777の幸福

  • 更新日: 2021/03/30
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昨年の秋、幼馴染のアイと会う機会があった。
彼女とは小学生のころからの付き合いだ。どうやって仲良くなったのかは思い出せない。多分アイも憶えていないだろう。それくらい前から気づいたらそばにいた。



事前に決めた待ち合わせ場所は横浜市営地下鉄のセンター南駅で、その日はコロナの「密」を回避するために都筑中央公園でピクニックをしようということになっていた。

約束の15分前にセンター南駅に到着。暇だったので駅の書店などをのぞき、あとは改札前でぼうっと人の流れを見ていた。

誰かと会う時、大体いつも約束の時間より15分から30分は早く着いて待っている。
心配性であるというのも理由のひとつではあるけれど、純粋に待ち合わせの「待ち」が好きなのだと思う。その日会う人のことを考えてぼんやりしながら待つのは私にとっては至福の時で、でもそれを誰かに話しても共感を得られたことは一度もない。

ポケットの中のスマホが震え、見ると「駅に着いた」とメッセージがきていた。
軽い気持ちで「ピクニックしようぜ!」と言い合ったものの、私も彼女も都筑中央公園に行ったことがなく、さらに言えばセンター南駅を訪れるのすら初めてだった。





センター南駅周辺は綺麗で人がたくさんいて、予想よりもずっと栄えていた。
遠くに観覧車が見えた気がして調べてみると、お隣のセンター北駅には観覧車があるらしい。





「意外とちゃんと街だわ」「もっとなにもないかと…」とセンター南駅に失礼なことを言いながら、近くのコンビニでお昼ご飯や飲み物を買い込む。
コンビニコーヒーのカップを持つアイの指には指輪があって、人妻だ!!!と何度も驚いてドキドキする。なお、彼女が結婚したのは数年前の話である。





都筑中央公園はこっちだ!とGoogleマップを見ながら歩き出すが、なんせ初めての土地だ。
加えて私は方向感覚がほぼない人間なので、Googleマップの現在地の矢印に自分が合わせるようにその場でくるくると回ってしまう。

だんだん文明の利器に馬鹿にされている気持ちになってくるし一向に都筑中央公園にたどり着かない。
コンビニのビニール袋に入ったほかほかのお昼ご飯が冷めていく。事態は一刻を争う。Googleマップに踊らされている場合ではないのだ。
アイもそう思ったようで、私たちは無言で目の前にあった小さな公園に入った。

空腹が満たされると多少なりとも冷静さが戻ってくる。

それでも方角がわからずスマホで地図を見ながら何度かその場でくるくる回ったが、しばらくしてようやく都筑中央公園の入り口まで来ることができた。







公園が意外と丘であることに驚くと同時に、中学校の記憶がよみがえる。
そういえばあの校舎も丘の上にあったし校歌は「若田の丘に育まれ」で始まるのだった。

私たちが息苦しさを感じていた、あの土地の歌だ。





「フリだとしても、大人になれただけで100点満点だよね」とアイと言い合うことがある。

10代の閉塞感と嫌悪感、誰とも分かち合うことのできない孤独と、深く底の見えない虚無感。優しい地獄みたいな世界。

いま、故郷から遠く離れたこの場所で、私も彼女も昔よりずっと楽に呼吸をしている。

当たり前だがそれは勝利でも敗北でもない。ただやり過ごしただけである。
でも、それでよかったのだ。やり過ごして生きてきたことが100点満点なのだから。





公園の展望広場のモニュメントに書かれた落書きを写真に収めつつ、「インチキって言葉のチョイス、いいなあ」「うん、いいね。グッとくるものがある」と言って二人で並んで座る。
しばらくの間どちらも何も話さずにじっとそこからの景色を眺めた。

ほんとうに随分と遠くまで来たものだ。

大人に擬態して生きていくからには万事が万事うまくいくことは絶対にないし、ダメになりそうな時だってあるだろう。それでも、諦めなければ道がひらけることがある。いつか灯火が見えることもある。


生きている限り新しい何かが芽吹くこともあるのだという事実が、明日の私たちを強くする。そんな気がしている。





帰り道は迷わない分あっという間だった。
駅で反対側の電車に乗るアイが手を振る。片手をあげてそれに応える。


ポケットに手を突っ込むとカサカサと紙の感触がして、ひっぱりだすと昼間寄ったコンビニのレシートだった。
よく見るとそこには「合計777円」と印字されていて、私は声を出さずに少しだけ笑ってしまう。
大げさな言いかただけど、これも生きていたからこそ出会えたスリーセブンだった。









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望月柚花

93年生まれのライター兼フォトグラファー。読書と音楽と甘いものと日本酒が好き。よく眠る人間です。

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