カラスネットの形から妄想して絵を描いてみる
- 更新日: 2021/04/30
ここから妄想する
カラスネットはとても面白い形をしている。
カラスネットの形から着想を得て、絵を描いてみたいと思った。
自分は絵描きをしているが、普段は頭の中に浮かんだ面白い形を生き物にしたような、空想系の絵を描いている。
一方で街灯が好きなので、街灯の絵も描いている。
こちらは出来るだけ見たままを描くようにしていて、空想の余地があまりない。
創作の方向性としては、この2つの絵は真逆のように思える。
カラスネットの形を起点にして絵を描く試みは、この2つの方向性を融合しようとあれこれやってみた結果だったりする。
〇
実は少し前から、街歩きで拾い集めた面白げな「何か」と、空想全開の絵を融合したいと考えていた。
ヒントになったのが、「フィリップ・ワイズベッカーの郷土玩具十二支めぐり」という本だ。
タイトルの通り、ワイズベッカーが郷土玩具を作っている工房を見て回るというもの。
郷土玩具は十二支に対応したものが選ばれており、例えば表紙の「赤べこ」は「丑」に該当する。
また、玩具だけでなく、工房の内部や街で見つけた面白い写真なども掲載されている。
ワイズベッカーは街歩きの視点も、とても冴えている。
本の一節に、工房の作業場に干してあったウェットスーツを見つけ、「郷土玩具っぽさ」を勝手に見出す場面がある。
そこで思いついた。
街で見つけた風景をベースにして、空想の何かを描けばいいのか。
早速、街中で良さそうな素材を集めることにした。当時はまだ、カラスネット以外も色々集めていた。
このアスファルトが面白そうだったので、試してみた。
鳥の形に見えたので、鳥を描いてみた。
しかし、手ごたえがあまり良くない。絵としての出来というよりは、描いていて窮屈な感じがする。
他にもいくつか描いてみたが、素材に引っ張られてしまうようだ。まだ試行錯誤が必要だなと思った。
〇
通勤途中や会社の昼休み、出掛けた先などで、気になる形の素材を集めていくと、かなりの確率でカラスネットにビビッと来ることに気づいた。
それならばと思い、一度、カラスネットを素材にして絵を描いてみることにした。
このネットを素材にしてみる。
なかなかインパクトのある形をしている。
先端が木の裏側に回っていて印象的。よく考えると、なぜ先端だけをわざわざ電柱に留めるのかも不思議である。
それはともかく、描く前は水色の洗濯バサミが頭部になりそうだなと思っていた。
ところが、描いてみたらロボットになった。
普段、絵を描くときよりもライブ感が強い。
鉛筆で大体の形をとって、手元にある画材を好きなように塗っていくうちに、思いもよらないアイディアが生まれる瞬間がある。自由で楽しい。
これはいけるなと思った。
いっそ、素材をカラスネットだけに絞って描いてみることにした。
次はこれ。
獅子舞になった。
今度はこれ。
ちょうちょ。
冬の終わり、少しずつ暖かい日が増え始めた頃だったので春らしい絵にした。
これは同じカラスネットを、前から撮ったものと後ろから撮ったもの。風が強い日に見つけた。
カラスネットは折り畳んであったり、ぶら下げてあったりすることが多いが、風が強い日は、そういう「人工的に」作られた形を崩してくれるので、カラスネット日和かもしれないなと思った。
両方とも怪獣にした。
2枚目の下の方は、形を追っているうちに袴と靴に見えてきた。
カラスネットの絵を描いていると、数年前に通っていたデザイン学校の課題を思い出す。
立方体の枠の中に、伸縮性の布材を張りつめて針金で固定し、美しい形を作ってみるというものだ。計画性と偶発性の中間で生まれたデザインを活かす課題だった。
布を色々な方向へ伸ばして遊んでいるうちに偶然面白い形が生まれる。その形を活かすように布に調整を加えていき、最終的な作品へと詰めていく。
偶然生まれた形を出発点にして、そこから段々とイメージを膨らませて仕上げていく過程は、カラスネットと共通する気がした。
〇
バイクのカバーに乗っかっているネットを見つけた。
ちょっと変種だが、面白いものができそう。
潜水艦みたいにした。
ネットとバイクを融合し切れなかった感もあるが、作風的に多少の力任せが許されるシリーズだと思うのでまあいいか。
次はこれ。巨大なメンダコのようにも見える。
雪山になった。
実は普段、風景をあまり描いたことがない。
カラスネットの力を借りて、思わぬところへ行くことができた。
〇
ところで、カラスネットが絵として描きやすいのはどうしてだろうか。
