獅子舞お断り看板を探す4【大阪府 東大阪市布施】

  • 更新日: 2023/03/22

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細い柱に沿って作られた獅子舞お断り看板

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今回は関西までの遠征だ。青春18きっぷを使って関東から向かうので長旅である。以前「獅子舞お断り看板を探す」という記事を書かせていただいたところ、Twitterでの反響が大きく、さらなる看板目撃情報が寄せられた。

獅子舞お断り看板を探す|ジモトぶらぶらマガジン サンポー

突然だが「獅子舞お断り看板」をご存知だろうか?正月などにパクパクと頭を噛んでくれるあの縁起物の獅子舞がお断りされてしまうなんて!と驚く方もいるだろう。戦後、警察署の名義で商店や個人宅などに、数…


なぜ縁起の良い獅子舞が「お断り」なのか?その謎を解くために、今回はフォロワーさんに事前に場所を教えていただき、大阪府東大阪市布施を訪れた。獅子舞のお断り看板が建てられた理由や、どのような地域にその看板が立てられやすいのかという性質にまで迫っていきたい。


東大阪市布施の情報を入手

ある日、フォロワーさんから写真付きでこのようなメッセージを頂いた。

こんばんは。思い出しました!
布施本町商店街にある柳小路料飲食街を商店街側から入って、マップだと左側の張り紙があるあたりだったかと思います。


この地域の特徴を事前に調べてみると、日本一ひったくりの多い町になったことがあり、貧困が問題となってきた。暴力団の事務所があったし、犯罪率もかなり高かった。しかし近年、街が急に綺麗になり治安が良くなったのだとか。さあ、今回もディープな町歩きになりそうだ。


獅子舞お断り看板調査

日程:2022年12月20日
調査時間:2時間程度
場所:大阪府東大阪市布施



まずは河内永和駅前に降り立った。妙にすっきりとした円形の広場がある。

今回は青春18切符を使っての遠征なので、JRを徹底的に利用しようと思い、私鉄には乗らなかった。ここから獅子舞お断り看板の舞台である布施駅周辺まで20分ほど歩くことにした。




早速、禁止看板の一種を発見!道路交通法の関係で、法定の駐車は禁止とのこと。気のせいかもしれないが、これに限らず、この周辺にはやや禁止看板が多い気がする。




マンションの壁面には不揃いな植木鉢が取り付けられており、植物は入っていない。左右のバランスを取るために鉄製の植木鉢を真ん中に配置したのだろう。どこか不気味な植木鉢の乱立が気になる。




時代を感じるコーヒー屋があった。区画を目一杯活用しようという意図が見られる。車は縦じゃなくて横に入れるようだ。このお店には獅子舞が気軽に入れそうな雰囲気がある。




布施駅前についた。布施は「えべっさんの街」らしい。えべっさんとは、商売繁盛にご利益がある恵比寿様のことだ。駅ロータリーの中央にこの看板が来るということは、この土地の祈りが商売繁盛であることは明らかだ。




布施駅は線路が大規模構造物と化しており、非常に圧倒される。「で、でかい..。」と身が縮こまるような感覚があるのだ。




ここから長々と続く商店街が広がっている。要所要所で、えべっさんが強調されている。個人商店が並ぶ街並みでは、ご祝儀がはずむので獅子舞が実施されやすい傾向にある。さあ、ここら辺を重点的に調べていこう。




ここは電車でもなく、車でもなく、自転車社会だ。お店の前には大量の自転車が停められている。ここまで自転車が幅を利かせていると、獅子舞の通行を妨げる恐れがある。




ハイボール90円とビール190円。韻を踏んでいるのかもしれない。いずれにしても、お酒が安すぎてびっくりだ。左側の貼り紙の「円」の字余りや、棒線がとっちらかっている雑味が良い。




この大規模な商店街群を出て、ふと我に帰るように辺りを見回したくなるのが、柳小路料飲食店街への道だ。どこか閑散としていて、こちらには本当に商店街があるのか?という雰囲気である。実はこの柳小路料飲食街に今回、目的としている獅子舞お断り看板があるという。




