喫茶店大好き芸人セキ・ア・ラ・モードのネタづくり散歩【喫茶『ロゼ』編】

  • 更新日: 2023/03/28

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吉祥寺の老舗準喫茶『ロゼ』にたどり着くまで、ピン芸人セキ・ア・ラ・モードさんとお互い近況報告をした。散歩をしながらいろんな角度でものを見る習慣も、すっかり身についたようである……。

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 喫茶店大好き芸人としての活動が増えて忙しくなっているピン芸人のセキ・ア・ラ・モードさんと、ひさしぶりに散歩をしてきた。今回は吉祥寺。お互いの近況報告をしながら「ネタ探し」と「ネタづくり」をしていく。相変わらず、取材場所の選定や交渉はすべてセキさんが担っている。顔と連絡先を覚えてもらうため、いつのまにか専用の名刺も作っていた。若手の芸人さんで、自分を知ってもらうためのツールとしてちゃんと個人の名刺を用意する方ってはじめて見たかもしれない……。



 吉祥寺に訪れるのは5年以上ぶりだな……。そう気づいて、いつ何を求めて降り立ったかをおもいだすと実母と一緒にこどもを連れて『三鷹の森ジブリ美術館』に行こうとしたとき以来であった。抱っこ紐で娘を抱え、息子はちびっこだった。となると、5年どころか、もう10年近く来ていないかもしれない。しかも、吉祥寺は素通りしただけで、街での滞在時間はほとんどなかったと記憶している。東京都内のおでかけ先として人気のスポットだが、わたしのようにまったくアクセスしなくなる民もいるということだ。



 一方、セキ・ア・ラ・モードさんは住まいが埼玉方面ではあるものの、吉祥寺には喫茶店を求めて足しげく通っているようす。駅での待ち合わせも、ある程度は指定しておかないと探すのが億劫になる広さだが、目印となるものを伝えるとすぐに駆けつけてくれた。セキさんとしては、吉祥寺で何をすると決まっているわけでなく、ただ喫茶店でくつろぎたいときに来るらしい。これといって用がなくても訪れたくなる場所がいくつかあると、人生うるおう気がするなあ。




 あまり訪れない土地を歩くとなんとなく探してしまうのが「路上喫煙禁止マーク」。吉祥寺のある武蔵野市は、「どれだけバレないようにタバコを吸っても吐きだした煙はこんなに外へ流れていっちゃうんだよ!」と訴えたがっているような啓蒙イラストだ。かわいい。




 雑談をしながらハモニカ横丁へ。すっかり喫茶店大好きっぷりが芸人仲間やお笑い好きの人にも定着しているというセキさん、お知り合い限定ではあるが『オートマチック喫茶店検索サービス』を善意で請け負っているのだという。TwitterのDMやLINEから喫茶店を利用したい人数・場所・時間・目的・喫煙の可否などを伝えると、セキ・ア・ラ・モードおすすめの喫茶店を教えてくれるというものだ。セキさんの場合、普段からお店に電話連絡をして最新情報を仕入れる習慣があるので、こと喫茶店に関してはちまたにある飲食店の掲載サイトよりもネタが新鮮で正確だったりする。むしろ、「今の情報」を逐一仕入れておきたい欲があるのだとか。それ、すごすぎませんか。個人が趣味でやっているというけれど。






 お店が開いていたら絶対に食べたかった!というラーメン・餃子の『みんみん』。シャッターにある貼り紙には、「誠に勝手ながら、しばらくの間 月曜日、木曜日を定休日とさせていただきます/店主」とある。セキさんはそこを避けてときどきハモニカ横丁まで来るものの、タイミングが合わずいつも閉まっており、まだ一度も名物を味わったことがないそうだ。表情豊かにネタを披露する芸人さんなので、ライブに行けば喜怒哀楽をけっこう見る機会があるのだが、この瞬間の「食べたかったですね……」の顔は一段とくやしそうだった。




