【六本木】ウィーン・モダン展でグッズ散歩 - お客さんが気になるアノ話を、代わりに質問してきた
- 更新日: 2019/07/25
東京都美術館の『クリムト展(ウィーンと日本1900)』と比較されることの多かった、国立新美術館の『ウィーン・モダン展(クリムト、シーレ 世紀末への道)』を訪ねた。お客さんの代わりに、知りたいことを質問しまくる散歩である。
▼国立新美術館『ウィーン・モダン展』ポスター(乃木坂駅構内)
美術館のミュージアムショップを歩きまくる「グッズ散歩」、第2弾として国立新美術館『ウィーン・モダン展』の特設展示ショップをたずねることにした!
お店の運営をしているは、第1段でとりあげた東京都美術館『クリムト展』とおなじ、株式会社Eastである。
わたし自身、『クリムト展』のショップスタッフとして働くなかで(2019年7月10日の会期終了まで)、フロアで直接、お客さんから商品について素朴な疑問や、比較の声をいただくことが多かった。そして、おなじEast運営でも、『ウィーン・モダン展』の良い評判を耳にするたび、ぐぬぬ……と勝手にライバル意識をもっていたのだ。
▼乃木坂駅にある国立新美術館のポスター
『クリムト展(ウィーンと日本1900)』は、朝日新聞社の主催。
『ウィーン・モダン展(クリムト,シーレ世紀末への道)』は、読売新聞社の主催。
いくら「クリムトつながり」とはいえ、どちらも同じ会社がショップグッズの企画・制作・店舗デザイン・販売までをすべて手掛けるのは、さすがにスゴすぎやしないか……?
開幕と閉幕にズレはあるものの、2つの大きな展覧会の会期がほとんど重なるのは必至。両ショップを滞りなくまわすために募集された新規アルバイト数は、計50名以上だったはずだ。もちろん、全員にご縁があるとは限らない。つまり、すべての面接を必ずじぶんでするEastの開さんは、直にそれ以上の人と顔をつきあわせたということになる。
アルバイト面接の時、勤務地は選択制だった。わたしは「どちらでも可能」に〇を付け、両方を行き来する覚悟でいた。乃木坂駅から直通の国立新美術館のほうが長く電車で座っていられるかなあ、なんてことをぼんやり考えていたが、配属先は上野駅から徒歩10分ほどにある東京都美術館だった。ショップの忙しさは、『クリムト展』を訪れた方ならきっと想像がつくだろう。ほとんど目まぐるしい状態だった。アルバイト先をかけもちしていたら、きっと、疲れ果てていたと思う。
<2つの特設展示ショップのイメージ>
始めて訪れた、『ウィーンモダン展』の店内。あたりを見渡すと、わたしが働いていた『クリムト展』との違いが目についた。これは、個人的なイメージだけれど、気づいた点を伝えておきたい。
『クリムト展』は、黄金を際立たせる、白がベースとなる世界。
絵画そのものが持つ濃厚な色合いをきれいに魅せた商品が多い。
『ウィーン・モダン展』は、黒と白のモダンな空間に 銀のラインがはしる。
複数の画家をとりあげているためポップでカラフルな商品も多数ある。
▼『ウィーン・モダン展』ポストカードのある壁
2つのショップの雰囲気には、リンクする部分がある。
たとえば、ポストカードやポスターなど「面」をみせたい商品は、壁を使った配置の仕方が統一されている。金や銀のフレームをみて、「魅せかたが似てるわね」と気づくお客さんもいる。
ただ、同じく「面」が勝負のクリアファイルに関しては、違う。
フロアの広い『クリムト展』特設展示ショップでは、中央に大きな白い壁がどーん!とあって、もはや絵画のように飾られている。店舗デザインを考えるとき、その構想がはじめに浮かんだとEastの開さんがおっしゃっていた。それがショップの目玉で、そこを基準にまわりをイメージしていった、と。
▼『クリムト展』クリアファイルのある白い壁
これに対し、あちらほどの広さはない『ウィーン・モダン展』特設展示ショップでは、クリアファイルがそういった特別扱いをされることはない。
しかし、店内をぐるりと見渡すと、それこそが狙いのようにもみえる。
なぜなら、その造りはEastの開さんがかつて見た、「ウィーン工房」のショップからヒントを得ているというからだ。いつもながら素人目線で恐縮だが、「派手な演出はないがずっと見ていても飽きないふしぎなライン」で、なにかの魔法陣に足を踏み込んだような気分に……。
クリアファイルは、中をひらくと外側とは違うデザインがポップする。文房具ならではの仕掛けだと思う。「どれを買って帰ろうか?」と、壁をながめて悩むお客さんの姿をみたら、わたしはそのことを伝えて「感動のお持ち帰り」を後押しする。もう気づいていたかたには、「ほんとそうよねー!」と頷かれたりするので気分がいい。
そうそう、
「なぜ、ここをトリミングしたの?」と、たまに訊かれることがある。
えっ、考えたことなかった……というのが、はじめて質問を受けた時の本音だったが、お客さんの意図を掘り下げるとだいたい「この部分まで入れてほしかった」という要望につながる。そこを含めて特別な意味があるとおもうから、と。
とはいえ、グッズを作るとき、ただ絵画全体をポンとのせたらいいわけでもないだろうし、デザイナーさんは頭を抱えるんだろうなあ。
▼『ウィーン・モダン展』特設展示ショップ入り口から
店内でぼーっとして、ちょっと変な人になっていたところで、当初の目的を思い出した。『ウィーンモダン展』のグッズについて取材を申し込んでいたのだった。商品整理をしているスタッフさんに近づき、声をかけた。
『クリムト展』で働いている者ですが……と、身元を明かしたら、「あっ、そうなんだ!」という表情。事情を伝え、East社員であり、特設展示ショップ店長を勤める児玉さんを呼んでいただいた。取材という言葉に、スタッフさんはきょとんとしていたが、話は もう伝わっているはずだ。
「どうもー!!」
根回し万全だとおもっていたわたしは、だいぶ陽気に近寄った。
予想では、「お待ちしてましたー!!」と、元気よく返してくれるものとおもっていたが……。スーツを着こなし颯爽とあらわれた児玉さんは、あきらかに怪訝な顔。あれ、おかしいな。おかしいぞ……。すぐに察して、これまでの事情を話す。
「えっ、聞いてないですけど……」
「…………!」
(心の中: ま じ か よ !!!!)
