【石川県加賀市】獅子舞マニア散歩vol3 柴山町
- 更新日: 2020/05/07
石川県加賀市柴山町の獅子舞
獅子舞は、町内をぐるりと一周する。僕はその獅子舞にくっついて歩く。地域について知識は少なく、知り合いもほとんどいないが、それでも地域の人々は暖かく迎え入れてくれる。お酒を飲ましてもらい、たまには踊らせてもらう。そうやって、獅子舞という祭りに接していると、その地域の面白さが見えてくる。獅子のデザイン、立ち位置、小物、動作、背後にある風景、それら全てが地域そのものであり、路上観察の一種である。さて、今回このディープな獅子舞マニア散歩を実施したのは、石川県加賀市柴山町。この地域の獅子舞から何が読み解けたのだろうか。
(2019年8~9月のお話です)
柴山町は、石川県加賀市の北部にあり、日本海にも近い地域だ。河童が現れる噂があるとかないとか言われている柴山潟という湖もある。海産物がうまい。池端という地域のコンビニみたいなお店ではうなぎを飼っている。これにはビックリした。そして、この地域は農業も有名だ。渡り鳥の飛来地になっていて、自然が豊富である。
道を一本外れると、この通り息をのむほどの大自然…。
はたまた、道を外れるとこの大きな湖、柴山潟…。
ここはうなぎを飼っている地域のコンビニ、池端商店。住宅はコンパクトに密集している。
庭の生け簀にいるうなぎを見せてもらった。こんなに、生き生きしているコンビニはない。
近くに、犬注意の看板。でかい。
心の2つの点々が後付けされている感は否めない。「犬注意」の意の文字は、境と混同したのだろうか。大きく書いているだけに、妙に気になる。というか、ここまで大きく書きたくなるほどに怖いという「犬の顔」が見てみたかった。
(以上、2019年8月の思い出)
◆
昨年8月はこの地域をひと通り散策しただけであったが、「9月に獅子舞の祭りがあるよ」という情報を聞いて、再び9月下旬に行ってきた。犬、いや、獅子舞に会いに…。ここ、加賀温泉駅は、柴山町の最寄りの駅。
加賀温泉駅には、JR西日本のICOCAのキャラクターがいる。その名も、イコちゃん。駅のホームから改札口まで案内している。なかなかに口ばしに愛嬌があってかわいい。よくみると目が棒線で、しかもはみ出しているのがミソである。個人的には、獅子舞のキャラでも作って、ここに置いてみたいという妄想もある。
さて、この加賀温泉駅から、地域の方に車で送ってもらって、柴山町へ。大きめの家が多く、古くて伝統的な赤瓦の家もあれば、現代風の家も多い。道幅はそんなに広くないが、庭があるなど家の敷地面積が大きいような印象だ。道路に書いてある止まれの表示が「トマレ」になっているのがおくゆかしい。というか、「トマト」に見えた。僕は腹でも減っているだろうか。
突如、獅子舞とリヤカーを引いている青年団が現れた。「こんにちは」と声をかける。大人たちから、「酒でも飲めえ」と歓待を受ける。さて、ここから獅子舞マニア散歩の始まりだ。
青年団は、子供から大人まで世代がバラバラ。色とりどりの衣装を身にまとい、この町内を練り歩き、町内のほとんどの家を訪問する。お店や会社も訪ねる。厄除けや豊作祈願の意味などを込めて、1軒1軒、獅子舞を披露するのだ。町内にはなんと150軒以上も家があるようで、朝から晩まで踊り狂い、祭りは2日続く。みんなヘトヘトでぶっ倒れる。子供は笛を吹き、大人は獅子の胴幕の中に入り踊るということが多い。
これは獅子舞が来る前に、近所の人と青年団が話をする様子。青年団の中には、侍のように着物を着た人もいる。ススキの中から、風を受けて着物を揺らし、颯爽と出てきそうな剣士を思い浮かべる。左に見える緑のカーテンは、なんだろう。小学校の時にゴーヤを育てたのを思い出した。
さて、こちら再びうなぎを飼っている地域のコンビニ、池端商店。こちらが表の入り口である。ご主人が出てきて、獅子舞の演技を心待ちにする。お酒をたくさん売っており、ラベルやポスターだらけ。もらった酒を片手に、着物の侍(剣士)は颯爽と構える。窓ガラスには、イケメン・ダルビッシュと、嵐が貼ってあり、しかもダルビッシュは2枚(二枚目)である。置かれているダンボールは地元の白菜ではなく、なぜか、信州の白菜。
