玉川学園前 / 遠藤周作が愛した街は、きっといい街。
- 更新日: 2017/01/31
玉川学園前の住宅エリアからは丹沢山系が見える。贅沢だなあ。
どうもこんにちは、山川です。今日は玉川学園前に来ています。
来たこと無い。誘われなかったら一生降りなかったかもしれない。なんで今日はここなんですか?
今、全国の映画館で「沈黙」が上映中じゃないですか。原作は遠藤周作の小説で、江戸時代のキリシタン弾圧について描かれた名作です。
遠藤周作かー。遠藤周作と言えば、うちの親が好きで、「海と毒薬」が家にあって子供の頃ちょっと背伸びして読んだんですけど完全にさっぱりで、でもなんか読んだぞっていう感じが自分の中ですごくて、次の日学校で「遠藤周作良いよ」みたいなことを友達に言ったことがあって、今思い出しただけでヒャーってなる。遠藤周作って聞くとヒャーってなる。
それは知らないですけど、そのヒャーってなる遠藤周作さんは、このあたりに住んでいたんですよ。
ヒャー。そうなんだ。
このあたり一帯は玉川学園の土地なんですけど、学校だけでなく宅地開発をして、文化的な学園都市を作ろうとしてたんですって。文化人にもいろいろ声をかけて、移り住んだ一人が遠藤周作さんです。
よく移り住んだなあ。こういっちゃなんですけど、わりと、駅前から、ひどい階段ですよね。
そう。玉川学園前駅ってちょうど谷底で、両側を急な山に挟まれているんですよ。でも、この階段を登ったらきっと、どうしてここを選んだか分かりますよ。
ほんとに?
でで〜ん! 駅から徒歩5分でこの見晴らし! すごくないですか!?
あのねえ、マジな話、空気うまい。登山のそれ。空気うまい。
そう、空気がうまい。遠藤周作さんが玉川学園前に住んだ理由の一つに、再発した肺結核を治したあとの療養として、ってのがあったらしいですよ。
肺結核だったんだ。小説家あるあるの。
『深い河』の第2章でも同様に肺結核で生死の境をさまよった人物が出てくるのですが、これは遠藤さんの実体験に基づいた描写が多い気がします。
ここはみんな住んだらいいですよ。見晴らしがいい。空気がうまい。町田まで歩いて行ける。最高だな。
高低差がすごいので、所々にある階段が急。
いい階段が多いなあ! 玉川学園前は、階段巡りクラスタではわりと有名なエリアで、インスタにこのあたりの急な坂の写真が投稿されてるのをよく見かけますね。
宅配便の人は大変そう。ここ再配達とか死ねる。
山の上は高級住宅街っぽい。
玉川学園は「文教地区」なんですよ。文教地区建築条例ってのがあって、例えばパチンコ屋やオフィスビルはこの辺には作れないんです。そういうのもあって、品の良い人たちが静かに暮らしているってのもあるかもしれないですね。
そういえば駅前からずっと、教育施設のようなものと住宅しか見てない。
見て。壁の落書きに「みんな」って言葉、なかなか使わないですよ。民度高すぎじゃないですか?
落書きは悪いことですけどね。
子供はみんな、世界の子。
意味はよく分からないけど、意識の高さは伝わってくる。
この辺がいちばん高そうですね。見晴らしが良い。
うおお、遠くに丹沢山系が見える! こんな贅沢ある? 俺思うのは、ナントカタワーが見えます、みたいなとこより、四季が感じられる山が見えるとこのほうが、都会だと贅沢だよね。雪が積もってるのが見える。
遠藤周作さんって、ずっしりと問題提起するようなやつ書くじゃないですか。今映画でやってる「沈黙」なんて、キリスト教についてかなり突っ込んだ解釈をしていて、カトリックからの反発がすごくて長崎では禁書扱いになるほどだったらしいですよ。でもその一方で、「孤狸庵」シリーズみたいな軽くて面白いエッセイ書いてるんですよね。
正直あんまり知らないんですけど、「孤狸庵」シリーズってどんなのなんですか?