これだよ。
まあ、うすうす勘付いてはいた。Eastの開さんは、「いきなり突撃訪問して現場のようすをリアルに伝えよ」的なミッションを課すタイプだと。こういうことで取り繕うのを嫌って、誰に対してもわざと準備させないかんじがする。
『クリムト展』と違って、 『ウィーン・モダン展』は特設展示ショップをチケットなしでいつでもみられる。会期中なら何度でも出入りできるため、取材し放題ではあるのだ。でも、身元を怪しまれながらの取材に耐えられるほどわたしのハートは強くない。早く弁解しなければ。
▼『バックハウゼン』A4サイズの生地・缶バッジ・ポーチ
さっそくだが、グッズの「推し」を教えてほしいと懇願した。こういうとき、会社の公式Twitterで記事を紹介ツイートしていただいている、という事実はデカい。
営業モードになった児玉さんは、すごかった。ショップをくまなくまわり、めちゃくちゃまんべんなく商品アピールをしてくれる。「こうなったらもっとしゃべりたい」とまで言う。まずい、全部スキだ。全部ピックアップしたくなる。いや、そうじゃない。質問を変えよう。
――売り上げ的にこれは絶対外せないグッズはどれですか?
児玉「うーん、どれもそうだと言えばそうなんですが、イチ押しはBACKHAUSEN(バックハウゼン)かなあ」
有名な画家の名前ですか? と、喉まで出かかってやめた。実は、この取材の時点ではグッズ散歩はおろか『ウィーン・モダン展』すらまともに鑑賞していなかったのである。最低2回は訪れるつもりで、あえて下調べなくやってきたので無知にもほどがあった。
――ほほう、これが売れ筋の商品なんですね。個人的にも好きですか?
児玉「はい、かわいいですよね。なかでも缶バッジが好評ですが、1枚の布を断裁して作るので同じ絵柄がないんですよ。こうやって(バッジをかき分けながら)お気に入りの柄を探すのも、けっこうたのしくて」
――同じ絵柄がない? あっ、本当だ!
児玉「布の、どの部分でバッジを作るかで雰囲気が変わっちゃうんですよね。だから、どの柄が人気だとは、一概には言えなくて。3~5個とか、それ以上でも買う方がけっこういらっしゃって、ちょっと目を離したすきにごっそりなくなっていることもあります」
――めっちゃ品出しが大変な商品じゃないですか。すぐ在庫なくなりそう。
児玉「ですね(笑)。バックハウゼンあたりは注意して見ています」
さほど混雑しないショップでのグッズ散歩は、ふところ事情的に危険である。「複数ほしいモノ」とか「買うか悩むモノ」を中心に、ぐるぐる巡ってはそこにたどり着いてしまうからだ。歩けば歩くほど他のグッズ情報もわたしの中で更新されていくので「カード払いかな」なんて思ったり。
いけない、いけない。目がくらむ。
▼缶バッジは布の切り方次第で柄が幾通りもある
ここで、児玉さんのおすすめショップスタッフを紹介してもらった。名は、仮にAさんとしよう。以前の展覧会からEastでアルバイトをしているらしく、休日に『クリムト展』を訪れたばかりだという。こちらのスタッフには顔馴染みもいると聞いて、話が弾んだ。
Eastでは、アルバイト期間に知り合った人と、その後もつきあいが続くパターンがけっこうあると聞く。わたしもそれは頷ける。開さんの目利きにより、さまざまな経歴や夢を持って働く人が集まってくるし、同じ界隈の仕事に携わっている(いた)という人を見つけることもあるので、意気投合しやすいのだ。展示会の会期終了とともにサッと解散するのは、正直もったいないなあと思っちゃうので、どうにかしてつなげておきたくなる。
――実は、けっこう比較されるんですよ、お客さんから。
Aさん「グッズですよね、分かります。クリムト展を観てからきたっていうお客さん、こちらにもいらっしゃいますよ。どんなのがあったよー、とか教えてくれますね」
――それでもう、妙なライバル意識を持っちゃって。
Aさん「えっ!? なんでですか(笑)」
――すっごく褒めるんですよ、こちらのショップを。
Aさん「そうなんですか? 私、クリムト展のグッズすごく好きですよ。けっこう買っちゃいましたもん」
――たとえば、図録やクリアファイルのサイズが、ウィーン・モダン展のほうは大小2種類あって選べるんですよね。この質問がすごく多くて。こっちには小さいのないの? って、言われてしまう。
Aさん「なるほどー。でも、クリムト展のほうは図録の表紙が2種類あって、うちのよりちょっと安いですよね(笑)。クリアファイルは絵柄の種類が豊富だし、そっちも魅力いっぱいじゃないですか!」
――うわっ、きっちりチェックしてる……さすがです(笑)。
▼青い衣の猫抱きグスタフ・クリムトが中央にいるプリント
――クリムト展のスタッフから熱い視線を浴びているのが、クリムトさん本人が中央にドーン!といるTシャツなんですけど、こちらの皆さんに好評なのはどれですか。
Aさん「それって藤井フミヤさんが購入されたTシャツですよね、胸にクリムトがいるという。ウィーン・モダン展のスタッフに人気なのは、青いスモックのTシャツですよ!」
Eastの短期アルバイトスタッフは、勤務前にじぶんの好きなTシャツを無料で1枚支給してもらえるのだが、これがやっぱりうれしい。
『クリムト展』スタッフが仕事着に選んだTシャツ1位は、ラフなスケッチがのっているベージュのものだった。実際、お客さんにも老若男女を問わず好評だったのがそれだ。一方、『ウィーン・モダン展』のほうでは、グスタフ・クリムト着用の青いスモックを模したTシャツが断トツ人気だったようだ。日によっては、シフトに入っているスタッフほぼスモックの時もあるという。
わたしも欲しい。
――もう、Lサイズしかないんですね。
Aさん「元々小さいサイズがないんですよ。スモックって、ふわっと着るものでしょう。だから、あえてぴちっとならないように」
――ああ、なるほど。XLサイズが欲しいという問い合わせが、かなり多かったそうですね。
Aさん「そうなんです、よくご存じですね! 急きょそのサイズを作ったのですが、それも大人気で売れてしまって。現状(2019年6月末)だと、在庫がないですし、今あるLサイズもはやくしないと……」
――買いたくなるじゃないですか。
Aさん 「買ってください(笑)」
▼やはり、白と黒のモダンな感じが印象的
さて、店内のようすを見てみよう。わたし、「グッズ散歩」って言っちゃうくらい本当にうろうろ(しつこく)歩きまわるタイプなので、スタッフさんに嫌がられてないか正直気になったのだけど、鬼の心で歩き倒してきた。
ふしぎだなと思ったのが、全体をみるとシックなのに、焦点をグッズにあわせるとけっこうポップでカラフルなことだ。じっくり見ていても目が疲れなくてびっくりする。
目をひくのは、グッズを置く白い円柱の台。隅っこをはしる黒いテープは、手で直に貼っていったものらしい。しかも、設営で貼り方の見本を開さんがみせたあと、ショップスタッフがゆっくり仕上げていったのだとか。いいなあ、そういう部分から関われるの。うらやましい。黒いテープを間近で見ると、確かに手づくり感がある。
ここで、自腹で購入したグッズを紹介したい。――えっ、社割ですか?? そんなものは利用していない! 取材だからってもらえるわけでもない!ふつうにレジで並んで、ガチの定価購入である。
① 刺繍キーホルダー「クリムトくん」
② 刺繍キーホルダー「エミーリエちゃん」
③ 銀のふせん(エミーリエのドレス柄)
④ ウィーンアルファベット(ドイツ語)30文字のマスキングテープ
▼カップルを引き裂くわけにはいかず、セットで購入
ああっ! 気づいてしまった~~!!