お店の中には、こっそりと女の絵が描かれたポスターが貼ってある。昭和のレトロ感が良い。左から2枚目のポスターでは、女性が和服でお茶を注ぐかのようにビールを扱っている。髪型はモコモコだ。3枚目のポスターは、バンダナを巻いた女性が水着を着てビールのロゴを持つというなかなかない光景だ。眼差しがエロい。4枚目のポスターには、ルービンリキと書いてある。すらりとした手元が美しい。しかし、ビールが垂れて素敵な指にかかってしまいそうだ。この絵を見ると、なぜかビールが非常にうまそうに見える。そして、どうしても女の唇の艶感に目がいく。
さてさて、外では、獅子が吠えて踊り狂っている。獅子を受けて、退治せんと踊る人の衣装がとてもきらびやかである。
こちらは一般のお宅。玄関のところに幕を垂らして、獅子舞の祭りを祝う。こぎれいに並べられた鉢植えが可愛らしい。それにしてもこの地域には、玄関の目の前に獅子が踊れるほどのアプローチが存在するというのが面白い。都会では玄関が道路に面していることが多く、なかなか獅子舞を招き入れて、踊り狂ってもらうことなどできないであろう。
さて、こちらも一般宅。近所のおばあさんも集まっている。背後にある建物は屋根下のおでこが広く、木が直角にたくさん交差している。古民家マニアでもある僕は、石川らしい家だと思い感慨に浸る。写真に見えるように、この町の獅子舞はリヤカーで太鼓などの小道具を運ぶ。なぜなら、大人たちはお酒をたくさん飲むので、車を運転できないからである。それほどまでにお酒を飲む一方で、激しく踊るという強靭な肉体と精神におっかなびっくりである。
ここの家の作りも面白い。玄関が階段状になっており、少し高くなっている。全ての段に、植物が置いてあるというのはなかなか粋である。幕には家紋のようなものが描かれており、格式が高いお家なのだろうか。獅子舞が町内の各家を回る目的は、単なる厄払いのためだけでなく、その家の暮らしを知って、孤独死なども防ぎ、コミュニケーションをとるためでもあると言える。
時折、履物を脱ぐ光景を見る。
ここでも。
足元を見れば、側溝は塞がれ、水平で整備された綺麗な道路が町中に広がっている。これなら、脱いでヒャッホーイと踊り狂っても安心だ。
家の敷地で作物を育てている。点在しているペットボトルは鳥避けのためだろうか。ここの地域は赤瓦が印象的な地域だが、一軒一軒、瓦の色が微妙に違うというのは面白い。
さて、途中休憩の時に、獅子頭をじっくりと見せてもらった。ここの獅子は薄毛になってしまっているが、鼻が高いところが格好よい。まるで、天狗のようである。両サイドの眉毛の上に丸く彫り込みがあるのがチャーミングだ。僕は、instagramのアカウント(@kagashishimai)で獅子舞の鼻の写真などをたくさん載せているので、そちらもぜひご確認いただきたい。他の地域と比較して見てみるのも楽しい。
この獅子頭、ガバッと口を開けてみると、歯のつき方も面白い。奥歯に近いところの歯はライオンの如く尖っておりなんとも痛そうであるが、前歯は角形でぴっちり揃えられており、丸いもので固定されている。まるで、獅子が歯の矯正でもやっているかのようである。
獅子頭が入っていた箱には、なんと獅子頭を彫った方のお名前が刻まれていた。今から30年前にお隣の小松市で掘られたようである。とても貴重な史料だ。
休憩後、山車も出動していった。子供達の服装はよくよくみると、なかなかにカラフルである。太鼓の柄が擦れて消えかかって使い込んでいる感じが良い。
さて、獅子舞も次のお宅へ。獅子舞をする前に、一軒一軒、留守でないか確認しに行くのである。黒瓦の家も発見。屋根の色は、赤瓦だけではないようだ。
よくみると、この車庫は風情がある。色が剥げている感じが良い。車体の顔がひょっこりと覗いており、俺の家だぜ?と少し睨みがてら視線を向けてくる表情と、このこじんまりした車庫のサイズ感が面白い。
今度は前方におばあさんと、その後ろにトラクターがひょっこりと覗いている。獅子舞を待ちきれなくて、様子を伺っているのだ。