 ハモニカ横丁を抜け、商店街をぶらぶら。次こそ名物を!と教えてもらったのが国産黒毛和牛専門店『吉祥寺さとう』のメンチカツだった。行列が絶えず10名は並んでいる状態で驚いたが、「いやいや今日はこれで少ないほうですよ!」とセキさん。レジ列がメンチを含む揚げ物を注文するためのもの、そうでないものとで分かれている。お店の人気商品を注文するかどうかで混雑具合はまったく違う。



 「食べましょう、並びましょう、ここまで来たのに眺めているだけではもったいないですよ」と、珍しくセキさんが積極的にエスコートするので「そんなにおいしいんですか……?」とたずねてみたら、「もう何年も前ですけど、元カノと吉祥寺でデートしたときも『さとうのメンチカツ』を選んだくらいテッパンですよ!」と誇らしげに語られた。セキさん、街を散歩でぶらぶらするのに慣れてなさすぎて彼女とのデートコース再現中なのか……? そんなことをおもいつつ、超人気商品を1つだけ注文し、ひとけの少ない路地でほおばることにした。



 買ってすぐに食べるお客さんがけっこういるようで、『吉祥寺さとう』のレジ前には大きなポリバケツが置いてある。揚げ物の包装紙を捨てるための専用ゴミ箱だ。こういう心遣いは大変ありがたい。平日、正午の時点でもう中身が満杯になりかかっている。すごい。1日3000個売れるというふれこみは伊達じゃないようだ。いやはや、毎日の可燃物処理が大変そうである。




 急に人通りのほぼない道へと進んだ。「セキさんについて行く」というコマンドを選択してひたすら横でしゃべっているだけなので、自分が吉祥寺のどの辺りにいるかいまいちピンとこない。でも、地図の読めない迷子癖のわたしにとっては、「視界に入った看板や建物でゆっくり道を覚えていける」ほうが気楽である。




 「ああ、吉祥寺にもリアル脱出ゲームで有名な『SCRAP』があるんですねえ」と看板を見てわたしがぼやいた瞬間、セキさんも異変に気付いたようで二人して「ホテル???」とハモッた。看板の中でSCRAPとホテルの表記が密結合している。ホテルはホテル、SCRAPはSCRAPで独立してやってるとおもうけれど、個人やカップルや団体で謎解きゲームをする建物がホテル仕様になっていてもおかしくはないというか、ホテルの一室や間取りを利用した謎解きもありうるとおもってしまったのである。本当はどっちなんだろう。



 謎解き兼ホテルの建物の左端には「ホテルの入り口、こっちじゃないよ、あっちだよ」の看板があった。ところでこの看板、否定するだけなのに大きすぎないか。入り口ちゃうんかーい、と勢いよく手の甲でベシッ!とやろうとしたところ、「これだけ大きく目立つ矢印があるとここがホテルとしての入り口なのかとおもっちゃうじゃないですか、ねえ?」……と、わたしの内心をセキさんが代弁してくれた。わたしの華麗なツッコミはセキさんの解説によってかき消された。



 セキさんもわたしも、看板や建物を見ながら「宿泊用のホテルなのか、ラブホテルなのか、どっちなんですかね?」と話していた。モバイルでウェブ検索をすればどんな用途のホテルなのかはすぐ分かるはずだが、散歩の最中あえてそれはしない。「恋人とのデートだったら、くーりーさんはどうしますか?」「すぐ謎解きゲームをしてホテルをお楽しみにとっておくか、逆にホテル直行してゆっくりしてから謎解きは後で……ってなるか」「どちらも楽しみたいですよね」などと下世話な会話で盛り上がってしまい、お互い苦笑した。結論、同じ建物のようだが、SCRAPはSCRAP、ホテルはホテルで別物である。ちなみに、後で調べてみたら、どうもカップル向けに作れたもの(いわゆるラブホテル)ではなさそうである。二人して、適当な妄想をくり広げてしまった。




