ギャップ東京 〜柴又で見つける幸せなもの〜

  • 更新日: 2024/12/19

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困ったことがあったらな、風に向かっておれの名前を呼べ

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どうも一流です。


今回はなんとギャップ東京シリーズの第5弾です。

本企画、実に5年ぶりの再始動です。いやー、5年ぶりて。HUNTER×HUNTERかよ。



ギャップ東京とは

「ある街についてみなさんが持っているイメージからかけ離れているものを探し、最も意外性のあるものを見つけ出す散歩のこと」です。


2018年から始動した本企画ではおばあちゃんの原宿である巣鴨でナウいものを、危ない繁華街である歌舞伎町で安心できるものを、お堅い真面目な永田町でふざけたものを、読売ジャイアンツの本拠地である東京ドームで虎柄のものを見つけたりしてきました。

第4弾以来、すっかり音沙汰の無くなっていた本企画。その理由はなんてことはない、ネタ切れでした。

みんなが共通イメージを持っている街って意外と無いものでして...探しているうちに気づいたら5年も経ってました。この街ギャップあるよ!って意見、常に募集してます。





そんな5年ぶりの大役を任された街は葛飾区の柴又です。
昔ながらの下町情緒溢れる街並みが特徴の柴又ですが、この街を語る上で欠かせない作品があります。

それは渥美清さん演じる寅さんを主人公とする「男はつらいよ」シリーズ。
寅さんこと車寅次郎はここ柴又が故郷で、シリーズを通して登場する象徴的な場所となっています。


そんな「男はつらいよ」の聖地である柴又で最もギャップがあるものと言えばズバリ...



「幸せなもの」



ではないでしょうか。


タイトルではっきりと「つらい」と言い切っている作品の舞台である柴又。
この街で寅さんもニッコリするような幸せなものを見つけることができたら、きっと素晴らしいと思うんです。




というわけで幸せなものを探しに柴又駅にやってきました。
京成金町線という3駅しかないローカル路線の駅のため、23区内ですが小旅行気分になっちゃいます。



駅から出ると早速出迎えてくれるのがこの銅像。



この佇まい。これぞ柴又の街が誰よりも似合う男、車寅次郎その人です。
作中では寅さんが故郷を離れ旅に出ようとするときに、よくこの駅前での別れのシーンが描かれます。



そんな寅さんが見つめる先にはもう一人の銅像があります。
寅さんのたった一人の妹、さくらです。倍賞千恵子さん演じるさくらは寅さんの良き理解者でありかけがえのない存在として全作品に登場します。



実を言うとこの散歩をする前まで私は「男はつらいよ」シリーズを一本も見たことがありませんでした。

この企画は「男はつらいよ」という作品ありきなこともり、未見のまま歩くわけにもいかないなぁと思ってはいたのですが、あまりにも私と世代が違いすぎることや全48作(リマスター・特別編含めると50作)もの本数があることもあり、観始めることへのハードルが高くなかなか一歩を踏み出せず何ヶ月も経ってしまっていました。


ある時ようやく重い腰を上げて、「まぁ最初の2,3作品だけ見て作品の雰囲気を掴んでから散歩すればいいか」と見始めたところ...。




面白すぎて1ヶ月間で全作品を一気見してしまいました。




なんでこんな面白い作品があるって今まで誰も教えてくれなかったんですか!?「男はつらいよ」ってこんな最高のシリーズだったのかよ!!


フーテンでヤクザな生き方しかできない不器用な寅さんと、そんな寅さんを取り巻く柴又の人々やマドンナ達との人間模様。確かにバリバリ昭和気質の作品のため、令和の今見ると寅さんの言動はコンプラ完全アウトだらけではありますが、その人間臭さや不完全さにこそ激動の時代を生き抜いた男としての魅力を感じてしまうのです。