さあ、踊るぜ!と振りかざされた獅子。この家の庭には洗濯物干しが置いてある。不覚にも、獅子が洗濯物として干されてそうになっている姿を想像してしまった。獅子だって物干し竿でくつろぎたい時もあるかもしれない。
そういえば、この家では獅子が踊る脇に大量の玉ねぎが干されてあった。とても美味しそうで、よだれが出てきた。農家さんはこのように、住む場所とは別に倉庫のようなものを持っている。
ほらこの家もこんな具合に。
グワッと吠える獅子。それにしても、髪を振り乱し顎の関節が外れるくらい口を開ける瞬間は、なかなかに格好が良い。
時には、車の車庫の中で踊ることもある。こんなにどでかい車庫は、都会にはない。車が2台分駐車できるスペースを備えておき、1台しか止めないということだろうか。それにしても車庫内で暴れる獅子というのはなかなか見られるものではない。
ここの家は、有名な庭師が手塩にかけて剪定したような立派なお庭がある。木がびっちりと手入れされており、獅子もすくっと背筋が伸びている様子だ。
ここの家、側面の壁の継ぎ目がとても興味深い。縦に敷き詰めた板と、トタン板が組み合わさって、壁面を構成している。この家のリフォームの歴史が知りたい。
徐々に、踊り手の団員たちもヘトヘトに疲れてきているようだ。背後には、木がびっしりと一面に生えている家もある。ちょっぴり探検してみたいという好奇心が頭をもたげる。
3人の履物がバラバラで面白い。ヒタヒタ、ペタペタ、ズンズン(足音の違い)。
道路の縁石にて休憩。このような利用の仕方は初めて見た。住宅街は観光地と違って、道端に椅子を用意するということがない。だから、座る場所といえば、道路の縁石ということになるわけである。大勢の男たちがこじんまりとした縁石に座るというのもなかなか良い風景だ。
途中から雨が降ってきた。この大きなお家の住人は、石垣にちょこんと腰をかけている。なるほどなるほど、こういう利用もあるわけだ。
この家の入り口をよく見てほしい。2重扉の玄関である。石川県は冬が寒いので、防寒のために2重扉にしているような家をよく見かける。これもまさに、暮らしの知恵だ。もしかしたら、防音効果もあるかもしれない。獅子舞を心待ちにするときは、「獅子舞来ないかな」と耳をダンボにして外界の音を察知するのだろうか。
ここの家は、庭木を太い棒で支えている。雪の重みに耐えられるように支柱を使う場合もある。さて、雨が強くなってきたし暗くなるので、17時ごろに1日目は終了。
さて、夜は祭りに誘っていただいた村田さんのお家で、親戚が大勢集まる中でご馳走になった。肉料理がたくさんで美味しかった。男盛りの青年団はみなモリモリと食べ、僕は横でモソモソと食べる。また明日きます、と言ってその日は柴山町を後にする。
次の日、図書館に行ったり、他の地域の獅子舞を覗いていたりしたので、夕方になってしまった。雨も降りそうな天気だ。柴山の獅子舞のラストが気になって、最終場所である柴山神社にチャリで向かった。それにしても大雨が降りそうなので、1時間のチャリはとても心配である。
途中、真っ暗な道路を走る。道端は田んぼだらけなので、この通り真っ暗である。案の定、雨も降ってきた。お化けが出てきたら、ギャーと泣くだろう。
さて、柴山神社に着くと、暗がりにポッと提灯がぶら下がり、鳥居を照らしていた。祭りの最終地点はここである。ザワザワと中から地域の人々の声が聞こえる。ジブリに出てきそうな神聖な世界観が広がっていてバクバクと鼓動は高まる。
この提灯、よく見ると獅子のデザインがついている。花に囲まれて、なかなかにカラフルである。そういえば、同じ市内の海岸沿いのエリアで、雌の獅子が花の匂いに惹きつけられて寄ってくるという話を聞いたことがある。花をヒクヒクさせて、良い匂いを嗅ぐと癒されるというのは、人も獅子も同じなのかもしれない。
神社の本殿の中へ!青年団の人が出入りして何やら話している。今日の最後の奉納獅子は雨が強くなってきたので、中止らしい。おお、残念…。でも、この神社で、出店が立ち並び、盆踊りが最後に行われるようなので、何か面白いことはないかなとアンテナを立てて、見学してみることにした。
