台風の日にお祭りに出かけた
- 更新日: 2022/10/25
台風から身を守る獅子舞
僕は獅子舞マニアとして、日本全国の獅子舞を取材している。今回、訪れたのは茨城県石岡市で開催された「常陸國總社宮例大祭(石岡のおまつり)」だ。
この祭りは獅子舞の大行進が行われるのが見所。今年は15町もぶっ続けで獅子舞が出るらしい。きっと町中が獅子舞で埋め尽くされるに違いない。
楽しみにしていたのだが、当日になって空を見上げると曇り空で雨が降りそうだ。そうそう、今日は台風の日だった!
まさか台風の日にお祭りをするのか?という疑念が湧いてきた。しかし、少しでも可能性があるならばという想いとともに、石岡駅に向かう電車に乗ることにした。
石岡駅にたどり着くと、改札前の獅子頭が出迎えてくれた。耳がピン!と立ち、元気な感じの表情である。「石岡のおまつり」の看板がある時点で、少なからず祭りは開催されているらしい。
駅の外に出ると、「みんなのタロー」が出迎えてくれた。タローは昭和の頃、毎日朝・夕と2km離れた駅へ迎い乗降客を見つめ続けた。飼い主を待つことが日課で、これを息をひきとるまで17年間続けたという。忠犬ハチ公的な物語である。
地域の人々にとっては親しみある存在だったのだろう。「みんなのタロー」という名前からは、そのような温かみを感じる。まだ小雨で晴れ間がのぞいている状況で、台風はきていないらしい。
14時に祭りは始まった。まずは中町の御仮殿の前から、神輿や猿田彦やらが歩き始め、中町通り一帯の道を供奉行列で埋め尽くしていた。それにしても規模感が大きい。道をかき分けて歩くのがやっとで、見物客も担い手もとにかく多い祭りだ。台風予報なんて嘘のように晴れている。一般的によく言われる「祭りの日は不思議と晴れるものだ」という言葉がふと思い浮かんだ。
供奉行列の大半は獅子舞だ。今回は15町の獅子舞が出演している。案の定、中町通りにいたら、たくさんの獅子舞がドカドカと歩いてきた。足をいろんな方向に動かすはっちゃけ感が良かった。
こんな獅子舞もいた。石岡の獅子舞は大体、縦ラインの胴体が多い。髪をブワっと振り上げる感じが迫力があり、それを正面から撮影した写真がベストショットだという暗黙の了解がある。そういう写真は観光パンフレットなどの広報物に使われがちだ。
こちらの獅子舞はよく見ると、髪の毛がかっこいい。全ての町の獅子舞はデザインや舞い方が異なっており、個性が溢れている。
さて、祭りに参加している人々に注目してみよう。道路の縁石に座って、屋台飯を食べている人がいる。道路幅は非常に広いので、先ほどのように巨大な獅子舞たちが大行進できるスペースは十分にある。
各町には會所というものがあり、この場所を拠点に獅子舞は出動していく。町の広場や工場の一角など、町内で大きな敷地面積が確保できる土地が會所になる場合が多い。會所には獅子舞に使われていない獅子頭が置かれている。また、町の人が常時くつろいで座っており、どこか話し相手を求めているようだ。
祭りの行列のため、交通規制が行われていた。巨大なコーンが立てられ、その横に警備員が立っている。こんなに大きなカラーコーンは初めて見た。警備員さんの背丈と同じくらいの高さで、持ち運ぶには非常に重いだろう。獅子舞仕様の大きさのカラーコーンということかもしれない。存在感が大きすぎて、何本もちまちまとカラーコーンを立てる必要はなく、一本あれば十分である。
祭りといえば屋台飯を思い浮かべるだろうが、大概、高くなっているように思える。ビールだって500円もするのが当たり前だが、その中には常にビールを冷やしておく氷代や人件費などが含まれているからだ。そう考えると、ビール500円というのは決して高くはない。
だが、やはりコンビニなら100~200円でビールは買えてしまう。ついつい地域にお金を使わずに、コンビニに行きがちである。かくいう自分もお茶を買うために、コンビニに立ち寄ってみると、同じようなことを考えているのか大勢の人がコンビニを利用していた。
コンビニでお茶を買っていると、大雨が降り出した。いよいよ台風が来たらしい。上野のパンダ焼の屋台の後ろの建物が、「雨宿りスポット」になっていた。パンダ焼きも雨に濡れてしまうので、裏の方にしまっていた。それにしても、茨城県石岡市でもパンダ焼きが食べられることに少しびっくりした。さあ、雨はいつ止むのだろうか。
僕も近くの建物に避難すると、おじさんが声をかけてきた。
おじさん: いいカメラ持ってるねえ。
僕: ありがとうございます!
