獅子頭を持って散歩してみた

  • 更新日: 2021/12/07

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自作の獅子頭

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自作の獅子頭を持ち歩き、獅子舞の気持ちになって散歩するということに挑戦してみたい。



獅子頭は、完全に手作りだ。先日、獅子頭制作ワークショップをした時に制作したものである。構造部分や鼻の部分は牛乳パック、耳、角、目は紙コップで作った。鼻が大きいことがチャームポイントだ。眉毛もぐにゃぐにゃしていてなかなかに可愛らしい。昔の人は獅子頭というものが存在しないときに、竹かごを2つ合わせてそこに目や鼻を紙に書いて貼り付けるなどして、獅子頭を作ったとも言われている。農民が生活用具である箕を使って獅子頭を作ったという話も聞いたことがある。生活の身の回りのものから信仰が立ち上がるという意味で、獅子舞文化の原点を感じることができた。




今回の散歩の舞台は、石川県M町。



ここでは、獅子舞が途絶えており、すでに実施されていない。獅子舞をしていた当時のことを話できる人がすでにいないばかりか、獅子頭は燃えてなくなってしまったという。この地ではどのような獅子舞が行われていたのだろうか?町内を散歩することで、何か手がかりが見つかるかもしれない。今回は自作の獅子頭を使って、M町にかつてあったと思われる獅子舞を表現してみたい。

それでは早速、獅子舞の当日。朝早くから道具を出してきて、それを手入れしてという準備の段階から再現してみよう。


①獅子舞の祭りの準備

獅子舞の下準備はまず町民会館のところで行う。当然祭りにはたくさんの道具が必要だ。獅子頭、胴体(蚊帳)、尻尾、太鼓、笛、法被、足袋..様々な道具が保管されているのは町内で最も広いスペースとストレージが存在する場所である。

多くの場合、町民会館や公民館、青年会館に保管されている。こういう公共の施設がない場合は、個人の商店や大きな家、もしくは区長さんの持ち回りで区長宅に保管されるという場合が多い。



ただし、今回のM町のように町の面積が比較的広い場合は、大概、公民館のような場所がある。今回は町民会館を発見できたので、ここで祭り支度をする。まずは衣装を着替えて、獅子頭に蚊帳を取り付ける作業から始める。靴も履き替えねばならない。


②神社への奉納の舞い

獅子舞といえば、まず神社へ奉納の舞いから始まる。町内に神社がいくつかある場合は、一番お参りされてそうな神社か、格式が高い神社から始まるであろう。この鹿嶋神社が最も獅子舞が始まるのに適するのではないかと思い、ここを選んだ。大きな鳥居に長い参道、そして、その参道が小学校の敷地内を通過する。地域の人々が神社に慣れ親しんでいることがわかる。横には牧場で牛を飼えそうな囲いのある畑のようなものまである。ここが、地域の信仰の中心地であることはほぼ間違いはないだろう。境内の狛犬は大きくて阿吽になっていて、子連れの狛犬すら見られた。



さて、この神社の鳥居前で獅子舞を奉納したいが、どのように舞い始めようか。まず、石川県の獅子舞といえば、大きく分けて、棒振りが獅子と対峙して獅子殺しをするタイプと、太鼓と獅子の掛け合いのような2つのタイプがある。そう考えると、おそらくこの町の獅子は後者だろう。この町の風景の牧歌的な感じを見ていると、都市祭礼的で賑やかな金沢由来の活気ある前者の獅子はあまり合わなそうである。どちらかといえば、のんびりした穏やかな獅子の方がこの町には似合う気がする。

この獅子の動きを想像して、実際に演じてみた。寝た状態から始まり、太鼓の音にどんと起こされて、左右にゆらゆらと舞いながら、奉納の奉の字か寿の字を書いて最後に獅子を振り上げて、終了みたいな流れになるだろう。獅子の胴体である蚊帳は、自分の上着で構わない。このような牛乳パックと自分の衣服のような身近なもので、思いつきでその土地のものを使って、獅子を表現していく。







神社での奉納の舞を実際に行ってみて、うまく自分の思い通りに思い切って表現するというのはなかなかハードルが高いと感じた。しかし、ぎこちなくも獅子を想像しながら動かしていくことで、何か気づきがあるのではないか。そのような考えのもと、獅子を舞ってみたのだ。


③重役の家の前で舞う

次に向かうは村の長老や町の役職についている方々の家である。ここを回ってから、町内の各家を順々に回っていくというのが、獅子舞の大まかな流れだ。獅子頭をパクパクさせていたら、通りすがりの人に注目されまくりだった。



獅子舞について詳しいという重鎮の方のお宅にお邪魔して、獅子舞の話も伺うことができた。しかし、あいにくながら獅子頭が消えたという事実と、獅子舞をしていたという事実しかわからなかった。道端で庭の剪定をしておられたこの地域出身で区長を務めたことがある85歳のおじいさんでも知らなかった。「わし以上になると、この町にはもうおらん」とのことで、少なくとも70年前くらいには獅子舞を実施していなかったのは確かなようだ。獅子舞の謎は解き明かされなかった。それならば、自分の妄想の獅子舞を続けよう。