カラスネットの他にも素材になりそうなものを拾い集めたが、崩すのが難しいと感じることが多かった。
例えば、これなんかは最高だと思う。だが実際に何か描いてみようとすると、とても難しい。
あまりにもパーツが多すぎて、それぞれを追いかけるだけで精いっぱいになってしまう。どのように一つの絵にするかまで意識が向かない。
その点、カラスネットは基本的にはネット一つだけ。先ずは、ネットの形をとらえることだけ考えればいい。
この辺りは、先ほどの画像と比べるとすっきりしているが、まだ上手くいかなかった。
パーツの形がかっちりと決まりすぎているせいで、やはり崩しにくいのだと思う。
ある程度完成されていて、想像が入り込む余地が狭いとも言えるかもしれない。
一方で、カラスネットはふにゃふにゃである。
「何だかよく分からないけど、どうにも魅力的な形をしている」くらいの加減で、想像の余地がたくさんある。
そのうえ、細部まで追おうとすると恐ろしく複雑だ。というか完璧に捉えるのはたぶん不可能だ。
どのみち正確に描き切れないのなら、少しくらい形を崩してもまあいいかという気にさせてくれる。ふにゃふにゃだし。
それから、網目状で内側が透けて見える点も結構重要だと思う。
内側の重なりが見えることで、面に複雑な立体感が生まれ、時には何かの模様に見えたりする。この立体感もまた、イメージが生まれやすい要因だといえそうだ。
最後に、ネットの輪郭部分に通してある太めの紐の存在。
紐は、素材や色がネットの部分と異なっている。カラスネット全体のなかで異質な要素で、絵にした時もアクセントとしてそのまま使える。
困った時はここだけ色を変えてみたり、強調させたりすると、絵全体が締まったりする。
ここまでをまとめると、カラスネットが描きやすい理由として、
・単体でモチーフになる上に、ふにゃふにゃしていて形を崩しやすい
・形や構造が複雑なので色々なイメージが膨らみやすい
・モチーフに最初からアクセントが入っていて、絵としてまとめやすい
辺りが考えられそうだ。何となく思い付きで書いてみたが、割りと当たっている気がする。
〇
最後に、実際に絵を描いてみようと思う。
先ずは紙。大きさは大体b5に切る。
紙はいくつか試してみたが、「里紙」という紙が鉛筆も画材も適度に乗って、一番良かった。
風合いも少しざらっとしていて、背景をあまり描き込まなくても質感で間をもたせてくれるし、素朴で勢いのある作風ともマッチする。 全体に、それこそ郷土玩具のような世界観が出る。
これが今回のモチーフ。
これまでと比べてネットがかなり広がっている状態だ。平板で立体感が少な目なので、やや描きづらいかもしれない。
先ずは、鉛筆で大体の形を取る。
出だしが大きすぎて左側が入り切らなくなってしまった。もともとダイナミックな形をしているので、これくらい元気な方がいいかもしれない。
形を取ると何となく亀に見えてきたので、脚をつけ足してみる。
ざっくりと彩色。色は、左下の三角形を緑色にしたいというところからスタートした。
全体のベースカラーは青にした。
自分は、プルシアンブルーを始め、スカイブルー、ターコイズブルーなど青系の色が好きなので、ほっておくと絵が青っぽくなる傾向にある。
ちなみにこの下描きは全体をまとめるのに失敗して、後々ボツにする。
甲羅の部分に水彩絵具で白い縦線を入れる。
「全体の流れ」のようなものができ上がり、絵としての説得力がぐっと高まった。
絵を描いていると、加筆した場所は少しだけなのに、作品が一気に前へ進む瞬間がある。
ネットの淵にあたる濃い黄色の部分はアクセントとして使いたかったので、銀色のペンを引いた上から、ボールペンで縫い目のような模様を付けた(画像だとかなり分かりづらい)。
完成した。
タイトルは「月と鼈」。
足も紙からはみ出すように付け足したことで、より力強くどっしりした印象になった。
亀が首を持ちあげて上を見ているような恰好なので、上に月を足してみた。
どうせ月なら亀じゃなくて鼈だろうということで、タイトルを「月と鼈」にした。そういえば頭部は細長く尖っており、鼈の方が近いかもしれない。
○
そもそも、路上で見つけた「何か」と創作の融合をやってみたいと思ったのは、一年半ほど前の小さな展示がきっかけだった。
冒頭でも書いたが、両者の方向性は真逆だなと思った。
当初は、頭の中できっちり「棲み分け」されていたので、融合されたイメージが湧かなかった。
いつかやってみたいが出来るかどうか分からない、出来るとしてもかなり先になるだろうと思った。
あれから一年半、カラスネットという思わぬ要素を通して意外と早く形になった。
