獅子舞お断り看板を探す

  • 更新日: 2022/09/13

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獅子舞お断り看板

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突然だが「獅子舞お断り看板」をご存知だろうか?

正月などにパクパクと頭を噛んでくれるあの縁起物の獅子舞がお断りされてしまうなんて!と驚く方もいるだろう。戦後、警察署の名義で商店や個人宅などに、数多くの獅子舞お断りの看板が立てられた。SNSを見ていてたまたまこの看板の情報を見かけ、「なぜ獅子舞お断り?」という疑問とともに、今では希少種となったこの看板を探し求める旅が始まった。

まずはSNSやインターネット検索で、「獅子舞 お断り」などの言葉を検索してみた。東京都渋谷区、荻窪商店街、葛飾区堀切界隈(堀切菖蒲園そば)、府中市大國魂神社裏、杉並区善福寺2丁目、八王子市、大阪府布施、岸和田、城東、北海道帯広市、美唄市、札幌市など様々な地域の名前が挙がってきた。「◯丁目」まで特定できるものもあれば、市区町村レベルまでしか特定できない場合も多い。都道府県で言えば、東京、大阪、北海道がなぜか多い。とても古い記述も多く、今存在するかは怪しい。

結論から言えばこの看板を見つけることはできたものの、位置を特定するのにかなり苦戦した。空振りした時のこと含めて、ここに調査の記録を残しておく。

日本全国の情報が溢れる中で、まずは東京都府中市大國魂神社裏に向かった。なぜ最初にこの場所を選んだかというと、かなり場所が特定されていると思ったからだ。早速、現地に行ってみた。


獅子舞お断り看板調査①

日程:2022年7月22日
調査時間:2時間程度
場所:東京都府中市大國魂神社周辺



ひとまず、府中本町駅に降り立った。




徒歩数分で、大國魂神社の鳥居にたどり着く。




大國魂神社の裏ってどこだ?と彷徨う。なんか良さげな小道があった。神聖なる大木の横に、1本のカラーコーン。本当に進んでいいのか?と半信半疑になり引き返す。




大國魂神社をぐるりと一周して、反対側から「裏」に行こうとしたが、立ち入り禁止だった。




木造文化財が猫によって老化しているらしい。大國魂神社のまさに「裏事情」を知っただけとなってしまった。




交番のおまわりさんなら、獅子舞お断り看板を見たことがあるかもしれないと思い、恐る恐る交番に入る。

僕:じ、実は獅子舞お断り看板を探してるんです。

おまわりさん:獅子舞お断り看板!?どんな看板ですか?

僕:Twitterでみかけるんですけど、こんなやつです。ホーロー看板です。

おまわりさん:あーホーロー看板ね!

僕:そうです、そうです!

おまわりさん:ここらへんは区画整理が済んじゃっているからねー。宮西町の方とかいってみたらどうですか?

僕:なるほど、行ってみますね。

おまわりさん:ところで、なんで獅子舞お断り看板なんか探しているんですか?

僕:獅子舞の研究をしているんです...!

(首をかしげるおまわりさん。だが、基本終始フレンドリーに対応してくれた)




おまわりさんに教えてもらった宮西町に向かったところ、まさに区画整理が進んでないところが盛りだくさんだった。




え!獅子舞お断り看板?「シシ禁止」って書いてあるぞ。と思ってよく見たら「チラシ禁止」だった。




そのほかにも、様々な張り紙があった。こちらではコロナ退散のために、阿弥陀仏、牛、アマビエ、鍾馗、虎など、思いつく限りの守り神達を描きまくっていた。獅子舞も描いてほしかった。




なんの変哲もない和風の外観。窓の部分をよく見ると...。



長老っぽい獅子が潜んでいた...!




もう1時間くらい歩き回っているのに獅子舞お断り看板は一向に見つからないので、恐る恐るお菓子屋に入りおばあちゃんに尋ねてみることにした。

僕:ここらへんで獅子舞って見たことありますか?

おばあちゃん:お祭りのときにひょっとこやらおかめやらが昔来てましたけど、今は見ないですね。ここでお店を始めて40年になります。

僕:なるほど、ホーロー看板に獅子舞禁止って文字も見たことないですか?