柳小路料飲食街に入ると、なにやら怪しげな雰囲気を感じる。窓ガラスには、マリモっぽい奇妙な生き物が、十字に重なったセロテープによって貼り付けられている。これはもしかすると、もののけ姫に登場する森の精・こだまのような存在かもしれない。つまり、商店街の賑わいを静かに無言で見守る、可愛らしいようで不気味な精霊なのだ。このような精霊の住処は少しずつ失われているようにも思える。




商売繁盛のシールが窓ガラスに貼られているのを見つけた。ここにもえべっさんが描かれている。商店街全体のシンボルは、個々の家にもしっかりと棲みついているようだ。




建物はところどころ老朽化が激しくて、内部構造が見え見えになっている。そう、こういう場所こそ、昭和の遺産である獅子舞お断り看板が見つかりやすい。




ここは柳小路料飲食街でありながら、浅草観音通りとも呼ばれているらしい。道路がつぎはぎだらけになっていて、巨人か何かが暴れたのだろうか?と想像を掻き立てる。左の和風スナックは「あ・うん」という名前だ。狛犬にとても興味がある店主が、名付けたのかもしれない。




華麗な酒場があった。蓮の葉に赤文字でミニィ。極楽浄土を思わせる看板のデザインだ。玄関の前には、虎皮のマットが敷かれている。この虎で靴の裏を拭くということだろうか。可愛らしい虎なので、靴を擦り付けるには忍びない。

以前、東北の猟師さんの家に招かれた時、玄関にふさふさの熊皮のマットが敷かれていたことを思い出した。強いとされる動物が玄関を守ってくれている、いわゆる厄祓い的な行為にも思えてくる。




どうやらこのミニィというお店は会員制らしい。ドアのところに「泥酔の方もごめんなさい」と書かれている。つまり、これは獅子舞ではなく、泥酔お断りの看板である。室外機の上に傘が立てかけられており、傘と書かれた郵便受けのようなものが設置されている。このお店の玄関は非常に情報量が多い。




さて、このミニィという酒場の横の家の柱をよくみると...。



あった!!!!!獅子舞お断り看板。布施警察署が発行したものだ。柱に沿って丁寧に長細く作られている。白いペンキか何かが塗られており、その上から水色の文字でこう書いてある。

「警察・組合の申し合わせに依り暴力的獅子舞・押し売等一切お断り致します」

これは興味深い文言だ。警察と組合が申し合わせをして、暴力的な獅子舞を追い払っていたという。「暴力的」ということは暴力団やヤクザが関係しているのだろうか。家を一軒一軒まわる門付(かどづけ)の獅子舞は、舞うことでご祝儀をもらうものだ。ただ、暴力団の勢力圏とすれば、このご祝儀が出す側の家主にとって、用心棒代として機能していた場合もあっただろう。この看板を立てたということは、この用心棒代を払わないという意思表示だった可能性がある。




この近くのお店で獅子舞お断り看板について話を聞こうと思っていたが、お昼は意外と営業している店舗が少ない。夕方以降しか空いてないらしいのだ。お昼前に来てしまったので、ここはもう通行人に聞くしかなさそうである。

この柳小路料飲食街の入り口に通行人のおじさんがいたので、お話を伺ってみることにした。

僕:すみません、今町歩きをして看板を調べてて、ここら辺を歩いていたら獅子舞のお断り看板というのを見かけたんですけど...。この辺って獅子舞がいたんですかね?

通行人:そこに飾ってあるやつじゃないかな?祭りの時にお神輿出すところね。

僕:え!そうなのですか!よく見てみます。



通行人のおじさんが教えてくれた場所には、言葉通り祭り道具の保管庫があった。ただし、これはどう見てもだんじりの保管庫である。疑問は消えぬまま、なぜか通行人のおじさんはすたこらと去ってしまった。




じろじろと中を覗いていたので、地元の人々に怪しいやつだと思われたかもしれない。どうしても獅子舞の道具を見つけたいと思って探してみたが、太鼓とだんじりくらいしか入っていない。うーん、奥の方にしまっちゃったのだろうか。




窓ガラスをよく見てみると、「instagramはじめました」とのこと。

instagramの投稿を確認してみると、獅子舞が映ったものはなく、基本的にはだんじりの写真のみだった。怖い人に絡まれるかもしれないので、メッセージを送ってまで獅子舞の有無を確認する勇気は持てなかった。結局、獅子舞がこの場所に現在でもあるかは不明である。