クリムトとエミーリエの刺繍入りキーホルダー、手縫い仕上げゆえに「顔(表情)」がどれも違う。透明ガラスの器にこんもり盛られたふわふわの彼らを、1体ずつ手にとって見る。これはハマる。目の向きとか、髪の両、口のあき具合、まゆの太さあたりが微妙に異なるのだが、パーツの組み合わせ次第でかなり個性がでてくるのだ。
うちのカップルは、題して「カメラを向けられてハッとするエミーリエちゃん」と、「ドヤ顔で猫をかわいがるクリムトくん」。本当にけっこう違うので、ぜひ比べてほしい!
▼2人の背面には名前のロゴをあしらったハンコ刺繍
そして、背面にあるハンコ型の刺繍にも注目したい。左の金には「GUSTAV KLIMT」、右の銀には、KLIMTのロゴ。これらは、『ウィーン・モダン展』で唯一写真撮影が許可されている絵画『エミーリエ・フレーゲの肖像』(グスタフ・クリムト 1902年 油彩)右下に並んでいるマークで、日本のハンコ文化を取り入れたものといわれている。ならば、2つ揃ってないと。
▼『ウィーン・モダン展』のショッパー(紙とビニールのレジ袋)
1点ずつ職人さんによる手作業といえば『クリムト展』のグッズ散歩でピックアップしたソフビのグスタフ人形だが、先日、スタッフ専用のバックヤードでとんでもないものを入手した。とってもレアなものなので、ソフトビニール人形ファンのみなさんには、どうか見てほしい。
▼ソフビのグスタフ人形、「塗装過程12連のようすソフビ」勢揃い
ソフビのグスタフ人形、この樹脂を抜き取ったばかりのクリムトを含めた「塗装過程12連」をそのままパッケージ販売したらモーレツなファンがこぞって買うのでは? と、妄想したが、同意したのは『クリムト展』のスタッフ数名だけだった。そ、そうかな? 欲しいけどな、このまま……。見本として飾っておいたらいいのに(ファン心)。
そして、グッズ散歩のなかで、特に気になったアイテムがある。
『ウィーンモダン展』オリジナルの「銀の付箋(ふせん)」だ。
ちなみに、『クリムト展』では「金の付箋(ふせん)」が売っていた。片方を知っていると、もう片方を見たとき「まるで双子のようなアイテムがある」と気づくお客さんもいらっしゃる。わたしも、対(つい)になっているようなかんじが特別に見えて、掘り下げて取材するなら金・銀セットの状態でと考えていた。
そして、独自でいろいろ調べるうちに、なんと、どこ(誰)が作っているものか気づいてしまったのだ……。すごく、ご本人にお話を伺ってみたいと思った。けれど、そういえば開さんからは前回、「Eastとしては、グッズの製造に関わっている職人さんをすべて明かすつもりはないよ」とはっきり言われているのだった、ということも同時に思い出していた……。
▼『ウィーン・モダン展』銀の付箋コーナー、その1
ソフビ「グスタフ人形」の時は、職人さんまでたどり着けなかった。
でも、ショップスタッフのタレコミにより、実は、ご本人がプライベートで『クリムト展』を鑑賞しにきていたのは知っている。わたしがグスタフ人形を好きだから、まわりが「作った人きてるらしいよ!」と教えてくれたのだ。なので、ショップでEast社員の西口さんと話している後ろ姿も、遠目から見ているのだ。『ウィーン・モダン展』にあるクリムトのスモックTシャツを着てらっしゃったから、それをネタに話しかけたかったよ……。ただ、ちょうどその時、怒涛のレジ対応でまったく身動きがとれずにいた。ほどなくして去っていくソフビ職人さんの背中に、ア――ッ!! と、小さく叫んだ。
あの時、ご本人を口説いてからEast開さんに懇願していれば、ダブル取材ができていたかもしれない。どうしてもそのことが頭をよぎる。
というわけで、
ダメ元だが、「金の付箋・銀の付箋」の職人さんとおもわれる株式会社PLANTIS(プランティス)の山口圭二郎さんに、メールで連絡をとってみた。PLANTIS(プランティス)が運営する「やまま文具」の文具ブランドの1つとして「金・銀・銅の付箋」を展開しているらしい。
もちろん、メール内容はそっくりそのまま、Eastの開さん宛てに転送されることも想定した。コレ何? と、確認されてもすまし顔でいられるよう、ぎりぎり怒られなさそうな、情状酌量の余地がある内容にしたつもりだ。我ながらビビりである。
▼『ウィーン・モダン展』銀の付箋コーナー、その2
数日後、返信があった。
おそるおそるクリックしたところ、「取材については問題ないですよ」とのこと! 多忙のためメールでの質問のやりとりになると言われたが、十分ありがたい。もちろん、Eastの開さんにも光の速さでコトのなりゆきを伝えた……。ほんとよくやるなあ、という感じで言われてしまった。
少々脱線するが、
わたしがEastの開さんから取材を受けてもらえた理由って、なんだろうか。きっと、アルバイトスタッフとして働いている(=身内のようなものである)からではなくて、「ヒラキさんのここ掘れワンワン!」と似たような突撃を、わたしもやっているからじゃないかと思っているのだが……。
「ヒラキさんのここ掘れワンワン!」とは、Eastの求人ページに書いてあった、開さんご本人の手法だ。一部抜粋すると、「ここだ!」と思う作り手さんを見つけると、すぐに電話をして、その人と話し、会いに行き、今度は直接、話し、口説いて、お仕事を一緒にする。というもの。どうみたって、わたしより開さんのほうが突撃体質である。
さて、話に戻る。
せっかくなので、『クリムト展』特設展示ショップのスタッフとして勤務していた時に、お客さんからよく質問されたことについて伺ってみた。
< 質問 ① >
「小銭入れですか? 名刺入れですか?」
「金の付箋、銀の付箋」は、ぱかっと中央のボタンを開けると上下にひらく形になっている。両脇が閉じられていないため、何かをしまい込んでおこうとしても隙間から落ちてしまうだろう。「袋」になっていれば小銭入れや名刺入れにできそうだが……という声。山口さんいわく、
