私の詠んだ「窓」を探して 〜型板ガラスって、いいですよね〜
- 更新日: 2026/08/27

帰路にある生家の窓とおなじ柄でひかる型板ガラスがらんまん
朽昏 窓
くちくらと申します。
写真家です。
またあるときは新進気鋭(自称)の歌人、
「朽昏 窓」と申します。
くちくらそう、と読みます。当て字です。
冒頭のうた。
僭越ながら某新聞の某歌壇にて以前ご掲載頂いたものなのです。ピース。
「帰路をゆく黄昏時。
とっくに引越し、いまはもう取り壊されてしまった生家。
その窓に使われていたものと同じ柄である “らんまん” が、仄暗くなりゆく街で、室内のあたたかな灯りに照らされ輝いている」
そんな様子を短歌に詠みました。
自身のうたを解説するのは少しくすぐったいですね。
「らんまん」と私
勘のいい散歩界隈の皆さまならお気付きかもしれません。そう、「らんまん」とは「型板ガラス」の種類のひとつ。
型板ガラス──────。
1950年代から1970年代、日本の住宅や店舗を中心に普及した、美しき日本の自然・風物詩などを主に意匠化した模様入りの板ガラスです。
かつて競うように造られたそれらは、現在では生産はほぼ終了してしまったそう。
日常に溶け込んでしまっていますが、いまこそ見直し、後世へ残すべき素晴らしい日本文化のひとつだと私は考えています。
ネタバラシしてしまうと、実は冒頭の歌にはフェイクがございます。
かつて暮らしていた生家の窓に使われていた型板ガラスは「らんまん」ではなく、ほとんど「よぞら」という種類のガラスだったのです。


過去のデータから引っ張り出してきた写真たち。
しかし、それじゃあ短歌に詠んだ「らんまん」が嘘かというと、決してそうではありません。
何故なら、何処かの誰かの暮らす家の窓、或いは誰かのはたらく日々を慰める窓ではきっとあるのですから。
「この味がいいね」と君が言ったから 七月六日はサラダ記念日
俵万智『サラダ記念日』より
特に有名な一首である、俵万智さんの作品を引用させて頂きました。
「七月六日は七月六日ではなく全然別の日。」
「食べたのはサラダではなくカレー味の唐揚げである。」
そうご本人が語られています。
カレー味の唐揚げて。美味しそうですけれども。
つまり、短歌は必ずしも現実をそのまま描写するものではない、ということ。
冒頭の写真をはじめ、夕闇の迫る街を歩き、知らない誰かの家の窓辺を眺めながら詠んだのが、件のうたなのです。
で、あれば。
いっそ見たいではないですか。
真に「らんまん」の “爛漫に” 輝くすがたを。
「らんまん」に逢う旅
見事なタイトル回収。つまりは
「自身の詠んだ短歌の状況を再現したい」
より正確に言えば
「らんまんという型板ガラスが、作中の時間帯である黄昏時に、部屋の灯りに照らされている様子を見てみたい」
という企画です。
わお、無謀。(体言止め)
詠んでおいて無謀といっちゃあコトですね。
まずは今回探す「らんまん」について。
大輪の花の咲き乱れるような華やかな柄が印象的な型板ガラスです。
ここで見本の画像をどなたかに借りてくるのは簡単ですが、あえてお楽しみにとっておきましょうか。
そして今回の散歩レギュレーション。
1.「らんまん」という型板ガラスである
2.部屋の明かりがついている
3.角の丸い窓である
1見つけるだけならまだ簡単そう。
2はどうでしょうね、時間帯によっても難しいかな。
3の突然生えてきたニューワード、説明させてください。
角の丸い窓──────。
型板ガラスの流行した同時期に多く造られた、角をアールにカットした窓。
写真家として活動するかたわら、もうひとつのライフワークとして、角の丸い窓を撮影蒐集しています。
用語としては「アール窓」と呼称されるようですが、そちらはアーチ型やまんまる窓も含めたもの。
私の蒐集する窓はあくまで
「四角形、或いは多角形の窓ガラスの角を “丸くカット” したもの」
ですので、差別化と愛着の意を込めて「角の丸い窓」と名付けました。勝手に。
詳しくは過去の記事を読んでいただけるととっても嬉しいです。
【角の丸い窓】を集めている者です。|誰かの散歩マガジン サンポー
はじめまして。『くちくら』と申します。ペンネームの由来はキューティクル(cuticle)より。写真家を生業としつつ、詩人でもあり歌人でもあります。↓公式サイトと各種SNS↓https:/…
さて。
つまり最終目標は
「角の丸い窓であるらんまん」を探すこと。
うーん、無謀。(体言止め)
何故なら、これまで角の丸い窓で “らんまん” 以外でも型板ガラスが使用されていた目撃例は極めて少ないからです。