そんな寅さんの物語のタイトルこそが「男はつらいよ」。


その「つらい」という言葉に秘められている感情と魅力について、私なりの感想を語りながら柴又で「幸せなもの」を見つけていきたいと思います。




さて、駅を降りてすぐ目に飛び込んでくるのはこちらのお土産屋さん。
何やら色々と気になる言葉がたくさん見えますね。



「珍しい!笑ってる柴又限定キティ」の文字が。



あら、本当にキティちゃんがニコってしています。寅さんの格好も似合ってますね。
いきなりですがこれはかなり幸せなもの候補と呼べそうです。笑うって幸せなことです。


しかしまだ散歩は始まったばかり。他にもないかゆっくり探していきましょう。



少し進むと見えてくる「ハイカラ横丁」と「柴又のおもちゃ博物館」。
ともに昭和のおもちゃやお菓子など懐かしのグッズを見たり買ったりできるレトロなスポットです。



昭和のスターたちのブロマイドも多数揃っています。平成生まれでも知っている方ばかり。左側は「男はつらいよ」でマドンナ役を務めた女優さん達が並んでいます。
「男はつらいよ」は作品ごとにマドンナと呼ばれるヒロイン役が登場するのも特徴の一つで、吉永小百合さん、浅岡ルリ子さんなどの錚々たるメンバーがその役を務めてきました。

ところでブロマイドってどういう意味なんだろう。生写真とどう違うのかあんまりわかっていない気がします。いやそもそも生写真と写真も何が違うんだ?うーん、わからなくなってきた。



わからないまま外に出ると何やら大事そうな石碑が。



猿もたまげてますよ。わかる、わかるよ。なんかすごそうだもんねこれ。



めっちゃ立派な熊手を見つけました。熊手はめでたいものではあるけど幸せなもの...にもなりえるでしょうか。



さてここからは柴又帝釈天の参道を歩いていきます。
帝釈天まで続く200mの道沿いには名物の草だんご屋さんを始め老舗店舗がずらりと立ち並んでいます。
東京都で唯一国重要文化的景観に選ばれている場所でもあり、柴又を代表する観光名所です。



「男はつらいよ」では寅さんの実家である草団子屋のとらやがここにあるため、この参道は作中でも頻繁に登場します。


ここで改めて「男はつらいよ」がどういう話なのか、すっかりハマってしまった私から簡単にご紹介しておきます。


小さい頃に父親と喧嘩し柴又の実家を飛び出した寅さんこと車寅次郎。テキ屋(お祭りの露天商)として住所不定の旅暮らしをしていた彼ですが、故郷を飛び出して20年以上経ったある日に突然柴又に帰ってきます。たった一人の妹のさくらと、亡くなった父親に代わり団子屋を経営していた叔父叔母夫婦はその再会に驚きながらも喜びに包まれます。

というところが第一作目の初めの部分です。

寅さんはこれ以降、年に1,2回ほど旅先から柴又に帰ってきてはとらやで大騒動を引き起こし、居た堪れなくなってまたすぐ旅に出て、旅先でマドンナと呼ばれるヒロイン役の女性と恋愛(と呼ぶにはあまりにも淡い)関係となるも、結局うまくいかず傷心してはまたどこかへ旅立つ...ということを繰り返します。


50本もあるシリーズなのに基本ストーリーは全作品を通じてなんとほぼこれだけ。なのにとにかく面白い、というのが「男はつらいよ」という作品のすごいところなのです。



おっと、めちゃくちゃ語ってしまった。幸せなものを探している途中でしたね。
この水鉄砲はかなりかわいい。手書きなところにふとした幸せを感じます。



この20円ガム、久しぶりに見たなぁ。子供の頃よく買ってもらってました。
懐かしくて少しだけ幸せな気持ちになれた気がします。さすが柴又、ノスタルジーを感じますね。



と思っていたら「G」のガチャガチャを見つけてたまげました。(※おもちゃですが、リアルなのでモザイクをかけています。)
なんでこんなものが...。幸せな気持ちが吹っ飛ぶかと思いました。幸せと不幸って案外隣り合う存在なのかもしれないという暗示かもしれない。



気を取り直して歩いていると人間マンを見つけました。
深いようでいて、すごく浅いような気もする名前、人間マン。形状も含めよくわからないキャラクターです。



次に見えてきたのはこちらの草団子屋さん、とらや。寅さんの実家とおんなじ名前の老舗です。



ここは「男はつらいよ」の1作目から4作目まで撮影に使われていたお店でもあります。
当時は「柴又や」という店名だったそうですが、「男はつらいよ」のヒットにあやかって後に劇中の店と同じ「とらや」に改名したのだそうです。
「男はつらいよ」の影響力は現実の柴又にまで大きく影響していますね。



お店には歴代マドンナが大集合するポスターも。
寅さんとマドンナの恋模様は「男はつらいよ」の欠かせない醍醐味です。

大抵はマドンナに一目惚れした寅さんが気を惹こうと奮闘するも、マドンナにはすでに相手がいたり事情があったりしてあえなく失恋...というのがよくある展開なのですが、逆にマドンナが寅さんの人柄に惹かれ言い寄ってくる場合もあります。しかしいざそうなると今度は寅さんが尻込みして身を引いてしまい、結局毎回くっつかずに終わってしまうのです。