「両脇を開けるのは、普通の小物入れにはみえないようにするためです。文房具の商品パッケージは、中身を見せることが大切だと考えていますが、この付箋は持ち運びできるものにしたかったので、内側にある商品が見えること、その商品を守ることの2点を実現するため、両サイドからふせんが見える構造になっています」。
< 質問② >
「中身の付箋を使い切ってからの使い道に悩む」
とてもきれいなパッケージなので、詰め替え(差し替え)用の付箋があれば何度も再利用できるとおもう。そういう商品は、作らないのか? という声。山口さんによると、
「実は、そういった声は耳に入っていて、中身を差し替えられるような仕様も幾度となく検討していました。ですが、それはやめておきました。なるべくコストをかけずに販売価格を抑えることで、より多くのお客さまに実際に使ってもらえるようにしたかったのです」。
< 質問③ >
「日本製の紙と、そんなに違うの?」
この付箋の特徴は、イタリア製のコシの強い紙を用いており、さわってみるとおもったよりも厚みがあって感触がしっとりなめらかなところ。とても個性的だ。金ぴか&銀ぴかなビジュアルだが、書きにくさはない。油性ペンで滲まず、水性ペンで弾かず、ゲルインキでも鉛筆でもきれいに書ける。この調整に約3年かかったという。山口さんが言うには、
「特にイタリア製だから良い、というわけではありません。ただ、たくさんあるメタリック系の紙のなかでも、この紙がいちばん美しいと感じています。私が紙の特徴として大切にするのは、地合いの美しさです。地合いとは、紙の繊維の状態のこと。金属やプラスチックとは違う、紙の良さを感じるポイントだと思っています。メタリック系の紙は表面がツルっとしたものも多いなか、この紙はすこしざらっとしています。それなのに、輝いているようすがとてもきれいなんですよ。
技術的に、これまでふせん加工ができなかった紙だというのも、この紙を選んだ理由です。他のメーカーではできない商品を作ることは、弊社商品の全体を通したコンセプトのひとつでもあります」
▼金と銀の付箋をざっと並べてみた!
これは、わたしの興味で伺ったのだが、Eastの開さんとの出会いは株式会社PLANTIS(プランティス)の山口さんが「やまま文具」としてとある展示会に初出展したときだそうだ。それが、2019年2月。そこから、4月後半に開幕した『クリムト展』や『ウィーン・モダン展』向けの商品をデザイン・製造するまで発展したというから、スピード感がすごい。山口さんいわく、
「やまま文具オリジナルの金・銀・銅のふせん紙については、デザインから製造まで私がみずから行っています。ふせんの糊の塗工のみ別工場に依頼していて、断裁やカバーの箔押し、型押し、抜きは自社(株式会社PLANTIS)で行い、内職もいまのところは自社で行っています。
クリムト展の金の付箋については、デザインは私で行いました。ウィーン・モダン展の銀の付箋は、Eastさんが手掛けています。やまま文具オリジナルとほぼ同じに見えますが、実際は、カバーの材料などが少しだけ違うんですよ」
どんな材料を使うか、どれだけの量を作るか、納期はいつになるか。さまざまな関係で、作りかたも変わるという。また、近所の工場や職人さんの力を借りて、序盤のタイトな納期を乗り越えたそうだ。「ふせん糊塗工、印刷、ラミネート、合紙、型、抜き加工、箔押し、袋、ラベル、内職」といった過程を、山口さんがそれぞれ専門の方に振り分けて行っている。
さらに!! 山口さんから、とてもレアな画像をいただいた。
▼付箋のカバーを作るための木型を調整中
はじめて写真を見たとき、これが何なのかまったく分からなかった。すこし説明もあったが、いまいち確信が持てない。正直にそれを伝えると、山口さんは次のように教えてくれた。
「これは、ふせんのカバー用の木型です。作りたいカバーの形どおりに紙を抜くための型、といえば分かるでしょうか。上の画像は、緊急で修正をしていたときのものです。クリムトの絵が、上下しっかりつながっているようにデザインしているのですが、実際作ってみるとこれがうまくつながらなくて。この工程は、木型職人さんが行っています。あまり注目されないけれど、非常に重要なところなんですよ。
ふせんのカバーについて簡単に説明しますね。まず、
① 白い紙に絵柄を印刷する。
② その印刷された紙にラミネートをする。
③ ラミネートされた紙と厚紙と内側の紙を貼り合わせる(三層になる)。
④ そこからカバーの形に抜く。
⑤ 箔押しやホックの取り付け作業を行う。
……という工程になります。
付箋として使う金・銀の紙にばかり着目していたので、実はパッケージのデザイン調整が難しかったなんて話がでてくるとはおもわなかった……! あたりまえのように棚に並んでいるけれど、できあがるまでいろんなドラマがあったのだろうなあ。
『ウィーン・モダン展』のグッズ散歩、気になるものはいっぱいある。
でも、やはり、どんなものがあるか実際に見に行ってほしい気持ちが強い。ショップのスタッフさんは、知っていることをいろいろと教えてくれるはずだ。しかも、好みで自腹購入した品の個人的な感想を聞かせてくれる人もいるので、新しい気づきがあってたのしい。
いやはや、これからも美術館のグッズ散歩をしていきたいなあ。そして、「ミュージアムショップにEastあり」なところを、すこしでも伝えていけたらいいなあとおもう。
↓↓↓ おまけ画像 ↓↓↓
▼拡大図。まず、ふだん見ることはなさそうな代物だ
美術館のミュージアムショップを歩きまくる「グッズ散歩」、第2弾として国立新美術館『ウィーン・モダン展』の特設展示ショップをたずねることにした!