あるにはある。
しかしシンプルで細かな柄ばかり。
こればっかりは仕方ありませんね。
大きな柄の型板ガラスは凹凸が強いので、アールに加工するのが難しいのでしょう。
しかし、嗚呼。
一度でいいから見てみたい。
“らんまん” にきらめく型板ガラスの角の丸い窓。
いざ、出陣
本日のロケーションです。陶磁器のまち、わが街、愛知県瀬戸市。
まずは「ますきち」さんへ。

ゲストハウスであり、カフェとしても楽しめ、瀬戸のこだわりのお土産も手に入る素敵なところ。
ここをスタート地とし、尾張瀬戸駅をゴールとします。

「明治時代の陶工・川本桝吉の邸宅を改装した宿」
とあって、広く複雑なつくりが浪漫を誘う、本当に素晴らしいお宿。
地元ゆえ泊まったことこそないですが、友人とカフェにお邪魔したり、イベントの際に訪れたり、お土産を調達したりとたびたびお世話になっております。

そして宿内には型板ガラスもたくさん!
せっかくなので、許可をいただきご紹介していきます。
本当にほぼ窓しかご紹介しませんので、気になるお宿の内観はぜひ泊まって確かめてみてください。
それでは参りましょう。
……ちなみに窓ガラスの種類はインターネットの力を借りて表記しています。
間違って書いていたらごめんなさい。
あとでこっそり教えてください。
企画の趣旨をスタッフの方に説明したら快く見せてくださいました。
ご協力に感謝しかありません。

カウンターの向こうの「銀河」。
なんだか詩的です。
先に紹介した生家の窓の「よぞら」と似ていますが、星の密集度が高く、なるほど確かに「銀河」らしい。

こちらは「ており」でしょうか。
織られた生地のような柄。
廊下への引き戸です。
こうした古い引き戸のガラス。
角の丸い窓のようにアールにカットされてはめ込まれているのではありません。
実は取り外しが出来るような仕組みになっていて、再利用がしやすかったりするのですよね。
中に入っているのは直角のガラス。
こちらもその造りかと思われます。
昔の方々の工夫が見てとれて、そうしたものを見つけると嬉しくなります。

キッチンへの扉には「つた」。
扉はじつは、

どーん!と、上下とも贅沢に。
暖かい光が透けていて美しい。
そうそう、こういうのが見たかったの……

キッチンの中へ。
勝手口にも「つた」。
夕暮れどきの外の薄明かりがいい色。
薄紫色のこの時間帯がとっても好きです。

バスルームは「ダイヤ」かしら。
街でも一番よく見かける気がします。

足元も素敵!
瀬戸にはこだわったタイル張りのお風呂が多いような気がしています。
うたにも詠んだ、幼少期に住んでいたお家のお風呂もタイル張りでした。



好きだったなあ。
ちょっと暗くて夜は怖かったけれど。

宿のスタッフさんと首を捻りました。
この洗濯機のあるスペース、何のための空間だったのでしょう。
カーテンレールも元からあったようです。
頭上のアールに造られた壁が可愛い。
陶磁器関係の作業スペースだったり…?
憶測の域を出ません。

こうした細やかな細工の窓もところどころに。
まさしく日本家屋、古民家らしい。

トイレの扉も「ダイヤ」かな。
陶器で出来た案内も素敵。
瀬戸七釉がひとつ、織部釉です。

邸宅らしい応接間だったであろう空間は現在お土産屋さん。
オリジナル商品の「窯垣の小径クッキー」がオススメ。
陶磁器の窯で使っていた道具で組み造られたのが「窯垣」です。
街の至るところで見かけます。


もちろん陶磁器も販売されておりますよ。
窯元さんから直接仕入れていらっしゃるので安心です。
「ますきち」さんに別れを告げて。
さあ、いよいよ外へ飛び出します。
どんな型板ガラスが待っているかしら。

こちらは「ささ」ですね。
風流です。お風呂かな。

ちょっとブレてしまっていますが「石目」でしょうか。
鉄格子とツタがいい味。

扇風機が外側に向けられて回っていました。何事?
中が暑くこもっていたのかしら。


こちら「からたち」ですね。
玄関と二階の窓にお揃いの柄。お洒落さん。

これは「石目」かな。

遠目ですが「よぞら」。

おや!と思いましたが、これは「わかば」ですかね。

先ほどもあった「からたち」。

ちょっと欲が出てきました。
駅は反対側ですが、銀座通り商店街に寄り道をしましょう。
瀬戸出身である将棋の藤井聡太棋士の対局時によく取材をされているのがこの商店街です。