なぜ寅さんは美しいマドンナから逃げてしまうのか、という理由はまた後ほどお話ししましょう。



お、そうこうしていると柴又帝釈天に到着しました。
1629年に開創された日蓮宗の歴史あるお寺です。「男はつらいよ」シリーズではこのお寺の和尚様も寅さんをよく知る人物として登場します。



このお寺はなんといっても有料エリアにある彫刻ギャラリーが凄すぎるのでぜひ行ってみてほしいです。木彫りで作られた仏教の世界観の図はまさに圧巻の一言。



そんな帝釈天ですがおみくじは意外と機械式。
境内にはエンドレスで「男はつらいよ」の主題歌が鳴り響いており否が応でも作中の景色が思い起こされます。


さて柴又名所を紹介したところで、もっと幸せなものを探すために路地の方にも繰り出します。



中華街の味、なつかしいラーメン。いいですね〜。こういう店を知っていると日常の幸せが増える気がする。



ぎょうざ巻き怪獣「ぎょうざウルッス」が出現しました。その「ッ」はなんなんだ。
ぎょうざ巻きとは餃子のことではなくおでんの具の一つだそうです。



お、ここは柴又で外せない有名スポットの一つ、にがおえコインランドリーだ。



見てくださいこの光景。中には有名人の似顔絵が所狭しと貼られています。寅さんの姿も見えますね。
オーナーの趣味が高じていつしかこんな景色になってしまったんだとか。



葛飾区や江戸川区で展開しているスーパー、アタック。



このスーパーのアイコン、何回見ても心臓麻痺みたいに見えるなぁとずっと思っています。「ハートアタック」って心筋梗塞のことだし。



新宿診療所という建物がありました。
葛飾区で新宿?と思うなかれ、これは「しんじゅく」ではなく「にいじゅく」と読むこの辺りの地名なんです。新宿小学校とか新宿中学校もこの辺りにあるんだとか。



土手にやってきました。曇りだけど吹き渡る風が気持ちいい。
江戸川を挟んで向こう側は千葉県の松戸市になっています。



この土手は「男はつらいよ」では寅さんが柴又に帰ってくる序盤のシーンでよく登場します。
当時と変わらないのどかな景色が残っているのは幸せなことなのかもしれません。



料金500円の何かの看板。



この土手は矢切の渡しという江戸時代から続く渡し船がなんと現役で残っている貴重な場所でもあり、今でも200円払えば対岸まで船で移動することができます。
歴史を感じながら見る江戸川の風景もまたいいものですね。



おっ。こんなところに寅さんの名言がありました。

「ほら、見な。あんな雲になりてえんだよ。」

なぜ柴又に留まらずすぐに旅に出てしまうのか聞く妹のさくらに寅さんはこう答えていますが、これは寅さんの本質を知ろうとする上で欠かせない名言の一つです。

幼い頃から家を飛び出し日本各地を転々とするフーテンな生き方しかできなかった寅さん。そんな彼は『家族を養うために汗水垂らして働く』という昭和の男の正道をもはや選ぶことができない性分になってしまっていました。
真面目に働いている人間をどこか小馬鹿にして、地道に生きることから逃げ回って、この時代に所帯も持てず、渡世人としてしか生きられない不器用な男が車寅次郎という人間なのです。

しかしそんな寅さんでも一人の女性と真剣に向き合えば向き合うほど、ヤクザな暮らしを捨てて責任を持って生きなければいけない事実が目の前に迫ってくるのはわかります。マドンナから言い寄られたら逃げてしまうことも結局これが原因で、寅さんは自分と愛する女性の人生と正面から向き合う覚悟と踏ん切りが持てない弱さを持った男として作品を通して描かれているのです。