自分のことを狐狸庵山人と称して、軽い世捨て人みたいな感じで、世間や周りの友人についてかなり突っ込んだ笑える文章を書いてるんですよ。遠藤周作のもうひとつの顔として評価されています。
このあたりに住んでたらちょっとした仙人気分になりますね。なんとなく繋がる。
あと狐狸庵山人、シモの話がわりと多いんですよ。誰々が漏らした話とか。「美人太糞」っていう名言も狐狸庵山人ですね。
まあ、キリストだ、贖罪だ、とか、重い話ばっか書いてると、ウンコについて書きたくなる気持ちは分かるよ。俺もね、わりと食にこだわりあるんだけど、年イチだけ、シーフードヌードルにマヨネーズかけたやつ食べるのね。
それは同じ話なの?
住所によれば、ここらへんに遠藤周作さんが住んでいたみたいですよ。
住所も分かってるのか。普通に民家だし、どこ、とか言ってしまうと妙にリアルな感じがある。
このへん、ってことでね。濁しておきましょうかね。
今はアパートなんですかね。小説家の卵が上手くなりたくてここに狙って住むみたいなのあるんだろうか。
狐狸庵先生のことだから、憑依して、ウンコの小説ばっかり書かせる気がする。
そろそろ下っていきます。
くーっ、紐でくくられた山本彩ちゃん。いいですね…。
平地に出てきました。奥に小田急線が見えます。
玉川学園商店会
ここから玉川学園前駅のほうまで、商店街が続いています。玉川学園商店会です。
家庭料理のメシア。飲食店ではあんまり見かけないパワーワードですよね、メシアって。
おなかすいてたらごはん作ってくれる人って救世主な感じありますよね。あと、飯屋ともかけてたらどうしようってちょっと思った。
わあ。
最近よくある100円自販機。増税して以降、見かけると嬉しさが増しました。
で、こういうところってけっこうレアな飲み物売ってるんですよね。
ブリザードC-1000だって。意味わかってつけてるんだろうか。
あっ! 100円じゃないのもあるじゃないか! 話が違う。
一応ここに100円「から」って小さく書いてある。
小さい……。人間不信になりそう。
と、ここでわたくし山川が突然の腹痛に見舞われまして、一旦離脱して玉川学園駅のトイレへ向かいました。
その間、ヤスノリさんの商店街散歩をお楽しみください。書き手交代!
この商店街は看板にこだわりがありそう。軒先にかっこいいのついてるお店が多い。
アロエの花が咲いてます。
ちなみにアロエの花言葉は「万能」なんだけど、なんかアロエの万能薬のイメージに引っ張られた結果のアレっぽくて俺の嫌いな花言葉です。
蛙の歌の像。
なんでも、蛙の歌のレコーディング(いつの?)のときに、玉川学園の池の蛙の声を録音したんだそうです。
すごいのかどうなのかよくわからない逸話。その逸話で像を一個こしらえるのすごい。
なんかモチーフが海っぽい休憩所があった。モチーフが突然すぎる。
ご丁寧に泡石鹸が置いてあったんだけど、風雨とか大丈夫でしょうか。
お釈迦様の手まである。かっこいい。
インド料理屋のがんばりポスター面白いですよね。
1500から▲ります(▲は承の右を消したもの)
がんばって書いている。
山海賊。山賊とは違うんですかね。陸サーファーみたいなもんでしょうか。
ここでわたくし山川戻ってまいりました。スッキリいたしました。
書き手は山川に戻ります!
このブティック前にある像は何ですかね?