おばあちゃん:いやー、見たことないですね。すみません、お役に立てず。

なるほど、ノリで探しにきたはいいものの、なかなか見つけるのは困難なようだ。引き続き歩いてみよう。



よく見かけるのは古びた「防犯連絡所」の看板。府中警察署発行という点でも、獅子舞お断り看板と同じような属性の看板であることは確かだ。



逆に真新しい看板といえば、よくみるのはマンション無断立ち入り禁止の看板。今も昔も、物騒な世の中だなと思う。




獅子舞ではなく、「猛犬に注意」はよくある。なぜか、「猛犬に」と言い切り型の看板があり、それに対して「猛犬に注意」と言い直しているものもあった。おそらく、「注意」の文字が赤字で書かれており、劣化して消えてしまったのだろう。

ひやーなかなか難しいなと思って、電車に乗り込む。

狙いを定めて探し当てるのは雲を掴むような話。なかなか見つかるものではない。炎天下の中で頭が痛くなってぼーとしてきたので今日はここまでだ。むやみやたらに動き回るのではなく、獅子舞お断りに言及した著作を調べるなど、もっと具体的な情報を絞り込んでから現地に向かう方が手っ取り早いであろうことに気がついた。


獅子舞お断り看板調査②

日程:2022年7月24日
調査時間:30分程度
場所:東京都荒川区荒川6丁目65番地

今回は前回の反省を考慮して、かなり具体的な番地名まで特定できる場所に探しに行くことにした。それで特定できたのが、東京都荒川区6丁目65番地だった。これはとあるブログで「獅子舞お断り看板があった」という2009年の投稿を見かけた。少し昔の話だが、一応場所もかなり特定できたので、行ってみることにした。



三河島の町に降り立った。新しい建物も多いが、少し古い家も残っている。ここらへんから20分程度歩き、荒川6丁目を目指す。




口調が強めのダンボールを捨てるなという看板。ダンボールに書かれているのがミソだと思う。




可愛らしい郵便ポストがあった。テープが貼られているので、もう使われていないのだろう。




このポストはまさかの中国の人向け?「邮」は中国語の簡体字だ。郵便ポストは家の外部に対する接し方を表しているかもしれない。




「ご自由にどうぞ」がまたあった。



よくよく見ると、大鍋やら流木やらが置かれていて、かなりカオスだ。大鍋ならまだしも流木は何に使うのだろう?チャンバラならできるかもな。




こちらはチラシお断りのポスト。ビックリマークが2つもついている。




へんなことを想像してしまうマンション。




そんなこんなでやっと着いた!荒川6丁目65番地!このエリアは本当に狭くて、1区画分の敷地に10軒弱の家があるのみだ。これなら獅子舞お断り看板が探せるに違いない。




おっと、早速かなりレトロな看板発見。ポストがかなり古いし、荒川警察署発行の「防犯連絡所」の看板もある。




お隣の畳店の人にヒアリングしてみようと思ったがお留守だった。




それで65番地をぐるりと一周してみると、なんと裏側は大規模工事中!この区画のほとんどは工事中だったのだ。




広場予定地という看板が建てられており、公共の場になるらしい。もしかすると、2009年にあった獅子舞お断り看板の家は、この工事中の場所にあったかもしれない。




もう何が建てられていたのかよくわからなくなっている。




65番地を何度もぐるぐる回ってみたが、一向に獅子舞お断り看板の家は見つからない。おそらく工事中の場所にあったのだろうと思って、工事の交通整理のおっちゃんに尋ねてみることにした。

僕:獅子舞お断りの看板を探しているんですが、こういう看板を見たことはありませんか?(ブログに載っている2009年の獅子舞お断り看板の写真を見せる)

工事のおっちゃん:いやー見たことないですね。

僕:たぶん、この65番地のエリアなんです。もしかしたら、今工事をしているところに建っていた家にかけられていたのかもしれません。

工事のおっちゃん:なるほど...。もしかすると、10年前くらいならありえるかもしれません。今工事しているところは公園だったのですが、その公園ができたのがちょうど10年前くらいなんです。だから、公園の前にその看板がかけられた家があった可能性はありますね。

僕:おお、そうなのですね。わかりました。ありがとうございます。

昔はおそらくこの地に、獅子舞お断り看板があったのだ。実物をみることはできなかったが、昔に想いを馳せると感慨深く思われた。そして、その想いを噛み締めながら帰路に着いた。




帰り道では、消火器がもりもりに置かれた倉庫に出会った。



一方で、しょぼくれた消火器もあった。




獅子舞には関係ないかもしれないが、提灯屋さんはあった。




巨大な犬もいた。




神聖なる獅子がお守りするピカピカの一軒家もあった。

さて、荒川区でも獅子舞お断り看板を見つけることはできなかった。しかし、おそらくこの場所にあっただろうという検討まではつけられた。そして、かつてその看板があったであろう当時に思いを馳せるというロマンも味わえた。府中市の時のように、あてずっぽうに2時間歩き続けるよりは成長したと思う。あとは、もう少し新しい情報をもとに、獅子舞お断り看板の場所を当てていきたい。


獅子舞お断り看板調査③

日程:2022年8月6日
調査時間:3時間程度
場所:愛知県名古屋市熱田区神宮小路

確実な情報が欲しいと思って、instagramやTwitterで獅子舞お断りの投稿を探しまくり、これはどこで見られますか?とコメントすることを繰り返した。たまに返信があって、それで一番この看板に出会える確率が高いと思ったのが名古屋市熱田区だった。