お店の運営をしているは、第1段でとりあげた東京都美術館『クリムト展』とおなじ、株式会社Eastである。
クリムト展のスタッフの一人から突撃取材を受けました。切り口が、普段は有り得ない角度からの記事です。
— 株式会社East (@TeamEastest) 2019年6月21日
取材を受ける条件が、
「演出がない。そして面白い」だったんだけど、見事にクリア!!https://t.co/pJRaSdX9Qe
わたし自身、『クリムト展』のショップスタッフとして働くなかで(2019年7月10日の会期終了まで)、フロアで直接、お客さんから商品について素朴な疑問や、比較の声をいただくことが多かった。そして、おなじEast運営でも、『ウィーン・モダン展』の良い評判を耳にするたび、ぐぬぬ……と勝手にライバル意識をもっていたのだ。
▼乃木坂駅にある国立新美術館のポスター
『クリムト展(ウィーンと日本1900)』は、朝日新聞社の主催。
『ウィーン・モダン展(クリムト,シーレ世紀末への道)』は、読売新聞社の主催。
いくら「クリムトつながり」とはいえ、どちらも同じ会社がショップグッズの企画・制作・店舗デザイン・販売までをすべて手掛けるのは、さすがにスゴすぎやしないか……?
開幕と閉幕にズレはあるものの、2つの大きな展覧会の会期がほとんど重なるのは必至。両ショップを滞りなくまわすために募集された新規アルバイト数は、計50名以上だったはずだ。もちろん、全員にご縁があるとは限らない。つまり、すべての面接を必ずじぶんでするEastの開さんは、直にそれ以上の人と顔をつきあわせたということになる。
アルバイト面接の時、勤務地は選択制だった。わたしは「どちらでも可能」に〇を付け、両方を行き来する覚悟でいた。乃木坂駅から直通の国立新美術館のほうが長く電車で座っていられるかなあ、なんてことをぼんやり考えていたが、配属先は上野駅から徒歩10分ほどにある東京都美術館だった。ショップの忙しさは、『クリムト展』を訪れた方ならきっと想像がつくだろう。ほとんど目まぐるしい状態だった。アルバイト先をかけもちしていたら、きっと、疲れ果てていたと思う。
<2つの特設展示ショップのイメージ>
始めて訪れた、『ウィーンモダン展』の店内。あたりを見渡すと、わたしが働いていた『クリムト展』との違いが目についた。これは、個人的なイメージだけれど、気づいた点を伝えておきたい。
『クリムト展』は、黄金を際立たせる、白がベースとなる世界。
絵画そのものが持つ濃厚な色合いをきれいに魅せた商品が多い。
『ウィーン・モダン展』は、黒と白のモダンな空間に 銀のラインがはしる。
複数の画家をとりあげているためポップでカラフルな商品も多数ある。
▼『ウィーン・モダン展』ポストカードのある壁
2つのショップの雰囲気には、リンクする部分がある。
たとえば、ポストカードやポスターなど「面」をみせたい商品は、壁を使った配置の仕方が統一されている。金や銀のフレームをみて、「魅せかたが似てるわね」と気づくお客さんもいる。
ただ、同じく「面」が勝負のクリアファイルに関しては、違う。
フロアの広い『クリムト展』特設展示ショップでは、中央に大きな白い壁がどーん!とあって、もはや絵画のように飾られている。店舗デザインを考えるとき、その構想がはじめに浮かんだとEastの開さんがおっしゃっていた。それがショップの目玉で、そこを基準にまわりをイメージしていった、と。
▼『クリムト展』クリアファイルのある白い壁
これに対し、あちらほどの広さはない『ウィーン・モダン展』特設展示ショップでは、クリアファイルがそういった特別扱いをされることはない。
しかし、店内をぐるりと見渡すと、それこそが狙いのようにもみえる。
なぜなら、その造りはEastの開さんがかつて見た、「ウィーン工房」のショップからヒントを得ているというからだ。いつもながら素人目線で恐縮だが、「派手な演出はないがずっと見ていても飽きないふしぎなライン」で、なにかの魔法陣に足を踏み込んだような気分に……。
完ぺきに真っ直ぐな線は貼れないけれど、その緩やかな揺らぎが、人の手を感じさせてくれる気がした。人間の眼って素晴らしい。 pic.twitter.com/qimVu66Vj0
— 株式会社East (@TeamEastest) 2019年5月1日
クリアファイルは、中をひらくと外側とは違うデザインがポップする。文房具ならではの仕掛けだと思う。「どれを買って帰ろうか?」と、壁をながめて悩むお客さんの姿をみたら、わたしはそのことを伝えて「感動のお持ち帰り」を後押しする。もう気づいていたかたには、「ほんとそうよねー!」と頷かれたりするので気分がいい。
そうそう、
「なぜ、ここをトリミングしたの?」と、たまに訊かれることがある。
えっ、考えたことなかった……というのが、はじめて質問を受けた時の本音だったが、お客さんの意図を掘り下げるとだいたい「この部分まで入れてほしかった」という要望につながる。そこを含めて特別な意味があるとおもうから、と。
とはいえ、グッズを作るとき、ただ絵画全体をポンとのせたらいいわけでもないだろうし、デザイナーさんは頭を抱えるんだろうなあ。
▼『ウィーン・モダン展』特設展示ショップ入り口から
店内でぼーっとして、ちょっと変な人になっていたところで、当初の目的を思い出した。『ウィーンモダン展』のグッズについて取材を申し込んでいたのだった。商品整理をしているスタッフさんに近づき、声をかけた。
『クリムト展』で働いている者ですが……と、身元を明かしたら、「あっ、そうなんだ!」という表情。事情を伝え、East社員であり、特設展示ショップ店長を勤める児玉さんを呼んでいただいた。取材という言葉に、スタッフさんはきょとんとしていたが、話は もう伝わっているはずだ。
「どうもー!!」
根回し万全だとおもっていたわたしは、だいぶ陽気に近寄った。
予想では、「お待ちしてましたー!!」と、元気よく返してくれるものとおもっていたが……。スーツを着こなし颯爽とあらわれた児玉さんは、あきらかに怪訝な顔。あれ、おかしいな。おかしいぞ……。すぐに察して、これまでの事情を話す。
「えっ、聞いてないですけど……」
「…………!」
(心の中: ま じ か よ !!!!)