おじさん: まだまだ一眼レフも使いやすいよなあ。私もミラーレスは買ってない。
僕: 一眼レフもまだまだ使いやすいのありますよね。
おじさん: それにしても、こんな雨じゃ大変だねえ。
そんな時にふと、「そうだ、台風の中の祭りを撮ろう」と思い立った。祭りは無論、撮影すらも困難な環境でこそ、カメラを向けることに何か意味があるのではないか?と直感したからだ。そして、すぐさま「お先に!」とその場を後にして、レインコートを身に纏い、祭りのメインストリートへと戻った。
祭りに規制は本当につきものだ。しかし、このような状況下で、繋がれたカラーコーンは強風によって吹き飛ばされていた。そして、歩道を通せんぼしていたのだ。いよいよ雨脚も強くなってきた。
レインコートをかぶったのは正解かもしれない。おばちゃんが傘をさしているが、強風の影響を受けて、めちゃくちゃに変形している。かろうじて、雨を防げているという状況である。
山車は雨風を避けるために、大きくて透明なビニールを上からかけている。担い手たちはそのビニールの中に入り、肩を寄せあうようにして山車とともに雨を凌いでいた。祭りの運営側も台風を予測していたのだろう。大量のレインコートを配布したのか、スタッフは皆、ずぶ濡れにならなくてもすんでいる。
個人商店の中の人口密度が半端なかった。もともと、石岡のおまつりは関東の三大祭りとも言われるくらい規模が大きく、祭りの期間、見物客は50万人にも上るとも言われている。多くの人が雨宿りをするとなると、結局、お店などの軒先がどれほどのキャパを持っているか?という話になってくるのだ。この写真の個人商店はたまたま軒先のキャパが非常に大きかったので、何十人もの雨宿りを可能にしており、貢献度が半端なかった。
一方で、台風の中、地べたに家族3人がひとつの傘で身を寄せ合い、雨が通り過ぎるのを待ちながら過ごしている様子も見られた。この状況はなかなかにきつい。
外で売られていた屋台の飲み物は、自然と良い感じに冷やされていた。飲み物が入っている発泡スチロールの箱の中にはどんどん水が溜まっていき、飲み物は水風呂に入っているようである。というか、その前に「きゅうりの漬物」ってなんだ?明らかに飲み物を売っているのに、「きゅうりの漬物」と書いてあるのが非常に気になる。
とあるお店では、1500円で猫か狐のお面が売られていた。ここまでお面が並ぶとホラーだが、買い求めている子供達は多かった。お店の中の商品は無事である。
なんと、この台風の中、お囃子を演じる山車が現れた!これは驚きである。「とりあえず、ビニール被っているからまあいっか。こんな時こそ、祭りを盛り上げよう。」というような感じだろうか。笛の音色とともに、ひょっとこが登場し、後から狐まで出てきた。
ただし、多くの人が雨宿りをしているため、この演奏を聞いてくれる人はそこまで多くない。
そうしているうちに、台風の隙間から晴れ間が見えてきた。まだ雨は降っているが、少し風も弱まってきたので、供奉行列が再開される。レインコートを身にまとう人もちらほらいるが、そうでない人もいる。
再び獅子舞が現れた。泉町の獅子舞は、幌(胴体)の部分にビニールがかけられている一方で、獅子頭はやや雨に濡れている。洗顔をした後みたいに顔がテカテカでツルツルになっていて、獅子舞がお風呂に入る姿を想像しながら行列を見送った。当然、雨だと獅子頭は痛むだろうが、せっかくのお祭りだから獅子頭が見えないと格好がつかないとでも考えているのかもしれない。
また少し雨が強くなってきた。再び泉町の獅子舞が登場!ビニールを被って、雨宿りをしながら歩いていた。獅子舞も雨宿りをするもんだ。担い手たちもカッパを頭まですっぽり被っている。なんとか獅子舞をお披露目したい一心からか、ビニールを持ち上げながら獅子舞は歩いていた。
こりゃあ、ビニールを持つ人も大変だ。腕や肩が非常に疲れるだろう。不思議と獅子の動きはビニール越しにはっきりと見えるからありがたい。
一方で、もう台風なんて気にしねえ!とやけくそになったのか、獅子頭も幌(胴体)もビニールをしていない獅子舞もいた。獅子もたまにはシャワーを浴びるのも気持ち良いかもしれない。確かに、雨の日って、靴の中に水が入ってきたらその瞬間にもういっかと諦めて水たまりにずぼずぼ入っていくよなと思った。
さて、雨が再び上がってきた。各所の山車では、ビニールをクルクルと巻き上げる風景が多数見られた。皆巻き上げるのがなかなかに器用で凄いなと感心する。その様子を見守る見物客がいて、あれ、これって出し物?と錯覚した。ほら、台風の日も十分楽しめる祭りの出し物があるじゃないか!