何やら本殿の中には、何やら箱がたくさん並べられている。もぐら叩きではない。壁には奉納の目録がたくさん並べられている。紙に書かれているのは、みんな酒だ。
お、壇ノ浦の合戦の絵がある。この地域は、源平の戦いにも所縁があるんだろうか。それにしてもこの当時の武士の鎧というのはとても目立つ。パリコレで、ヨウジヤマモトの横から、いきなり鎧を身につけた武士が登場したら、世界中が驚くであろう。馬に乗ってでも登場したら、会場は大混乱である。
外の出店で、ラーメンを発見した。安い….。この表示を見た瞬間に意識が解き放たれ、既に出店のおっちゃんに「ラーメンください」と言っていた。僕は酔っているのだろうか。円の表記が平仮名で「えん」なのが良い。この文字の形から、手招きしている招き猫を想像するのは僕だけだろうか(うん、そうだろう)。
ラーメンには、好きなトッピングができる。どっさり入れてくださいとなぜか恥ずかしくて言えなかったので、どっさり入れてくれないかなと思って、口元をぐっとあげて順番を待つ。
具材の量は普通目だったが、シンプルでおいしそうだ。自分で書いていて、腹が減ってきた。祭りでは、こうやって安くしてでも、地域のために作るよ!っていう気前のいいおっちゃんがたくさんいる。祭りは、地域の人と顔を合わせること、そして、普段の感謝を伝えることなど、大事な側面がたくさんあることに気づかされる。
こちらでは、ビー玉すくいをやっている。子供達も、年一回のお祭りで、こうして遊べる出店がたくさんあるのは楽しい。
雨が降りしきる中で盆踊りは始まり、そして、大人たちは夜を徹して踊り明かす。酒を飲む、踊るの繰り返しだ。獅子舞は2日に渡って、地域の家150軒を一気に駆け回り、そして、最後に2日目の晩に神社へと帰る。普段であれば最後にこの神社で最も激しく舞い、獅子を奉納するとのこと。今回は、この盆踊りを締めくくりとするようだ。
櫓をぐるぐると回っていると、他の町内の人々もたくさん混じっていることに気づいた。この盆踊りの円は、地域の縁を繋いでいるのだ。次第に記憶も薄れ、靴は泥まみれになった。それでも、こうして縁を描くように、獅子舞の祭りに溶け込み、体感できたことはものすごく良い経験である。紹介いただいた村田さんをはじめ、地域の方には感謝の気持ちとともにお礼を述べたい。次回も引き続き、石川県加賀市の1つの町に絞り、獅子舞と地域の魅力を確かめるべく獅子舞マニア散歩を行う。
(2019年8~9月のお話です)
柴山町は、石川県加賀市の北部にあり、日本海にも近い地域だ。河童が現れる噂があるとかないとか言われている柴山潟という湖もある。海産物がうまい。池端という地域のコンビニみたいなお店ではうなぎを飼っている。これにはビックリした。そして、この地域は農業も有名だ。渡り鳥の飛来地になっていて、自然が豊富である。
道を一本外れると、この通り息をのむほどの大自然…。
はたまた、道を外れるとこの大きな湖、柴山潟…。
ここはうなぎを飼っている地域のコンビニ、池端商店。住宅はコンパクトに密集している。
庭の生け簀にいるうなぎを見せてもらった。こんなに、生き生きしているコンビニはない。
近くに、犬注意の看板。でかい。
心の2つの点々が後付けされている感は否めない。「犬注意」の意の文字は、境と混同したのだろうか。大きく書いているだけに、妙に気になる。というか、ここまで大きく書きたくなるほどに怖いという「犬の顔」が見てみたかった。
(以上、2019年8月の思い出)
昨年8月はこの地域をひと通り散策しただけであったが、「9月に獅子舞の祭りがあるよ」という情報を聞いて、再び9月下旬に行ってきた。犬、いや、獅子舞に会いに…。ここ、加賀温泉駅は、柴山町の最寄りの駅。
加賀温泉駅には、JR西日本のICOCAのキャラクターがいる。その名も、イコちゃん。駅のホームから改札口まで案内している。なかなかに口ばしに愛嬌があってかわいい。よくみると目が棒線で、しかもはみ出しているのがミソである。個人的には、獅子舞のキャラでも作って、ここに置いてみたいという妄想もある。
