだ!
おお、俺が住んでた頃からあった気がするけど、そういえば来たことなかったな。
学生にはわりと高級だしね。駅前は当時からなにか変わった?
そうだなー、TSUTAYAがなくなっちゃったな。人生ではじめてTSUTAYAの会員カード作ったの、仙川なのよ! 青森で俺の住んでたエリアになかったから、ずっとあこがれててさ……。
わー、わかる。しかも駅前にある小さいTSUTAYAって都会感あるね。それにしても上京一年目が浪人生活で、娯楽がレンタルDVDってのは味わい深い。
いや、合格するまでほとんどの娯楽を我慢してたから、実際TSUTAYAでカード作ったのって大学受かってからこの街を出るまでの期間なのよ。はじめて借りた作品をこっちのビルの個室ビデオ屋で見た。その店ももうないけど。
アツい思い出!

▲2Fが個室ビデオ屋跡地。現在はなんだろう?
後日調べてみると、どうやらこのビルの2階は店の入れ替えが激しめな模様。こういう場面に出くわすと思いだすことがあります。
昔住んだ街へ行ったら、私のよく通ったミスドがそば屋になっていました。同じ街に住んでいた知人に嘆くと「ミスドあったっけ?」。えっ、この人の思い描くあの街にミスドはないんだと、ふしぎな気持ちになりました。
マキダシの頭に浮かぶ仙川駅前にはTSUTAYAと個室ビデオ屋があります。私は初見なので「そうなんだ〜」ですが、彼と同時期に仙川に住んでいた人ですら同じ風景は描かないのかもしれない。そう思うと、街って各々の視野のなかにしか存在しない、ものすごく個人的な概念という感じがしますね。
全部のチェーン店がある
ロータリーから歩みを進めると猿田彦珈琲に突きあたり、隣には星乃珈琲店、向かいにはスターバックス。調べるとほかにも徒歩数分圏内にドトール、コメダ、椿屋珈琲まであるではないですか。
いま視界が全部コーヒーの店だよ。カフェだらけだし、カルディも。充実度がすごい!
仙川ってまじで怖いくらいチェーン店揃ってんのよ。ちなみにさっきロイホがあったけど、こっちにはサイゼもありまして。

▲コーヒーエリアを抜けたところにあるサイゼリヤ
俺はこっちにお世話になったかな。寮に入った当初、三浪目の先輩とかと一緒に行って。サイゼも青森になかったからさ、なんか過剰に初のサイゼを喜ぶ田舎モンを演じてたのよ。「うわー! これがウワサの!」って(笑)
自ら演じてたんだ(笑)なんかこう、周りの期待に応えたいみたいな気持ちかな。
そうそう。必要以上にあるあるに乗っかってた感じ。
ちなみに、初サイゼは何食べたか覚えてる?
たしか勧められて、ベタに「ミラノドリア」食べたと思う。
いやあその感じ、わかるなー!!
その先の適当なところで道を曲がると、にぎやかな商店街に出ました。

▲仙川の商店街「ハーモニータウン」(ハーモニーロード)
この通り、京王線の街! って感じがする。石畳の細い道で、両サイドに小さなお店みっちりの商店街があって、そこを抜けたら住宅がバーっとつづく感じ。京王線どこで降りてもそんなイメージ。
わかるわかる(笑)当時、渋谷の予備校通ったわけだけど、田舎から出てきていきなり渋谷の街だとこう、ジャンプアップしすぎで。なんでもあるけど肩肘張らないこの商店街の感じが緩衝材になってた気がする。
なるほどなー。今はその土地ならではの食堂とか見つけたくなるけど、上京したてってそもそも、チェーン店がいっぱいあるだけで「わー!」って感じだったもんなあ。
ってか今見るとすごいな(笑)ケンタッキーの向かいにバーガーキング。
ほんとだ、間の距離5メートル! 駅前にマックあったし、ちょっと行けばフレッシュネスバーガーもあるね。松屋のすぐ奥にすき家もある……すごい。