これだよ。
まあ、うすうす勘付いてはいた。Eastの開さんは、「いきなり突撃訪問して現場のようすをリアルに伝えよ」的なミッションを課すタイプだと。こういうことで取り繕うのを嫌って、誰に対してもわざと準備させないかんじがする。
『クリムト展』と違って、 『ウィーン・モダン展』は特設展示ショップをチケットなしでいつでもみられる。会期中なら何度でも出入りできるため、取材し放題ではあるのだ。でも、身元を怪しまれながらの取材に耐えられるほどわたしのハートは強くない。早く弁解しなければ。
▼『バックハウゼン』A4サイズの生地・缶バッジ・ポーチ
さっそくだが、グッズの「推し」を教えてほしいと懇願した。こういうとき、会社の公式Twitterで記事を紹介ツイートしていただいている、という事実はデカい。
営業モードになった児玉さんは、すごかった。ショップをくまなくまわり、めちゃくちゃまんべんなく商品アピールをしてくれる。「こうなったらもっとしゃべりたい」とまで言う。まずい、全部スキだ。全部ピックアップしたくなる。いや、そうじゃない。質問を変えよう。
――売り上げ的にこれは絶対外せないグッズはどれですか?
児玉「うーん、どれもそうだと言えばそうなんですが、イチ押しはBACKHAUSEN(バックハウゼン)かなあ」
有名な画家の名前ですか? と、喉まで出かかってやめた。実は、この取材の時点ではグッズ散歩はおろか『ウィーン・モダン展』すらまともに鑑賞していなかったのである。最低2回は訪れるつもりで、あえて下調べなくやってきたので無知にもほどがあった。
――ほほう、これが売れ筋の商品なんですね。個人的にも好きですか?
児玉「はい、かわいいですよね。なかでも缶バッジが好評ですが、1枚の布を断裁して作るので同じ絵柄がないんですよ。こうやって(バッジをかき分けながら)お気に入りの柄を探すのも、けっこうたのしくて」
――同じ絵柄がない? あっ、本当だ!
児玉「布の、どの部分でバッジを作るかで雰囲気が変わっちゃうんですよね。だから、どの柄が人気だとは、一概には言えなくて。3~5個とか、それ以上でも買う方がけっこういらっしゃって、ちょっと目を離したすきにごっそりなくなっていることもあります」
――めっちゃ品出しが大変な商品じゃないですか。すぐ在庫なくなりそう。
児玉「ですね(笑)。バックハウゼンあたりは注意して見ています」
さほど混雑しないショップでのグッズ散歩は、ふところ事情的に危険である。「複数ほしいモノ」とか「買うか悩むモノ」を中心に、ぐるぐる巡ってはそこにたどり着いてしまうからだ。歩けば歩くほど他のグッズ情報もわたしの中で更新されていくので「カード払いかな」なんて思ったり。
いけない、いけない。目がくらむ。
▼缶バッジは布の切り方次第で柄が幾通りもある
ここで、児玉さんのおすすめショップスタッフを紹介してもらった。名は、仮にAさんとしよう。以前の展覧会からEastでアルバイトをしているらしく、休日に『クリムト展』を訪れたばかりだという。こちらのスタッフには顔馴染みもいると聞いて、話が弾んだ。
Eastでは、アルバイト期間に知り合った人と、その後もつきあいが続くパターンがけっこうあると聞く。わたしもそれは頷ける。開さんの目利きにより、さまざまな経歴や夢を持って働く人が集まってくるし、同じ界隈の仕事に携わっている(いた)という人を見つけることもあるので、意気投合しやすいのだ。展示会の会期終了とともにサッと解散するのは、正直もったいないなあと思っちゃうので、どうにかしてつなげておきたくなる。
――実は、けっこう比較されるんですよ、お客さんから。
Aさん「グッズですよね、分かります。クリムト展を観てからきたっていうお客さん、こちらにもいらっしゃいますよ。どんなのがあったよー、とか教えてくれますね」
――それでもう、妙なライバル意識を持っちゃって。
Aさん「えっ!? なんでですか(笑)」
――すっごく褒めるんですよ、こちらのショップを。
Aさん「そうなんですか? 私、クリムト展のグッズすごく好きですよ。けっこう買っちゃいましたもん」
――たとえば、図録やクリアファイルのサイズが、ウィーン・モダン展のほうは大小2種類あって選べるんですよね。この質問がすごく多くて。こっちには小さいのないの? って、言われてしまう。
Aさん「なるほどー。でも、クリムト展のほうは図録の表紙が2種類あって、うちのよりちょっと安いですよね(笑)。クリアファイルは絵柄の種類が豊富だし、そっちも魅力いっぱいじゃないですか!」
――うわっ、きっちりチェックしてる……さすがです(笑)。
▼青い衣の猫抱きグスタフ・クリムトが中央にいるプリント
――クリムト展のスタッフから熱い視線を浴びているのが、クリムトさん本人が中央にドーン!といるTシャツなんですけど、こちらの皆さんに好評なのはどれですか。
Aさん「それって藤井フミヤさんが購入されたTシャツですよね、胸にクリムトがいるという。ウィーン・モダン展のスタッフに人気なのは、青いスモックのTシャツですよ!」
Eastの短期アルバイトスタッフは、勤務前にじぶんの好きなTシャツを無料で1枚支給してもらえるのだが、これがやっぱりうれしい。
『クリムト展』スタッフが仕事着に選んだTシャツ1位は、ラフなスケッチがのっているベージュのものだった。実際、お客さんにも老若男女を問わず好評だったのがそれだ。一方、『ウィーン・モダン展』のほうでは、グスタフ・クリムト着用の青いスモックを模したTシャツが断トツ人気だったようだ。日によっては、シフトに入っているスタッフほぼスモックの時もあるという。
わたしも欲しい。
クリムトファンでもある藤井フミヤさんが、ウィーン・モダン展トークショーに登壇。
— 株式会社East (@TeamEastest) 2019年6月26日
レセプションの時、ショップで二枚、自腹でご購入下さったTシャツを着て来てくださる、嬉しい演出。https://t.co/Fxf5iHb6Oo pic.twitter.com/DTTkAWIqs7
――もう、Lサイズしかないんですね。
Aさん「元々小さいサイズがないんですよ。スモックって、ふわっと着るものでしょう。だから、あえてぴちっとならないように」
――ああ、なるほど。XLサイズが欲しいという問い合わせが、かなり多かったそうですね。
Aさん「そうなんです、よくご存じですね! 急きょそのサイズを作ったのですが、それも大人気で売れてしまって。現状(2019年6月末)だと、在庫がないですし、今あるLサイズもはやくしないと……」
――買いたくなるじゃないですか。
Aさん 「買ってください(笑)」
▼やはり、白と黒のモダンな感じが印象的
さて、店内のようすを見てみよう。わたし、「グッズ散歩」って言っちゃうくらい本当にうろうろ(しつこく)歩きまわるタイプなので、スタッフさんに嫌がられてないか正直気になったのだけど、鬼の心で歩き倒してきた。
ふしぎだなと思ったのが、全体をみるとシックなのに、焦点をグッズにあわせるとけっこうポップでカラフルなことだ。じっくり見ていても目が疲れなくてびっくりする。
目をひくのは、グッズを置く白い円柱の台。隅っこをはしる黒いテープは、手で直に貼っていったものらしい。しかも、設営で貼り方の見本を開さんがみせたあと、ショップスタッフがゆっくり仕上げていったのだとか。いいなあ、そういう部分から関われるの。うらやましい。黒いテープを間近で見ると、確かに手づくり感がある。
ここで、自腹で購入したグッズを紹介したい。――えっ、社割ですか?? そんなものは利用していない! 取材だからってもらえるわけでもない!ふつうにレジで並んで、ガチの定価購入である。
① 刺繍キーホルダー「クリムトくん」
② 刺繍キーホルダー「エミーリエちゃん」
③ 銀のふせん(エミーリエのドレス柄)
④ ウィーンアルファベット(ドイツ語)30文字のマスキングテープ
▼カップルを引き裂くわけにはいかず、セットで購入
ああっ! 気づいてしまった~~!!