さて、この加賀温泉駅から、地域の方に車で送ってもらって、柴山町へ。大きめの家が多く、古くて伝統的な赤瓦の家もあれば、現代風の家も多い。道幅はそんなに広くないが、庭があるなど家の敷地面積が大きいような印象だ。道路に書いてある止まれの表示が「トマレ」になっているのがおくゆかしい。というか、「トマト」に見えた。僕は腹でも減っているだろうか。
突如、獅子舞とリヤカーを引いている青年団が現れた。「こんにちは」と声をかける。大人たちから、「酒でも飲めえ」と歓待を受ける。さて、ここから獅子舞マニア散歩の始まりだ。
青年団は、子供から大人まで世代がバラバラ。色とりどりの衣装を身にまとい、この町内を練り歩き、町内のほとんどの家を訪問する。お店や会社も訪ねる。厄除けや豊作祈願の意味などを込めて、1軒1軒、獅子舞を披露するのだ。町内にはなんと150軒以上も家があるようで、朝から晩まで踊り狂い、祭りは2日続く。みんなヘトヘトでぶっ倒れる。子供は笛を吹き、大人は獅子の胴幕の中に入り踊るということが多い。
これは獅子舞が来る前に、近所の人と青年団が話をする様子。青年団の中には、侍のように着物を着た人もいる。ススキの中から、風を受けて着物を揺らし、颯爽と出てきそうな剣士を思い浮かべる。左に見える緑のカーテンは、なんだろう。小学校の時にゴーヤを育てたのを思い出した。
さて、こちら再びうなぎを飼っている地域のコンビニ、池端商店。こちらが表の入り口である。ご主人が出てきて、獅子舞の演技を心待ちにする。お酒をたくさん売っており、ラベルやポスターだらけ。もらった酒を片手に、着物の侍(剣士)は颯爽と構える。窓ガラスには、イケメン・ダルビッシュと、嵐が貼ってあり、しかもダルビッシュは2枚(二枚目)である。置かれているダンボールは地元の白菜ではなく、なぜか、信州の白菜。
お店の中には、こっそりと女の絵が描かれたポスターが貼ってある。昭和のレトロ感が良い。左から2枚目のポスターでは、女性が和服でお茶を注ぐかのようにビールを扱っている。髪型はモコモコだ。3枚目のポスターは、バンダナを巻いた女性が水着を着てビールのロゴを持つというなかなかない光景だ。眼差しがエロい。4枚目のポスターには、ルービンリキと書いてある。すらりとした手元が美しい。しかし、ビールが垂れて素敵な指にかかってしまいそうだ。この絵を見ると、なぜかビールが非常にうまそうに見える。そして、どうしても女の唇の艶感に目がいく。
さてさて、外では、獅子が吠えて踊り狂っている。獅子を受けて、退治せんと踊る人の衣装がとてもきらびやかである。
こちらは一般のお宅。玄関のところに幕を垂らして、獅子舞の祭りを祝う。こぎれいに並べられた鉢植えが可愛らしい。それにしてもこの地域には、玄関の目の前に獅子が踊れるほどのアプローチが存在するというのが面白い。都会では玄関が道路に面していることが多く、なかなか獅子舞を招き入れて、踊り狂ってもらうことなどできないであろう。
さて、こちらも一般宅。近所のおばあさんも集まっている。背後にある建物は屋根下のおでこが広く、木が直角にたくさん交差している。古民家マニアでもある僕は、石川らしい家だと思い感慨に浸る。写真に見えるように、この町の獅子舞はリヤカーで太鼓などの小道具を運ぶ。なぜなら、大人たちはお酒をたくさん飲むので、車を運転できないからである。それほどまでにお酒を飲む一方で、激しく踊るという強靭な肉体と精神におっかなびっくりである。
ここの家の作りも面白い。玄関が階段状になっており、少し高くなっている。全ての段に、植物が置いてあるというのはなかなか粋である。幕には家紋のようなものが描かれており、格式が高いお家なのだろうか。獅子舞が町内の各家を回る目的は、単なる厄払いのためだけでなく、その家の暮らしを知って、孤独死なども防ぎ、コミュニケーションをとるためでもあると言える。
時折、履物を脱ぐ光景を見る。
ここでも。
足元を見れば、側溝は塞がれ、水平で整備された綺麗な道路が町中に広がっている。これなら、脱いでヒャッホーイと踊り狂っても安心だ。
家の敷地で作物を育てている。点在しているペットボトルは鳥避けのためだろうか。ここの地域は赤瓦が印象的な地域だが、一軒一軒、瓦の色が微妙に違うというのは面白い。
