ぼくのひいおじいちゃんは冥王星の名付け親 / 野尻抱影の愛した桜新町は、きっといい街。

  • 更新日: 2017/10/10

ぼくのひいおじいちゃんは冥王星の名付け親 / 野尻抱影の愛した桜新町は、きっといい街。のアイキャッチ画像

中央図書館にはプラネタリウムがありますよ。




こんにちは、山川です。今日は桜新町に来ておりますっていうか近所なので歩いてきました。


僕も前に桜新町は一人で回りましたけど、桜新町といえば長谷川町子が住んでたってことで、こう、駅前にも磯野家の銅像がね。


そう、この企画では毎回、偉人とその愛した街を紹介しているんですけど、今日は、満を持して、僕の先祖を紹介したいんですよ


えー! マジで? 磯野なの?


違います。


中島?


違いますよ。中島は何の偉人なの? 野球?


で、誰なんですか?


ぼくのひいおじいちゃんで、野尻抱影っていう人がいまして。


え、知らない。何巻? サザエの何巻に出てきた?


サザエさんには出て来ないので、サザエは一旦忘れて! 野尻抱影はいろんな肩書きがあった人なんですけど、一番有名なのは天文文学者として冥王星の名付け親になったことでしょうか。


冥王星って名付けたのが野尻さんってこと?


そう、Pluto(冥府の王)の和訳として冥王星、幽王星という候補を科学画報という雑誌に提案したんですね。冥王星はその後中国でも採用されています。あと星座の伝説収集の第一人者で、今プラネタリウムとかで紹介されている星座の話は野尻抱影の著作の引用が多いそうですよ。「新星座巡礼」を読むと、あ、これプラネタリウムの幻想的な語りだ、って。


あ、じゃあ、星座をロマンチックに語るあの語り口の開祖ってこと?


そうそう、あとは英米文学者、随筆家などいろんな肩書を持っていて、いわゆる知の巨人的な方で。僕の母親が言ってたんですけど、お正月に家に遊びに行くと、大きい部屋に金屏風をバックにしたおじいちゃんが居て、野尻さんなんだけど、医学、政治、現代社会のことなど、小一時間みっちりといろいろ喋るんですって。


それが終わらないとお年玉貰えないのね。しかも金屏風持ってるんだ。


王だからね。冥界の王だから。


冥界の王にお年玉貰うために必死だからね。




駅前から野尻邸跡地へ

さて、早速ですが、野尻邸の跡地へ向かいましょう。玉川通り(246号線)を目指します。



駅前の店には、サザエさんの看板がよく立っています。



しかも、お店に関係あるキャラがわりとチョイスされているんですよ。不動産屋といえば花沢さんですよね。



そしておねしょといえばタラちゃんですよね。そうなの?




ここからサザエさん通り。長谷川町子美術館へ続く通りです。
ここを抜けて玉川通りを目指しましょう。




ここは大正3年からやっているお蕎麦屋さんの田中庵です。カレー南蛮とチーズ天ぷらの組み合わせに定評のあるお店ですね。


ここは何か野尻抱影とゆかりがあるんですか?


特に情報はないんですけど、近所なんで、確実にこの前は通っていたと思います。


ええっ? 前を? 通ったお店? なにそのふわっとデータ。よく食べてたとか無いの?


普段近所で外食はしなかったみたいなんですよ。家族とは別々で、金屏風をバックにひいおばあちゃんを侍らせて、一人で食事をとるのが基本でした。


出た、金屏風。しかもひいおばあちゃんは一緒に食べないんだ。


昔の人ですからねえ。誕生日にはお寿司屋さんを呼んで好きなものを握らせたり、原稿料が入った時にはオープンカーで銀座でステーキを食べに行ったりしてたそうです。





桜新町だけに、桜のモチーフを使った建物が多い。



ワカメちゃんが繰り出すチラリズムは今昔不変。



サザエさんのエンディングでこんな感じの影を見かける気がする。あの行脚のゴールはこの建物の可能性。



波平が飲めるだと?


サザエさん放送45周年を記念してつくられた芋焼酎ですね。


ああ、良かった。芋焼酎か。磯野波平を飲みたいと思ったことが今までなかったから、「飲めます」って不意の誘いを受けてちょっと精神が参った。芋焼酎か。良かった~。


なんかよく分からないけど、良かったね。


ところで、野尻さんはお酒はどうだったんでしょう。


芋焼酎を飲んでいたという話はあまり聞いたことはないですね。でも、夕飯前にビールをグビグビ飲んでたんだって。






歩いていくと玉川通り(国道246号線)にぶつかります。



このあたり、駐車場からセブンイレブンと保育園のとこらへんまでが野尻邸があったところです。



あ、そう、仏壇から写真持ってきたんですけど。





まさかの遺影。バックが本棚なのかっこいいな。俺もそうしよう。


ここらへんの庭で「ロング・トム」って名前の天体望遠鏡を使って、近所の人とかと星を見てたんですよ。


ロング・トム。名前ついてるんですね。


冒険小説「宝島」に出てくる海賊船の大砲の名前なんですけどね。野尻さんはその「宝島」を翻訳したんですけど、それが十万部以上の大ヒット、かなり儲かったそうなんです。それで手に入れた天体望遠鏡ってことで。日本光学工業(現ニコン)の屈折式経緯台で、ロング・トムは今も横浜の大佛次郎記念館にあります。


突然出てきた大佛次郎。


大佛次郎さんは、野尻さんの弟ですね。『赤穂浪士』とか『鞍馬天狗』っていう小説を書いてた人なんですよ。






目の前が国道246号線で、上に首都高走ってるから、騒々しさが半端ないですけど、ここで天体観測を?