クリムトとエミーリエの刺繍入りキーホルダー、手縫い仕上げゆえに「顔(表情)」がどれも違う。透明ガラスの器にこんもり盛られたふわふわの彼らを、1体ずつ手にとって見る。これはハマる。目の向きとか、髪の両、口のあき具合、まゆの太さあたりが微妙に異なるのだが、パーツの組み合わせ次第でかなり個性がでてくるのだ。
うちのカップルは、題して「カメラを向けられてハッとするエミーリエちゃん」と、「ドヤ顔で猫をかわいがるクリムトくん」。本当にけっこう違うので、ぜひ比べてほしい!
▼2人の背面には名前のロゴをあしらったハンコ刺繍
そして、背面にあるハンコ型の刺繍にも注目したい。左の金には「GUSTAV KLIMT」、右の銀には、KLIMTのロゴ。これらは、『ウィーン・モダン展』で唯一写真撮影が許可されている絵画『エミーリエ・フレーゲの肖像』(グスタフ・クリムト 1902年 油彩)右下に並んでいるマークで、日本のハンコ文化を取り入れたものといわれている。ならば、2つ揃ってないと。
▼『ウィーン・モダン展』のショッパー(紙とビニールのレジ袋)
1点ずつ職人さんによる手作業といえば『クリムト展』のグッズ散歩でピックアップしたソフビのグスタフ人形だが、先日、スタッフ専用のバックヤードでとんでもないものを入手した。とってもレアなものなので、ソフトビニール人形ファンのみなさんには、どうか見てほしい。
▼ソフビのグスタフ人形、「塗装過程12連のようすソフビ」勢揃い
ソフビのグスタフ人形、この樹脂を抜き取ったばかりのクリムトを含めた「塗装過程12連」をそのままパッケージ販売したらモーレツなファンがこぞって買うのでは? と、妄想したが、同意したのは『クリムト展』のスタッフ数名だけだった。そ、そうかな? 欲しいけどな、このまま……。見本として飾っておいたらいいのに(ファン心)。
そして、グッズ散歩のなかで、特に気になったアイテムがある。
『ウィーンモダン展』オリジナルの「銀の付箋(ふせん)」だ。
ちなみに、『クリムト展』では「金の付箋(ふせん)」が売っていた。片方を知っていると、もう片方を見たとき「まるで双子のようなアイテムがある」と気づくお客さんもいらっしゃる。わたしも、対(つい)になっているようなかんじが特別に見えて、掘り下げて取材するなら金・銀セットの状態でと考えていた。
そして、独自でいろいろ調べるうちに、なんと、どこ(誰)が作っているものか気づいてしまったのだ……。すごく、ご本人にお話を伺ってみたいと思った。けれど、そういえば開さんからは前回、「Eastとしては、グッズの製造に関わっている職人さんをすべて明かすつもりはないよ」とはっきり言われているのだった、ということも同時に思い出していた……。
▼『ウィーン・モダン展』銀の付箋コーナー、その1
ソフビ「グスタフ人形」の時は、職人さんまでたどり着けなかった。
でも、ショップスタッフのタレコミにより、実は、ご本人がプライベートで『クリムト展』を鑑賞しにきていたのは知っている。わたしがグスタフ人形を好きだから、まわりが「作った人きてるらしいよ!」と教えてくれたのだ。なので、ショップでEast社員の西口さんと話している後ろ姿も、遠目から見ているのだ。『ウィーン・モダン展』にあるクリムトのスモックTシャツを着てらっしゃったから、それをネタに話しかけたかったよ……。ただ、ちょうどその時、怒涛のレジ対応でまったく身動きがとれずにいた。ほどなくして去っていくソフビ職人さんの背中に、ア――ッ!! と、小さく叫んだ。
あの時、ご本人を口説いてからEast開さんに懇願していれば、ダブル取材ができていたかもしれない。どうしてもそのことが頭をよぎる。
というわけで、
ダメ元だが、「金の付箋・銀の付箋」の職人さんとおもわれる株式会社PLANTIS(プランティス)の山口圭二郎さんに、メールで連絡をとってみた。PLANTIS(プランティス)が運営する「やまま文具」の文具ブランドの1つとして「金・銀・銅の付箋」を展開しているらしい。
もちろん、メール内容はそっくりそのまま、Eastの開さん宛てに転送されることも想定した。コレ何? と、確認されてもすまし顔でいられるよう、ぎりぎり怒られなさそうな、情状酌量の余地がある内容にしたつもりだ。我ながらビビりである。
▼『ウィーン・モダン展』銀の付箋コーナー、その2
数日後、返信があった。
おそるおそるクリックしたところ、「取材については問題ないですよ」とのこと! 多忙のためメールでの質問のやりとりになると言われたが、十分ありがたい。もちろん、Eastの開さんにも光の速さでコトのなりゆきを伝えた……。ほんとよくやるなあ、という感じで言われてしまった。
少々脱線するが、
わたしがEastの開さんから取材を受けてもらえた理由って、なんだろうか。きっと、アルバイトスタッフとして働いている(=身内のようなものである)からではなくて、「ヒラキさんのここ掘れワンワン!」と似たような突撃を、わたしもやっているからじゃないかと思っているのだが……。
「ヒラキさんのここ掘れワンワン!」とは、Eastの求人ページに書いてあった、開さんご本人の手法だ。一部抜粋すると、「ここだ!」と思う作り手さんを見つけると、すぐに電話をして、その人と話し、会いに行き、今度は直接、話し、口説いて、お仕事を一緒にする。というもの。どうみたって、わたしより開さんのほうが突撃体質である。
さて、話に戻る。
せっかくなので、『クリムト展』特設展示ショップのスタッフとして勤務していた時に、お客さんからよく質問されたことについて伺ってみた。
< 質問 ① >
「小銭入れですか? 名刺入れですか?」