 同じく、脱出ゲームの『SCRAP』にて。セキ・ア・ラ・モードさんの身長が158cmなのだが(本人情報)、この扉はそれより少し高い程度。
セキ「僕ならスッと入れますけど、そうじゃなけりゃけっこう低い」
くーりー「謎解きのキャストさんの出入口か何かですかね……?」
セキ「ディズニーとかにありそう」
くーりー「でも謎解きって特定のキャラクターで売ってるわけじゃないし、ゲームの途中とかで背丈の低い、小柄な人が着ぐるみ姿で登場するイメージがあまりないんですよね……」
セキ「建物の設計上造、この扉をどうしても小さくしなきゃならない理由でもあったんでしょうかね?」
くーりー「ていうか、セキさんめちゃくちゃコンパクトですね(撮影しながら)」
セキ「えっ……(無表情)」
 などと、さすがに『SCRAP』の中の人に質問しないと答えが分からないことで憶測が飛び交うのは笑ってしまうが、散歩中のこういうどうでもよい談話がすきだ。




 次世代良質昆虫FOOD『昆虫食』の自販機を発見。同じものは、ここ吉祥寺シュープラザビルのほか、上野アメ横のセンタービル、アメ横プラザ、中野ブロードウェイ、池袋のサンシャイン水族館、ジーンズショップOSADA東静岡店、オーレ藤枝にあるようだ。



 こおろぎ1缶600~900円、かいこ800円、コオロギラーメン680円など、日常的に食べるものとしては少々お値段が張るものばかりである。貧乏性のわたしは気軽に購入できないが、昆虫を食べる機会はなかなかないし、自販機で売られていると「一生に一度くらいは口にしてもいいかもしれない……」というノリで何かしら買ってしまいそうである。



 ひときわ目立っていたのが香る昆虫『タガメサイダー』200ml 600円。わたしは食用タガメをハサミでさばいて中身を食べたことがあるタガメ・イーターなので、あの昆虫がみずみずしい青りんごのような味がしておいしいのは知っている。きっとサイダーになっても味は衰えないだろう。なので、「こんなの食べるの!? 飲むの!?」というリアクションはとっくに通り過ぎてしまった人種なのだが、注目したのはその案内文だ。
 「こちらの商品は常温での販売となっております。冷蔵庫でキリリと冷やすと大変おいしくお飲みいただけます」とある。……えっ、どうしてはじめから冷やして売らないの? すぐ飲めないじゃん……。矛盾しているが、とくに理由は書かれていないことにおかしさを感じてしまった。のちに公式サイトを見たが、そのあたりの記述はない。しかし、味や香りにこだわって作られているのが分かるので、きっと常温での保存と販売が『タガメサイダー』にとってはもっとも適しているということなのだろう。

タガメサイダー | 昆虫食のTAKEO

タガメサイダーは、独自製法で抽出したタガメエキスを使用した新感覚の昆虫ドリンクです。





 喫茶店『まざあぐうす』。セキさんがまだ一度も立ち寄ったことがないというので、のぞいてみることにした。セキさんはもともと喫茶店をはしごするのが趣味だったが、喫茶店大好き芸人としてネタを披露するようになってからはその定番コースの頻度が増しているようだった。同じところを何度もリピートするし、店の看板・外観・メニュー・ペット・ルール・マスターとの会話などさまざまな喫茶店ネタを収集するするようになったので、「いやあ、お店の人気メニューとかいっぱい食べてたら太っちゃったんですよね」と笑う。どうやら一回り以上サイズアップしたらしく、芸人としての勝負服であるスーツも仕立て直したようだ。