さて、途中休憩の時に、獅子頭をじっくりと見せてもらった。ここの獅子は薄毛になってしまっているが、鼻が高いところが格好よい。まるで、天狗のようである。両サイドの眉毛の上に丸く彫り込みがあるのがチャーミングだ。僕は、instagramのアカウント(@kagashishimai)で獅子舞の鼻の写真などをたくさん載せているので、そちらもぜひご確認いただきたい。他の地域と比較して見てみるのも楽しい。
この獅子頭、ガバッと口を開けてみると、歯のつき方も面白い。奥歯に近いところの歯はライオンの如く尖っておりなんとも痛そうであるが、前歯は角形でぴっちり揃えられており、丸いもので固定されている。まるで、獅子が歯の矯正でもやっているかのようである。
獅子頭が入っていた箱には、なんと獅子頭を彫った方のお名前が刻まれていた。今から30年前にお隣の小松市で掘られたようである。とても貴重な史料だ。
休憩後、山車も出動していった。子供達の服装はよくよくみると、なかなかにカラフルである。太鼓の柄が擦れて消えかかって使い込んでいる感じが良い。
さて、獅子舞も次のお宅へ。獅子舞をする前に、一軒一軒、留守でないか確認しに行くのである。黒瓦の家も発見。屋根の色は、赤瓦だけではないようだ。
よくみると、この車庫は風情がある。色が剥げている感じが良い。車体の顔がひょっこりと覗いており、俺の家だぜ?と少し睨みがてら視線を向けてくる表情と、このこじんまりした車庫のサイズ感が面白い。
今度は前方におばあさんと、その後ろにトラクターがひょっこりと覗いている。獅子舞を待ちきれなくて、様子を伺っているのだ。
さあ、踊るぜ!と振りかざされた獅子。この家の庭には洗濯物干しが置いてある。不覚にも、獅子が洗濯物として干されてそうになっている姿を想像してしまった。獅子だって物干し竿でくつろぎたい時もあるかもしれない。
そういえば、この家では獅子が踊る脇に大量の玉ねぎが干されてあった。とても美味しそうで、よだれが出てきた。農家さんはこのように、住む場所とは別に倉庫のようなものを持っている。
ほらこの家もこんな具合に。
グワッと吠える獅子。それにしても、髪を振り乱し顎の関節が外れるくらい口を開ける瞬間は、なかなかに格好が良い。
時には、車の車庫の中で踊ることもある。こんなにどでかい車庫は、都会にはない。車が2台分駐車できるスペースを備えておき、1台しか止めないということだろうか。それにしても車庫内で暴れる獅子というのはなかなか見られるものではない。
ここの家は、有名な庭師が手塩にかけて剪定したような立派なお庭がある。木がびっちりと手入れされており、獅子もすくっと背筋が伸びている様子だ。
ここの家、側面の壁の継ぎ目がとても興味深い。縦に敷き詰めた板と、トタン板が組み合わさって、壁面を構成している。この家のリフォームの歴史が知りたい。
徐々に、踊り手の団員たちもヘトヘトに疲れてきているようだ。背後には、木がびっしりと一面に生えている家もある。ちょっぴり探検してみたいという好奇心が頭をもたげる。
3人の履物がバラバラで面白い。ヒタヒタ、ペタペタ、ズンズン(足音の違い)。
道路の縁石にて休憩。このような利用の仕方は初めて見た。住宅街は観光地と違って、道端に椅子を用意するということがない。だから、座る場所といえば、道路の縁石ということになるわけである。大勢の男たちがこじんまりとした縁石に座るというのもなかなか良い風景だ。
途中から雨が降ってきた。この大きなお家の住人は、石垣にちょこんと腰をかけている。なるほどなるほど、こういう利用もあるわけだ。
この家の入り口をよく見てほしい。2重扉の玄関である。石川県は冬が寒いので、防寒のために2重扉にしているような家をよく見かける。これもまさに、暮らしの知恵だ。もしかしたら、防音効果もあるかもしれない。獅子舞を心待ちにするときは、「獅子舞来ないかな」と耳をダンボにして外界の音を察知するのだろうか。
ここの家は、庭木を太い棒で支えている。雪の重みに耐えられるように支柱を使う場合もある。さて、雨が強くなってきたし暗くなるので、17時ごろに1日目は終了。