絵がいくつか溜まってきたら、冊子を作ってみたいなあと思う。
カラスネットの形から着想を得て、絵を描いてみたいと思った。
自分は絵描きをしているが、普段は頭の中に浮かんだ面白い形を生き物にしたような、空想系の絵を描いている。
一方で街灯が好きなので、街灯の絵も描いている。
こちらは出来るだけ見たままを描くようにしていて、空想の余地があまりない。
創作の方向性としては、この2つの絵は真逆のように思える。
カラスネットの形を起点にして絵を描く試みは、この2つの方向性を融合しようとあれこれやってみた結果だったりする。
実は少し前から、街歩きで拾い集めた面白げな「何か」と、空想全開の絵を融合したいと考えていた。
ヒントになったのが、「フィリップ・ワイズベッカーの郷土玩具十二支めぐり」という本だ。
タイトルの通り、ワイズベッカーが郷土玩具を作っている工房を見て回るというもの。
郷土玩具は十二支に対応したものが選ばれており、例えば表紙の「赤べこ」は「丑」に該当する。
また、玩具だけでなく、工房の内部や街で見つけた面白い写真なども掲載されている。
ワイズベッカーは街歩きの視点も、とても冴えている。
本の一節に、工房の作業場に干してあったウェットスーツを見つけ、「郷土玩具っぽさ」を勝手に見出す場面がある。
そこで思いついた。
街で見つけた風景をベースにして、空想の何かを描けばいいのか。
早速、街中で良さそうな素材を集めることにした。当時はまだ、カラスネット以外も色々集めていた。
このアスファルトが面白そうだったので、試してみた。
鳥の形に見えたので、鳥を描いてみた。
しかし、手ごたえがあまり良くない。絵としての出来というよりは、描いていて窮屈な感じがする。
他にもいくつか描いてみたが、素材に引っ張られてしまうようだ。まだ試行錯誤が必要だなと思った。
通勤途中や会社の昼休み、出掛けた先などで、気になる形の素材を集めていくと、かなりの確率でカラスネットにビビッと来ることに気づいた。
それならばと思い、一度、カラスネットを素材にして絵を描いてみることにした。
このネットを素材にしてみる。
なかなかインパクトのある形をしている。
先端が木の裏側に回っていて印象的。よく考えると、なぜ先端だけをわざわざ電柱に留めるのかも不思議である。
それはともかく、描く前は水色の洗濯バサミが頭部になりそうだなと思っていた。
ところが、描いてみたらロボットになった。
普段、絵を描くときよりもライブ感が強い。
鉛筆で大体の形をとって、手元にある画材を好きなように塗っていくうちに、思いもよらないアイディアが生まれる瞬間がある。自由で楽しい。
これはいけるなと思った。
いっそ、素材をカラスネットだけに絞って描いてみることにした。
次はこれ。
獅子舞になった。
今度はこれ。
ちょうちょ。
冬の終わり、少しずつ暖かい日が増え始めた頃だったので春らしい絵にした。
これは同じカラスネットを、前から撮ったものと後ろから撮ったもの。風が強い日に見つけた。
カラスネットは折り畳んであったり、ぶら下げてあったりすることが多いが、風が強い日は、そういう「人工的に」作られた形を崩してくれるので、カラスネット日和かもしれないなと思った。
両方とも怪獣にした。
2枚目の下の方は、形を追っているうちに袴と靴に見えてきた。
カラスネットの絵を描いていると、数年前に通っていたデザイン学校の課題を思い出す。
立方体の枠の中に、伸縮性の布材を張りつめて針金で固定し、美しい形を作ってみるというものだ。計画性と偶発性の中間で生まれたデザインを活かす課題だった。
布を色々な方向へ伸ばして遊んでいるうちに偶然面白い形が生まれる。その形を活かすように布に調整を加えていき、最終的な作品へと詰めていく。
偶然生まれた形を出発点にして、そこから段々とイメージを膨らませて仕上げていく過程は、カラスネットと共通する気がした。
バイクのカバーに乗っかっているネットを見つけた。
ちょっと変種だが、面白いものができそう。
潜水艦みたいにした。
ネットとバイクを融合し切れなかった感もあるが、作風的に多少の力任せが許されるシリーズだと思うのでまあいいか。
次はこれ。巨大なメンダコのようにも見える。
雪山になった。
実は普段、風景をあまり描いたことがない。
カラスネットの力を借りて、思わぬところへ行くことができた。
ところで、カラスネットが絵として描きやすいのはどうしてだろうか。
カラスネットの他にも素材になりそうなものを拾い集めたが、崩すのが難しいと感じることが多かった。