 『まざあぐうす』のスタッフさんに名刺を渡し、店内撮影の許可をいただく。やはりこんなふうに喫茶店が好きなことをアピールするお客さん(しかも現役の芸人さん)はそうそういないらしく、驚かれているようすだった。
 店内でわたしはロシアティを注文した。のどを潤すのが、雑談で時間をつぶすのにちょうどいいかなとおもったからである。一方、セキさんはこの後も別の喫茶店取材があるというのに、本当にがっつりとお食事メニューを注文していた。「この1年で胃袋が大きくなったのが分かります」と言ってあっけらかんとしているが、『吉祥寺さとうのメンチカツ』も食べたのにすごい食欲である。




 お互いにのんびり近況報告をしたのだが、「えーっ、散歩をしていてそんな発見があったんですか!?」とか「そういう視点はセキさんならではかも。面白いですね」とか話しているうちに1時間あっというまに過ぎてしまった。セキさんはさすが芸人さんなだけあり、ほっといても勝手にネタを拾ったり広げたりしてくれるので話題に尽きなくて楽しい。




 喫茶店『まざあぐうす』を後にして、吉祥寺プチロードを歩く。かっこいい街灯を見つけたので撮影しようとおもったら、中央の文字「チ」「ロ」辺りにバーコード付きのシールが貼り付けられていることに気づいた。だいぶ高い位置にあるが、どうやったらああなるのだろう。「どうしてあそこにバーコードを付けようとおもったんですかね?」と、きっと誰かがわざとそうしたのであろうという前提でまたセキさんの妄想が始まってしまった。謎が浮上するとその場に立ち止まって考え込んでしまうのだ。そういえば、街灯を見上げながらああでもない、こうでもないと談話しているわたしたちって、通りすがりの人にはどう見えていたのあろうか……?




 吉祥寺プチロードのようすを別カットで撮影。先ほどの『まざあぐうす』看板がこの道の中央に見えている。




 喫茶『ロゼ』に到着。ここからは芸人セキ・ア・ラ・モードさんの解説を楽しんでいただきたい。


喫茶『ロゼ』 / ピン芸人セキ・ア・ラ・モードの視点

 今回取材させて頂いた「喫茶ロゼ」さんは1983年(昭和58年)創業、2023年時点で40年目を迎える喫茶店です。 開業当時は別の場所にありましたが12年ほど前、今の場所へと移転しました。

■ロゼさんと僕

 こちらの「お食事が美味しい」という評判をキャッチし、去年6月に初めて利用させて頂きました。ご夫婦で営業されています。完全にプライベートで取材のつもりも無かったのですが、お二人との会話が驚くほど弾みました。マスターは穏やかで、ゆっくりと楽しそうに話して下さるので自然と僕も笑顔になります。奥様も上品な方で、お話が上手。テンポ良く、シャキシャキとされています。時折マスターにツッコミも入れる姿は、まるでベテラン夫婦漫才を拝見しているようでした。気が付いたら、2時間くらい喋っていました。周りのお客様から「何をされている方ですか?」と聞かれてしまったほどです。ネイチャー和田アキ子さん。以来、定期的に通っております。

 僕は無名の地下芸人(フリーターと紙一重)にも関わらず、有難いことに喫茶店の取材や地元・宮城県で活動させて頂く機会があります。そんな場面で活躍するのが名刺。


▲セキ・ア・ラ・モードの名刺、表面


▲セキ・ア・ラ・モードの名刺、裏面

 今や初対面でも、直ぐにスマホでお互いのSNS等を探り合っては、ある程度の情報が知り得る時代。そんな中でも名刺をお渡しすると、良い意味で驚いて貰えます。さらに「この人は怪しい人じゃない」という、少しばかりの信頼感も持って頂けるのです。僕は生まれつき笑顔が胡散臭いと言われがちですから、助かります。



 何故、僕は急に名刺の話などをしたのか。実は名刺を作るきっかけが、ロゼさんだったからです。僕が芸人であることを話したとき、奥様が「お名刺が欲しいわ。」と言って下さったんですね。そこで「次、ロゼさんへ行ったら必ず名刺を渡そう!」と思い立った訳です。