眠ってる少年の横でヘビの絡んだ袋が。
ここで、ブティックのドアが開き、「あら、それに興味を持ってくれたのね~。ちょっとお店の中までいらっしゃい!」と誘われる。
えへらえへらしているうちにお店の中に誘い込まれる我々。
話によると、この像は「へびしんさん」という名前で、ヘビ獲り名人なんだそうです。袋に絡んでいるのはマムシ。
玉川学園前は、江戸時代は天領であまり開発されていませんでした。芝生(しばお)と呼ばれ、ただただ蛙やマムシの多い地域で、特に有名な昔話もないんだそうです。「へびしんさん」は実在の人物ではないのですが、こんなマムシ取りの名人が居たらいいよね、という現代の創作なんだそうです。
絵本にもなっている、へびしんさん。へびしんさんがこの街に訪れてから、守り神になるまでを綴った物語です。
玉川学園地区街づくりプロジェクト『アートで彩る街 玉川学園』の一環として制作されたそうです。
どうやらこの方、商店街の偉い方のようです。
遠藤周作にからめて玉川学園前を取材していることを伝えると、なんかいろいろ出してきて売り物の服の上にバンバン置いていきます。
あれも食えこれも食えっていっぱい出してくる田舎の母親っぽい。
いろいろなお話を伺うことができました。
しかし、何もなかった芝生が文教地区になって、文化人が住むまでになったってのは、奇跡の発展だなあと思います。
さて、玉川学園前はこのくらいにして、次、ひと駅隣の町田へ移動します。実際の遠藤周作さんは社交的でよく遊ぶ方だったそうなんです。町田には、遠藤さんにゆかりのある場所がたくさんあるんですよ。
遠藤周作が遊んだ街、町田
というわけで、町田にやって来ました。ここは今ではプチ渋谷のような繁華街でございます。
駅出てすぐのところにPOPビル。
遠藤さんが昔、よく家族で来ていたと言われるボーリング場があったところですね。町田ホリデーボウルというのが6Fと7Fにあったらしいですよ。
これ、ビルは当時と一緒なの?
当時と一緒みたいです。調べたらビル自体の竣工は1968年9月で、もともとは「緑屋」という百貨店でした。緑屋が無くなってから改築したのですが、建物自体が老朽化していて、昨年には水道管が破裂してテナントが営業停止になったり、わりとやらかしてます。
今は何が入ってるんだろう。
リアル野球が楽しめるバッティングセンターが入ってますね。
あー、打ったら出塁とか出来るわけだ。テレビゲームの野球で、打つのだけリアルみたいなことですね。
ここのバッセン、変化球とかランダムで出るから面白いらしいですよ。
もし当時ボーリングじゃなくてこれがあってもさ、多分遠藤さんやったよね。
あー。やったんじゃないですかねえ。
おや、絹の道ですって。
おっ、じゃあここは旧町田街道かなあ。これは横浜住みとして説明させて。横浜港が発展した主な理由は江戸時代末期から明治にかけての生糸の輸出なんですけど、歴史的には、日本の生糸は八王子に一旦集まる感じだったんですよ。だから、八王子から横浜まで生糸を運ぶための神奈川往還っていう道が発展して、これが絹の道って呼ばれたりします。この道を使って絹を運ぶ一介の行商から豪商に上り詰める生糸商人の話とかはむちゃくちゃ面白いですよ。
へえ、そうなんだ。この通り付近は遠藤周作の散歩コースだったという話があって来たんですけど。
なるほど、そしたら、遠藤さんも豪商を目指して絹を運んでた可能性ありますね。
大御所はそんなことしないから! 足を運んでいたといわれるお店がいくつかあるみたいです。
行きつけだった本屋の久美堂書店と、
よく冷やかしに来ていたといわれるひもの屋の河原本店などなど。
コロンブスビルだって。コロンブスが居る。
これも遠藤さんが来てたんですか?
そういった情報は無いです。
あそう。
急にコロンブスが居たからびっくりして立ち止まっただけ。それとも、コロンブスが居ても立ち止まらないですか?