▲写真で伝わりにくいのですが、目視だととても近くに見えます
俺にとっては戦いに挑む街だったから、この通りに来るとちょっと背筋がのびるというか、シャキッとする感じはある。
おお、そっか。私は今のところ、とにかく全ジャンルのチェーン店がありまくる「ふつう界最強の街」って印象です。
実際歩くとまじでそうだな……。
このあとも「あれもある」「これもある」「あっちにはあれも」と、とにかく各ジャンルのチェーン店が揃っているのを確認して歩きました。チェーンのすきまを埋めるように個人経営の店やクリニックなどがはさまって、人の住む街として鉄壁の強さを築いたような一帯です。
上京浪人生の孤独と仙川
商店街の裏手に広がる住宅街には、当時マキダシが住んでいた寮がありました。
医学部受験ってちょっと基準がおかしくて、浪人1〜2年目まではマジョリティで、3年目以降を「多浪」と呼ぶ文化があってさ。
初耳の文化! たしかにそれは他の学部ではない感覚かも。
俺は二浪が最終チャンスだったから、あんまり寮の人たち、特に多浪の先輩とかと馴れ合いすぎるのもよくない気がして、一応、適度に距離を保つようにはしてたんだけど。

▲追い詰められた二浪目のマキダシが住んだ「スチューデンテン 仙川」
ただ、部屋にテレビもパソコンもなくて……当時はスマホもないし。大晦日もひとりで勉強してたんだけど、なんかどうしてもさびしくなっちゃって。年越しの瞬間、駅前の西友に駆け込んだんだよ。
えー! なんだその良エピソードは。
二浪目だから20歳の誕生日も予備校で迎えたんだけど、成人してまだぜんぜん酒も飲んでなくてさ。大晦日、ひとりで西友行って缶チューハイ買って。一応、遅い時間に出ると寮のおばちゃんに心配されるから、バレないようにトイレットペーパーも買ってチューハイ隠したりして(笑)
わーいいね。24時間営業に救われた人だ。

▲商店街の入口にあるスーパー・西友(SEIYU)
さて、マキダシの心を支えた西友からはじまるハーモニーロードをまっすぐ奥へ抜けると、どでかい島忠ホームズが現れました。商店街がチェーン店の激戦区だと思っていたのに、さらなるチェーン天国が待ち構えているとは……。
中に入ると、1階は島忠の本体(?)であるホームセンター、100円均一のセリア、そして「食品館あおば」という神奈川発のスーパーチェーンがそれぞれ広々と区画されています。いやー、でかい。
2階にはGUやしまむらなどのファッションコーナー、そして住民の味方フードコート。さっき商店街まわりで唯一ないかと思われたモスバーガーはここに鎮座していました。仙川はすべてのバーガー需要を解決する!

▲チェーン界のエリートたちが集結する島忠
最後は、3階・家具フロアへ。ここでマキダシに「思い出クイズ」を出題してもらいました。
仙川に住んで半年くらい経った頃、寮の友だちとここに来たのですが、ずらっと並んでるソファーに腰掛けた私は、急に涙を滲ませてしまいました。さて、それはなぜでしょう?
えーっ! うーん、うーん、うーーーーーーん…………ホームシック!!!
あっ!! 正解です。
うわごめん!!! ボケもせず一発で当てちゃった(笑)
そう、当時ここにあったソファーの座り心地が実家のに似てて、急にじわっと(笑)浪人2年目だから当然、親との関係もあんまりよくないまま出てきて……でも、親も俺を信じざるを得ない、俺もやらざるを得ないみたいな複雑な心境でね。
なるほどね、そっかー。でも友だちびっくりしてたでしょ?
困惑してたね(笑)寮のおばちゃんに、あいつ大丈夫かなって相談してたらしい。
なんてあったかいんだ。
ふれあいを求めて深夜の西友へ行き、島忠のソファーに実家を見いだし涙する。マキダシは上京した当時、大学で新たにつづいていく人間関係を築くわけでもなく、周囲と仲良くなりすぎもよくないと自分を律しながら浪人寮で暮らし、孤独でたまらなかったのですね。
歩いているときには西友と島忠のエピソードが脳内で結びついていなかったのですが、こうして書いてみると、仙川はマキダシにとってさびしさが染みついた街なのだと思います。
「ノーマル界最強」のきわめつけ
ちょっと島忠の、裏手のほうまで回ってもいい? そっちに「湯けむりの里」っていうスーパー銭湯があって。
スーパー銭湯まであるのかよ! なんか……ムカついてきた(笑)
そうなのよ(笑)