 誠に勝手ながら、今やっている活動の一部はロゼさんが支えて下さっているような気持ちでいます。この度は感謝の意も込め伺いたい、と考えた次第です。


■オムライスに隠された秘密

 マスターは大学卒業後ドライバーとして勤務されていましたが、ご退職されデパートへ。シェフの下で店長を目指し、料理修業を積まれてきました。78歳を迎える現在も、一人で全てのメニューを作り続けていらっしゃいます。

 ロゼさんの食事は、何を頼んでも当たりです。それもそのはず、マスターは毎朝6時頃からお店に来て仕込みを始めます。オープンは11時。5時間もかけて、丁寧に準備をされます。料理人としての熱意と、高いホスピタリティを感じます。

 他の媒体でも取り上げられている「ハンバーグ定食」は、当時マスターがデパートの食堂で出されていたレシピを軸に考えられたそうです。


▲僕がロゼさんで初めて食べた「ハンバーグ定食」

 また、お子様ランチをイメージした「ロゼランチ」(ランチですが、終日注文できます)も、40年以上前にデパートで出されていたメニューをマスターなりに再現しアレンジしたもの。


▲「ロゼランチ」和風な、いわば大人様ランチ。

 僕も子供の頃、家族に連れて行って貰ったデパートの食堂が忘れられません。シンプルに美味しいだけじゃない。暖かみある、何処か懐かしい香りも感じることが出来ます。



▲取材当日、ライターのくーりーさんが頼んでいた「ビーフシチュー」僕もいただきましたが、コクと深みがあって美味しゅうございました。お米かバケットが欲しくなります。

 僕の個人的なオススメは、以前テレビ番組で川越シェフが100点を付けた「シーフードピラフ」と、そのパスタ版「シーフード塩バター」ですね。とりわけ「シーフード塩バター」は、移転前からのロングセラー商品。


▲「シーフードピラフ」お皿の上が、あっという間に無くなります。このピラフを食べるためだけに、吉祥寺へ行く価値があります。



▲「シーフード塩バター」は、奥様もイチオシ。パスタに使う麺は、なんと自家製。コシと歯ごたえも、オンリーワン。毎日が数量限定です。

 そんなラインナップの中でも1つ、気になるメニューが。それは「オムライス」です。



 こちらのオムライス、ロゼさんならではのポイントがあります。皆様、お気付きでしょうか。

 そう、ケチャップのかけ方が少し変わっているんです。マスター曰く、ご自身の苗字である「深山(ミヤマ/Miyama)」の“My”を現しているんだそう。たしかにジーッと眺めていると、そう見えてくるような。



 おそらくオムライスに己のサインを描く文化は、メイド喫茶以外で無い気がします。固めの玉子に包まれたマスターのサイン入りオムライスは、言わずもがな絶品。SNS映えもバッチリです。


■店名は、マスターが決めていなかった!

 店名の由来は喫茶店によって様々ですが、僕は取材前から「ロゼ=rose=薔薇。つまり、マスターは薔薇がお好きな方なのかな?」と、これまた勝手に解釈していました。



店内入って右手にある、特注のロゴ入り冷蔵庫。色合いに品がありますね。確実に目を惹きます。冷蔵庫の上にも薔薇が置いてあります。

 由来を聞くと、「ワインの色気をイメージしたの。」と奥様から返ってきました。思い込んでしまうところが、僕の悪い癖。(ドラマ「相棒」ファンの方、すみません。)

 言いやすさを加味し、また当時は他に使っている店舗も無かったこと等から名付けたといいます。ネーミングライツを持っていたのは奥様だったんですね。奥様は元々、美容師さんでした。本格的に携わられたのは、ここ2~3年ほど。ですが40年前、最初の物件を決めた際にも奥様は立ち会われていたようです。てっきりマスターお一人で長年やってこられたように思っていましたが、大切な節目には奥様がいらっしゃったんです。マスターは奥様の話になると、いつも笑顔です。照れながらも幸せそうな表情を見せて下さいます。
 喫茶店を通して「夫婦の絆」も知ることが出来るのは僕なりの楽しみ方であり、それらが随所に現れる点も巡る上での魅力だと思っています。