「金の付箋、銀の付箋」は、ぱかっと中央のボタンを開けると上下にひらく形になっている。両脇が閉じられていないため、何かをしまい込んでおこうとしても隙間から落ちてしまうだろう。「袋」になっていれば小銭入れや名刺入れにできそうだが……という声。山口さんいわく、
「両脇を開けるのは、普通の小物入れにはみえないようにするためです。文房具の商品パッケージは、中身を見せることが大切だと考えていますが、この付箋は持ち運びできるものにしたかったので、内側にある商品が見えること、その商品を守ることの2点を実現するため、両サイドからふせんが見える構造になっています」。
< 質問② >
「中身の付箋を使い切ってからの使い道に悩む」
とてもきれいなパッケージなので、詰め替え(差し替え)用の付箋があれば何度も再利用できるとおもう。そういう商品は、作らないのか? という声。山口さんによると、
「実は、そういった声は耳に入っていて、中身を差し替えられるような仕様も幾度となく検討していました。ですが、それはやめておきました。なるべくコストをかけずに販売価格を抑えることで、より多くのお客さまに実際に使ってもらえるようにしたかったのです」。
< 質問③ >
「日本製の紙と、そんなに違うの?」
この付箋の特徴は、イタリア製のコシの強い紙を用いており、さわってみるとおもったよりも厚みがあって感触がしっとりなめらかなところ。とても個性的だ。金ぴか&銀ぴかなビジュアルだが、書きにくさはない。油性ペンで滲まず、水性ペンで弾かず、ゲルインキでも鉛筆でもきれいに書ける。この調整に約3年かかったという。山口さんが言うには、
「特にイタリア製だから良い、というわけではありません。ただ、たくさんあるメタリック系の紙のなかでも、この紙がいちばん美しいと感じています。私が紙の特徴として大切にするのは、地合いの美しさです。地合いとは、紙の繊維の状態のこと。金属やプラスチックとは違う、紙の良さを感じるポイントだと思っています。メタリック系の紙は表面がツルっとしたものも多いなか、この紙はすこしざらっとしています。それなのに、輝いているようすがとてもきれいなんですよ。
技術的に、これまでふせん加工ができなかった紙だというのも、この紙を選んだ理由です。他のメーカーではできない商品を作ることは、弊社商品の全体を通したコンセプトのひとつでもあります」
▼金と銀の付箋をざっと並べてみた!
これは、わたしの興味で伺ったのだが、Eastの開さんとの出会いは株式会社PLANTIS(プランティス)の山口さんが「やまま文具」としてとある展示会に初出展したときだそうだ。それが、2019年2月。そこから、4月後半に開幕した『クリムト展』や『ウィーン・モダン展』向けの商品をデザイン・製造するまで発展したというから、スピード感がすごい。山口さんいわく、
「やまま文具オリジナルの金・銀・銅のふせん紙については、デザインから製造まで私がみずから行っています。ふせんの糊の塗工のみ別工場に依頼していて、断裁やカバーの箔押し、型押し、抜きは自社(株式会社PLANTIS)で行い、内職もいまのところは自社で行っています。
クリムト展の金の付箋については、デザインは私で行いました。ウィーン・モダン展の銀の付箋は、Eastさんが手掛けています。やまま文具オリジナルとほぼ同じに見えますが、実際は、カバーの材料などが少しだけ違うんですよ」
どんな材料を使うか、どれだけの量を作るか、納期はいつになるか。さまざまな関係で、作りかたも変わるという。また、近所の工場や職人さんの力を借りて、序盤のタイトな納期を乗り越えたそうだ。「ふせん糊塗工、印刷、ラミネート、合紙、型、抜き加工、箔押し、袋、ラベル、内職」といった過程を、山口さんがそれぞれ専門の方に振り分けて行っている。
さらに!! 山口さんから、とてもレアな画像をいただいた。
▼付箋のカバーを作るための木型を調整中
はじめて写真を見たとき、これが何なのかまったく分からなかった。すこし説明もあったが、いまいち確信が持てない。正直にそれを伝えると、山口さんは次のように教えてくれた。
「これは、ふせんのカバー用の木型です。作りたいカバーの形どおりに紙を抜くための型、といえば分かるでしょうか。上の画像は、緊急で修正をしていたときのものです。クリムトの絵が、上下しっかりつながっているようにデザインしているのですが、実際作ってみるとこれがうまくつながらなくて。この工程は、木型職人さんが行っています。あまり注目されないけれど、非常に重要なところなんですよ。
ふせんのカバーについて簡単に説明しますね。まず、
① 白い紙に絵柄を印刷する。
② その印刷された紙にラミネートをする。
③ ラミネートされた紙と厚紙と内側の紙を貼り合わせる(三層になる)。
④ そこからカバーの形に抜く。
⑤ 箔押しやホックの取り付け作業を行う。
……という工程になります。
付箋として使う金・銀の紙にばかり着目していたので、実はパッケージのデザイン調整が難しかったなんて話がでてくるとはおもわなかった……! あたりまえのように棚に並んでいるけれど、できあがるまでいろんなドラマがあったのだろうなあ。
『ウィーン・モダン展』のグッズ散歩、気になるものはいっぱいある。
でも、やはり、どんなものがあるか実際に見に行ってほしい気持ちが強い。ショップのスタッフさんは、知っていることをいろいろと教えてくれるはずだ。しかも、好みで自腹購入した品の個人的な感想を聞かせてくれる人もいるので、新しい気づきがあってたのしい。
いやはや、これからも美術館のグッズ散歩をしていきたいなあ。そして、「ミュージアムショップにEastあり」なところを、すこしでも伝えていけたらいいなあとおもう。
↓↓↓ おまけ画像 ↓↓↓
▼拡大図。まず、ふだん見ることはなさそうな代物だ