④町内の家を一通り回る

重役を回り終えたら、その他の家を神社から見て左回りか右回りで回っていくだろう。今回はたまたまだが、神社から見て右回りのルートで回ってみた。夕暮れ時で、蚊やらハエがたくさん飛んでいた。そこで、道中獅子頭をパクパクさせて、ノミ取りの舞いをしてみたら、案外、それらが寄ってこなかった。



ただし、本当に虫を潰してはいけないと思って、そのことには十分に配慮した。思えば、田畑にたむろする害虫の駆除の意味合いで、掛け踊りという芸能が生まれ、それに由来する獅子舞というのも日本全国には数多く存在する。獅子によって虫を他村に追い立てたいという気持ちはいつの時代も同じで、それは人間の本能なのだと思う。





道中、トラクターもたくさん見かけた。大小様々なトラクターがあるのだと思った。また、ビニールハウスもたくさんあった。ここが農業地帯であることを再確認できたし、やはり、この土地に獅子舞があるとしたら、春の豊作祈願と秋の収穫感謝の舞いなのではないかと思えてきた。


⑤田んぼで奉納の舞いをして締めくくる

今回は秋の獅子舞散歩だったため、五穀豊穣と秋の実りに感謝する獅子舞を繰り広げようと思い至った。そこで参考になる事例として、他村には田んぼの真ん中で収穫感謝の舞いをして締めくくる獅子舞があることを思い出した。



獅子舞の締めといえば大体は神社への奉納の舞いである。しかし、ここで、少し路線を変更して、農耕地帯らしい獅子舞をしてみようと思い至ったわけだ。普通で終わりたくはない。



思い切って田んぼの横で踊ってみた。でも、 ただ単に踊っているだけではどことなく物足りなくなってきた。もはや、米を咥えてみたい。そういう欲求に従って、獅子頭をパクパクさせてみた。マウンテンバイクを乗り回す若い女の人が通りかかって去っていったが、また引き返してきた。本当は引き返すつもりがなかったのだろうが、僕が演じる獅子舞を見たいと思って、引き返してきたのだろう。



水路の水にも感謝して、水を飲ませてみたくなった。獅子頭は水を吸うことはできないから、水を口に含んだら、ペリカンのような要領で上を向いてゴックンしなくてはならない。獅子頭はストローを咥えても水を飲み込むことはできない。こういう動作の繰り返しをしていたら、なんだか長ったらしい演技になってしまっているような気がして、体の動きを大きく見せることもできていないと思って、メリハリをつけてみたくて、それで、飛び跳ねてみた。そしたら、あ、これで、今日の獅子舞の締めにふさわしいと思った。ああ、こんな感覚だったのかもしれない。M町の獅子舞。農業と水に感謝する、農耕社会の獅子舞ってこんな感じだ。納得できた感覚があって、その場を後にした。

普通であれば、獅子舞の後は櫓を建てて盆踊りを始める。町内外にかかわらず、いろいろなところから人が集まり、歌垣ができて酒を飲まされて踊りながらワイワイする。そういういう夜を昔は過ごしていたのかもしれない。そのようなことを想像しながらも、一人盆踊りは流石に寂しいと思って、その場を後にした。祭りは活気があればこそ継続していく。そういう感覚も最後に体感できてよかった。



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<石川県M町 妄想獅子舞 基礎データ >

祭礼日:農業地帯なので、田植え前の3月と収穫後の9月に祭りをする場合が多い。この町でも年に2回は獅子舞も行う可能性が高いだろう。

舞い方:農耕地帯の比較的ゆったりとした舞いをしていたかもしれない。虫が水路から湧き出してハエやら蚊やらがうようよしていたので、ノミ取りのような舞いをしたくなった。大きな田んぼが広がっているため、この恵みに感謝する儀礼は必須になるだろう。

道順:神社の信仰が強そうなので、神社に始まり神社に終わるような獅子舞になるだろう。道幅は広いため、獅子舞を舞うスペースの確保が難しい場所はない。途中、自販機が密集している場所があったので、ここが獅子舞の休憩する場所になるかもしれない。公民館が町の中心部にあるので、お昼を食べるのはここだろう。

運営主体:高齢化がかなり進んでいるものの、小学校の敷地内に神社があることから、子供がこの神社の祭礼行事に比較的参加しやすいことが予測される。よって、獅子舞の担い手は比較的若い人を取り込めるかもしれない。そうなると、子供会や青年団が運営主体になる可能性はある。

伝来経路:獅子舞がどこから伝わったのか?という推測をするならば、北側に獅子舞を実際に実施している地域が多く、南側には過疎の山村集落が点在するものの獅子舞はほとんど実施していないのと生業が林業に切り替わってしまう。よって生業と村の暮らしが比較的似ていて交流がありそうな北側の地域から獅子舞を習った可能性がある。










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稲村行真

文章を書きながらも写真のアート作品を製作中。好奇心旺盛でとにかく歩くことが好き。かつてはご飯を毎食3合食べてエネルギーを注入していた。

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