 有難いことに今回の取材で、移転前のメニュー表を見せて頂きました。すべてマスターの手書き。



 これは、相当なメニュー数です。仕込みで早朝からいらっしゃる時点で感じておりましたが、喫茶店の域を超えています。デパートでの厳しい修行を乗り越えてこられたマスターは、和洋中なんでも作れます。お客様からのリクエストに応えていったら、いつの間にかバリエーションも豊かに。



6行目から赤字で「定食」と括り出してしまう辺りも、人間味があって好きです。




ちなみに、入り口に貼ってあるロゴも移転前からの物。こちらも、マスターのハンドメイド。このデザインのクリアファイルが欲しい。


■ロゼさんが閉店を決意するとき

 僕がロゼさんで個人的に好きなものを紹介します。それは「アイスコーヒーのグラス」です。



 初見で「持ち手が低すぎる!」と衝撃を受けたのですが、これは持ち手では無く装飾なんだそうです。



 ロゼさんでしか見たことの無いグラス。当初は20個ほどあったものの飲み口が欠け使えなくなってしまい、今や残り7個に。だいぶ貴重なアイテムとなりました。そんな話をしていたらマスターが、こんなことを呟きました。

「これ以上(グラスが)減ったらダメ。新しいのを見つけなきゃ。見つかるかな。もし見つからなかったら、考えなくちゃ。店じまいするかもしれない。」

 その言葉を受けて奥様が、こう続けます。

「私はね、氷。この製氷機は、四角い氷が出来るの。」



「機械を直してくれる人が、もう1人しかいない。同じ氷を作れる機械が無いの。古いのを使っていて、皆さんは買うのが惜しいと思っているみたいなんですけど、違うんですよ。この氷の味とか、これ以外の氷は使いたくないの。製氷機が壊れたら、私も決断します。」

 ロゼさんが閉店するとすれば、グラスと氷が満足に提供できなくなったら。ここに、お二人のこだわりが詰まっていると感じました。実に興味深い言葉です。

 そういえば自分には、お笑い芸人として「これだけは大切にしたい!」というこだわりがあったかな。
 僕は最初コンビで漫才がしたくて脱サラし、約3年前お笑い養成所に入りました。ですが今はセンターマイクの前に立つこと無く、ピン芸人として活動しています。ロゼさんでお話させて頂いて、ふと「セキ・ア・ラ・モードにとって譲れないものは何か?」ということも考えるキッカケになりました。

 ロゼさんの深い歴史からセキ・ア・ラ・モードの浅い芸人史まで振り返ったところで、まだ出会えていない喫茶店を探しに散歩へ参ります。


◉最後に、セキ・ア・ラ・モードからのワンポイントアドバイス◉
 喫茶ロゼさんは、時間に余裕を持って訪ねるのがオススメです。とりわけランチタイムを過ぎた昼下がりは、より和やかな時間が過ごせるはず。僕にとってのゴールデンタイムです。



【 住所 】東京都武蔵野市吉祥寺本町2-14-1 2F
【 アクセス 】JR「吉祥寺駅」から徒歩5分ほどに位置している
【 TEL 】 0422-21-7572
【 営業時間 】 11:00~20:30
【 定休日 】元旦、他は不定休だが最近は火曜日に休む率が高い
※上記は2023年2月時点での店舗情報です。








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Cooley Gee

ジャンルを問わず好奇心の赴くままにコンテンツへの「突入」「徘徊」「対戦」「攻略」をする人

セキ・ア・ラ・モード

喫茶店大好き芸人です。1993年、宮城県仙台市生まれ。大学卒業後、4年間はスーツ屋さんで働いていました。名前の点(・)は区切らず、なめらかに「セキアラモード」と呼んで貰えたら嬉しいです。

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