▲天然温泉 仙川 湯けむりの里。仙川が最強を更新しつづけてくる
当時まだ一浪目のルンルン気分のやつとかが、何も成し遂げてない土日に行ったりしてたのよ(笑)「リフレッシュしてんじゃねーぞ!」とか思いながら、そういうやつらとはちょっと、関わらないようにして。
成し遂げてない土日(笑)じゃあマキダシはここに来たことは?
いや、娯楽禁じてたからさ。受かってから来ようと思ってたんだけど、結局、受かって街を出ちゃうと来る機会がなくてね。
うわー、徹底してたんだね。
でも実は今住んでるところから車で来やすくて、むしろ今たまに来てるのよ。電車じゃないから仙川駅の周りを歩いたりはしないんだけど、ピンポイントでここには来てる(笑)
そうなのか! 来られるようになってよかった。
~~~ 駅周辺まで戻ります ~~~
いやあ途中から仙川の変な部分を努めて探してはいたんだけど、正直“ふつう”が全部ある、強い個性はないが最強の街ってイメージからなかなか動けな……わっ、かに道楽だ!
ほんとだ!

▲さすがにチェーンの最高峰では? 調べると都内で23区外はここしかないようです
もう、仙川強すぎるよ。
Lv.100のノーマルポケモンみたいな(笑)
まさにそう! なにか欠けててなにか尖ってる、おしゃれな街が好きな人にはちょっともの足りないのかもしれないけど……。あ、だから仙川は街としてわざわざ話題にならないのかな?
そうかもね、平均的かつ最強。でもそこに最大の魅力を感じる人には理想の街だよね。
うんうん。あと、世田谷区の雰囲気をまとっているのに23区外ってのもいい。
たしかに成城とかも近いから豊かな感じもあるんだよな。でも一個、仙川にずっと住んでる寮のおじちゃんが当時教えてくれた、謎の二毛作店がこっちにあって。
なにそれ! 気になる。

▲現場付近まで行ってみたものの見当たらず、巨大なゲームセンターができていた
このへんだったと思うんだけど、さすがになくなっちゃったか。なんかね、昼は八百屋、夜はホストだったかガールズバーだったかで。巨大な扇風機があって、野菜の青臭さを全部吹き飛ばしたあとに奥の扉が開いて……。
えええ! でも、なんでその過程を知ってるの?(笑)
そういうウワサだったのよ。いやー、もうないか。仙川の名物だったんだけどな。たしかホストになったりキャバになったりしてたらしいんだけど。朝になるとまた扇風機で香水とか酒の臭いを飛ばして八百屋になるっていう、伝説の店。
うわー、魅力的だ……。
さすがに大学生になってここ出ちゃったら、あの八百屋のキャバクラ行ってみようとはならず、結局行ったことはないんだけど(笑)
それはそうか(笑)でも、そういう店もあったのか。
住みやすさの先を見つけに

▲駅まで戻ってきました
いやあ、住みやすい街であろう、これは。
であろう。正直、その着地から逃れられない(笑)強力な「住みやすさ」に絡めとられて、抵抗できない!
俺もそう思う(笑)でもさ、もしここが下北沢みたいな尖った街だったら、浪人時代、この街にいることにこだわっちゃってた気もして。そういう意味では、勉強に集中できるいい施設に入れてもらったなって感じかもしれない。
たしかに! ほんとだね、後がない浪人生にはぴったりだ。
部屋でひとりの瞬間とか受験前とかのつらいときに、西友にも駆け込めるよ!
思い出の目、初見の目。
どちらを通して見ても、仙川の圧倒的な住みやすさからは逃れられませんでした。だって全部があるんだぜ。
それでもマキダシは過ぎた日々のかけらを集めるように、私は探検するように仙川を歩きました。街のなかで見ているパーツもまるでちがいそうで、しかし、どちらも宝探しなのでした。
……と、ひと通り散歩を終えたあと、あらためて駅のまわりに目を凝らすと、われわれが歩みを進めなかった方向に、大衆酒場や町中華などがずらりと並ぶ道を見つけたのです。

▲マキダシ「え、こんなとこあったんだ」
き、気になるー!
今回の散歩では、かつて街を味わうことすら禁じていた浪人生のマキダシが行き来した範囲を中心に歩いたこともあって、仙川のノーマルな顔とはちがう表情を大胆に見逃してしまった可能性があります。やはり街の風景というのは、個人の動き、個人の視界のなかにしかありえないのですね。
次にここへやってきたら、こっちの道から歩きはじめてみよう。ひとり歩きの目でもう一度、仙川の街をまなざしてみるのもいいなと思いました。
おまけ:仙川の二度見スポット
基本的に街全体がよく整備されていて、どこを見回してもきれいな印象の仙川で、歩いていて唯一ぎょっとして二度見してしまったのが、こちらのイラストたちです。
▲『8番出口』ポスターの異変を思い出す

▲こっちはもうなんらかの怨念
ここは体操教室らしいのですが、イラストがすべて子どもなのがいっそう怖い。夜、街灯に照らし出されたら一体どうなってしまうのでしょうか。
次こそは「住みやすさ」に打ち勝って、こういうポイントもたくさん見つけたいです。
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