この山車もなかなかビニールの巻き上げ方が芸術的で良い。龍のようなうねりを見せている。信号にぶつかりそうでなかなかぶつからない感じも非日常的で良い。危険な高所に登って作業する建設作業員を遠目で見る感覚でもある。こういうのが意外と見物客の興味をそそることもあるのだ。
そういえば、この山車の横では、女性たちが歌を歌っていた。風土記の丘の看板に負けじというような気迫を感じる。提灯はビニールを被せているが、もう雨は止んできている。
右上をよく見ると、ビルの2階からごついカメラで写真を撮っている人がいる。そうそう、祭りの日は建物の2階が良い。人混みも避けられるし、俯瞰して祭りの様子を把握できる。それに加えて、今回のように台風が来ても雨風を避けることができる。
建物の中を「本日無料開放」としている所もある。これはありがたい。休憩にも使えるし、3時には神輿が見られるとのこと。
しかも、「おでんのみ 無料提供」してた場所まであった。しかも100名分も用意してくれていたらしい。これはすごすぎる!もっと早く来ておけば食べられたかもしれない。祭り&台風の日に、私有地を見物客のために解放してくれる場所は非常にありがたい。
さて、明るい日差しが見えてきた。獅子舞の担い手たちは皆、ずぶ濡れの服と靴を携えて、滑らないように気をつけながら前へ前へと慎重に進んでいく。この先に向かっていくのは、常陸國總社宮の境内だ。いよいよ祭りは、締めに入ろうとしている。
また徐々に道が混み始めたので、回り道を決行!地元のご年配の方々は混まない道を知っていて、それについていけば、難なく常陸國總社宮につくことができる。さすが毎年のように石岡のおまつりを見てきただけあって、その楽しみ方を熟知しているのだ。
屋台があった。これはおそらく、観光客向けではなくて町ごとのご近所さんが集まる屋台だろう。東南アジアの裏路地を巡っているとたどり着く、ローカルな屋台と雰囲気が似ている。立ち食いじゃなくて、きちんと座って食べられる席があって、肉がひたすら焼かれていた。祭りの屋台だけが祭りなのではなく、地元客が仲間内で祭りの日に祝う姿というのも良いものだ。中にはおそらく、家族一同が集まって、自分の家の庭などを活用しながらバーベキューを楽しむという家庭まであるだろう。
さあ、常陸國總社宮の入り口に着くと、獅子が現れた。これは「ささら」というタイプの獅子で、長い幌があるわけではない。人間が1人で操れるタイプのもので、背が高いので、夜に道端で出会ったらギョッとして怖いだろう。
その後、神輿やら太鼓やらが参道を通過していった。雨道だから、砂にズブズブはまっていき、白い衣服は砂や泥に侵食されていく。そして、小さな川のように轍ができていくのだ。もう、まつりも終盤である。
最後に軽く奉納の舞いが行われ、社殿の前に、獅子舞たちは整列した。
周囲は水たまりだらけだ。台風の日に祭りの出し物を追いかけ回してみて、まず失うものは靴が大量に濡れたことくらいだった。その分、いつもの祭りとは違う、祭りの素顔をしれたように思う。
台風の存在が僕の思考回路をスイッチオンしてくれたおかげで、「今しか見られないものって何だろう」とずっと考えていた。多くの人が外に出たくない台風の日にこそ、なんとか祭りを盛り上げようと必死に頑張る運営や担い手たちがいて、雨が止むのを待ちわびる見物客もいる。その感情と町の風景とがリンクして、石岡の街の新しい素顔を映し出してくれたのだ。
石岡駅まで戻ってくると、ロータリー周辺には若者たちが溢れかえってきた。歩道と車道の境界の縁石に座る若者の数もかなり増えたように思う。神輿は常陸國總社宮に納まったが、祭り自体は夜まで続いていく。人の多さも絶えることはない。さあ、これから夜に向けて、台風は来るのかどうか?晴れと大雨とが交互に訪れる、不思議な石岡のおまつりだった。
この祭りは獅子舞の大行進が行われるのが見所。今年は15町もぶっ続けで獅子舞が出るらしい。きっと町中が獅子舞で埋め尽くされるに違いない。
楽しみにしていたのだが、当日になって空を見上げると曇り空で雨が降りそうだ。そうそう、今日は台風の日だった!