いや、当時246は無くて、静かなエリアだったんですって。で、246が出来るってことで、『弾丸道路ができるから、もうここには住めない』って言って、用賀のほうに引っ越したんです。んで、僕も今用賀に住んでます。野尻さんとしては用賀より桜新町のほうが気に入っていたそうですよ。






向かい側にあるこもり歯科クリニックなんですけど、ここ実はサザエさんでおなじみの三河屋さんがあったところです。


あ、三河屋は実在してたっていう話は聞いたことあったけどここでしたか。しかも野尻さんちの向かい?


野尻家もお世話になっていたそうで、つけ払いが多かったとか。


サブちゃん可哀想にな。


ちゃんと払ってたと思いますよ?


この建物は新しいですね。もう三河屋さんの痕跡は無いのかしら……


さあ、どうでしょう。





と思って裏へ回ってみたら建物の名前が「ハイツ三河屋」でした。三河屋は、生きている!




旧野尻家跡地から246に出て左手に進むと志賀直哉の家があった場所があるので行ってみましょう。



古い地図によると多分このへんが志賀直哉の家の跡地……。


なんか野尻抱影と親交があったんですか?


お互いの家をよく行き来する仲だったらしいです。野尻さんが英語教師やってた時の体験を志賀直哉が「いたづら」って短編小説にしたっていう話もあります。





向かい側に見える建物のところも志賀直哉の家の跡地です。246が通る前は、ここらへんも家々がギッシリ建っていました。



せっかくですから、246を歩道橋で横断してみましょう。
すぐ真上には首都高が走ってます。傘伸ばせば首都高触れるってくらいの距離です。この上をすごいスピードで車が通ってるって考えると恐怖しかない。



ここの上自転車で通ると加速しそう。


定期的にあって、上手い奴はこれだけ踏んでいってゴールできる感じのやつね。





なんか吹っ飛ぶ角度おかしくない?


なんかファミコンとかに出てくる敵キャラが吹っ飛んだ時の角度に似てますよね。斜め上に吹き飛んで画面外に消えていく感じ。


初期のゲームの物理計算適当だからね。





こちらは呑川の緑道です。



呑川は桜新町が水源なんですよね。ここから蒲田のほうまで流れていきます。


プラネタリウムのある図書館に行きましょう

次はちょっと遠いんですけど世田谷区立図書館へ行きましょうか。実は、中央図書館にはプラネタリウムがあるんですよ。


ぶらぶら寄り道しながら進みます。



いつも思うんですけど、ゴルフクラブのお店ってギッシリすぎません? 奥のやつ欲しいときどうするの?


直線的に買い進めるしかないんじゃないですかね。既に持ってるクラブのところは通れないので迂回したりしながら。


お金かかるパズルゲームみたい。






バイク・専用 置き場。


バイクと専用の置き場。


メゾン・エル桜新町に引っ張られてますよね。





構造上、こうなったらもう立てないですね。


立てないから、こんな顔にもなりますよね。あそこ! あそこ! って。必死。





桜新町駅のあたりまで戻ってきました。今度は北側に行きます。



放置自転車の保管所があります。



高いフェンスにトゲトゲ。自転車の刑務所ですね。


あんな邪悪なトゲトゲ必要ですか? 別にトゲトゲさせなくても、自転車をあんなに高くまで運び出すのは難しそうな気もするけど。


自転車を紐でくくって、こう、外から引っ張り上げる感じだといけそうじゃない?


そんな壮大な盗みの計画実行するなら、大人しく罰金払った方が楽そう。






ばらえ亭。いろんな動物の鳴き真似ができる師匠とかに居そうな名前。ばらえ亭一門。


今見ただけでかき氷6種あるし、ほんとにバラエティに富んでいそう。






テトリスを想起させる壁模様。ブロックがそれぞれ一つずつ多いけれども。



このあたりは弦巻ですね。ちょっと高級な香りがしてきました。静かで住みやすいエリアとして昔から定評があります。





ここは桜新町の憩いの場所「ウレシパモシリ」です。


アイヌ語で「育ちあう大地」って意味だって。なんで突然アイヌ?