さて、夜は祭りに誘っていただいた村田さんのお家で、親戚が大勢集まる中でご馳走になった。肉料理がたくさんで美味しかった。男盛りの青年団はみなモリモリと食べ、僕は横でモソモソと食べる。また明日きます、と言ってその日は柴山町を後にする。
次の日、図書館に行ったり、他の地域の獅子舞を覗いていたりしたので、夕方になってしまった。雨も降りそうな天気だ。柴山の獅子舞のラストが気になって、最終場所である柴山神社にチャリで向かった。それにしても大雨が降りそうなので、1時間のチャリはとても心配である。
途中、真っ暗な道路を走る。道端は田んぼだらけなので、この通り真っ暗である。案の定、雨も降ってきた。お化けが出てきたら、ギャーと泣くだろう。
さて、柴山神社に着くと、暗がりにポッと提灯がぶら下がり、鳥居を照らしていた。祭りの最終地点はここである。ザワザワと中から地域の人々の声が聞こえる。ジブリに出てきそうな神聖な世界観が広がっていてバクバクと鼓動は高まる。
この提灯、よく見ると獅子のデザインがついている。花に囲まれて、なかなかにカラフルである。そういえば、同じ市内の海岸沿いのエリアで、雌の獅子が花の匂いに惹きつけられて寄ってくるという話を聞いたことがある。花をヒクヒクさせて、良い匂いを嗅ぐと癒されるというのは、人も獅子も同じなのかもしれない。
神社の本殿の中へ!青年団の人が出入りして何やら話している。今日の最後の奉納獅子は雨が強くなってきたので、中止らしい。おお、残念…。でも、この神社で、出店が立ち並び、盆踊りが最後に行われるようなので、何か面白いことはないかなとアンテナを立てて、見学してみることにした。
何やら本殿の中には、何やら箱がたくさん並べられている。もぐら叩きではない。壁には奉納の目録がたくさん並べられている。紙に書かれているのは、みんな酒だ。
お、壇ノ浦の合戦の絵がある。この地域は、源平の戦いにも所縁があるんだろうか。それにしてもこの当時の武士の鎧というのはとても目立つ。パリコレで、ヨウジヤマモトの横から、いきなり鎧を身につけた武士が登場したら、世界中が驚くであろう。馬に乗ってでも登場したら、会場は大混乱である。
外の出店で、ラーメンを発見した。安い….。この表示を見た瞬間に意識が解き放たれ、既に出店のおっちゃんに「ラーメンください」と言っていた。僕は酔っているのだろうか。円の表記が平仮名で「えん」なのが良い。この文字の形から、手招きしている招き猫を想像するのは僕だけだろうか(うん、そうだろう)。
ラーメンには、好きなトッピングができる。どっさり入れてくださいとなぜか恥ずかしくて言えなかったので、どっさり入れてくれないかなと思って、口元をぐっとあげて順番を待つ。
具材の量は普通目だったが、シンプルでおいしそうだ。自分で書いていて、腹が減ってきた。祭りでは、こうやって安くしてでも、地域のために作るよ!っていう気前のいいおっちゃんがたくさんいる。祭りは、地域の人と顔を合わせること、そして、普段の感謝を伝えることなど、大事な側面がたくさんあることに気づかされる。
こちらでは、ビー玉すくいをやっている。子供達も、年一回のお祭りで、こうして遊べる出店がたくさんあるのは楽しい。
雨が降りしきる中で盆踊りは始まり、そして、大人たちは夜を徹して踊り明かす。酒を飲む、踊るの繰り返しだ。獅子舞は2日に渡って、地域の家150軒を一気に駆け回り、そして、最後に2日目の晩に神社へと帰る。普段であれば最後にこの神社で最も激しく舞い、獅子を奉納するとのこと。今回は、この盆踊りを締めくくりとするようだ。
櫓をぐるぐると回っていると、他の町内の人々もたくさん混じっていることに気づいた。この盆踊りの円は、地域の縁を繋いでいるのだ。次第に記憶も薄れ、靴は泥まみれになった。それでも、こうして縁を描くように、獅子舞の祭りに溶け込み、体感できたことはものすごく良い経験である。紹介いただいた村田さんをはじめ、地域の方には感謝の気持ちとともにお礼を述べたい。次回も引き続き、石川県加賀市の1つの町に絞り、獅子舞と地域の魅力を確かめるべく獅子舞マニア散歩を行う。