例えば、これなんかは最高だと思う。だが実際に何か描いてみようとすると、とても難しい。
あまりにもパーツが多すぎて、それぞれを追いかけるだけで精いっぱいになってしまう。どのように一つの絵にするかまで意識が向かない。
その点、カラスネットは基本的にはネット一つだけ。先ずは、ネットの形をとらえることだけ考えればいい。
この辺りは、先ほどの画像と比べるとすっきりしているが、まだ上手くいかなかった。
パーツの形がかっちりと決まりすぎているせいで、やはり崩しにくいのだと思う。
ある程度完成されていて、想像が入り込む余地が狭いとも言えるかもしれない。
一方で、カラスネットはふにゃふにゃである。
「何だかよく分からないけど、どうにも魅力的な形をしている」くらいの加減で、想像の余地がたくさんある。
そのうえ、細部まで追おうとすると恐ろしく複雑だ。というか完璧に捉えるのはたぶん不可能だ。
どのみち正確に描き切れないのなら、少しくらい形を崩してもまあいいかという気にさせてくれる。ふにゃふにゃだし。
それから、網目状で内側が透けて見える点も結構重要だと思う。
内側の重なりが見えることで、面に複雑な立体感が生まれ、時には何かの模様に見えたりする。この立体感もまた、イメージが生まれやすい要因だといえそうだ。
最後に、ネットの輪郭部分に通してある太めの紐の存在。
紐は、素材や色がネットの部分と異なっている。カラスネット全体のなかで異質な要素で、絵にした時もアクセントとしてそのまま使える。
困った時はここだけ色を変えてみたり、強調させたりすると、絵全体が締まったりする。
ここまでをまとめると、カラスネットが描きやすい理由として、
・単体でモチーフになる上に、ふにゃふにゃしていて形を崩しやすい
・形や構造が複雑なので色々なイメージが膨らみやすい
・モチーフに最初からアクセントが入っていて、絵としてまとめやすい
辺りが考えられそうだ。何となく思い付きで書いてみたが、割りと当たっている気がする。
最後に、実際に絵を描いてみようと思う。
先ずは紙。大きさは大体b5に切る。
紙はいくつか試してみたが、「里紙」という紙が鉛筆も画材も適度に乗って、一番良かった。
風合いも少しざらっとしていて、背景をあまり描き込まなくても質感で間をもたせてくれるし、素朴で勢いのある作風ともマッチする。 全体に、それこそ郷土玩具のような世界観が出る。
これが今回のモチーフ。
これまでと比べてネットがかなり広がっている状態だ。平板で立体感が少な目なので、やや描きづらいかもしれない。
先ずは、鉛筆で大体の形を取る。
出だしが大きすぎて左側が入り切らなくなってしまった。もともとダイナミックな形をしているので、これくらい元気な方がいいかもしれない。
形を取ると何となく亀に見えてきたので、脚をつけ足してみる。
ざっくりと彩色。色は、左下の三角形を緑色にしたいというところからスタートした。
全体のベースカラーは青にした。
自分は、プルシアンブルーを始め、スカイブルー、ターコイズブルーなど青系の色が好きなので、ほっておくと絵が青っぽくなる傾向にある。
ちなみにこの下描きは全体をまとめるのに失敗して、後々ボツにする。
甲羅の部分に水彩絵具で白い縦線を入れる。
「全体の流れ」のようなものができ上がり、絵としての説得力がぐっと高まった。
絵を描いていると、加筆した場所は少しだけなのに、作品が一気に前へ進む瞬間がある。
ネットの淵にあたる濃い黄色の部分はアクセントとして使いたかったので、銀色のペンを引いた上から、ボールペンで縫い目のような模様を付けた(画像だとかなり分かりづらい)。
完成した。
タイトルは「月と鼈」。
足も紙からはみ出すように付け足したことで、より力強くどっしりした印象になった。
亀が首を持ちあげて上を見ているような恰好なので、上に月を足してみた。
どうせ月なら亀じゃなくて鼈だろうということで、タイトルを「月と鼈」にした。そういえば頭部は細長く尖っており、鼈の方が近いかもしれない。
そもそも、路上で見つけた「何か」と創作の融合をやってみたいと思ったのは、一年半ほど前の小さな展示がきっかけだった。
冒頭でも書いたが、両者の方向性は真逆だなと思った。
当初は、頭の中できっちり「棲み分け」されていたので、融合されたイメージが湧かなかった。
いつかやってみたいが出来るかどうか分からない、出来るとしてもかなり先になるだろうと思った。
あれから一年半、カラスネットという思わぬ要素を通して意外と早く形になった。
絵がいくつか溜まってきたら、冊子を作ってみたいなあと思う。