ここの土地を区に寄付した地主さんがアイヌの方と交流があるんですって。







世田谷ってもともと山深いから、動物多いんですよ。


こんな生き物を見つけよう! って誘われてるけどさあ、最初のほうに居るタヌキとかハクビシンとかコウモリとか、最近都会で増えてる害獣として名高いですよね。害獣ハンターさんにお願いしたほうが良さそうじゃないですか。


たまに夜中に、ものすごい速さで背の低い動物が目の前を駆け抜けてくの見かけることありますね。なんか野良猫にしては背が低いんで、ハクビシンかもしれません。


害獣も住みやすい街、桜新町。


うれしくない。






ここらへんは準工業地域。ものづくり事業所と住居が共存する地域なんですって。



日産の部品中央販売世田谷支店があったりしました。




おっ、井戸用手押しポンプの製造に定評のある慶和製作所の製品SUN TIGER PUMP。



ポンプがあったらついつい使ってみたくなりますよね。ここは災害時に使える井戸です。
桜新町は地下水が豊富です。



これ見て。ベンチが半分死んでますよ。





座るスペースが無い。なんでこんなことになったんだろう。どういう順番でモノが増えていったのか。


多分ベンチが最後ですよ。このベンチ、災害時にかまどになるっていうタイプのやつなんですけど、「あっ! 井戸の近くにかまど置いたら便利じゃね!?」って後から思いついたんじゃないかなあ。


普段「使えないベンチだなあ」って思ってたのに災害時に大活躍、見直したぜ! っていうシナリオですね。






コンビニの一角にお地蔵さんが居ますね。


地蔵脇の旗がさあ、ふつう御利益とか地蔵の名前とか書くところですよね。「中華まん地蔵」みたいなことになってる。






さて、中央図書館にやってきましたよ。



お、ほんとだ、プラネタリウム。


近所の小学校はだいたい低学年のうちに校外学習で、ここまでプラネタリウムを見にやってきます。野尻さんも昔は渋谷のプラネタリウムで解説をしてました。


渋谷のプラネタリウムっていうと、東急文化会館にあった五島プラネタリウムですか?


そうです、あそこの展示はオリジナル色が強かったらしく、それらの制作は学芸員が支えていました。キリスト誕生した時の星空とか太古の星空を再現してたって話です。野尻さんはそこの学芸委員だったことがあるんです。


そうなんだー。行けばよかったな。ちょうど俺が上京した年に閉館したんですよ、たしか。


せっかくだから見ていきますか? プラネタリウム。


おっ、いいですね、何年ぶりだろ。小さい頃にどっかで見た以来な気がする。







あっ、今日休み……。



仕方ないので廊下の展示を見る。
全然関係ないけど、壁のマス目が歪んで映り込んでいるせいで時空が歪んでる感じがすごい。



重力場の表現です、とか言われたら信じてしまいそう。




プラネタリウムに入れなかったのでプラネタリウムのまわりをぐるっと回ってます。つまり公転しています。



ちなみにこの道はプラネタ通りって言うらしいですけど、



特に星がモチーフになっているとかそういうのは無いみたい。



○△□の排水溝があったけど、何だろう。プラネタ通りだし、星型にしたらよかったのでは?



あれ、っていうかプラネタ通りは蛇崩川の暗渠なのかー。


ご存じ?


目黒川の支流で、三軒茶屋のあたり通って中目黒のほうに抜けてく川ですけど、今は暗渠になってます。祐天寺には蛇崩(じゃくずれ)っていうそのままの名前の交差点があるよ。んで、水源は弦巻の馬事公苑のあたりなので、確かにこのあたり通ってますねえ。


呑川も桜新町が水源だし、このあたりはほんと水が多いんだな。






野尻さんは、自分の墓所をオリオン座の端って決めてたんです。


やだ、ロマンチック~。


オリオン座の右端にベラトリックスという二等星があるんです。ベラトリックスというのはラテン語で女戦士という意味なんですけど……


そんな話バーで披露したらモテるわ~。もっとちょうだい~。


その女戦士を番兵に立てた「オリオン霊園」に行くんだと言ってました。でも草ぼうぼうだったらどうしよう、と心配していて……


霊園のあたりから急に話が野暮ったくなってきた。っていうか、墓所に選んだ星座はオリオンなんですね。


そもそも天体に魅せられたのが、旧制中学時代に入院中の病室から見たオリオン座だったとか。




「ハリーポッターと賢者の石」で、ダンブルドア校長の有名な台詞に「死は次の大いなる冒険に過ぎない」というものがあります。そういえば、ひいおじいちゃんも晩年似たようなことを言っていました。「死っていうのはまばゆい程の素晴らしいことなんだから、悲しんではいけないよ」と。そして「2日後明け方に、僕は一筋の光になって空に登っていくから」って言ったあと、予告通りにオリオン座へ旅立っていきました。
ところで、地球からベラトリックスまでは244.6光年の距離。今年の10月30日で野尻抱影没後40年になりますが、光速で向かった場合は進歩率16.2%です。しかし、星好きなひいおじいちゃんの情熱は、光速を越えてベアトリックスに到着し、ちゃっちゃと草むしりを済ませたのではないのかなと、僕は考えています。

ところで、野尻さん、まだ新刊が出ております。「星と伝説 秋と冬の星」っていう本が9月に偕成社から出たから、もしよかったら買ってみてね!

おしまい。


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山川悠

誰もいないバッティングセンターで数百円分の素振りを楽しむのが好きです。
いや、本当は好きじゃない。みんなが見てる前でカキンカキンしたい。高校時代は帰宅部。

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