まさか台風の日にお祭りをするのか?という疑念が湧いてきた。しかし、少しでも可能性があるならばという想いとともに、石岡駅に向かう電車に乗ることにした。
石岡駅にたどり着くと、改札前の獅子頭が出迎えてくれた。耳がピン!と立ち、元気な感じの表情である。「石岡のおまつり」の看板がある時点で、少なからず祭りは開催されているらしい。
駅の外に出ると、「みんなのタロー」が出迎えてくれた。タローは昭和の頃、毎日朝・夕と2km離れた駅へ迎い乗降客を見つめ続けた。飼い主を待つことが日課で、これを息をひきとるまで17年間続けたという。忠犬ハチ公的な物語である。
地域の人々にとっては親しみある存在だったのだろう。「みんなのタロー」という名前からは、そのような温かみを感じる。まだ小雨で晴れ間がのぞいている状況で、台風はきていないらしい。
14時に祭りは始まった。まずは中町の御仮殿の前から、神輿や猿田彦やらが歩き始め、中町通り一帯の道を供奉行列で埋め尽くしていた。それにしても規模感が大きい。道をかき分けて歩くのがやっとで、見物客も担い手もとにかく多い祭りだ。台風予報なんて嘘のように晴れている。一般的によく言われる「祭りの日は不思議と晴れるものだ」という言葉がふと思い浮かんだ。
供奉行列の大半は獅子舞だ。今回は15町の獅子舞が出演している。案の定、中町通りにいたら、たくさんの獅子舞がドカドカと歩いてきた。足をいろんな方向に動かすはっちゃけ感が良かった。
こんな獅子舞もいた。石岡の獅子舞は大体、縦ラインの胴体が多い。髪をブワっと振り上げる感じが迫力があり、それを正面から撮影した写真がベストショットだという暗黙の了解がある。そういう写真は観光パンフレットなどの広報物に使われがちだ。
こちらの獅子舞はよく見ると、髪の毛がかっこいい。全ての町の獅子舞はデザインや舞い方が異なっており、個性が溢れている。
さて、祭りに参加している人々に注目してみよう。道路の縁石に座って、屋台飯を食べている人がいる。道路幅は非常に広いので、先ほどのように巨大な獅子舞たちが大行進できるスペースは十分にある。
各町には會所というものがあり、この場所を拠点に獅子舞は出動していく。町の広場や工場の一角など、町内で大きな敷地面積が確保できる土地が會所になる場合が多い。會所には獅子舞に使われていない獅子頭が置かれている。また、町の人が常時くつろいで座っており、どこか話し相手を求めているようだ。
祭りの行列のため、交通規制が行われていた。巨大なコーンが立てられ、その横に警備員が立っている。こんなに大きなカラーコーンは初めて見た。警備員さんの背丈と同じくらいの高さで、持ち運ぶには非常に重いだろう。獅子舞仕様の大きさのカラーコーンということかもしれない。存在感が大きすぎて、何本もちまちまとカラーコーンを立てる必要はなく、一本あれば十分である。
祭りといえば屋台飯を思い浮かべるだろうが、大概、高くなっているように思える。ビールだって500円もするのが当たり前だが、その中には常にビールを冷やしておく氷代や人件費などが含まれているからだ。そう考えると、ビール500円というのは決して高くはない。
だが、やはりコンビニなら100~200円でビールは買えてしまう。ついつい地域にお金を使わずに、コンビニに行きがちである。かくいう自分もお茶を買うために、コンビニに立ち寄ってみると、同じようなことを考えているのか大勢の人がコンビニを利用していた。
コンビニでお茶を買っていると、大雨が降り出した。いよいよ台風が来たらしい。上野のパンダ焼の屋台の後ろの建物が、「雨宿りスポット」になっていた。パンダ焼きも雨に濡れてしまうので、裏の方にしまっていた。それにしても、茨城県石岡市でもパンダ焼きが食べられることに少しびっくりした。さあ、雨はいつ止むのだろうか。
僕も近くの建物に避難すると、おじさんが声をかけてきた。
おじさん: いいカメラ持ってるねえ。
僕: ありがとうございます!