「舞いあがれ 東大阪」のポスターが、地域の希望の光的な雰囲気を訴えかけてくる。




このだんじりの保管庫の裏側には、地蔵尊がある。その前には、大量の自転車たちが並んでいる。買い物客の多さや賑わいは伝わってくるが、参拝するのは一苦労である。その自転車をかき分けるようにして、参拝しに行ったとても行動力のあるおじさんを見かけた。この時、祈りはまだまだ根付く余地が存在することを直感した。




それから、お昼の時間だったので、ご当地ラーメンである「高井田ラーメン」を食べに行くことにした。商店街を延々と歩いていく。道端でタバコを吸っている人がいた。目の前にはバケツが置かれている。タバコの吸殻入れかもしれない。




カラーコーンを節約しているのか、コーンバーの端を窓に立てかけているのを見かけた。それにしても、なぜシャッターが閉まっているのに、カラーコーンまで置く必要があるのだろう。これは看板にも書かれている通り、駐車禁止のためである。自転車があまりに増殖しすぎており、その対策が進んでいるようだ。おそらく、商店街のような車が横行しない通りで、しかも道幅が広いと、自転車の増殖を促進させると思われる。




時には、カラーコーンにダンボールの看板がかかっていることもある。玄関の前には自転車を置かないでくださいという内容が書かれている。昔は獅子舞お断り看板があったのだろうが、今ではこのように自転車お断り看板が増殖しているというわけだ。




餃子の王将の前にも結構、自転車が止まっている。ここでお昼を食べるのは地元の人が多いようだ。1つだけ車椅子も置かれていた。階段のところに通行のための板が敷かれ、手すりが設置されているので、バリアフリーが進んでいるようにも思える。




無人の古着販売所を発見。1000円の券売機があって、その券を買って古着を持って帰る方式である。すごい、新しいショッピングの形態だ。お金を払わずに古着を持って行っちゃう人も多そうだが、そういうわけでもなさそうできちんと商売が成り立っている。この商店街は獅子舞が安心して棲めそうな寛容性を感じる。




昔ながらの漬物がお店で売られている。梅干しが340円から850円まで、さまざまな種類が置かれていてびっくりした。どれも手作り感があり、白いほかほかのご飯に乗せて食べたくなった。




さあ、お腹が減ってきたところで、商店街を抜けた。信号機の向こう側には、高井田ラーメン(中華そば)の住吉の看板が見える。なんだか、狭い敷地の繁盛店という感じがして、こぢんまりしている空間が逆に人を引き付ける魅力を放っているようにも感じた。




さて、実際の高井田ラーメンの味は、ザ・醤油という感じのシンプルな風味だった。結構あっさりしている。麺は太くて、スパゲティとうどんの中間ぐらいの感覚だ。ここら一帯には町工場が多くあり、夜勤明けの工場労働者たちが塩分補給のために食べていたのが発祥とも言われる高井田ラーメン。その味からは、汗水流して働いた人々の記憶のようなものが感じられた気がした。




それからグネグネと迷うように、河内永和駅に帰ってきた。


布施を歩いた感想

この町の治安はある側面では改善されたため、暴力を振るう獅子舞はいなくなった。一方で、道端では自転車による生息域の拡大が見られる。駐輪禁止の看板が多くの場所で立てられているように、その勢いは留まることを知らない。

活発なのは交通だけではない。えべっさんが見守るこの町は商売繁盛の祈りとともにあり、賑わっているお店も多い。工場労働者の泥臭さも少し感じる。僕はそのような町並みに対して、人の熱量の記憶のようなものを感じた。

今でさえこういう雰囲気の町だ。暴力を振るう獅子舞がいて、裏路地さえも活気があった時代には、どこか人のエネルギーが爆発して、マグマが噴出するような...戦後の闇市のような雰囲気さえ感じられたかもしれない。獅子舞の謎を解くために布施を歩いてみたら、町の過去を想像する面白さを改めて感じることができた。











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稲村行真

文章を書きながらも写真のアート作品を製作中。好奇心旺盛でとにかく歩くことが好き。かつてはご飯を毎食3合食べてエネルギーを注入していた。

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