マチノネ#11 本郷、文豪の居した跡を辿る

  • 更新日: 2024/09/19

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かつてセメント王が住まいし大屋敷

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東大キャンパスが置かれることで知られ、かつては多くの偉大な文豪たちが居を構え執筆に励んだ東京都文京区・本郷。古風な街並みとともに史跡として残るその形跡を巡りながら街の音を記録する。




メトロとしてはあまり見ない造りの駅出口。大学の最寄り駅ということで何となく平日に人が動くイメージを持っていたが土日でも意外に利用者が多いようだ。




一本道を外れてみたがまだ古風なムードは感じられないな...と思っていると目の前に不自然に伸びる巨木を発見。




ビルの社屋にもたれかかるように生えており、囲いと案内板が付けられている。江戸時代から名高いこの巨木は弓町の大クスと呼ばれ、推定樹齢600年の保護樹木だそう。ギリギリ歩行者道の内に収まってくれているあたり老木の側からの配慮を感じる。




通りの眺めが徐々に雰囲気を醸し始める。昨今、耐震性などの理由から時間の経過とともに景色から失われつつある古風な建築たち。なるべくこの目で見られるうちに記憶に刻みたいと思っている。






細い小路が入り組み、隙間を覗く度に生活の気配が漂う路地裏が目に入る。干された洗濯物、音を立てる室外機など景色の端々から今も大切に住まれているような雰囲気が感じられる。
しかしこの辺りで人とすれ違うことはない。






こちらは特別立派な、時が止まっているかのような造りの家屋。この邸宅はかつてセメント王と呼ばれた実業家・諸井恒平氏の住居跡。中には入れないようだが、当時のままを保っているであろう門構えや瓦屋根など外観からも日本家屋としての魅力が存分に伝わる。





明治牛乳の宅配を利用していたことまで分かる。






道なりに進み突き当たると、ここが高台であったことに初めて気付く。ツタがヒゲのごとく伸び、壁面緑化が氾濫したかのようなベランダが目に留まる。
案内板を見ると、下っていけば史跡が集まるエリアに辿り着けるようだ。






アパートの壁面にアバンギャルドなペイント。経年変化したモルタルは味のあるキャンバスになりうる。




一味違うタイルが敷かれた先に待つのが樋口一葉の旧居跡。複雑に絡み合う電線や宙に浮く室外機、勝手口に張り出したテント屋根、トタンの緑。まるでジブリの世界に迷い込んだかのような雰囲気がある。





右手にある民家の前、当時本人が使っていたとされる井戸が残されている。塗装の加減から今日まで大事にされてきたことが伺える。



また隣のレトロなアパートを見やると「ICHIYO HOUSE」の表札が。洗濯物が掛かっているのを見ると今も住んでいる方がいらっしゃるようだ。建て替えこそあったとは思うが、こういう形で史跡を後世に残し続ける手立てがあるのかと感心した。そのため写真は建物の代わりに守り神さんの肖像をお届け。




古民家らしい造りの壁。住居も自然の部材を使う以上人と同じように老いていくわけで、保護していくためにはそれ相応に手を掛けてやる必要がある。実は自分自身も将来的に古民家を貰いうける可能性が出てきており、他人事には感じられない。




樋口一葉が生活に困る度物品を売りに来たという伊勢屋質店。掲示板にポスターが貼られており時折出入りする方を見かけるので今も別の用途で利用されている場所のようだ。




ふと横道に現れたY字路庭園。




湯島の方まで伸びる大通りを歩く。横目に覗き見る路地裏の景色はさっきまでの古めかしさとは様子が異なるが、手入れされた庭木など人の手で丁寧にあつらえた印象は変わらずなおも魅力的だ。




ぐるっと一周してスタート地点へ。


とても大切にされている街だった。古くからある建物たちは生きていて、確かに愛情を受けてここで生かされている。またその生を全うしたとしても、その痕跡とともに形を変えて受け継がれている。そんな事実を景色の端々から感じることが出来た。

そもそも、経年劣化なんて一面的な決めつけでしかないのかもしれない。人が老いながらも新たな魅力を纏い出すように、街も年月の経過とともにその風合いを増していったりする。そこには減価償却しようのない価値があるのだ。

今回の制作物はこちら。



人通りのない静かな景色の中に住まう人々の気配をほんのりと感じる、静謐で温かい空気感を表現出来たかと思います。この街並みからどんな音楽が生まれたのか、是非聴いて確かめてみてください。








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ISLD

フォトグラファー/パン屋Digger

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