商店街すぐ目の前の三階建ての立派なお店。
窓枠は大正昭和ロマンなかたち。
「雪霜」と「ダイヤ」でしょうか。
商店街へ入っていきます。

ちょっと見にくいですが「クローバー」。

モダンですね。
柄は「さらさ」と「モール」かしら。

「古都」でしょうか。


連続「よぞら」。

なんと!!!型板ガラスの角の丸い窓!!!
あるんだあ実際。
柄は「いわも」。
結構大きめな柄ではあると思いますが、見事にアールになっています。うれしい。
やはり向こうの景色が低解像度で透けて見えるのが、何かいいですよね。

こちらも大正っぽい窓枠。
昔はお惣菜などを売っているお店だったはず。
ガラスは「雪霜」。
昔撮った写真がありました。

好きな一角です。

ちょっと見にくいですが「いちょう」。

「モール」かな。
特に古い建物に多い気がします。

ちょっとしたベランダ、いいですね。
テーブルセットがあります。
道ゆく人を見ながら珈琲など愉しいかも。
アーチ状の窓も可愛い。

商店街を抜けました。
この道を進めば産土さんである深川神社です。
鳥居には本業タイル。
瀬戸の市花、椿の意匠です。

以前撮った写真。
犬見せてくれてありがとう。
もどりますか。

もどる途中で気付きました。
器用に巣をつくるものですね。
燕が巣をつくった家は栄えると聞いたことがあります。
すたすたすた。
アーケードを抜けました。

よき雰囲気。
向こうの空が仄明るいようすが好きです。
窓みっけ再開。

また「よぞら」です。

うっすらと「いろり」。
何故ズームで撮らなかったんでしょうね。

うっすらと「銀河」。

おや!
あっちの通りに…

反射光できらめく「よぞら」。

「いわも」。
いわもってなんでしょう。
岩藻?

これは!!
かなり理想的なきらめく窓!!
柄は「かげろう」ですね、美しい。

上と同じ建物。
「のみち」でしょうか。
室内の灯りで照らされる窓……コレですコレ……
名残惜しいですが、次へ。

玄関の上の小窓に「銀河」。
ちょっと小宇宙《コスモ》を感じます。

ひときわ明るいあの自販機。

ラストを飾るのは「よぞら」。
さあ、駅に着きました。

散歩を終えて
見つかりませんでした。らんまん、相当珍しいのかもしれない…
しかし「なんの成果も得られませんでした」というわけではありません。
実は気付いたことがひとつあります。
それは「よぞら」が多いこと。
これは瀬戸のまち特有なのか、全国的になのか。
かつての我が家もそうだったし、気になるところです。
これじゃあ終われなくないですか?
らんまんにきらめく窓、見たくないですか?
今後も「らんまん」探しの旅は続けていきますよ。
見つけたらきっとご報告致します。
おまけ
とある飲み屋さんで働いているのですが。そういえばバックヤードには型板ガラスがあったなと目をやると、

「ハイウェイ」というガラスでした。
レア度は中くらいでしょうか。
残念なような、はたまた、こんな呆気なく見つかってもね……という安堵のような、複雑な感情。
と、倉庫に物をとりに行ってみたら、

わあ、「らんまん」だあ……………………
……皆さま、これが「らんまん」です。
ようやくお目にかかれました。
人というのは案外ものをよく見ていないもんです。
働き始めて結構経つのに。
灯台下暗し。
青い鳥はすぐそばにいたのだ──────。
さあ。
あとは倉庫の電気をつけて、店の裏手へ回り。
「らんまん」の “爛漫” にきらめくすがたを写真に撮れば、目標は達成されるわけです。
(業務時間外に行っていますよ)
短い旅でした。
終わりとはいつだって案外あっけないものです……

!?
……………………………………
……………………???
…………人生っておもしれーーーーーッッッ
マスターに聞きました。
50年以上の歴史のある当店。
先の「らんまん」写真のえんじ色のタイル壁から察せられるように、かつて風呂場だったというスペースを、ある時よりもう使わないからと棚を取り付け倉庫としたようです。
お風呂として使わないのだから湿気の心配もないわけで、その後のリフォームで外を閉じてしまったのだそう。
よくよく見たら窓の外、確かに壁。
はえ……
店に歴史ありです。
ちなみに「ハイウェイ」。

うんうん♪
格子も相まってトレンディーにきらめく窓辺♪
……ではなくってね。
まさかのオチ。
「らんまん」の “爛漫” にきらめくすがた。
そう簡単には微笑んでくれないようです。
しかしタダでは転ばない。
もしかしたらその柄の華やかなイメージから、当店のように飲み屋さんの窓に使われている可能性は高いのかもしれない。
反面、個人宅には少ないのかもしれません。
新たな視点が得られたので、これはこれで尭孝です。
旅をつづける理由が出来ました。
おしまい