「今でもこの看板はあると思いますよ」というお返事をもらえたし、よくよく調べてみると2021年秋にとあるブログで「獅子舞お断り看板発見」とさりげなく書いている人もいた。情報も新しいし行ってみようということで、思いきって名古屋市熱田区まで行ってきた。



青春18きっぷを使い、電車に揺られること半日。やっとの事でついた!熱田駅。ここから、獅子舞お断り看板があると噂の神宮小路へと向かう。




廃墟感満載の建物がたくさんある。




おもしろい形の家だ。力こぶ自慢しているマッチョな人の腕みたいな感じかな。



壁面をよくみるとなんかホラーだ。




商店街のカラオケバーの名前が露骨だ。




めしがまじでうまいらしい。




ヘルスってなんだろう。壁面にわずかに残る跡をみる限りでは、お店の入り口があったのかもしれない。




ズタズタになった餃子屋は、ポスターだけがなぜか異様にきれい。




さて、ついたぞ神宮小路!とても雰囲気のある場所だ。珈琲屋の壁面は配線だらけなところが良い。




よく見たらドクロが隠れていた。




物陰には生き物が潜んでいる。




昔ながらの商店街って感じだ。ただし、あまり人が出入りしている雰囲気はない。とにかく静かな空間が広がっており、忍者のような足取りで歩き回る。




錆びており味のある階段。勾配が急すぎるところがよい。




玄関への出入りをふさぐはしご。これも禁止看板と同じ類のものと考えても良いかもしれない。




廃墟感満載の商店街なのに、なぜか共同トイレだけが超ピカピカ。白一色に統一されており清潔感がある。




郵便受けに藁の贈り物が届けられていた。




山ねこ推しの居酒屋。



一方で、こちらは純米吟醸の而今(じこん)推し。




なんでもボックスみたいな一画ができていた。




傘やら亀やらが入っていた。




お?あれはもしや??




あった!!!!!!!!!!!!!

獅子舞お断り看板。神宮小路の最奥でついに獅子舞お断り看板を見つけることができた。

名古屋まで来てようやく発見できてよかった。この類の看板はかなりレア物なので、たまたま見かけることはあっても自分から探し出そうとするとかなり難しい。だから、今回探し出せたことに対する達成感は非常に大きかった。




このエリアで一番老舗そうなお店の人に、このエリアで獅子舞お断り看板ができた背景について聞いてみることにした。開店時間をネットで確認するとあと2時間後のようなので、2時間ひたすら待つことにした。

やっとの事で2時間待ち、トントンと扉を叩くとだいたい80歳くらいの優しそうなおばあさんが出てきた。「いやーごめんねえ。料理作る人が来てなくてあと30分はかかりそうなのよ」とのことだったが、今聞くしかないと思って、獅子舞お断り看板について尋ねてみた。

僕:この辺って獅子舞いるんですか?

おばあさん:いない、いない。キッチンカーはあるけど、獅子舞は昔からいなかったねえ。

僕:お店っていつからされてますか?

おばあさん:50~60年前くらいだねえ。

僕:その頃から獅子舞はいなかったんですか?

おばあさん:うん、その頃からいなかったよ。

なるほど、獅子舞お断り看板ができたのは、かなり前のことらしい。戦後の貧しい社会情勢の中で獅子舞がお金をもらいにきたという話をネットで見かけることもあるので、おそらく1945年から60年までの間に、この商店街に獅子舞が来たのかもしれない。

そのような気づきを得た後、再び青春18切符に乗って家に帰った。


「獅子舞お断り看板」とは何だったのか?

さて、まだ1つしか獅子舞お断り看板をみたことがない自分が、この看板について語るのは恐れ多い。ただ、ネットや本などの情報をかいつまんで推測すると、この看板は昭和の貧しい時代に商店や個人宅をまわってお金をもらい歩く獅子舞であったことは確かだ。

この獅子舞は一般的に地域で民俗芸能として継承されていて、家を一軒一軒回っていくような門付け型の獅子舞とは少し性格が違うものだろう。貧しい人々あるいは反社会勢力が集まり獅子舞集団が形成され、正月のみならず様々な時期に押しかけて舞うような獅子舞が行われていたと考えられる。それに対して、日本全国各地の警察署が対応を迫られ、獅子舞お断りの看板を発行したという流れだろう。

今となっては、そのような獅子舞を見ることはない。社会の表舞台に立って真っ向勝負するよりも、オレオレ詐欺や詐欺メールなどもっと裏からせめていくような場合も多い気がする。ネット社会になっているからなおさらだ。時代は変わりつつあるが、昭和の厳しい時代の暮らしを垣間見て「そのような時代もあったのか」と理解を深められるのが、この看板の醍醐味である。











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稲村行真

文章を書きながらも写真のアート作品を製作中。好奇心旺盛でとにかく歩くことが好き。かつてはご飯を毎食3合食べてエネルギーを注入していた。

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