立ち止まります。
2階は「らしんばん」。その、なんか航海に寄せてるのは何なんだ。
お寺の隣にカラオケ館がありますよ。
お経の練習が捗りそうですね。
先輩の僧がマイク握る時は木魚で合いの手を入れたりして。あと、みんな知ってる般若心経とかは大合唱。
さて、次は「ことばらんど」を目指して文学館通りを歩きます。
「ことばらんど」は、遠藤周作をはじめ、森村誠一、野田宇太郎など、町田周辺の文芸に関わる方々についての展示をしている文学館です。
そもそもこの文学館、遠藤周作の死去時に蔵書や遺品の一部が町田市に寄贈されたことからはじまったんですって。
しかも、遠藤周作の像があるんですってよ。これは行くしかないでしょう!
この世の天国が準備中って面白くないですか。
清掃したり、地獄に糸垂らしたり、いろいろやることあるんでしょう。
天国の鍋って何だ。ここまで想像がつかない料理名はなかなか無い。
町田有線放送だって。あとで調べたらローカルラジオ局でした。
有線放送、商店街CM放送から防犯カメラの取り付けまで、手広くやっているみたいです。
この駐車場の看板、スペース余り過ぎてませんか?
メインがスッカスカのわりに、下のほうにギッチギチの貼り紙が貼ってある。
さあ、「ことばらんど」に着きました。正式名称は「町田市民文学館」です。
わあ、本日閉館。
じゃあ……いっか。
いや、そこは日を改めましょうよ!
せっかく「ことばらんど」に来たのに、外にある変な像しか見てないですよ。不完全燃焼が過ぎる!
数日後。
ふふふ、今日はオープンしてますよ。
入り口の右手の方には、町田ゆかりの文学者の一覧と、彼らが住んでいた場所が地図で示されています。
プライバシー的にすごく牧歌的な気がするのは気のせいでしょうか。お亡くなりになっている方々は良いのかもしれないけど……。
五十嵐浜藻さんと小山田与清さんは昔過ぎて写真が無い。
家族に関連する書籍も多数置いてあり、遠藤周作さんの夫人・順子さんの本「夫の宿題」もありました。
遠藤周作さんは生前、「物書きの遺族は主人の思い出などを語ったりせずにつつましく暮らすべき」という考えを持っていました。
一見、それに反しているような順子さんの行動ですが、理由の一つとして、周作さんが晩年に到達した死生観、死は終わりではなく、また逢えることを強く伝えられたことにあるそうです。
それに共感し、さらに、この思いを、愛する人の死に悲しんでいる他の人々に伝えることに生きがいを見出したのだとか。
愛する人との別離、愛する存在の生まれ変わりを信じるという部分は、『深い河』に出てくる磯部と似ている境遇がありますね。
町田・文学にゆかりのある漫画も置かれています。ちなみにここに置いてある文豪ストレイドッグスはおすすめです。著名な過去の文学者たちが戦う、能力系バトル漫画です。与謝野晶子の必殺技『君死にたまふことなかれ』、太宰治の必殺技『人間失格』みたいな触れ込み見たら、読んでみたくなりませんか?
さて、そろそろ行きましょうか。
そういや、ここに遠藤周作さんの像があるとか言ってませんでしたか?
結局見つからなかったなぁ。
あ、ちょっと待ってくださいよ、ひょっとしてこれが……。
冬の軽井沢で、庭先に佇む周作さんだそうですよ。
遠藤さん?
遠藤周作さん?
遠藤周作さんなんですか?
遠藤周作さんですね。
この前見てたのが遠藤さんだったとは。
変な像とか言ってましたね。
言ってない。
すごく良いと思う。なんか伝わるものがあるし、すごく良いと思う。
……
…
そんなわけで、今回は玉川学園前・町田の遠藤周作さんを辿る散歩でございました。
現在上映中の「沈黙」は、キリスト教の捉え方を世に問う、とてもヘビーな作品です。その一方で「孤狸庵」シリーズはとてもユーモラスで、周りの人にいたずらする話、ウンコ絡みの話などが沢山出てきます。
そういえば今回、遠藤周作さんの居住地跡を訪ねたあたりから"発作"が起きて散歩を一時離脱しました。
今思うと、これ、狐狸庵山人の……。
(おしまい)