おじさん: まだまだ一眼レフも使いやすいよなあ。私もミラーレスは買ってない。
僕: 一眼レフもまだまだ使いやすいのありますよね。
おじさん: それにしても、こんな雨じゃ大変だねえ。
そんな時にふと、「そうだ、台風の中の祭りを撮ろう」と思い立った。祭りは無論、撮影すらも困難な環境でこそ、カメラを向けることに何か意味があるのではないか?と直感したからだ。そして、すぐさま「お先に!」とその場を後にして、レインコートを身に纏い、祭りのメインストリートへと戻った。
祭りに規制は本当につきものだ。しかし、このような状況下で、繋がれたカラーコーンは強風によって吹き飛ばされていた。そして、歩道を通せんぼしていたのだ。いよいよ雨脚も強くなってきた。
レインコートをかぶったのは正解かもしれない。おばちゃんが傘をさしているが、強風の影響を受けて、めちゃくちゃに変形している。かろうじて、雨を防げているという状況である。
山車は雨風を避けるために、大きくて透明なビニールを上からかけている。担い手たちはそのビニールの中に入り、肩を寄せあうようにして山車とともに雨を凌いでいた。祭りの運営側も台風を予測していたのだろう。大量のレインコートを配布したのか、スタッフは皆、ずぶ濡れにならなくてもすんでいる。
個人商店の中の人口密度が半端なかった。もともと、石岡のおまつりは関東の三大祭りとも言われるくらい規模が大きく、祭りの期間、見物客は50万人にも上るとも言われている。多くの人が雨宿りをするとなると、結局、お店などの軒先がどれほどのキャパを持っているか?という話になってくるのだ。この写真の個人商店はたまたま軒先のキャパが非常に大きかったので、何十人もの雨宿りを可能にしており、貢献度が半端なかった。
一方で、台風の中、地べたに家族3人がひとつの傘で身を寄せ合い、雨が通り過ぎるのを待ちながら過ごしている様子も見られた。この状況はなかなかにきつい。
外で売られていた屋台の飲み物は、自然と良い感じに冷やされていた。飲み物が入っている発泡スチロールの箱の中にはどんどん水が溜まっていき、飲み物は水風呂に入っているようである。というか、その前に「きゅうりの漬物」ってなんだ?明らかに飲み物を売っているのに、「きゅうりの漬物」と書いてあるのが非常に気になる。
とあるお店では、1500円で猫か狐のお面が売られていた。ここまでお面が並ぶとホラーだが、買い求めている子供達は多かった。お店の中の商品は無事である。
なんと、この台風の中、お囃子を演じる山車が現れた!これは驚きである。「とりあえず、ビニール被っているからまあいっか。こんな時こそ、祭りを盛り上げよう。」というような感じだろうか。笛の音色とともに、ひょっとこが登場し、後から狐まで出てきた。
ただし、多くの人が雨宿りをしているため、この演奏を聞いてくれる人はそこまで多くない。
そうしているうちに、台風の隙間から晴れ間が見えてきた。まだ雨は降っているが、少し風も弱まってきたので、供奉行列が再開される。レインコートを身にまとう人もちらほらいるが、そうでない人もいる。
再び獅子舞が現れた。泉町の獅子舞は、幌(胴体)の部分にビニールがかけられている一方で、獅子頭はやや雨に濡れている。洗顔をした後みたいに顔がテカテカでツルツルになっていて、獅子舞がお風呂に入る姿を想像しながら行列を見送った。当然、雨だと獅子頭は痛むだろうが、せっかくのお祭りだから獅子頭が見えないと格好がつかないとでも考えているのかもしれない。
また少し雨が強くなってきた。再び泉町の獅子舞が登場!ビニールを被って、雨宿りをしながら歩いていた。獅子舞も雨宿りをするもんだ。担い手たちもカッパを頭まですっぽり被っている。なんとか獅子舞をお披露目したい一心からか、ビニールを持ち上げながら獅子舞は歩いていた。
こりゃあ、ビニールを持つ人も大変だ。腕や肩が非常に疲れるだろう。不思議と獅子の動きはビニール越しにはっきりと見えるからありがたい。
一方で、もう台風なんて気にしねえ!とやけくそになったのか、獅子頭も幌(胴体)もビニールをしていない獅子舞もいた。獅子もたまにはシャワーを浴びるのも気持ち良いかもしれない。確かに、雨の日って、靴の中に水が入ってきたらその瞬間にもういっかと諦めて水たまりにずぼずぼ入っていくよなと思った。
さて、雨が再び上がってきた。各所の山車では、ビニールをクルクルと巻き上げる風景が多数見られた。皆巻き上げるのがなかなかに器用で凄いなと感心する。その様子を見守る見物客がいて、あれ、これって出し物?と錯覚した。ほら、台風の日も十分楽しめる祭りの出し物があるじゃないか!