そんな寅さんの物語のタイトルこそが「男はつらいよ」。
生きることのつらさと難しさを味わい続けている寅さんの人間臭さに人々はどこか惹かれてしまうのかもしれません。



失礼、また語りすぎてしまいまいした。
寅さんのことを考えていたらこちらを見つめている生き物を発見。



のそのそ...。



どっしりとしたお尻周り。猫は見つけると幸せになれる生き物の代表例ですね。



赤ちゃんの駅ってどういうことかよくわからないけど幸せな気がする。
赤ちゃんが駅長をしているのか、赤ちゃんが運ばれてくるのかで捉え方がだいぶ変わってきます。



花柄のかわいいデザインの喫茶店です。
こういう店にふらっと入って自分のお気に入りの場所を増やしたい。それが日常に潜む幸せってものだと思うのです。



犬の散歩もまた幸せの象徴だ。犬の表情がぬ〜んって感じがしててかなりいいです。ぬ〜ん。



ママのじゃむ。
お袋の味というのも幸せなものだと思います。あまりジャムで感じたことはないですけど。



ふわふわしてて丸っこくて幸せなもの、うさぎのしっぽ。
なんかどう見てもしっぽじゃなくて耳な気がしますが気にしないでおきます。



いたら幸せに決まっているもの。ともだち。
味のある字もポイント高いです。



ファンタジアって聞いたことない言葉だけどなんか良さげな響きです。
キャラクターは熊でしょうか。毛がパサつき気味なところが良い。



気づいたらこの場所に引き寄せられてしまった。
1997年に開館した「男はつらいよ」寅さん記念館です。



中には撮影で使われたとらやのセットなど、ファンにはたまらない展示が目白押し。とらやでの団欒、日本各地の旅情、マドンナとの出会いと別れ...。
名台詞と名場面が目に次々と浮かんできます。やっぱり「男はつらいよ」っていい作品だなぁ。

先ほど寅さんの人間としての弱さの話をしましたが、弱いから寅さんはダメ人間なんだと言いたいわけではありません。(ダメ人間なところもたくさんありますが。)むしろ逆で弱く欠点のある人間だからこそ、寅さんのセリフは心に響くのです。寅さんはその弱さゆえに、人生の様々な局面で迷い行き場を無くしている人たちの道標となっているのです。


"人間としてやるべきことはわかっちゃいるし、他人に助言もできるけど、自分でやるのは難しい。"
こんな埋められないギャップを一言で表現したのが「男はつらいよ」というタイトルなのかもしれません。


さあ、寅さん記念館を出てこの散歩の目的を果たしましょう。
幸せとはなんなのか、この柴又で見つけるために。




今回のMIM(最も 意外性のある もの)

自分の納得する幸せなものがなかなか見つからず、寅さんよりもウロウロしてるんじゃないかってくらい柴又を歩き回っている今回のギャップ東京。

「自分の納得する幸せが見つからない」ってなんか詩的でいいな、とか考えていたら、不意にそれは目の前に現れました。



この柱に貼られたステッカーを見てください。
カタカナの「キ」の横線が一本多いみたいなマーク。
私はこれに幸せを見出してしまいました。




ステッカーの隣に立ってみた私です。どういうことかお分かりいただけたでしょうか。

この「キ」みたいなマーク、漫画とかで笑う時に使われる表現そのものなんです。
このマークがそばにあるだけで、人と話しながらワハハと楽しんでいるように感じてしまいます。


幸せの瞬間には笑いあり。
つらいことの対極にあるものは、きっとみんなで笑うことではないでしょうか。
このマークが出るほど笑っている場に、つらさはきっと存在していないでしょう。


ということで今回のMIM(最も 意外性のある もの)はこちらのマークに決定です。



「男はつらいよ」の名場面を思い出しても、寅さんの周りにいつもたくさんの笑顔が溢れていたことに気付かされます。

『顔で笑って腹で泣く』

これは「男はつらいよ」のテーマソングの歌詞にあるフレーズですが、心の内じゃ泣いてたってみんなと楽しく笑って過ごす。

寅さんの生き様を的確に表現している素晴らしい一節だと感じます。





余談ですが「男はつらいよ」は本来シリーズ最終作と予定されていた50作目で寅さんが柴又で亡くなって終了する脚本だったそうです。
しかしシリーズ終盤当時、既に全身を癌に侵されていた渥美清さんは最後の気力を振り絞り、48作目を撮影した後に亡くなりました。

渥美さんの死により「男はつらいよ」シリーズは寅さんが旅に出たまま終了することとなり、寅さんは永遠の存在となったのです。


人生の幸せもつらさもたくさん教えてくれた寅さん。

柴又を散歩すると、今でも街角からひょいとあの笑顔が現れるような気がしてなりません。



皆さんも気が向いたらぜひ「男はつらいよ」シリーズを見てみてくださいね。







それではまたギャップのあるどこかの街でお会いしましょう。




おわり





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一流

歩くことに特化した足を持っています。東京を愛し東京に愛される男を目指して。

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