この山車もなかなかビニールの巻き上げ方が芸術的で良い。龍のようなうねりを見せている。信号にぶつかりそうでなかなかぶつからない感じも非日常的で良い。危険な高所に登って作業する建設作業員を遠目で見る感覚でもある。こういうのが意外と見物客の興味をそそることもあるのだ。
そういえば、この山車の横では、女性たちが歌を歌っていた。風土記の丘の看板に負けじというような気迫を感じる。提灯はビニールを被せているが、もう雨は止んできている。
右上をよく見ると、ビルの2階からごついカメラで写真を撮っている人がいる。そうそう、祭りの日は建物の2階が良い。人混みも避けられるし、俯瞰して祭りの様子を把握できる。それに加えて、今回のように台風が来ても雨風を避けることができる。
建物の中を「本日無料開放」としている所もある。これはありがたい。休憩にも使えるし、3時には神輿が見られるとのこと。
しかも、「おでんのみ 無料提供」してた場所まであった。しかも100名分も用意してくれていたらしい。これはすごすぎる!もっと早く来ておけば食べられたかもしれない。祭り&台風の日に、私有地を見物客のために解放してくれる場所は非常にありがたい。
さて、明るい日差しが見えてきた。獅子舞の担い手たちは皆、ずぶ濡れの服と靴を携えて、滑らないように気をつけながら前へ前へと慎重に進んでいく。この先に向かっていくのは、常陸國總社宮の境内だ。いよいよ祭りは、締めに入ろうとしている。
また徐々に道が混み始めたので、回り道を決行!地元のご年配の方々は混まない道を知っていて、それについていけば、難なく常陸國總社宮につくことができる。さすが毎年のように石岡のおまつりを見てきただけあって、その楽しみ方を熟知しているのだ。
屋台があった。これはおそらく、観光客向けではなくて町ごとのご近所さんが集まる屋台だろう。東南アジアの裏路地を巡っているとたどり着く、ローカルな屋台と雰囲気が似ている。立ち食いじゃなくて、きちんと座って食べられる席があって、肉がひたすら焼かれていた。祭りの屋台だけが祭りなのではなく、地元客が仲間内で祭りの日に祝う姿というのも良いものだ。中にはおそらく、家族一同が集まって、自分の家の庭などを活用しながらバーベキューを楽しむという家庭まであるだろう。
さあ、常陸國總社宮の入り口に着くと、獅子が現れた。これは「ささら」というタイプの獅子で、長い幌があるわけではない。人間が1人で操れるタイプのもので、背が高いので、夜に道端で出会ったらギョッとして怖いだろう。
その後、神輿やら太鼓やらが参道を通過していった。雨道だから、砂にズブズブはまっていき、白い衣服は砂や泥に侵食されていく。そして、小さな川のように轍ができていくのだ。もう、まつりも終盤である。
最後に軽く奉納の舞いが行われ、社殿の前に、獅子舞たちは整列した。
周囲は水たまりだらけだ。台風の日に祭りの出し物を追いかけ回してみて、まず失うものは靴が大量に濡れたことくらいだった。その分、いつもの祭りとは違う、祭りの素顔をしれたように思う。
台風の存在が僕の思考回路をスイッチオンしてくれたおかげで、「今しか見られないものって何だろう」とずっと考えていた。多くの人が外に出たくない台風の日にこそ、なんとか祭りを盛り上げようと必死に頑張る運営や担い手たちがいて、雨が止むのを待ちわびる見物客もいる。その感情と町の風景とがリンクして、石岡の街の新しい素顔を映し出してくれたのだ。
石岡駅まで戻ってくると、ロータリー周辺には若者たちが溢れかえってきた。歩道と車道の境界の縁石に座る若者の数もかなり増えたように思う。神輿は常陸國總社宮に納まったが、祭り自体は夜まで続いていく。人の多さも絶えることはない。さあ、これから夜に向けて、台風は来るのかどうか?晴れと大雨とが交互に訪れる、不思議な石岡のおまつりだった。